蒼き鋼のアルペジオ─ディソナンス─   作:葱沢 桐ノ丞

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今回も話数分けて書いてます
もうこれがデフォルトになりつつある…


Depth.013 横須賀港・上

 

ミイミイと鳴く海鳥の声を聴き、私は目を覚ます

胸ポケットに入れたメガネ-伊達であるが-をつけ窓の外を見渡すと荒れ模様だった空はすっかり晴れ、眼前には巨大な壁が見え始めていた

qq

要塞港横須賀。私たちの最初の目的地であり始まりの場所

この場所で私と蒼き鋼に微笑むのは天使かはたまた悪魔か…

 

などと考えているとメガネに搭載されている仮想ディスプレイにコールサイン-ちなみに艦内回線である-が表示される。私はそれを無視し部屋を出て艦橋へ向かう道を歩く。その間もコールサインは表示されているが見ぬ振りをする。この艦内には私と彼女しかいないのだ。艦橋へ向かえば必然と彼女には出会うことになるし報告などは通信を応答しなかった小言というおまけと共にその場で聞けばいい

 

「っ!?」

 

艦橋へのエレベータに乗って先程まで思考の渦にのまれていた脳を休めるため瞑目しているとほんの一瞬、身体に不快なノイズが走ったような感覚に襲われる

 

今のは何だったのだろうかと考えているとエレベータが停止する感覚と共にポーンというマヌケな音が鳴りパシュンと空気が抜ける音を放ちながらドアが開く。それに気づき視線を上げると外の景色ではなく肌色の何かが迫ってきていた。そしてゴッと鈍い音と共に鈍い衝撃が頭蓋骨を突き抜け脳を揺らし衝撃が走ったところから湯気が上がる感覚が走る

 

「っう…」

 

涙目になりながら再び視線を上げ正面を見ると拳から湯気を上げ、鬼の形相で立っているクマノの姿があった。

その姿を見た私は次からは艦内通信でも無視せず応答しようと考えを改め、そして

 

「すみませんでした」

 

謝罪の〇様も顔負けであろう綺麗な土下座を決めていた

 

 

ー数分後ー

 

「港湾管制局からのビーコンを確認」

 

「こちらでも確認した。手順はバッチリね?」

 

「ええ。問題ないわ。ドライドック、12番への侵入許可を確認。入港シークエンスを開始」

 

横須賀港を囲む壁を通り抜け港に入ると大きな堤防のようなものが目に入る。それは私たちが近づくにつれゆっくりと重い音を上げながら稼働し、大きな口を開ける。その中へ呑まれるように入って行き、機関を停止する。それとほぼ同時に口は閉じ、アームにより船体は固定され中の海水が排出されてゆく。海水が排出されるとガクンと軽い振動を感じ床が稼働する重い音と警報音が鳴り響く

 

その先に見えてきたのはズラリと並ん艦船だった

 

「横須賀港、統制軍地下ドッグ…。来たる大反撃の日に備えた艦艇たち、か。ほんとにそんな日が来るのかな」

 

「来ないことを祈るわね。どう足掻いても今の人間には私たち霧には勝てないわ」

 

「およ?珍しいね、クマノがそんな事を言うなんて」

 

「別に?感じたことを素直に言葉にしたまでよ?」

 

ふーんと頷けきながら私は再び地下ドックを見渡す。確かにいくら霧に戦術という概念が皆無と言って差し支えない程しか持たないとしても、これだけの艦艇を集めたところで霧には勝てないだろう。霧に対して通常弾頭などほとんど効力を持たないのだから

 

ドッグの床が着床する間際、霧の艦艇を間近で見るためか技術作業員であろう人達が集まっているのを確認する。と、同時にクマノが色っぽい声を上げる

 

「大丈夫?」

 

「スキャンされてるわね。なんだかくすぐったいわ」

 

なるほど。やはり船体とメンタルモデルの感覚は共有されているからスキャンなどの波形だとあんな感じになるのか。ならば。と、くだらない思考が頭を霞める。まあ、前世は男だし、仕方の無いことだろう

 

ガコンと重い音と衝撃が船体を通じて伝わり入港シークエンスが完了した事を確認する

 

「入港完了。お疲れ様。私は1度船を降りて作業員の方々と打ち合わせをしてから上陰次官補のところに行くけれどどうする?次の予定が決まるまでは自由だけど…」

 

「なら横須賀の町をフラリとしてきてもいいかしら?食材の補充も兼ねて」

 

食料。以前の彼女であれば到底必要のないものだっただろう。しかし私という人間を搭載してからはそれが必要となる。人間が生きるためには食料…いや栄養分が必要不可欠だ。だからこうしてどこかに寄港した時にはどちらかが食料を調達すると約束している。

一応、佐世保に寄港した時に既に食料の調達は済んではいるがこの先向かうのは米国になるだろう。となるとここで先を見越した分だけでも食料を調達する必要が出てくる

 

「わかった。艦を離れるのであればすべてのシステムにロックをかけ忘れないで。一応私たちは人類側とはいえ人からすれば霧の艦艇の情報は喉から手が出るほど貴重なもので、どんな手段を使うか分からないから」

 

「ええ。それは十分に理解しているつもりよ」

 

そう言ってクマノは微笑む。本当にこの2年で彼女は変わった。

 

「…私は上陰さんとの話し合いのあと例の場所に行ってくる。食料の方はお願いね」

 

それだけ言い残し私は艦を後にした




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