ゴジラ2054 終末の焔   作:江藤えそら

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七か月ぶりの投稿です。
思うことがあって前話を大幅に変えたので、久しぶりの読者様は先にそちらを読んでいただけると幸いです。
次回で自衛隊VSゴジラまでいける…のか…?


決断

 二度目の爆発は、火球こそ陸地に届かなかったものの、絶大な衝撃波は陸地を一掃するに十分すぎる威力を秘めていた。

 住宅家屋はもちろん、鉄筋コンクリート造りの建築物ですら破砕され、音を立てて崩れ落ちていった。

 人々は驚愕の表情を浮かべる間もなく、瓦礫に押しつぶされて肉塊と化していった。

 

 爆発地点付近の海水は瞬時に蒸発し、その高温ゆえに膨大な規模の上昇気流が生まれ、キノコ雲を形作った。

 熱くオレンジ色に染まった雲が天高く上り、夜中であるにもかかわらず夕方のように明るく周囲を照らしていた。

 

 そのキノコ雲の根元から、海面を割って突き進む黒い影があった。

 この地球上のどのような生物よりも大きく、強く、恐ろしい影。

 それが歩いているのは、未だ水深約100mの地点であるにもかかわらず、既に上体は完全に海上に露出していた。

 それは、果てしなく巨大であった。

 

 青く輝く炎のような形状の”背びれ”は、海水に触れた部分が沸騰し、蒸気になるほどの高温を保っている。

 黒い岩のような表皮には、不規則な形状の凹凸がいくつも存在している。

 

 それは、人と同じように二足で歩き、人と同じように目や鼻や口を持つ生き物だった。

 だが、それを見た人間は、誰もそれが自分と同じ”生物”であるとは思わないだろう。

 

 純粋な怒りを宿した目には、一瞬にしてそれを見た相手の本能に訴えかける潜在的な恐怖を有していた。

 大きく裂けた口には劣悪な並びの歯が並び、短く退化した舌とともに、その生物がもはや捕食を必要としなくなったことを物語っている。

 

 何故、あれほどの規模の爆発とそれに伴う超高温高圧を生み出してなおその生物の体組織にわずかな損壊の跡さえ見られないのか、人類には到底知ることすらできないだろう。

 だが、人類がその生物を眼前にして唯一得られた回答がある。

 

 その生物が、百年前に降臨したあの怪獣王と同形態であるということだ。

 

 ◆◆◆

 

 

【21:53 哨戒ヘリSH―60L、熱源反応付近の空域に到着】

 

 キノコ雲が完全に夜空と同化し、爆発の余韻が消え去った後に、衛星写真を頼りに海上自衛隊の哨戒ヘリが現れた。

 

 荒れ狂う黒雲の下、哨戒ヘリの乗組員達はこの恐るべき生物の姿を目の当たりにした。

 あと十数分到着が早ければ、先ほどの爆発の衝撃波に巻き込まれて、一瞬で空を舞う鉄屑へと変えられていたことだろう。

 誰もが神話のように考えていた巨大生物は、しかし実態をもって彼らの眼前にたたずんでいたのである。

 だが動揺を表に出すことなくパイロットは通信を始める。

「AW、こちら"BLACK JACK”1(ブラックジャック・ワン)。座標を転送。ゾーン54、456213、3930497。前方に巨大生物を発見。送れ」

「こちらAW、観測を許可する。送れ」

 と、第21航空群本部からの返答。

「了解。観測を開始する」

 そう告げるとヘリは大きく旋回し、怪獣から数㎞ほど離れた空を旋回し始めた。

「BLACK JACK1、観測映像を転送する」

 悪天候でヘリが大きく揺れる中、観測士は懸命にその怪獣の圧倒的威容を映し続ける。

「目標生物は二足歩行を行い、現在海岸へ向け進行中。背部に鰭のような構造を認む。送れ」

 観測士がそう言った直後。

 

 ヘリの乗組員たちは、怪獣の背鰭がぼうっと光を帯び始めるのを確認した。

「…!! 目標生物の背部に発光を確認……わぁっ!!」

 次の瞬間、思わず鋭い悲鳴のような声が機内を支配した。

「!! BLACK JACK1、回避行動を!!」

 緊迫した本部の通信も、機内の隊員たちの耳には入らなかった。

 それもそのはずである。

 

 怪獣は、自らの前方に向けて、猛烈な勢いの青白い光を放射したのである。

 光は瞬時に空間を突き進み、はるか前方の海面に着水すると、瞬時に海水は弾け飛び、膨大な規模の水蒸気爆発が起きたのである。

 青白い光はすぐに止まったが、爆発で舞い上がった蒸気が雨のようになって断続的に周囲に降り注いだ。

 

 その様子はまるで、怪獣が、自分を視察しに来たヘリに自己の力を誇示するかのようであった。

 

「……」

 あまりに現実離れした光景に、ヘリの乗組員たちも言葉を失うほかない。

「こちらAW。BLACK JACK1、状況を報告せよ」

 その通信で観測士が我に返る。

「…AW、こちらBLACK JACK1…目標生物は正体不明の光線…らしきものを射出、大規模爆発を認む。これ以上の接近は困難と思われる。送れ…」

「こちらAW、了解。観測を終了し、直ちに該当空域を離脱、帰投せよ」

「BLACK JACK1、了解。帰投する…」

 その問答ののち、ヘリは怪獣に背を向けて後方へと退避していった。

 瞬時に生み出された圧倒的な”力”を目の当たりにした自衛隊員には、今自分たちが生きていることが奇跡にも等しいとすら感じられたのだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 同刻、怪防会。

 先刻吉田総理の招集で調査活動を開始した怪防会は、次々と押し寄せる情報の嵐に忙殺されていた。

 

 周囲の役員たちが慌ただしく活動する中、先刻の爆発の衛星写真や資料が無秩序にばら撒かれた中央の机を挟み、怪防会の幹部たちが真剣な眼差しで議論を行っていた。

「この個体が以前議論した核融合型の怪獣だとしたら、都心部が核攻撃を受け、国家崩壊の可能性があります」

 福原副議長の声色には怯えすら感じられる。

「一時間前の爆発、そして先ほどの第二次爆発の規模を考えると、怪獣は先月の南太平洋爆発を引き起こした怪獣と同個体、すなわち核融合型の怪獣と見なしていいだろう」

 池田議長はあくまでも冷静に言い放った。

「第二次爆発の大まかな位置から、怪獣はこの一時間で35㎞ほどの距離を進んだことになります。このまま進行を続ければ、二時間足らずで都心の中心部まで侵入する恐れもあります」

 幹部の一人が報告する。

「我々にできるのは、来る防衛出動の発動に備え、怪獣の情報を少しでも洗い出しておくことだ」

 池田の言葉に、しかし幹部たちは暗い面持ちである。

「しかし、現時点では情報が少なく、そもそも怪獣との本格的な交戦は人類有史上二回目でありますし、前例もほとんどない状態では…」

「ならば黙って怪獣に殺されろというのか!! それで何が怪防会だ!! 自覚を見失うな!!」

 福原が鋭い怒号を上げると、池田が「まあ、落ち着け」となだめる。

「冷静にならねば、出る知恵も出なくなる。確実に分かるところから攻めていけばいいだろう」

「議長。核融合によってエネルギーを抽出しているのであれば、目標生物は体内に核融合炉のような器官を備えているはずです。しかし核融合炉は稼働条件として高温・高圧を必要します」

 若手幹部が意見すると、池田が「そうか!」と声を上げた。

「わずかにでも核融合炉に亀裂を与えれば、その亀裂から圧力と温度が逃げ、核融合反応は継続不可能になる。つまり、怪獣の生命活動が停止する可能性があるというわけだな」

「そのように考えます」

 

「では今の話、統合幕僚監部に伝えさせていただきます」

 辻・統合幕僚監部代表が携帯電話を取り出しながらそう言うと、池田は「ああ、頼む」強くうなずいた。

「議長! 海自の哨戒ヘリから、怪獣の全体像の写真が送られてきました!」

 その時、役員の一人が彼らの間に割って入るように机に新しい写真の束をばらまいた。

「ん? これは……」

 その中の一枚を拾い上げてのぞき込んだ池田は驚愕した。

 そして、すぐに机に散乱した資料の中からある一枚を取り出す。

「見ろ! こいつは……」

 池田が言うまでもなく、役員たちは全員気付いていた。

「この個体、百年前のゴジラに瓜二つだ……!!」

「なんてこった……」

 福原は絶句した。

 

 

【21:57 千葉県知事、自衛隊に九十九里町の災害派遣を要請】

 

 

 ◆◆◆

 

 ちょうど内閣では九十九里の第二次爆発の報が入り、議論が紛糾していたころだった。

 彼らのもとに、海自の哨戒ヘリからの情報が伝わったのである。

 

 

「ゴジラ?」

 報告を受けた吉田総理は、数秒間絶句した。

「あのゴジラと同個体なのか?」

「まだ詳しいことは分かりませんが、報告では百年前のものと同様の外見的特徴を有すると…」

 総理大臣補佐官はそれだけ告げた。

 吉田は自分の体がぶるぶると震えるのを感じていた。

 恐怖、緊張、武者震い、いずれも当てはまる。

 いよいよもって本当に日本と怪獣(ゴジラ)の雌雄を決するときなのかもしれないと彼は思った。

 

「総理、事態急変に伴い、今後の対応を決める必要があります」

 桐谷官房長官は冷静に述べた。

「怪獣の実態の確認に伴い、既に内閣官房を通じてJアラートが全国に発令されています。海上警備行動では事態に対応しきれない可能性があり、さらなる対応の拡大はやむを得ないかと思われます」

「防衛出動の発動も視野に入れなければならないということだな…」

 吉田の言葉を受け、閣僚達の顔に冷や汗がにじむ。

 吉田の言葉が実行されれば、自衛隊創立以来、初の防衛出動の発動ということになる。

 日本国建国以来の重大な有事に他ならない。

「防衛出動の命さえあれば、自衛隊はどこであろうと必ず侵略者を排除する用意があります。総理、ご決断を」

 磯谷防衛大臣が吉田に迫る。

「しかし、怪獣は既に海岸線近くにまで進行しています。防衛出動を発令すれば、沿岸部の逃げ遅れた住民を戦闘行為に巻き込む危険性があります!」

 金田総務相が猛然と反論する。

「だが、今こうしている間にも怪獣は内陸部に向けて進んでいるんだぞ! 早いうちに手を打たねば、後手後手に回って何も追いつかなくなる!」

 氷川環境相の指摘に「そうですが…」と金田は語尾をにじませる。

「現状では、もはや逃げ遅れた住民の被害は免れようはなく、黙認すべき犠牲かと」

 土井文科相の冷徹な言葉に、「なんてことを言うんだ、君は!」と永嶋国土交通相が義憤する。

「自分は土井さんに賛成ですな。国民の被害を最小限にするには、今すぐにでも防衛出動を命じるしかないでしょう」

 桜坂は永嶋と金田を睨みながらそう言った。

「………」

 吉田は目を閉じて塾考する。

 

「時間がありません。総理、ご決断を」

 桐谷が迫る。

「…防衛出動は発令する。だが、戦闘区域の住民避難完了を確認するまで攻撃は許可しない。千葉県知事が既に自衛隊の災派を要請しているはずだ。彼らによる被災者の完全救出を待ってからゴジラへの攻撃を開始する。これでいこう」

 吉田が命じると、磯谷は強いまなざしで了解の意図を返した。

 

【22:00 吉田総理、戦後初の防衛出動を発令】

 

 

 ◆◆◆

 

【22:00 関東全域にJアラート発動 避難区域拡大】

 

 閣僚会議が紛糾しているころ、安川家はおかしな音色のサイレンを聴いた。

「え、なにこれ!?」

 心の底を揺さぶり、本能的な恐怖心を表側に引きずり出してくるような、極めて不気味で凶悪な音色だった。 

 ”国民保護サイレン”が大音量でなり始めたのである。

「なに、あのうるさいサイレン!?」

 愛菜もいらだちを押さえられない様子で二階から降りてきた。

「ちょっと待って……なんだこりゃ」

 テレビを見ていた父も言葉を失っていた。

 先ほどまで臨時ニュースを放送していたのだが、サイレンが鳴り始めると突然画面は暗転した。

 そして、真っ暗な画面に「怪獣上陸警報」とのテロップが浮かび上がった。

 聞くと、外からはサイレンに続き無機質で機械的な声で防災情報が流されていた。

『怪獣情報。怪獣情報。我が国は現在、未確認巨大生物の攻撃を受けています。直ちに屋内に避難し、テレビ・ラジオをつけてください。放射線被ばくの危険があります。指示があるまで、絶対に屋外に出ないでください。』

 その放送内容から、ただ事ではないことがありありと伝わってくる。

 

「え、見て! 千葉県全域って書いてある!」

 母親が指さした通り、画面のテロップの中に、千葉県全域が避難区域に指定されたことが書いてあった。

「…吉道、愛菜。すぐに荷物まとめて! 母さんは防災パンフレットもってきて! あそこの棚にある!」

「……マジかよ…」

 吉道にはそれくらいしか言葉が出てこなかった。

「おい愛菜! 今はそんなことしてる場合かよ!」

「分かってるよ…うるせえな…」

 SNSで友達と話しているのか、いつまでもスマホをいじる愛菜をたしなめると、吉道は荷物をまとめるために自室に戻っていった。

 

『【速報】吉田総理、戦後初 防衛出動を発動』

 慌ただしく避難準備にとりかかる安川家の面々には、もはや新しく表示されたそのテロップなど目に入らなかった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 同刻、防衛省市ヶ谷庁舎地下・中央指揮所。

 

「たった今、館山の第21航空群より目標生物の形態について報告と映像が送られました。百年前と同個体の生物で、九十九里から東金方面へ向け海上を進行中とのことであります」

 統合幕僚監部の一人が報告書を読み上げた。

「統幕副長、総理より防衛出動の下令を確認しました」

「うむ、いよいよだな……」

 長野功三(ながの こうぞう)統合幕僚副長が報告に答えた。

 

「怪獣の進行速度は予想よりも大幅に早く、沿岸部における水際迎撃”C-4号計画”は不可と判断します。内陸部での迎撃作戦”CB-5号計画”を提言します」

 利賀(とが)・陸上幕僚長の提案に長野統幕副長は大きくうなずいた。

「利賀陸幕長の意見通り、作戦はCB-5号計画で行う。国道468号線を防衛ラインに設定。千葉方面へ移動中の各戦車及び特科大隊をここに配備し、迎撃作戦を実行する。護衛艦隊は東京湾千葉市沿岸部にて待機、岡崎東部方面総監を指揮官とする統合任務部隊の指揮下に入れ。護衛艦隊にはイージスシステム及び対艦ミサイルにて直接火力支援を実行してもらいたい」

「了解しました。既に「むつ」型を主力とする護衛艦隊が横須賀を出港する準備を急がせていますので、準備でき次第至急目標海域へ向かわせます」

 幕僚副長の命に、佐々良(ささら)・海上幕僚長が答えた。

「しかし統幕副長、東金市及び九十九里町の住民避難完了報告を受けていません。住民の避難完了を待たずに攻撃を開始すれば、自衛隊の存続にかかわる恐れがあります」

 高木(たかぎ)・防衛計画部防衛課長の報告に、長野は静かに答える。

「総理からは、住民避難完了まで、各部隊は攻撃は開始せず作戦予定地で待機せよとのことだ。避難完了報告及び総理大臣の攻撃許可が出次第、直ちに攻撃を開始する…ということになっている」

 しかし、そう告げる長野の口調は重い。

「仮に総理からの下令の前に目標生物が防衛ラインを突破したとしても、数㎞圏内であれば468号線上から目標への射撃は可能であります。住民避難完了までの時間は十分に稼げるかと」

 大平(おおひら)・運用部運用第二課課長が告げるが、長野統幕副長は眉間にしわを寄せた。

「いえ、先の爆発で建物の倒壊とそれに伴う莫大な人的被害が出ていると報告があります。現在展開中の災害派遣部隊は、避難誘導と並行して瓦礫の中に取り残された生存者の救出に当たらなければなりません。短時間での避難完了は困難と自分は考えます」

 大平の意見に、井出(いで)・指揮通信システム部長が反論する。

「私も同意見だ。短期での生存者確認・全員救出は極めて困難。加えて、ゴジラがもう一度同じレベルの爆発を起こせば、救出作業中の隊員にまで累が及ぶ。避難完了後の攻撃という総理の下令は、現場の状況を顧みないものと判断せざるを得ない」

 その言葉を受けて、幹部たちは沈黙に包まれる。

「…現在、統幕長が磯谷防衛大臣を通じて総理に災害派遣部隊の一時撤退、そして即時攻撃開始の要求を行っている。その要求が通れば、現場に配備完了した部隊から攻撃を開始できる」

「…我々の意志が総理に伝わることをを祈るしかない…というわけですか」

 利賀陸幕長が言うと、長野は「そうだ」と返した。

「ともあれ、作戦自体は既に発動可能な状態だ。我々にできることを一からこなしていくしかない」

 長野は覚悟を問うように幹部全員を見回しながら言った。

「かの能力が未知数である以上、武器使用は無制限を想定する。たとえ迎撃地点が市街地であろうとも、全力をもってゴジラの都内進行を阻止する覚悟で臨んでもらいたい」

 はい、と幹部たちの返事を受け、長野は腕時計をのぞき込む。

「岡崎東部方面総監に連絡。現時刻、2215をもって、対怪獣駆逐作戦”呉号作戦”の発動を命令する」

 

 

【22:15 自衛隊統合幕僚監部、”呉号作戦”の発動を下令】

 

【同刻 呉号作戦統合任務部隊を結成(指揮官は岡崎征爾(おかざき せいじ)東部方面総監)】

 

【同刻 在日米軍に作戦通達完了】

 

 

 

 

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