本当にあった、実話の物語。
見て感動してしまい、周りに伝えようと拙い文章力ですが小説化しました。良ければ読んでみてください。
「なんでこんな事したんだ!」
店主である女が、盗みを働いた子供を怒鳴りつけている。ボロボロの服を着ている子供は俯き、一言も言葉を発せずにいる。
言葉を発さない少年にしびれを切らし、女の怒鳴り声は益々大きくなっていく。
ふと少年が手に持つもの――おそらく盗んだであろうものを見る。それは、薬と飲料水だった。
あぁだめだ、見ていられない。
「急に横から話しかけて申し訳ありません。私が代金と、慰謝料も少しばかりなら払います。なので、この子を見逃してやる事はできませんか?」
女は急に話しかけてきた私に対して少し警戒するような素振りをしてから、
「300円と200円が代金、慰謝料で5万だ」
と言い放つ。
私をこの子の親と勘違いしたのか、かなり高額な請求だ。
「わかりました」
自分の店に戻り、レジからお金を取り出し、女に渡す。ギリギリ出せはしたが、今月は厳しくなるかもしれない。娘には……怒られそうだな。
「2度と顔を見せんじゃないよ!」
という怒鳴り声を最後に、店の中へ女は戻って行った。
さて。
「君は……なぜ盗みをしたんだい?」
私は子供へ問う。
「…………母さんが、病気なんだ」
子供は、俯きながら答える。
「そうか。なら少し待っていなさい」
そう言い、私は再度自分の店へ戻る。そして、私の店の名物の野菜スープを袋に詰め、口を結ぶ。それを子供の元へ持って行き、
「これもあげよう。お母さんとぼく、仲良く飲みなさい」
子供は少しの間貰うことを躊躇ったが、すぐにスープが入った袋を掴み、走って行った。
*********
お父さんが見るからにみすぼらしい子供にお金をかけ、スープも渡したあの日から、30年が経った。30年間、この店はずっと経営難に陥っており、私が会計をすることでギリギリ耐えているという感じだった。理由はハッキリしており、それは、
「また来たのか、いや良いんだよ。どうぞ、持って行きなさい」
お父さんがまたスラム街からやって来たであろう男に、スープを無料で渡している。
そう、これが原因なのだ。スラム街でこの事が話題になっているのか、1日に30人ほどスープを恵んでくださいという人達が来る。お父さんは嫌な顔をすることなく、全員にスープを渡していく。繁盛していない訳ではなく、寧ろ繁盛している方なのだが、この事が原因でこの店はいつも赤字だった。
私が知る中で最高の善人であり、私が最も尊敬する人だが、善行だけで生きていけるほど甘くはない……そう言っているのだが、お父さんは聞く素振りもない。根っからの善人なのだろうか。
お父さんが変わることは期待できない。スープの単価を安くし、この店を支えるために、私は今日も算盤を弾く。
*********
いつものようにお父さんはスラム街からやってきた人に、スープを渡している。いつもと変わらぬ日常で、いつもと変わらぬ光景だが、今日は違った。
バタッ、という音と共に、お父さんが床に倒れる。すぐに近くに駆け寄り、声をかけるが返事はない。呼吸も絶え絶えだった。少しの間パニックに陥るが、すぐに切り替えて病院へお父さんを連れて行くことを決める。店に『臨時休業』という張り紙を貼り、病院へ向かった。
*********
「ガンですね。かなり進んでしまっています。すぐに手術をすれば助かるかもしれませんが……」
医者は男のカルテを見ながら、そう言い放つ。
「しれませんが、なんですか!? 父が、お父さんが大変なんです! どうか……どうか、助けてください!」
ガンに罹った男の娘は必死に助けを乞う。しかし、現実は残酷で、
「執刀できる人が、いません。街の病院の方には居るとは思いますが、とても高額になってしまい……」
娘は絶句する。医者が提示した料金は500万。とても払える値段ではない。しかし、だからと言って諦めるわけにはいかない。どんな事をしても、体を売ってでも、私が世界で最も尊敬するお父さんだけは、救ってみせる。
そして娘は、父を救うため、町の病院へ行くことを決意する。
*********
「よろしく、お願いします」
お父さんがストレッチャーに載せられ、『緊急手術室』と書かれた部屋へ運ばれていく。
お金の心配もあるが、それ以上にお父さんの容体が心配だった。助かるのか、生きてくれるのか、医者は助かる可能性の方が高いと言っていたが、所詮は憶測に過ぎず、確定要素は1つもない。考える事しかできない私が、とても恨めしかった。
そして永遠にも感じた時は過ぎ、1人の看護師が手術室の前のベンチで座る私に近づいてきて、
「良かったですね。成功ですよ」
という、私が最も求めていた言葉を述べてくれたのだった。
*********
ベッドに横たわるお父さんを見ながら、私は『領収書在中』と書かれた封筒を開けていく。こうして助かってくれた父の為に、身を粉にして働く事も、体を売ることも覚悟の上だ。この領収書に書いてあるお金は、全て私が払う。そう決意して、私は封筒から領収書を取り出し、書いてある内容を見た。
『請求内容:0円
既にお支払い済みです』
訳がわからなかった。呆然と領収書を見ていると、封筒にはまだ、中に何か入っている事がわかった。
頭が真っ白になりながらも、中にある紙を開き、内容を確認する。そこには、
『お代は、30年前のあの日に頂きました。貴方のおかげで、母は病から快復し、未だに生き続けてくれています。神に捧げる感謝よりも大きな感謝を、貴方へ』
という文が、とても丁寧に書かれていた。
『与える事は、最大のコミュニケーションである』
読んでいただき、ありがとうございました。