ゴジラ2054 終末の焔   作:江藤えそら

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コンビニで夜食を食べ、朝まで書き続けて6時半。今やっと投稿するところです。
自堕落な生活を改めなくては。


殲滅

【1:22 米空軍第5空母航空団、攻撃開始】

 

攻撃開始(Attacking now)爆弾投下(Weapons away)!」

 空母『フランクリン・ルーズベルト』を発進した米軍機より、超酸爆弾が投下される。

 爆弾は真っすぐゴジラの頭部へ向け落下し、頭の少し上で爆発した。

 爆弾の規模の割には小さい爆発である。

 代わりに、爆弾内から弾け出た超酸液がゴジラの頭部に降りかかった。

 周囲に飛び散った液の威力はすさまじく、それを浴びた車は一瞬にして大穴が空いていった。

 ゴジラの鼻先、頬、首筋を超酸液が伝い、降りてゆく。

 

「超酸爆弾、命中を確認!」

 砲撃を続ける「むつ」艦橋上で観測士が叫ぶ。

「効果はどうだ?」

「ゴジラの表皮に融解は認められず! 効果なし!」

 その報告に黒木一佐は顔を歪ませる。

「奴の体表は酸すらも通さないと…!?」

 西野群司令が驚きの声をあげる。

「米軍より通達! 目標を眼孔及び口腔部に再設定し、第二次攻撃を行うとのこと!」

「粘膜を狙うつもりか……それならばあるいは……」

「群司令! 我々も粘膜部に攻撃目標を移行しましょう! 表皮への攻撃は弾薬の無駄です!」

 黒木一佐が西野に呼びかける。

「しかし、怪防会の見解は『核融合炉を搭載する心臓部の破壊こそ駆逐の決定打である』となっている。粘膜を攻撃したとて、本体を倒さねば意味が無かろう!」

「しかし群司令! 数万発の徹甲弾と電磁加速砲でも傷すらつけられぬ表皮を攻撃することは無意味です! 少しでもゴジラに傷を与え、奴の戦意を奪うことこそ先決と考えます!」

 黒木は懸命に自らの意見を述べた。

「うぅむ……分かった…。超酸爆弾の炸裂後、同箇所に集中砲火を浴びせる。次の攻撃に備えろ!」

「全砲門、撃ち方やめ! 目標変更!」

 黒木の号令で砲撃は止み、米軍の第二次攻撃に向けて待機した。

 

 米軍機は大きく旋回し、ゴジラの方へ向き直る。

 その戦闘機群を、ゴジラは空を向いて睨みつけた。

 そして、戦闘機から超酸ミサイルが発射された瞬間、ゴジラは大きく咆哮をあげた。

 その口内に、超酸を内蔵したミサイルが突き刺さり、爆発する。

 同時に、顔面にもミサイルが命中し、その目に超酸液が降りかかった。

 

「撃ち方はじめぇっ!!!」

 ミサイルの命中を確認した瞬間、黒木は叫んだ。

 畳みかけるように電磁加速砲がゴジラの網膜と口腔内に炸裂する。

 

 その時、男達は見た。

 噴煙に紛れてほとばしる赤い血。

 ゴジラの粘膜部からの出血を。

 

「目標生物の出血を確認! 効果あり!!」

 観測士が告げると、艦内に「おお!」と歓声が上がる。

 これだけの長時間、限りないほどの弾薬と兵器、そして人命を消費し続けての初めての戦果である。

「続いて撃て!! 回復の暇を与えるな!!」

 西野がそう叫ぶまでもなく、各艦は猛烈な射撃を続行する。

 

 ゴジラは口から血を流しながらも、再び咆哮をあげる。

 そして沖合へと歩みを速め始めた。

 そして、その口腔部から真っすぐに青い熱線を吐き散らす。

 熱線は海上に落ち、水蒸気爆発が立て続けに起こった。

 射撃を続ける各艦に水しぶきが落ち、視界が遮られる。

 高速で回避運動をとる艦に狙いをつけ、ゴジラは熱線を吐いたままの首を横に振った。

 

 瞬間、後列の「さかわ」が熱線の直撃を受けた。

 上部構造物が一瞬で吹き飛ばされ、艦橋の職員たちは何が起きたかもわからぬまま蒸発してガス化した。

 熱線を浴びた艦体も蒸発し、真っ二つに折れて沈んでゆく。

 各艦の乗組員たちがあげていた歓声は、一瞬にして悲鳴へと置き換わった。

 

「「さかわ」被弾!! 轟沈します!!」

「むつ」の艦橋にもその悲痛な報せが飛び込んでくる。

「周辺の艦は救助艇を出せ! 他艦は攻撃の手を緩めるな!!」

 西野は海に消えてゆく「さかわ」の方を見ながら叫んだ。

 

 そのままゴジラは顔を上空に向けてゆっくりと上げた。

 青い熱線が天を二つに割り、空に昇ってゆく。

 米軍機が回避運動を繰り返しつつ彼方の空へ飛び去ろうとするのを、ゴジラは見逃さなかった。

 ゴジラが少し顔を傾けると、熱線は戦闘機を追いかけてゆく。

 パイロットの顔が恐怖に歪む。

 

 米軍機は、一機、また一機と熱線を受け、瞬く間に爆散して夜空に消えていった。

 ゴジラが顔を下ろすと、「むつ」の乗組員たちは、その眼球が傷一つない状態に再生されていることに気が付く。

「全艦戦域離脱!! 後方に退避して態勢を立て直す!!」

 西野が辛うじて声を張り上げる。

 希望は、一瞬にして潰えた。

 

 ゴジラは海に向けて足を速める。

 足元に転がる建築物を紙屑のように蹴飛ばしながら、真っすぐ”敵”の方角へと進んでゆく。

 燃え盛る赤い炎を吐き、千葉市の街中を業火で彩りながら。

 そして多目的シェルターがあると認識した部分は青い熱線で地面ごと抉り、マグマが流れる大穴を穿つことも忘れなかった。

 

 護衛艦隊は、ゴジラに背を向けながらも砲撃、ミサイル射撃を続けていた。

「ゴジラ、速度上昇! 本艦へ向け突貫する模様!!」

「むつ」の観測士が叫ぶ。

「我々を越えた先には都心がある。何としても進ませるわけにはいかん!」

 黒木の言葉通り、ゴジラが護衛艦隊を越えて東京湾を横切れば、その先にあるのは国家中枢部、東京である。

 大混乱に陥った市民が逃げ惑う東京が、そこにあるのである。

 

「……!? 艦長、緊急事態です!! 最後列の「くまの」より、ゴジラの周辺に民間人がいるとの連絡が!」

「なんだと!?」

 黒木と西野は驚愕を隠しきれぬ表情になる。

「そんな馬鹿な!! 我々は三十分以上前に千葉市の避難完了報告を受けているんだぞ!!」

「ですが、「くまの」の観測士が確かに確認しています!! このまま作戦を続行しては危険です!!」

 あまりの衝撃に、西野は言葉を失った。

「米軍の第二次航空攻撃が開始されます!!」

「まずい!! 総監部と米軍に攻撃中止を伝えろ!!」

 黒木がそう命じるころには、既に第二次攻撃が開始されていた。

 

 

 ◆◆◆

 

「なにっ!?? 民間人だと!!??」

 報告を受けた岡崎は思わず立ち上がっていた。

「や、やはりシェルターの混乱で脱走したのか…!! 攻撃中止!! 中止だ!!」

 顔を赤くしてそう叫ぶが、「お待ちください!」と止めたのは米海軍のテンパートン少将だった。

「ここで攻撃を中止したとして、東京にゴジラが進めばどのみち民間人の犠牲は増えるだけでしょう」

 通訳が彼の言葉を伝えきる前に、「そうではない!」と岡崎は反論した。

「国民を攻撃した事例が生まれてしまっては、自衛隊はもう存在できなくなる…!! ゴジラを倒したとしても、その後がなくなる!!」

「今がなくなるか、後がなくなるか、あなたはどちらがお好みなのですか?」

「………!」

 テンパートンの言葉に岡崎は黙り込む。

「我が軍も既に貴重な航空戦力を三機失いました。ですが、それと引き換えに、”粘膜部であればダメージを与えられる”という成果を得たのです。それを生かすべく、今から沖合の艦隊主力が総攻撃を行います。自衛隊にもご協力を願いたい」

「……我らに、国民を巻き添えにして戦う決断をしろと……」

 幹部たちは黙るほかなかった。

 どちらの答えも正しく、しかし軍人の本義には反するからであった。

 

 ◆◆◆

 

 

 東京湾洋上。

 激戦地から20㎞以上離れたこの海域でも、遠くの空が赤々と輝いているのがはっきりと見える。

 そのような中に、空母『フランクリン・ルーズベルト』を中核とする第五空母打撃群はいた。

離陸許可(Cleared for takeoff)!」

 全長350mに達する海の城塞、空母『フランクリン・ルーズベルト』からは、次々に最新鋭の戦闘機が飛び立っていった。

 先行した仲間たちが撃墜されたという報を聞き、彼らの心は復讐に燃えていた。

 世界最強の機動部隊としての矜持と、仲間を討ち果たしたものへの義憤が、彼らを”神”との決戦へと駆り立てていく。

 その闘志が絶望に打ちひしがれる時は、そう遠くはなかった。

 

 空母打撃群と駆逐艦隊に随伴する第七艦隊旗艦、揚陸指揮艦『ロッキード』の司令を受け、全艦は一斉にミサイルと艦砲による射撃を開始した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ゴジラは遂に再び海に足をつけた。

 自分から逃げてゆく護衛艦隊を追いかけるように、海を割って突き進んでゆく。

 だが、その視線の先にあるのは護衛艦隊ではなかった。

 護衛艦隊よりはるかその先、水平線上に浮かぶ小さな影。

 米軍第七艦隊である。

 

 ゴジラの顔が突如酸液に包まれた。

 米軍機による第二次攻撃である。

 そして、米艦隊の対艦ミサイルと砲弾が続けて着弾した。

 自衛隊とは比較にならない密度の火力投射が休みを置かずに襲い掛かる。

 

 ゴジラは海上で足を止めた。

 自身への攻撃など歯牙にもかけず、遠くに位置する米艦隊へと体を向けた。

 背びれが先ほどより強く、白く輝き始める。

 ゴジラが体を細かく震わせると、それに呼応するかのように周囲の空気や海水も振動を伝える。

 

 ゴジラが正面に向けて口を開いた瞬間、まばゆい閃光が全てを包んだ。

 口腔部で核爆発が起き、その閃光を浴びた全てのものは数千度の熱に晒された。

 人間の皮膚は一瞬で溶け、無機物は水分を失って焼き尽くされる。

 その数十万分の一秒後には、核爆発のエネルギーは強烈な熱線となってゴジラの前方に射出された。

 百万℃を超える光の柱が海上を突き進む。

 

 それと同時に、口腔部の爆発から生まれた衝撃波が千葉市街の建造物を全滅させた。

 その威力たるや、隣の市原市、船橋市、八千代市に至るまでがほぼ綺麗に更地と化し、さらにその外の地域にも壊滅的な打撃をもたらした。

 衝撃波は全てを呑み込みながら円状に広がる。

 そして、未だ人々が逃げ惑う都心へと進んでいった。

 

 その熱線は、一連の戦いの中で最も規模が大きく、最初にゴジラが千葉県沖合で放った熱線すらも凌駕していた。

 熱線は亜光速で海を進む。

 その先には、空母『フランクリン・ルーズベルト』が鎮座していた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 米艦隊の乗組員たちは、何が起きたかを理解する暇がなかった。

 彼らの視点に立つと、「眩しい光に襲われ、同時に艦が強く揺れ、いつの間にか沈み始めていた」としか言いようがないのである。

 空母『フランクリン・ルーズベルト』の中央部は熱線の直撃を受けて消滅した。

 艦橋もまた同様であり、艦長を始めとした艦橋職員達はそれが自らの最期であると理解することもなく消えた。

 先ほどの「さかわ」と同じように、中央部を失って真っ二つに折れた艦体が、艦載機ごと海に沈んでゆく。

 

 後方では、『フランクリン・ルーズベルト』をを襲ったものと同じ熱線に巻き込まれたミサイル駆逐艦二隻と、艦隊旗艦『ロッキード』も轟沈していた。

 続いて、その熱線の超高温に押しのけられた空気が衝撃波を生み、周りの艦を粉々に吹き飛ばす。

 海には乗組員たちの悲鳴と嘆きの声がこだまする。

 

 もう一度、閃光がほとばしる。

 次の瞬間には別の艦が艦体を消し去られ、沈んでいった。

 視界にまばゆい光が満ちるたびに、何隻かの艦が海の藻屑へと消えていく。

 生き残った兵士達は恐怖のどん底へと叩き落とされた。

 誰もが手を組み、十字を切り、神に祈りを捧げた。

 だが、救済の時は訪れない。

 裁きの光は、彼らを残らず一掃するまで続けられた。

 

 

【1:48 米軍第七艦隊、戦域に投入した全艦が沈没、司令官戦死】

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 壊滅したのは米艦隊だけではなかった。

 護衛艦隊もまた、超威力の熱線を何度も至近距離で浴び、その衝撃波を受け、上部構造物が破壊され尽くした。

 半数ほどの艦は既に横転し、転覆していた。

 生き残った艦の乗組員達もまた、米軍と同じように神に助けを求め始めた。

 だが、この世界には残酷にも、裁く神はいても救う神はいなかった。

 

「我々は……最後の砦……」

 黒木は遺体の転がる「むつ」の艦橋で呟く。

 彼の体は既に、飛来した鉄片やガラス片でズタズタになっていた。

「貴様を倒さねば……貴様を……」

 黒木の視線のすぐ先には、悠々と海を歩くゴジラの姿があった。

 操縦を失い、大破漂流状態となった護衛艦隊のすぐ横を歩き去り、都心へと進んでいく巨神の姿が。

 

 艦を叩き潰すわけでも、炎を吹き付けるわけでもなく、黙って通り過ぎてゆくのは、きっとそれが我々にとって最も絶望に値する行為だからなのだろう。

 黒木はそう思った。

 

 

【1:54 護衛艦隊、艦隊の半数が沈没、残り全艦が大破、西野群司令戦死】

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 こうして、陸・海・空全ての防衛網を突破したゴジラの前に立ちはだかるものは何もなくなった。

 だが、あれだけの人間を虐殺してもなお、ゴジラの表情からは少しも怒りが消えてはいなかった。

 ゴジラは何も語らず、ただ足を進める。

 

 運命の地、東京へと。

 

 

 

 

【1:56 井村統幕長、呉号作戦の終了を下命】

 

【1:58 米海軍作戦本部、ヤマト作戦の終了を下命】

 

【同刻 自衛隊、及び在日米軍による組織的な抵抗が終結する】

 

 

【2:00 ゴジラ、都心へ向け東京湾を進行中】

 

 

【人類生存数 92億8571万人】

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