ゴジラ2054 終末の焔   作:江藤えそら

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更新が遅くて申し訳ありません。物語も折り返し地点を過ぎているのですが、どうにも調べることが多くて…。もう少し展開を早くしていきたいですね。
最近実装された脚注とか使ってみました。なかなか本格的な小説みたいでワクワクしますね。


禍乱

 

 

 米国カリフォルニア州・某所。

 無人航空機製造メーカー。

 

「とにかくすぐに製造を開始しろ! 軍の発注など待たんでいい!! 国外にいるエンジニアも全て呼び戻せ!」

 本社ビルの中で、CEOである彼は受話器を手に怒鳴っていた。

「金などいくらでも出す!! わが社が借金しようが破産しようが構うものか! とにかく全力で作り続けろ!! …過労死!? 馬鹿を言うな!」 

 彼は早口でまくしたてながら本社ビルの窓を見る。

 その先には太平洋が広がっていた。

 この海の向こうに、”滅びの神”がいるのだ。

「過労で死ぬのと、炎と放射線でのたうち回りながら死ぬのと、どっちがいい!? 異論は聞かん! 一秒でも長く、一機でも多く攻撃機を作れ!!」

 そう叫ぶ彼自身の目にも隈が浮かんでおり、夜を徹した多忙の影響が確実に彼を蝕んでいた。

 しかし彼に休む暇はなかった。

「一機でも作り損ねれば我々の明日はないと思え! 攻撃機は何機あっても足りないんだ!!」

 間もなく米国を中心とする多国籍軍による総攻撃が始まる。

 無人機の”数”が、作戦の可否を握っているのだ。

 この作戦に間に合わなくとも、その次の作戦のために彼らは作り続けなくてはならない。

 怪獣との戦いは、日本からはるか遠く離れた場所においても”戦場”となったのである。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

【11月4日 12:30 国連安保理決議2646発動、多国籍軍の派遣が決定】

 

【17:25 ゴジラ、滋賀県守山市を通過】

 

 太陽が沈み始め、再び日本は恐怖の夜を迎えることとなった。

 朝方に比べると格段に歩行速度を落としたゴジラは、しかし確実に日本を蹂躙しつつあった。

 東京湾から都心に上陸して以来、約15時間にわたって一切エネルギー補給を行っていないにも関わらず、その威容と憎悪の表情に些かの綻びも見られなかった。

 

 関西の人々の混乱は頂点に達していた。

 18時ごろ、漁船で周辺国*1に向かおうとした数十人の避難民が、周辺国の警備部隊に撃沈される事件が起きた。

 乗っていた人間のうち半数が逮捕され、残りは死亡、もしくは行方不明となった。

 漁船が領海に不法侵入し、停船命令を無視して沿岸にたどり着こうとした故であるが、この事件の一部始終を映した動画が事件の数時間後にはSNSに流れ、人々の不安をますます煽ることとなった。

 不安の渦はやがて憎悪へと変わり、漁船撃沈事件を起こした国の出身者が各地で暴行、監禁などの被害に遭い、あるところでは逆にその国の移民団が集団で襲撃事件を起こすなど、日本のありとあらゆるところで無秩序な暴力行為が頻発することとなった。

 

 抗いようのない死への恐怖を潤滑油とした憎悪の連鎖は、時間が経つにつれて凄惨を極めていった。

 自警団と称した暴力集団が、敵と断じた相手を夜通し暴行し続ける姿さえも稀ではなくなった。

 赤子や妊婦でさえその餌食となった。

 略奪や強姦、放火など、理性を失った蛮人たちの行為はおびただしい数にのぼった。

 

 暴虐の動機は政治・民族などの範疇にとどまらず、遂には日頃の私怨や鬱憤を糧に蛮行を働くものまで現れ始めた。

 つい昨日まで共に酒を交わしていた同僚が首を絞めあい、昨日まで共に家路を歩いていた学生たちがナイフで咽喉を切り裂きあっている。

 

 

 もはやゴジラが手を下すまでもなく、人間は自然にその数を減らし始めたのである。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

【19:38 ゴジラ、京都府に到達】

 

 千葉県沖の最初の大爆発から間もなく24時間が経とうとしていたころ。

 ゴジラは時速15㎞程度の極めて遅い速度で京都府を横切りつつあった。

 二千年以上に及ぶ日本の文化を伝え続けてきた建築や書物は見る影もなく焦土と化し、または蒸発し、赤々とした光でゴジラの圧倒的な姿を照らしあげるのみであった。

 

 そのゴジラの真上を飛ぶ、無人機が一機。

 中国人民解放空軍、無人航空機”翼竜‐12”である。

 ゴジラは自らの直上を飛翔する無人機の存在に気付きつつも敢えて反応を示すことはなかった。

 

 

 京都の街は、それまでゴジラが蹂躙してきた全ての都市と同じように、一辺の希望もない焦土と化した。

 大半の市民が逃げた後とはいえ、未だ逃げ遅れた人々や避難を諦めてシェルターに籠る人々が数多くいた。

 時節核熱線を発すると、その閃光に焼かれた皮膚は瞬時に溶解し、全身が建物に張り付いた糊と炭の中間のような死体へと変貌した。

 それを逃れたところで、次は衝撃波による瓦礫の飛来、建物の倒壊が待っている。

 爆心地をわずかに離れたところでも、閃光を浴びた身体は水分が抜けて炭化していく。

 一番悲惨なのは皮膚が炭化しても内部組織がまだ生きている状態に晒された人々であり、地獄をも超える全身の激痛と焼けた気管が腫れ上がることによる呼吸困難の双方の責め苦を受け、死に至るまで声にならぬ悲鳴を上げ続けた。

 閃光と瓦礫の飛来を切り抜けた後に待っているのは、高濃度放射線による急性障害。

 この空間を生きる術を、人類は持ち合わせていなかった。

 

 全身を焼かれつつ死を逸した人々は、我先にと煮立った川へ飛び込み、残らず死んでいった。

 純粋に死から逃れたくてもがく者もいれば、むしろ死を求めて彷徨うものもいた。

 すなわち、死を救済と錯覚させるほどの地獄であった。

 全ての感覚が錯綜した中、彼らが感じるのはただ二つ。

 天をも揺るがす地響きと、終末の咆哮。

 

 

 ◆◆◆

 

 

【20:00(日本・韓国時間)】

 

 

 韓国・ソウル郊外。

 この場所に臨時で編成された国連軍*2の本部が置かれ、各軍の司令官たちが続々と集結しつつあった。

 

「これがゴジラか……。何と禍々しい姿だ…」

 中国人民解放空軍戦略無人偵察機師団長、唐慶(とう けい)中将は無人機より送られた画像を見て戦慄とともに言葉を漏らした。

「これがこの世の生物だというのか……まさか抗日戦以来の国家を挙げた戦があのような化け物との戦いとはな…」

「恐れを抱いている時間はありますまい」

 横合いからロシア連邦航空宇宙軍第11航空・防空軍司令、ニコライ・グリズロフ中将が告げた。

「ゴジラの進路を見るに、このまま直進し、都心部を破壊しつつ大阪湾に入水する意図があることは明白。入水を阻止できねば、奴は海水でエネルギーを無尽蔵に回復することになる…」

「つまりここであの化け物を食い止めねば、我が国の防衛は果たされぬ、ということか……」

 唐中将は画面の向こうを悠然と歩くゴジラを睨みつけながら呟く。

「各戦闘部隊に通達! 21:00より総攻撃を開始する! 作戦開始時刻に合わせ、各無人機の離陸準備を徹底させろ!」

 

 

 ◆◆◆

 

【20:21】

 

 兵庫県伊丹市・伊丹駐屯地。

 

「総監、国連軍より通達がありました。『我が軍の攻撃は無人機による断続的ミサイル攻撃に限る。これを妨害せぬ限り、貴隊の一切の行動の自由を認める』と」

 通信兵が告げると、中部方面総監・新堂永治(しんどう ながはる)陸将は重い表情のまま頷いた。

「総監、呉の護衛艦隊及び各航空基地の部隊より作戦参加を希望する連絡が多数届いていますが…」

「いや、許可は出せない。今は統幕監部が壊滅し、各々の部隊が各個に動いている状態だ。連携を失った軍は攻撃力を発揮することはできない。本作戦はあくまでも我が中部方面隊のみで行う」

 幕僚長の報告に新堂は毅然とそう返した。

「しかし、数万発の砲とミサイルを受けて無傷の敵に、我々の攻撃は意味を成すのでしょうか…?」

「本作戦の目的はゴジラにダメージを与えることではない。僅かでもゴジラに攻撃を行わせ、以てエネルギーの消耗を促すことだ。攻撃は注意を引くためのきっかけに過ぎん」

 新堂が述べた作戦概要はいかにも単純なものであった。

 しかしその内容がいかに残酷なものであるか、他ならぬ新堂自身が一番身に染みて知っていた。

 戦車や装甲車に乗った部下たちを、ただ死なせるために戦地に赴こうとしているのだから。

 

「だが、やらなくてはならんのだ…‥」

 自分に言い聞かせるように、新堂は呟く。

「僅かでも可能性があるなら、僅かでも戦力があるなら……やるしかない……」

 今、彼らに残された戦力も決して多くはない。

 日本中が混乱する中で離散した部隊や隊員も決して少なくはなかった。

 秩序と治安を失った自治体の中で、家族が心配になって隊を抜けるのも、人としては当然の心である。

 新堂には離散した隊員を責める気にはなれなかった。

 だがそのような状況においてでも、任務に備えて隊に残り続けた謹厳実直な隊員達。

 そんな彼らを使い捨てなければならぬ状況に、新堂は断腸の思いを断ち切れなかった。

 

「総監!」

 そんな新堂の思いを一蹴するかのように、その報は飛び込んできた。

「ゴジラが県境を越えて枚方市に進入! 間もなく作戦展開区域に進入します!」

「うむ」と新堂は答え、正面のモニターを見据えた。

「戦場を淀川河川敷に想定、現場に急行中の戦車及び車両部隊は淀川方面へ急行せよ。ゴジラの接近を確認後、呉二号作戦を開始する!」

 

 

 ◆◆◆

 

 

【19:26】

 

 この頃、元都心部での放射線調査を終えた山根博士らは、茨城県つくば市のとある大病院にいた。

「部隊の報告では、()()()()はこちらの病院に収容されているはずです」

 竹ノ塚での調査で山根に協力した中央特殊武器防護隊所属・近藤次郎(こんどう じろう)二尉が先導する。

 病院内には関東中のあらゆる場所からヘリ輸送されてきた病人や怪我人が運び込まれ、圧倒的に場所と人員が足りていないのは山根の目にも明白に理解できた。

 死亡した人々を安置する場所すら足らず、ベッドの上に置かれたまま眠っている遺体も垣間見える。

 入り口の方には収容者の家族が押しかけており、生き残りの警察や自衛隊員たちが辛うじてそれを押しとどめる有様であった。

 

「この部屋です」

 近藤二尉が通した部屋は、他の部屋と違って患者一人が横たわっているだけの殺風景な部屋だった。

 しかし生命維持装置などは大がかりなものを取り付けられており、この病院の患者の中で明らかに特別な扱いを受けていることが分かる。

「この子が……最もゴジラに近い場所で生き残ったという少年ですか?」

 山根の問いかけに、近藤は「はい」と答えた。

 ベッドに寝かされている患者は、全身に隙間なく包帯が巻かれ、顔や性別すら外見では認識することができない。

「全身を重度の火傷で損傷し、さらに高濃度の放射能障害を受けています。発見されたときは文字通り虫の息だったと部下は言っておりました。ですが輸送ヘリの中でも息絶えることなく、辛うじて今も生を保っています」

 近藤の話を聞きながら、山根は彼から書類を受け取って眺めた。

「発見場所は千葉市…。持ち物から断定されたプロフィールは……。高校生なのか……」

 こんな若い少年が、と山根の胸中に悲哀の情が走る。

「はい。名前は”小幡堅太郎”というそうです」

 

 二人が言葉を止めると、ヒュー、ヒュー、という小幡の呼吸の音だけが機械越しに聞こえてくる。

「ゴジラが通過した場所3㎞以内で発見された生存者は、現在のところ彼一人です。都心部、神奈川県などの各所において、その範囲で生存が確認された者は一人もいません」

「”絶滅”…。まさしく奴は自分の近くにいる人類を一人たりとも残さず絶滅しているんだ……」

 山根は重く言葉を発する。

「だが、彼がもし目覚めることがあれば、何か有用な情報が得られるかもしれません。至近距離でゴジラを見て唯一生き残った人物の証言…。何としても聞かなくてはなりません。彼の回復を祈るしかないですね」

 近藤は小さくうなずいた。

 

 だが、近藤は内心では山根の言葉に賛同しきれない思いを隠していた。

 彼は、部下からの報告で小幡のより詳しい状態を知っている。

 発見されたとき、小幡は息も絶え絶えな状態で、ずっと呻き声をあげていたのだ。

 全身を襲う堪えがたい痛みから逃れる方法が分からず、ただ苦しんで助けを求めて、呻いていたのだ。

 彼の肉体には溶解した服が張り付き、脱がせることすらできなかったという。

 よしんば彼が意識を取り戻したとして、その常軌を逸する激痛が僅かでも消え去っている保証はあるのか?

 

 ”いっそ、死なせてやった方が彼は救われるのではないか?”

 自衛官として、それだけは抱いてはいけない情だと彼は十分理解していた。

 だからこそ、部下にも山根にもその思いを言うことはなかった。

 だが、このまま苦しみから救う方法がないまま生かすことこそ、最も残酷な対応ではないのだろうか?

 

「お気持ちは分かりますよ」

 近藤の心を見透かしたかのように、山根は言った。

「ですが、オキシジェン・デストロイヤーさえ完成すれば……もうこんな不幸な子が現れることはなくなります。オキシジェン・デストロイヤーさえあれば……」

「…………」

 近藤はなんと返答すればよいか分からなかった。

 その兵器の名は先ほど初めて山根から聞いたものであり、近藤が推測するに自衛隊の最高幹部すらも知らない名前である。

 山根いわく”百年前のゴジラを倒した兵器”のようだが、突拍子もなくそのようなことを言われても素直に信用しがたいというのが率直な感想だった。

 ゴジラの明確な死因が長らく明らかにされていないのは確かに疑問だったが、だからと言って突然出てきたどんなものかも分からない兵器のことを無闇に信頼する気にもなれない。

 山根は世界に認められた怪獣研究の第一人者であることは近藤も存じてはいたが、彼の話の内容までを鵜呑みにはできなかった。

 一方で、”ゴジラを倒せる存在がある”ことに縋りつきたくなる自分をも否定できずにいた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ゴジラが絶望の大進撃を開始してから二度目の夜が訪れた。

 

 呉二号作戦の発動は近い。

 

 

 

 

 

 

【人類生存数 92億5971万人】*3

 

 

 

*1
賛否や議論を避けるため本作ではこのように呼称する。地理的な要因から「周辺国」と表現したが、X国と同様、作者には特定の国家を指し示す意図はなく、本作に政治的意図を込めるつもりもないことを明記する。

*2
ただし実態は国際連合憲章第7条に基づく国連軍ではなく、安保理の決議を受けて各国が自発的に派遣した多国籍軍である。

*3
なお、現時点で日本人の約22%が死亡している。




そういえば、最近ようやくアニゴジ三章を見たんです。感想はTwitterの方から見れますので良ければフォローを(雑な宣伝)。ハーメルンの個人ページからTwitterに飛べます。

今年中にもう一回は更新したいのですが、無理かもしれないので一応言っておきます。よいお年を。
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