ゴジラ2054 終末の焔   作:江藤えそら

3 / 22
Twitterで行われていたシンゴジラ実況に勇んで参戦していたはいいが、鍵垢にしていたことをすっかり忘れていたえそらです。どうりで一つもいいねがつかないしリプももらえないわけだ。えそらの頭はうわのそら。


再臨

 ◆◆◆

 

 南太平洋上の爆発から約13時間が経過したころ、日本各地に0.5~6mの津波が到達。

 迅速な政府や自治体の対応により死者は出なかったが、多くの家屋で浸水被害が発生することとなった。

 

 国際連合は日本政府と同様に今回の海中爆発を怪獣によるものと判断し、声明を発表した。

 声明内では、怪獣が原因であると判断した理由は以下のとおりである。

 ①爆発によって解放されたエネルギーが著しく局所的かつ膨大であること

 ②付近の海底火山に活動の痕跡が見られなかったこと

 ③数時間前に同海域で発生した核爆発が怪獣の活動を促進した可能性があること

 安保理の管理下にある怪獣対策委員会では、各国の研究者を集い海中に存在したと思われる怪獣の生態活動・予想される被害などを話し合う事態に発展した。

 また、核実験を強行したX国に対しては強く批判し、経済制裁などが協議されることとなった。

 

 

 一方日本では、沿岸部に住む住人たちが怪獣災害を恐れて多目的シェルターに押し掛ける様相が全国でみられるようになり、吉田総理や桐谷官房長官らが何度も記者会見を開いて国民に冷静な対応を求めるに至った。

 現時点では多目的シェルターへの入居が認められているのは津波による被災者だけであり、各自治体から避難勧告ないし避難指示が出されない限り、入居は認められないのである。

 もっとも、こういった混乱は日本に限ったことではない。

 怪獣はどの海から現れるか分からないのである。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 2054年10月26日、都内中央合同庁舎。

 

 内閣府特別の機関・怪獣対策防災会議(以後、怪防会と略す)。

 

『海中爆発の原因たる怪獣の生態研究と対策検討に関する報告会議(第1回)』

(※この会議は、怪防会やその他の調査機関・研究組織らがまとめた怪獣(特に百年前のゴジラ)に関する情報を怪防会の幹部に報告するものである)

 

 会議室で机を囲むのは、国務大臣たる蒲田良樹・怪獣防災担当大臣をはじめ、古生物学・海洋生物学・原子力物理学・物性物理学など各方面の有識者の代表であり、さらに対怪獣防衛の有識者として派遣された自衛隊統合幕僚監部の所属者など様々な面子である(吉田総理大臣も本来同席するべき立場にあるが、別件により欠席)。

 

 

「海中から大気圏外へと伸びる光の筋は、衛星による解析情報によると20万℃を超える超高温の熱線であることが確認されています。これは百年前に出現した”ゴジラ”の行動からは説明のつかない現象です。よってこの現象は、少なくとも百年前のゴジラとは異なる怪獣のものであると思われます」

 怪防会幹部の一人が資料を読み上げる。

「本当にそうなのか?思い込みで議論を進めるのは危険だ。一度百年前の個体のデータを再確認させてほしい」

 池田和宏・怪獣対策防災会議長がそう呼びかけると、呼応して有識者代表たる古生物学者の一人が会議室前方のモニターパネルに自らが持つ携帯端末を触れさせると、モニターにゴジラのスペックが浮かび上がる。

「百年前に東京に上陸したゴジラは体長50m、体重は推定2万トン級。海底洞窟に生息していた巨大恐竜の生き残りがビキニ環礁の水爆実験によって目覚め、破壊活動を開始した―――というのが山根恭平博士による調査書の文言であります。芝浦に上陸したこの個体は、白色で高温の霧のような吐息を発し、当時木造建築が多数存在していた東京にて大火災を発生させました。鉄塔を数秒で溶かしたことから、吐息の温度は数千度に達するものと思われます」

 説明とともに、当時の悲惨な現状を映し出したモノクロの写真がモニターに次々と浮かび上がる。

「この”息のようなもの”を海中から上方に向けて放った場合、どうなりますか?」

 別の幹部が質問した。

「高温のため水蒸気爆発が起こる恐れがありますが、数千m上方の海面上にはほぼ影響はないかと」

「やはりゴジラではないのか……」

 蒲田良樹・怪防担当相は重い声でつぶやく。

「また、百年前のゴジラの活動においてもう一つ重要な点があります。その生態活動に伴って、大量の放射性物質が体内から放出されたということです。百年前の解析では、これは核分裂を経た重元素の残骸が分析されています」

「核分裂が百年前のゴジラの動力源だとするのが最近では定説だな。体内に原子炉を持つ生き物と知ってこれを欲しがる国も多数存在するのも事実だ」

 池田議長の言葉に蒲田怪防担当相は頷く。

 人類の業によって生まれた怪獣は、人類の欲望の的となっていた。

「で、海中爆発の現場からは放射性物質は検出されたんですか?」

 蒲田怪防担当相はついに一番気になっていた事項を尋ねた。

「米国の調査機関が該当海域の水質検査を行ったところ、放射性物質自体の検出はされたのですが、百年前に検出された重元素の残骸とは全く異なるものが発見されました。検出されたのはトリチウム…すなわち”三重水素”。それとヘリウム4とヘリウム3です」

「三重水素とヘリウム…?」

 会議室内がざわめく。

「三重水素とヘリウムは核分裂によって生成される物質ではありません。ですが、海中爆発が起きた海域付近で三重水素及び三重水、ヘリウムの濃度が非常に高くなっていたことから、海中爆発との因果関係は間違いなく存在するものと思われます。つまり、海中爆発を引き起こした怪獣の生態活動の結果廃棄物として生じるものと考えるのが最も適当かと思われます」

「三重水素とヘリウム3は地球上にはほとんど自然に存在しえない物体だ。つまり、三重水素が今回の怪物の”排泄物”みたいなものだということか。しかし、なぜ三重水素とヘリウムなんだ…?」

 池田議長の言葉に、一瞬沈黙が走る。

「報告書によれば、この怪獣のエネルギー発生源が重水素によるD-D反応と三重水素と重水素によるD-T反応の並行反応、つまり核融合であれば、その合成物として三重水素とヘリウムが生成されるため、この結果を裏付けるものとなります」

「核融合……?」

 再び会議室は動揺の渦中に見舞われた。

「馬鹿な…。核融合は核分裂とは条件が全く違う。核融合を起こせるほどの超高温・高圧を維持できる機能が一つの生物に備わっているはずがないだろう!」

 有識者の一人が声を荒げて反論する。

「しかし百年前のゴジラでさえ、体内に原子炉をもっているんです。我々の常識を超えた性質を持つのは当たり前のことなのかもしれません」

「しかし…人類が百数十年経っても開発できない核融合炉を、生身の体に持っているなどにわかには信じられない…」

「それに、もしその怪獣の原動力が本当に核融合だとしたら……。そいつは巨大な水爆そのものじゃないか!」

 ”巨大な水爆”。

 人類が生み出した業そのものに怪獣が変貌を遂げたというのか。

 

「水素同位体による核融合反応が生体エネルギーの抽出源であれば、重水素は海水から無尽蔵に手に入るから、それこそその怪獣はほぼ無限のエネルギーを持っていることになるぞ……!」

 蒲田怪防担当相は重苦しい表情を崩せずにいた。

 そもそも怪獣という生き物は全てにおいて他の生物とは規格外である。

 その生態、対策、駆除法を正確無比に考え付けというのが無理な話だ。

 体内に核融合炉をもつ怪獣を如何にして倒せというのか。

「核融合は核分裂よりエネルギー生成効率ははるかに高い。ということは、百年前のゴジラよりも活動時間も吐息の熱量もけた違いに大きくなる恐れがありますね。最悪の場合、多目的シェルターの壁でも熱をさえぎれない恐れがあります」

「あのシェルターでダメなら国民をどこに逃がせというんだ!?」

 池田議長の言葉には誰も答えられなかった。

「…と、なれば可能性は一つ。その怪獣がシェルターに到達する前に水際で迎撃し、駆逐するしかない。自衛隊の装備で倒せるのかね?」

「問題ありません」と答えたのは、それまで沈黙を保っていた辻直毅(つじ なおき)・統合幕僚監部代表である。

「機密事項のため詳細にお教えすることはできませんが、過去のゴジラの対弾頭防御力を精密に計算し、これに打撃を与えうる最新型徹甲弾及びミサイルの生産を行っております。有事の際にはこれらの弾頭が敵怪獣の皮膚もしくは甲殻を容易に貫通しうると考えています」

「そんなことは何度も聞いている。問題は怪獣が日本に上陸してきたときにどう対応するのかだ」

 池田議長は苛立たし気に言いながら机を指でトントンと叩いた。

「失礼いたしました。具体策につきましては、我々統合幕僚監部による綿密な会議のもと、日本のあらゆる海岸を上陸地点に想定し、約500パターンの迎撃作戦を考案しており、また海中爆発があってから海自では海中捜索を強化しております。いつどこに怪獣が出現しようともすぐに発見し、駆逐することができるでしょう」

「今回の怪獣は百年前のゴジラよりもはるかに強大であることが予測されるが、それでも倒せるのかね? 防衛計画を聞かせてもらいたい」

「必ず倒して見せます。今現在計画されている防衛作戦大綱は機密につき発言を控えますが、考えられる状況に応じて複数の対応策を考案しております。万が一の場合に備え、米軍との連携作戦も視野に入れています。怪獣災害から国民を守るため、有事の際には直ちに統合任務部隊を結成し、陸海空が一体となって戦う準備を整えています。命令さえあれば、自衛隊は迅速に怪獣に致命的な打撃を加えることができます。これだけは確実に申し上げられることです」

 辻代表は強い語調で言い切った。

「まさに日本の全戦力を使用した総力戦…というわけか…」 

 池田議長がつぶやく。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 2054年、11月3日。

 

 

 吉道は、今日は病院によらずまっすぐ帰ることにした。

 小幡達と街中をぶらつくという選択肢もなくはなかったが、余計な散財は避けたい気分だった。

 街はいつも通りの光景である。

 

「ですから、我々に残された贖罪の道は滅び去ることだけなのです!」

 街の一角で中年くらいの女が胡散臭いことを拡声器で喋っている。

「人類の罪は、もはや取り返しのつかないところまで来ているのです。ゆえに神はゴジラを遣わした!」

 吉道は一瞥もせずに街道を歩く。

 聞く価値もない戯言だ。

「ねえ、皆さん! 聞きましたでしょう、ニュースを! ゴジラは再び現れるのです! そして大いなる業火で人類を焼き付くんですよ!」

 百年前にゴジラが日本を襲来してからというものの、こういった宗教家崩れが後を絶たないのだということを吉道はたびたび親から聞いていた。

 人によって多少の主張の違いはあるが、大抵は”人類は滅びるべし”と身も蓋もない理論を大げさに喚き散らしているのだと。

 

「そう思うならまずお前が死ねよ!」

 喉まで出かかったその言葉をぐっとこらえ、吉道はバスに乗る。

 

 今日は学校で臨時に避難訓練が行われた。

 それも、怪獣災害を念頭に置いたものだ。

 本来予定されていた午後の授業が取り潰されたことで歓声を上げる同級生もいたが、どうせいつか補講という形で埋め合わせをさせられるのだと知っていた吉道は別段喜ばなかった。

 怪獣の避難訓練はハンカチを口に当てる火災訓練や机に隠れる地震訓練よりも簡単で、さっと集まって整列してグラウンドに出るだけである。

 本来の予定では、そこから最寄りの千葉高品(たかしな)多目的シェルターに向かうらしい。

 グラウンドに集まった生徒たちは、そこから朝礼のように長ったらしい教師たちの話を聞かされるばかりであった。

 当然、訓練中も訓練後も、吉道の周りの同級生たちは呑気に話す者ばかりだった。

 そもそも、今この日本には怪獣などという存在自体に懐疑的な人間がほとんどだ。

 百年前にゴジラという名の巨大生物が現れたのは疑いようのない事実であるが、なまじそのような常識外れの生き物がこの世に二体もいるなどということは考えづらい、というのが常人の考えだった。

 吉道もその一人であり、しかし心のどこかで非日常を求める”野次馬”の一人なのだ。

 

「でも、ああいうのは嫌いだ」

 バスの窓からさっきの宗教家もどきを睨みつけ、吉道はつぶやいた。

 

 

「ただいま」

 少し後、彼は帰宅した。

 寄り道をしたつもりはないのだが、家に着いた頃には周りはすっかり暗くなっていた。

 日の入りは日に日に早くなっており、晩秋を感じさせる。

「おかえりなさい。ご飯できてるよ」

 いつものように母が迎えてくれた。

 父親がまだ帰ってないが、料理は温かいうちに食すのが道理であろう。

「………」

 何も言わず席に着く思春期らしい妹・愛菜も交え、夕飯の準備は整う。

「いただきます…」

 吉道は箸を運ばせる。

 当たり前だが、母の料理はうまい。

 食事が始まると同時に母親はテレビのチャンネルを変える。

「おい、今の番組見てたんだけど」

 愛菜が不機嫌そうに声を張り上げる。

「ニュース見たいんだもん、我慢してよ」

 母親もまた不愛想な声で愛菜の不平を制す。

 不穏な空気を抑えようと吉道は何か言いかけるが、愛菜はチッと舌打ちしただけでそれ以上何も言わなかったため、言葉を詰まらせて食事を再開した。

 

「あ、ほら。怪獣情報やってる」

 母が食い入るように見つめた先には、某有名局のニュース番組で取り扱われている速報が映し出されていた。

 

『【速報】太平洋マリアナ海溝付近で水蒸気爆発の痕跡  米国調査団発表』

 

「うわー、日本近いじゃない。怖いね~」

 母親は興味深そうにつぶやいた。

 怪獣にスリルをもとめる自分も自分だが、この母親も大概ではないか、と吉道は思った。

 

『アメリカの調査機関によりますと、今日未明、マリアナ海溝付近の海底で、高温による水蒸気爆発発生の痕跡が発見されたとのことです。同調査機関は怪獣の出現の危険性を呼びかけるとともに「新しい海底火山噴火の可能性も否定できない」としており、さらなる調査を続ける模様です。これに対し桐谷官房長官は先ほど会見を開き―――』

 ニュースキャスターは緊迫した面持ちで事態を伝える。

 

「どうする?日本にまた出てきたら」

「逃げるでしょ、そりゃ」

 吉道は当然のように答える。

 愛菜は未だにムスッとしたまま何も言わず箸を進めている。

「でも多目的シェルターって入れる人数が限られてるんでしょ?」

「そうだね。ひょっとしたら山奥に逃げた方が安全かもしれないね」

「逃げられるわけないじゃん、渋滞するに決まってんだから」

 バカじゃないの?と言わんばかりの口調で愛菜が口を挟む。

「…実際、怪獣なんて来たら避難は難しいよね。ひいおばあちゃんとか連れて行くの大変だろうし……」 

「助ける意味あんの?どうせもうすぐ死ぬのに」

「お前、その言い方やめろ」

 妹の不遜な態度に目を瞑っていた吉道だったが、ここにきて思わずたしなめる。

「そうよ。ひいおばあちゃんは百年前にゴジラのせいでひどい目に遭ったんだから…。またそんなことになったら可哀想じゃない」

 母親も吉道に同調した。

「意識ももうほとんどないのに可哀想もクソもあるかよ……」

 妹の無思慮なつぶやきを吉道は黙殺することにした。

「今のうちに非常食とか買っといた方がいいのかしらねー」

 母親がため息とともに呟いた。

 

 

 三人の現実味のない防災談義は、数十分後に父親が帰ってきたことで一時の終息を迎えた。

 

 

 

 そして、安川一家の団欒は、父親の帰宅の1時間12分37秒後、千葉県九十九里浜沖40㎞地点において大規模な核爆発が発生し、夜空が紅に染まるまで続いた。

 

 

 

 

 

【2054年11月3日 20:37 :千葉県東方沖にて大規模な爆発発生 】

 

 

 人類生存数:92億8656万人

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。