二人の淫らな女王   作:ですてに

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完結です。


これまでも、これからも

「クロ~? ご飯できたわよ~?」

 

「にゃ!」

 

「いつまでお前、その擬態を……いや、何でもねえよ」

 

 目で射殺すぐらいの殺気を放てる猫などいるのかと美猴は思うが、主である久脩はこの件について特に指摘もしなかった。ただの黒猫でないことに気がついているだろうに、詳しく問いかけてこない主に美猴の信頼度はこっそり上がっていたのだが、久脩にすれば正体は小猫の姉と推測できるだけの話だった。美猴の反応も分かりやすい分、その正体については確信に近いものを持っていた。

 

 久脩が姫島家に住み着いた野良の黒猫として朱乃や椿姫に関わらせている以上、ヴァーリやガブリエルも正体に感づいていても、彼を尊重し同じように扱っている。このような経緯から『久脩はただの迷い猫でないと分かっていながら、あえて一匹の猫として可愛がっている。三種族の力を宿してから力に飲まれることもなく、むしろ心の余裕に繋がり懐の深さが増している』と勝手に評価が上がっていた。

 そして、当然ただの黒猫ではない、そのクロからも別の理由で一目置かれている現状だ。ただ、久脩は原作知識をひけらかすわけには行かなかっただけで、実は内心どこでその情報を手に入れたか問い詰められるかと戦々恐々だったりするわけだが。

 

「今日は酢豚にしてみたわ。美猴くん、どう?」

 

「椿姫のねーさん、いやこれ美味いわ。ご飯が進む! ヒサっちぃ、いい嫁さんもらったよな」

 

「正式には婚約者だけどな。ただまぁ、そのつもりだからそれでもいいのか」

 

「正式な届出は社会人になってからですから。ただ、将来的な私達の拠点が駒王町なのか、冥界なのか、それも絞れていませんし、それにとって届出先も変わりますし……」

 

「椿姫は駒王町を拠点とすると、会長の仕事場に転移通勤になるのか。うーん、俺がどこで就職するかだなぁ……」

 

 そんな話を出来るのも、平和があってこそだ。なお、カテレアは悪夢を振り切ったものの、未だ悪魔勢力の首都に拘禁されている。セラフォルーが日参しその度に毒を吐かれているが、会話を否定したりはしないようだ。ユーグリットは清々しい毎日を謳歌しているらしい。一般的にはどうだとは言わないが。幸せの形はいろいろだということであろう。

 既に結婚するのは確定事項だとか、とっくに事実婚状態ということには最早誰も突っ込みはしない。

 

「お魚じゃなくてごめんね。クロ、明日はアジの塩焼きやフライにするから」

 

「にゃー!」

 

「ふふ、気にするなと言ってくれているの? ありがとう」

 

 朱乃がちゃぶ台の近くのクロ専用食事場所に夕食を置いて、席へと戻ってくる。朱璃はお椀を差し出したヴァーリにニコニコしながらお替りを装い、そろそろ滞在期間が過ぎているはずのガブリエルが台所から出来上がったばかりの揚げ物を運んできていた。

 

「安倍先輩。姫島先輩の家が混沌とし過ぎています」

 

「ああ、そうか塔城さんはまだ二回目ぐらいだっけ。イッセーやグレモリー先輩の時は普通に馴染んでいるし幸せそうに飯食って帰っていくぞ。アルジェントさんの当番の時もどちらかがやってきて、ちゃっかり食べていってる」

 

「何してるんですか、部長にイッセー先輩……」

 

「日本かぶれだからな、グレモリー先輩。ちゃぶ台を囲んで飯を食うっていうのが嬉しくて仕方ないらしい。和の味付けを覚えるんだって来る度に作るところから参加してる。イッセーは美女や美少女の作るご飯だからと拝みながら食べてる」

 

 当番制の見張りと名目ではあるが、完全に役割をうっちゃっている自由な先輩達に小猫は頭を抱えた。部屋の隅に美味しそうにご飯を頬張っている黒猫はどう見ても気配が忘れるわけもない姉のもので。

 既に美猴から裏事情は密かに説明を受けており、今も指名手配中のはぐれ悪魔である以上、基本擬態しているというのも分かる。だが、完全にこれでは飼い猫状態ではないか。

 

「塔城さん、焦るなよ。俺の立ち位置をしばらくは利用しておこう、それぐらいの気持ちでいればいい。何でもすぐにハッキリさせるのがいいことばかりじゃない」

 

「!……安倍先輩」

 

「今は食事を楽しもう。朱乃、塩から揚げも美味しくていいね。こっちの青椒肉絲はガブリエルさんですか、これもご飯に合うなぁ」

 

 黒歌の一件は俺に預けてくれ、そう受け取った小猫は静かに頷き、料理に舌鼓を打つ。あとは見張り日の回数を増やしてもらうことも心に決める。美味しい食事の前後に白龍皇、最強の女性天使と鍛錬まで出来るというこの環境、眷属内での力不足を感じている小猫にとっては貴重な機会だった。

 姉も何かを語りはしないが、こちらを見つめる瞳は黒猫の姿でも優しいものだと感じられた。美猴から聞かされた姉が主殺しをした本当の理由も知り、自分が守られていたことや姉は仙術をしっかり制御できていたことも分かった今、焦りを覚える必要は無いと自分に言い聞かせる。

 

「安倍先輩。……信じていますから」

 

「ん。俺だけじゃ頼りなくても、朱乃や椿姫もいる。何とかするさ」

 

 リアスとはまた違う立場だけれど、慕っている先輩が何とかしてみせると言い切る力強さを感じて、小猫は自然に笑みを浮かべることが出来た。クロが内心狂喜乱舞するぐらいには、何とも愛らしい笑顔だった。

 そう、こうして見張り番を交代でするようになってから、リアスへの敬慕は変わらなくても、いつしか盲目的に『彼女のために命をかけて強くならなくてはならない』という強迫観念めいたものが無くなっていることに気づいていた。

 久脩が姉との再会を踏まえて、彼が神滅具の力で自分にとって良い効果を齎してくれたのだと、感覚的に察している小猫は久脩を慕う部分がある自分を素直に認めることが出来るぐらいには、今では自分の心に余裕が生まれている。

 

「数百年ぶりに台所に立ったものの、ここ何日かで勘も戻ってきたようです。朱璃さんの助言も的確で助かりましたわ」

 

「ふふ、ママ友達と一緒に料理をする感覚でこちらも楽しいです」

 

 ガブリエルは朱乃や椿姫にとって良い刺激となっている。寝食を共にすることで、淑女とはかくあるべきと体現したような普段からの発言や振る舞いなど参考になる点も多く、またお茶目な一面も持っているため、長年連れ添うとなれば完璧過ぎても駄目なのだと二人は学んでいる。

 

 傍から見れば、テレビ番組に特集が組まれそうな『大家族』姫島家状態だ。なお、安倍家でも可である。姫島家は神社の境内の中にあるため、部屋数は多い。多少、寝泊りする人数が増えてもへっちゃらであった。朱璃が元々大きな家の出身であるため、来客に慣れている点も大きい。来客用の寝具は常時、数セット揃えてあるのだ。

 まず、家長であるバラキエルと朱璃夫婦の部屋。次に久脩達三人の個室が来るはずなのだが、朱乃と椿姫の強い意向により『共同』の大部屋一つが与えられていた。バラキエルが頑張ってせめて別々の部屋にしようとした時期もあったが、娘二人(義理含)に道端のゴミを見るような目で見られて興奮してしまって有耶無耶になって以来、この形が続いている。朱璃が認めている以上、この配置が変わる事はないだろう。

 新たに久脩の指揮下となった美猴の個室や、ヴァーリやガブリエルが神社近くの拠点に戻らず、そのまま休んでいく場合もあるが、それぞれ寝泊まりする客室をカウントしたとしてもまだ余力がある。

 

「明日は久脩くんの家の日よね? あの人も帰ってこれる日だけど、ガブリエルさんはこちらでいいのかしら」

 

「こちらはヴァーリくんがついてくれますから、私は美猴と共に久脩さんの護衛に回ります。その前に夕食の材料は取りに寄らせて頂きますね」

 

 また、安倍家の維持管理や清掃のため、週一は必ず安倍家で過ごすようにしている久脩たち三人だが、その場合は美猴やヴァーリ、ガブリエルが分かれて護衛役をこなす。久脩の両親は相変わらず不在気味で、たまに帰ってきてもバラキエルや朱璃との酒盛りで結局、姫島邸で寝泊りするパターンが多かった。

 

「ところでガブリエル、天界の業務は大丈夫なのか? 俺はもともとアザゼルの子飼いみたいな立場だったから影響は小さいものだが……」

 

「昼間に転移で戻ってしっかりこなしていますし、部下の者達も柔な鍛え方はしておりませんから、こちらも問題はありませんよ。夕食の買い出しを朱璃さんにお任せなのが申し訳ないですけれど……」

 

 兼業主婦みたいな発言にヴァーリも微妙な顔になるが、ガブリエルが今の二重生活にやりがいや充実感を覚えている以上、とやかく言うことでもないと判断する。本来の天界側担当者が既に駒王学園に転校生としてやってきていることも聞いているが、赤龍帝の家へと転がり込んでグレモリーの後継者達と寵愛を競い合っているというのだから、天界も人材不足なのかと内心考えてはしまっていた。

 

「ヴァーリ、今日の走り込みは食事が終わって胃が落ち着いたらすぐに行こうか。どうも雲の動きが怪しいから、早めに済ませたほうがいいかもしれない」

 

「ああ、確かに麺が水分を含みやすい日だったからな。確かに一雨来てもおかしくはない」

 

『ヴァーリが、ヴァーリの麺狂いが止まらなくなっているぅぅぅ……』

 

「強さを求めることに変わりは無いぞ、アルビオン。ただ、極端に急ぐことを止めただけだ。久脩の成長は爆発的なものではないが、確実に強くなっていくのが分かる。なにせ、神滅具の力でアルビオンの半減を無効化出来るのだから、弱いわけが無い」

 

「無効化による体力や魔力の消費も鍛錬をサボらないから、確実に軽くなっていってるしなぁ。ヒサっちはストイックだよなぁ、うんうん」

 

「それでも殴り合いになったらすぐに沈められるんだけど。全ての距離を得意にしてるとか、ヴァーリはほんと白龍皇」

 

「私達三人でかかっても、普通にいなされますからね……鎧を砕けるぐらいに早くなりたいものです」

 

『バラキエルの娘の雷火に、転生悪魔娘の金属へ干渉する力を合わせられると、こちらも亀裂を入れられてしまうからな。娘達も強くはなっているさ』

 

「それでもガブリエルには押し切れないからな、俺も。まだまだ強くならなければいけないさ」

 

『そうだヴァーリ。貪欲に強さを求めなければな!』

 

「ああ、麺のコシの強さのように、粘り強く切れない心も持たなければ」

 

『ヴァーリぃぃぃぃいぃ!?』

 

 泣いたり喜んだり感情の起伏が激しくなる一方のアルビオン。久脩の羯磨の力で精神の鎮静化のお世話になってる辺り、マッチポンプの要素すら出てきている白い龍であった。それでも、赤いのに比べれば随分とマシな精神状態であることを彼は知らない。近い将来、おっぱい怖いと震えるドライグを見て、彼は自分の環境に安堵すら覚えるのである。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「ねえ、ヒサくん。クロちゃんと塔城さんの悪魔の駒に干渉したのね」

 

「久脩くんの誤魔化しは私達には通用しませんよ。ずっと一緒にいるからこそ分かる癖がありますしね。あと、クロちゃんと塔城さんの変化が分かりやすいです」

 

「お見通しか。ああ、あの遅効性の洗脳効果は消し去ったよ。クロは話をした上で、塔城さんは訓練時の気絶時にさくっとやらせてもらった。総督の推測だけどさ、何かしら強い感情に囚われている間はそれほど考え方の変化が進まないものの、何かしら懸念事項が解決したりして心が開放された時に、実際は別要因で解決したとしても『これも私の王のお陰だ、ずっとお仕えしなければ。やはり悪魔に転生して正解だった』みたいに反動で一気に洗脳が進んじゃう可能性が高いって」

 

 ようは悪魔への転生なのだから、悪魔らしい考え方に自然になっていくように……ということだ。イッセーがリアス優先主義の考え方に変わり、アーシアが情欲に身を任せることを悪いことだと感じにくくなっているように。通常は徐々に性格が変質していくのだが、もともと本能に忠実な一面があるため、イッセーは分かりやす過ぎる事例だった。

 その場合、悪魔を憎むクロと、主を慕い自分を捧げていく小猫とは考え方の違いが致命的なものになりかねない。姉妹が完全に別離することを憂慮し、久脩は己のエゴで彼女の駒にも干渉した。

 

「クロは今は自分を利用した元主への憎しみが未だ根深くあったから、そこまで急ぎはしなかったんだけど、話をしたらすぐに納得してくれたしね。猫がしっかり頷く姿というのもシュールだったけど」

 

「ああ、ヒサくんの言う猫又の姿には戻らなかったのね」

 

「いろいろ考えてるんだろうね。まぁ、ヴァーリやカブリエルさんがいる間はその方が賢明だと思う。危なかったのは塔城さんだね。長年の懸念が解決したから、ちょいと急ぐ必要があった。クロの妹だし、歪んでいくと分かっていてそのままにするのは忍びないしね」

 

 アーシアは自らの判断で転生しているし、イッセーに至っては悪魔生を謳歌しているのでとやかく言うことではない。祐斗とは普通の友人関係なので、事情にそこまで突っ込むつもりも最初から無い。

 小猫の場合、現段階で洗脳効果を解いてもリアスとの信頼関係は既に出来上がっているし、彼女の眷属の中でもイッセー以上に仲がいいのが小猫だから、こちらに不利益を被るような行動をする性格でないことも分かっている。餌付けの効果は偉大であった。

 

「クロちゃんはいずれ美猴くんと同じように、私達の中で戦車か僧侶的な役割を果たしてもらうつもりですか?」

 

「……俺達のためだけに動いてくれる仲間が、必要だと思ってる。実はヴァーリにも増やせと勧められた。俺の戦い方的にも仲間と組んだ方がよりいい動きが出来るって。ただ、クロがこれからどうして行くのかは彼女の判断だよ。敵対さえしなければ十分だと思ってる」

 

 久脩はクロに恩を売った形だ。ただ、長年一人で追われる生活の中でも生き抜いてきた彼女だから、義理や恩で釣れるとは思っていなかった。ただ、彼女が消極的でもいいから、緩やかな協力関係になれればいいと願っている。

 

「塔城さん自身にもヒサくんが言っていたことだけれど、私や椿姫がいつもついているわ。焦らないでね」

 

「私達の安全を確保しようとして頂くのはありがたいことですが、それで久脩くんが負担を抱え込んではいけませんから」

 

 二人に両肩に頭を預けられ、両腕は一本ずつ彼女達の両腕に抱えられている状態で座っているが、その温かさや重みが心地良さと安心感を与えてくれる。まもなく、夏がやってくる。纏うものがなくても、寄り添っていれば十分な暖は取れる。朱乃や椿姫に至っては情交の後の熱がまだお腹の奥で燻っているから、意識のどこかで久脩をさらに誘っている部分が残っていた。

 

「うん、二人とずっと長く一緒にいたいからね。強くなることも、身の回りの警護を強めることも、急ぎ過ぎずにやるさ」

 

 やがて話題は夏休みへと移る。朱乃達にとっては高校生活最後の夏なのだが、例年の恒例行事というものがシトリー眷属の椿姫にはあった。

 

「ソーナ会長から夏休みにシトリー家に帰省する際に、久脩くんと朱乃を正式に招待したいと。正規のルートでシトリー領入りしておけば、私だけでなくお二人も転移での行き来が許可されますし、この機会に足回りを整えませんかと仰っていました」

 

「ライザーやユーベルーナさんからも遊びにおいでって連絡受けてたよな。まぁ、フェニックス領以外に転移先が選べるのはありかもしれないけど……」

 

「シトリー領に椿姫がいる際に何か起こった時、すぐに跳べるのは必要じゃないかしら。フェニックス領経由だとやはり時間がかかり過ぎるもの」

 

 冥界のグリゴリ本部も訪ねようとか、いろいろ夏のイベントも目白押しのようである。ただ変わらないのは、三人はこれからも仲睦まじく、近しい関係性を持ち続けていくということだった。




「二人とも、本当に良かったわ。とても幸せなのが見ていてよく分かるもの」

「ありがとう、ユーベルーナ。毎晩たっぷり愛してもらっているわ、うふふ」

「自分で驚くぐらい肌の状態もずっと良くて。女って愛されることで、身体が整えられていくって本当なんだって実感してるの」

「そうそう、手入れさえしっかりしていれば、メイクの時間も短くて済むし──」

「……盛り上がってるな」

「うん、ものすごい恥ずかしい話までし始めた。どう愛してくれるかってそんな話題で盛り上がられても、なんというか、逃げたい」

「テラスで飲もう。部屋から完全に出たら怒られるからな。見える位置で会話に入らない位置へ避難する……これだ」

「俺まだ未成年扱いだからね?」

「冥界なら成人だ。付き合え」

「分かったよ。ところでライザー、次のレーティングゲームって──」

 ライザーが引きこもっていないので、若手同士のレーティングゲームに参加してくる。顔合わせにも出るパターン。
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