ゴジラ2054 終末の焔   作:江藤えそら

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ゴジラ公開64周年、おめでとうございます!
本日11月3日は初代ゴジラが公開された日、そして本作にてゴジラが日本に上陸した日、Twitterではシンゴジ実況が盛り上がる日です。
ゴジラファンにはとても忙しい日ですね。


第四部 慟哭の島
探求


 関西各地の行政機関がようやく混乱を落ち着かせたときには、ゴジラは既に名古屋の寸前にまで迫っていた。

 SNSなどによる情報の広がりから、多目的シェルターも意味を成さないことを知った国民の多数は、己の足で当てもない脱出劇を開始した。

 機能を停止した空港には群衆が押し寄せ、便はまだかと騒ぎ立てる。

 沿岸部では個人の漁船などに人が殺到し、転覆する船も相次いだ。

 人々が目指す先は、怪獣の被害を免れ得たであろう北関東と東北・北海道・北陸東部。

 もしくは、日本国外への逃亡。

 ようやく動き出した自衛隊や行政機関の指導も虚しく、今の群衆に効率的な行動などできるはずもなかった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

【12:15】

 

 茨城県・小美玉市。

 ゴジラの猛火を免れたこの地は、静寂に包まれていた。

 市が自宅待機命令を出したことにより街に人影はなく、鳥のさえずる声と風だけが虚しく響いている。

 そんな中、市民は空から舞い降りてくる一機の小型機を目にした。

 その機体は百里飛行場へと降り立っていった。

 

 

 

 その機体が飛行場へ着陸すると、すぐに数人の自衛隊員が機体へと駆け寄っていった。

 暫くすると機体の扉が開き、中からスーツを着てサングラスをかけた初老の男性が現れた。

山根良平(やまね りょうへい)博士、お待ちしておりました! 遠路はるばるお疲れ様です!」

 彼を出迎えた自衛隊員の一人が声をかけた。

「わざわざお迎えを…。ありがとうございます。基地の方ですね?」

 スーツの男…”山根良平”博士は機から降りると、会釈して尋ねた。

「は! 私は第七航空団副司令、安田寛人(やすだ ひろと)一佐であります。大林航空団長がお待ちしておりますので、こちらへどうぞ」

 安田一佐の案内に応じ、彼らは百里基地へと歩みだす。

 

「霞ケ浦の向こうは焼け野原…ですか」

 南の方角に横たわる霞ケ浦の湖を眺めながら、山根が問いかけた。

 現在は分厚い雨雲が南関東を支配し、霞ケ浦の向こうは雲に邪魔されて見えなかった。

「はい…。つい数時間前まで南の空は赤く染まっておりました。その業火の中で、数多くの戦友と国民が死んでいきました」

 淡々と事実を述べる安田一佐の語調は、次第に乱れていくのが山根には分かった。

「信じられん。たった六時間で……」

「今も奴は濃尾平野を進行中と連絡がありました。こうしている間にも多くの国民が…」

 安田一佐は声を震わせ、激情に耐える。

「そうは言っても、今我々にできることは限られています。私も尽力しますから、共に怪獣撃退のため頑張りましょう」

 安田を慰めるように山根が声をかけた。

 

 

 

「山根博士、よくぞ来られました。航空団長の大林です」

 航空団司令部ビルの執務室に着くと、第七航空団司令、大林武正(おおばやし たけまさ)空将補が敬礼で出迎えた。

「山根良平です。百年前のゴジラ研究員、山根恭平の曾孫です」

 山根は名刺を渡しつつ大林と握手を交わす。

「お話は聞いております。博士は怪獣研究の第一人者であり、各国を渡り歩いていらっしゃると」

「12時間前まで、中東のサラジアという国にいました。離陸の直前に桐谷先生から電話がありまして」

「桐谷先生…と仰いますと、まさか官房長官の…?」

「ええ、そうです」と山根は頷く。

「先生には昔からお世話になっておりまして…。そういえば、閣僚の方々は無事なのですか?」

 山根の問いに、大林と安田は顔を合わせて沈黙する。

 そして、重く口を開いた。

「立川からのヘリに搭乗する予定でしたが、ヘリは突如連絡を絶ち、恐らくは撃墜されたものと考えています。そして、都心部の状況も加味しますと……」

「……そうですか。分かりました」

 山根は表情を変えずに答える。

「ご心配なく。半ば覚悟はしていましたから」

「…閣僚のみならず、我が自衛隊も統合幕僚監部及び陸海空幕僚監部の一切と連絡が取れず、中枢を一挙に失った状態です。今は各々の部隊が各個の判断で行動している状況です」

 そう言って大林は窓の外を見る。

 雨雲に覆われた薄暗い空が眼前に広がっている。

「絶望的過ぎます。あまりにも………あまりにも………」

 大林の声、そして拳は少し震えていた。

 

「祖父も父も、ゴジラの研究に生涯を捧げましたが、とうとう生きたゴジラと直接対峙することなく世を去りました。まさか私に、その運命が回ってくるとは」

 山根も窓の外を見て呟く。

「ともかく被災地を調査しないことには始まりませんね。調査隊は派遣されていますか?」

「陸自の中央特殊武器防護隊の残存部隊が化学防護車で向かっていると統合任務部隊より連絡がありました。ただし被災地は電磁パルスで電波が阻害され、通信もままならぬ状況です。連絡にはしばらく時間がかかるものと思われます」

「どこまで行けばその部隊と連絡が取れるのでしょうか?」

 山根の言葉に、大林は不審そうな顔をする。

「…まさか、被災地まで行かれるつもりですか。ここから南は高い放射線量が予測され、大変危険です。一般の方を侵入させるわけにはいきません」

「”一般人”ではないでしょう、私は。専門家ですから。それに、都心まで行くわけではありません。調査部隊の皆さんと直に連絡が取れる場所まで行くことができれば十分です」

「………」

 大林は沈黙して考え込んだ。

「ここで情報の到着を待つばかりでは時間がありません。ゴジラは今も日本を蹂躙しているのです。奴の活動の痕跡を詳細に調べることができれば、打倒にも一歩近づくというものです。どうかお願いします」

 山根は自らの言い分を通すべく声を張り上げ、懸命に訴えた。

「…それとも、さらに上の立場の方にお伺いを立てる必要でも?」

「……いえ、先ほども申しあげたとおり、この基地で起きることは全て私に一任されています。分かりました。輸送ヘリを出しましょう。博士には隊員の放射能防護服を着ていただきます」

 大林は熟考ののち、そう答える。

「ありがとうございます……」

 山根は深く頭を下げた。

 彼が目指すのは南、数多くの盟友の命を奪った地獄の跡地であった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 山根博士が日本に降り立つ直前のこと。 

 アメリカ合衆国・ニューヨーク。

 国際連合本部ビル。

 

【11月4日 12:00(日本時間) 11月3日 23:00(現地時間)】

 

 

 日本で起きた非常事態解決のため、国連安保理の緊急会議が招集されることとなった。

 

「怪獣が我が国に上陸して15時間余り。まだ吉田総理はじめ閣僚との連絡はつかず、我が国は混迷を極めております。どうか安保理による日本国の救済を伏してお願い申し上げたい……」

 日本国国連大使・五十嵐十造(いがらし じゅうぞう)は悲痛な面持ちで頭を下げた。

「そうは言っても、米国が誇る太平洋艦隊の半数が僅か20分で壊滅させられたのは日本が一番よく知っているはずでしょう?」

 イギリス国連大使がそう述べると、五十嵐は何も答えられず沈黙した。

「怪獣の実力は我々人間の常識を大きく超えています。通常戦力をもって攻撃したとて、倒せる見込みはないと自衛隊と米軍が証明したのです」

「方法は、まだあるでしょう」

 イギリス大使の言葉に答えたのは、曾心儒(そう しんじゅ)中国国連大使であった。

「怪獣は現在日本国を西進し、我が国に向かいつつあります。この魔物を駆逐することは、我が国の国是であります。そのためには、我ら同胞たる人民解放軍による怪獣への核攻撃を行うしか方法はありません」

「核攻撃……!」

 会場にざわめきが走る。

「曾大使…! その発言は、我が国で核攻撃を行うという意思と受け取ってよいのか!?」

 五十嵐は顔色を変えて曾を問いただす。

「日本国民には申し訳ないことをするが、それも止むを得ますまい。ここで怪獣を止めなければ、東アジアは焦土と化すことになる」

「そのような案を受け入れることはできない!」

 五十嵐は机をダンと叩いて怒鳴った。

 しかしその一方で、”迅速な核攻撃”という選択が最も合理的で迅速な解決方法であることは内心で五十嵐も感じていた。

 

「日本の都市部での核攻撃は多くの人民の被害を招くものであり、人道的観点から我が国は反対する」

 フランス大使が反対の意を述べると、曾大使は「その意見は最もですが」と切り返す。

「このまま怪獣を放置すれば、奴は人口密集地を練り歩いて多くの日本国民を焼殺することとなりましょう。それに日本の都市部には対核シェルターもある。適切な事前通告を行えば、例え核を用いたとしても、人民が全滅することにはなりません。むしろそれ以降に怪獣に蹂躙される都市を救うことに繋がる。我が国の提案こそ人道的見地に則ったものであるとご理解いただきたい」

 曾大使は理路整然と自らの意見を述べた。

 核攻撃を人道的とする意見は前代未聞であるが、彼の言うことに一理の道理があることもまた事実であった。

 中国は焦っている。

 ゴジラが海を渡れるとすれば、日本の次に焦土となるのは、朝鮮半島か自国。

 手段を選んでいる暇はないのである。

「しかし…! 我が国に今一度核を落とすことなど…! 容認できません…!」

 五十嵐には中国の焦りは痛いほど理解できたが、それでも賛意を示すことはできない。

 それが唯一の被爆国たる日本人としての心であった。

 

「それについて、我がアメリカより一つ申し上げたい」

 アメリカ国連大使、ジャック・K・リチャードソンが挙手とともに述べた。

「我が国の研究機関が解析したデータにより、ゴジラの発した熱線は核爆発による火球と同等のエネルギーを持つことが判明しました。体組織がそれに耐えうる物質でできているとなると、核攻撃で決定的なダメージを与えられる保証はありません」

「核に耐える、だと……!?」

 各国大使の表情は驚愕に染まった。

「そのデータは信用できるのですか?」

「数値の厳密性は置いておくとしても、桁は正確に計算されています。少なくとも数万度規模の温度に耐えうることは間違いありません」

 怪獣は、人間が知りうるどの物質でも説明ができない防護性と攻撃力を備えている。

 それだけはすぐに各国の大使に伝わった。

「よって我がアメリカは、核攻撃によるゴジラの駆逐ではなく、無人兵器による飽和攻撃にてゴジラのエネルギーを損耗させ、生命活動の停止を促す戦術を提案したい」

「………」

 議場にざわめきが走る。

 

「ゴジラの体内エネルギーは核融合で調達されているそうだが、その作戦にいかほどの勝算があるのですか?」

 曾大使は毅然とリチャードソン大使に尋ねた。

「はっきりとしたことは申し上げられません。ですが、怪獣といえどエネルギーは無限ではありません。核攻撃よりは確実に勝算は高いでしょう」

「我が国は米国の提案に賛同したい…!」

 すかさず五十嵐はリチャードソンに賛意を示す。

「しかし、横須賀の艦隊の壊滅を受けて、日米同盟を放棄し本国に撤退している貴国にそのような戦力があるのか?」

 ロシア大使がそう口を挟む。

「撤退は戦力の立て直しを図るためであり、条約の破棄を示すものではありません。それに、今現在、本国から無人攻撃機を極東に向け輸送中です。あと半日あれば全戦力が整う手はずになっております」

「…随分と準備のいいことだ」

「無論、我が国だけでなく周辺国のお力をお借りしたく思います。特に、近年航空戦力の機械化を推し進めている中露の二か国には」

 リチャードソンは中露両大使の顔を交互に見ながら告げる。

「…承知した。米国の提案に則り、人民解放軍機械化航空部隊を派遣しよう。しかし、万一の場合に備え核の発射準備は怠らずに行わせていただく」

 曾大使がそう述べると、ロシア大使も同様の意見を述べた。

 

 

 こうして、無人機を主戦力とした多国籍軍の結成と、世界各国を動員した第二次対怪獣攻撃作戦が安保理によって決定された。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

【16:27】

 東京都足立区竹ノ塚・竹ノ塚警察署前。

 東京の街で形を保っている人工物は何一つなく、全てが瓦礫の山と黒煙の中に埋もれていた。

 午前から降り続いた雨で火は消し止められていたが、未だ煙は至る所に立ち上り視界は悪い。

 廃墟と化したその街で、重厚な防護服を着た山根博士を始めとする調査部隊は降り立っていた。

 

「凄いですね……。都心から離れていてもこれだけの有様とは……」

 山根の横に立つ隊員が声を震わせながら言った。

「上空からも見えたと思いますが、瓦礫が山のように折り重なっている市街地の中に、溝のように滑らかな地形が広がっています。この”溝”の部分が、ゴジラの発した熱線が通った箇所と推測できます」

 山根はそう言って足元に転がる石を拾う。

 彼らが立っている場所もまた、その”溝”に当たる部分である。

「見てください。一度溶解した建材が蒸着した痕跡があります。一瞬の間に分厚い建材を完全に溶解していた証拠です」

 彼が拾い上げた石の表面には気泡が立ち、火山から噴き出た軽石を連想させる。

「ところで、放射線量はどうなっていますか?」

「はい。現在空間放射線量は250ミリシーベルトで安定しています」

「こんなに離れたところでもそれだけの濃度の放射線が……」

 隊員が驚きの声をあげた。

「中心部では最大4シーベルトの超高濃度放射線が観測されています。これだけの濃度では生態系は全滅してもおかしくはありませんね……」

 

「やはりゴジラは核融合だけでなく、核分裂も同時に体内で行っているようですね」

 紙の資料をめくりながら山根は言った。

「放射性物質の解析結果を見ると、組成は百年前のゴジラの活動痕に見られた元素と92%の割合で一致しています。これは、現在のゴジラが百年前と全く同じ核分裂プロセスを体内で行っていることの証拠となります」

「では、この高濃度の放射能も、核分裂に由来すると?」

「間違いないでしょう。ですが、これは私には嬉しい報せです。体内の構造が百年前と大きく変わっていないのであれば、私の研究成果をそのまま奴に適用できるかもしれない…‥」

「研究成果…?」

 隊員の一人が訝し気な顔をする。

「まだ実用レベルではありませんが、私が所属していたサラジアの研究チームが間もなく実現を成功させるでしょう」

「失礼ながら博士、その研究とは……?」

 

微小酸素(ミクロオキシゲン)という構造の応用です。平たく言うと…」

 

 

水中酸素破壊剤(オキシジェン・デストロイヤー)。ゴジラを抹殺した唯一無二の兵器の実現です」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 この頃ゴジラは、濃尾平野を壊滅させて京都に迫っていた。

 

 

 

 

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