どうしてこうも、輝かしいのだろう。
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Twitterで見た微笑ましくて素晴らしい絵から衝動的にこんな話ができました。
お目汚しと短文、失礼します。
――小鳥の囀り響く薄暗い空に、耳障りともいえる電子音が鳴り響いた。
起床を促すためのやかましい電子音を垂れ流す目覚まし時計へと、布団の中から細く引き締まった腕が気だるげに延ばされ、上から叩きつけるようにアラームのスイッチを押す。
その手の主は豊かなブロンドの髪を湛えた頭をボサボサと髪の毛ごと左右に振ると、むくりと布団を押し退けながら起き上がった。
空の蒼をそのまま映したようなサファイアの瞳は寝ぼけたように半眼で、髪の毛はところどころ癖毛のように跳ねている。
寝巻も黒いタンクトップに同色の下着と、どうにもだらしがないとしか表現しようのない格好だ。
こうしてみれば単に朝に弱いぐうたらな女性に見えるかもしれない。
さりとて彼女は、ただのぐうたらなしがない女性というわけではなかった。
海の平和を脅かす謎の存在、“深海棲艦”。それに唯一対抗できるものとして現れ、一躍脚光を浴びる存在となった、“艦娘”。
しばらくぶりの人類の大規模反攻作戦により打通を果たした国々は、独自に発達させていた“艦娘”に関する技術の交換と更なる反攻への足掛かりとせんと、一部戦力を抽出し最前線たる極東の島国へと派遣させることになった。
その一人が、彼女である。
Iowa級戦艦一番艦アイオワ。それが彼女に与えられた『使命』。
重大な、ある意味において一国を代表するほどの存在である――のだが、それに足る威厳は、今のところ見当たらなかった。
今しがた目を覚ました彼女――アイオワは、眼前に振り降りてくる前髪を払おうとすらせずに、眠たげに目をこする。
時計に目線を送ると、形の良い眉をハの字に下げた。
「4 o'clock……相変わらず早いのねぇ、あの子は」
くすりと苦笑いを浮かべたアイオワは、高い鼻から空気を吸い込む。
わずかに、香ばしい香りが嗅覚を
途端にフンフンと機嫌よく鼻歌を鳴らし出すと、軽い身のこなしでベッドから抜け出した。
そして軽い足取りでひたりひたりとフローリングと裸足の足音を響かせながら廊下を抜け、蛍光灯の灯る一角へと歩みを進める。
「――見つけた」
アイオワの視線の先には、アイオワほどではないにせよ豊かな亜麻色の髪を湛え、黄色いTシャツを羽織った女性が、家庭用コンロの前に立っていた。どうやら調理をしているらしい。
しかし彼女が何をしていようと、アイオワには特に関係ないようだ。
「おっはよぉう、コンゴー」
「……おはよう、アイオワ」
抱きつくというほどの勢いを伴わないとはいえ、背中から手を回してきたアイオワのスキンシップに、“コンゴー”と呼ばれた女性は眉の一つも動かさず、目玉焼きを作っているフライパンから目を逸らそうとしない。
その様子に、ため息がアイオワの口から漏れる。
「相変わらずドライねぇ、コンゴー。そんなあなたもキュートなんだけど」
「毎朝同じことをされたら、慣れっこにもなるわ。でも気を付けて」
“コンゴー”が振り向かずに顔を上げた。
彼女とアイオワとの身長差はゆうに頭一つ分はあり、こうするだけでもアイオワの顔が見られるようだ。
「あなたも私も“艦娘”。けれど火を扱っていれば、簡単に火傷もするのよ」
「さすがはIJNの誇るバトルクルーザー姉妹の長女、心配してくれてうれしいわ」
その言葉に、無表情だった“コンゴー”の顔が険しくなる。
「私は、“戦艦”よ」
それだけを告げ“コンゴー”――金剛型巡洋戦艦一番艦“金剛”は、注目をフライパンに戻した。もう目玉焼きが出来上がりかけている。
ヘソを曲げてしまったのだろうかと苦笑いを浮かべるアイオワだが、離れようとはしない。金剛も振り払うことはせず、目玉焼きをさらに盛り付けていく。皿の上にはすでに先客がおり、茹でニンジンやウィンナー、千切りにされたキャベツで彩られたステージに、三目の主役がようやく降り立った。
簡素ながら華やかさを忘れない配置によって、単品を並べられた以上に鮮やかで、そして食欲をそそる光景となった本日の朝食に、アイオワの目が輝いた。
「ワオ。やっぱりあなた、ヤマトナデシコなのね。とてもおいしそうよ!」
「ありがとう。あなたの分よ」
フライパンに調理油を引きながら、金剛は応える。
「あら、あなたの分は?」
「これから」
アイオワの質問に答えながら、金剛は手慣れた調子で卵を二つ、片手だけで器用に割り入れた。
油と白身の立てる音に耳を傾けながら、金剛の手は手元のノブを回してコンロの火力を弱火に変える。
透明な白身が名の通り白くなり始めたあたりで大さじ二杯の水が投入され、熱された鉄に炙られた水が気化し水蒸気となって立ち上った。
初めて見た、とばかりに目を丸めるアイオワを
「料理が上手ね、コンゴー」
「誰でも出来るわ」
感慨深げなアイオワが呟くように発した誉め言葉にも、金剛の対応は素っ気がない。
「盛り付けもおいしそう」
「味は変わらないわよ」
「家のことは何でもやっちゃうし」
「あなたがやらないだけ」
「綺麗で可愛いし」
「知ってる」
「あら、知ってたの?」
「それだけだったもの」
金剛の目が、憂いに伏せられる。
「それに、みんな可愛くて綺麗よ。あなたも」
「褒めてくれたの?」
「噓じゃないわ」
どこか寂し気な笑みを、金剛はアイオワに送った。
しかしすぐにその笑みをかき消し、金剛の目線は目前のフライパンへと戻される。
「みんな、可愛くて綺麗で、良い子たち。私にとってはみんな、妹みたいなもの」
金剛の口から、一つのため息が漏れる。
「だから……勝てる気がしないわ」
「そんなことじゃ、いつまでもAdmiralは奪えないわよ?」
アイオワにしてみれば小さすぎる金剛の背中を抱くように、アイオワは体を金剛に密着させた。顔が金剛の隣まで下りてくる。
「普段のあなたとはまるで大違いね。悪い夢でも見た?」
「あなたには関係ないわ」
あくまで金剛の対応は素っ気ない。やれやれ、とアイオワは一つ息をつくと、顔を先ほどまでの位置に戻した。
おそらく、もうすぐ金剛の朝食も完成するだろう。そうアイオワの勘がなんとなく告げる。
「……待ちきれないわね」
「……もう少しよ」
うずうず、とし始めた背中の気配も感じ取ったのか、呆れた声で金剛が制止の声を発した。
「先に食べてもいいのに」
「誰かと食べるのは楽しいものよ」
「……そうね」
それでも好物を前に待てをさせられている大型犬のようなアイオワの様子に、さすがにこれ以上待たせるのも酷だと思ったのか、金剛は自分用に盛り付けていた皿からウィンナーを一本取り上げ、アイオワの目前に差し出す。
「食べていいの!?」
「味見よ。茹でただけだし冷めてるわ」
「コンゴーの手がかかってるならなんでも御馳走になるわ!」
目を煌かせ、ハートすら飛んでいるかと見間違えそうなテンションになったアイオワに、金剛は溜め息を吐きつつ、口元をほころばせた。
――朝食が済み、食器を片付ける中で、金剛は思いを馳せていた。
新たな一日が始まる。
しかし悪ければ明日にも消えるかも知らぬ我が命。
願わくば、毎日が宝石のような日々であれかし。
そしてそんな宝石のような思い出をみんなに作ってあげることも、おそらくは己が使命なのだろう。
だからこそ、この新たな仲間にもそんな日々を過ごしてもらわねばならない。
ならば明日も朝食を作らなければならないのだろうなと、けれど案外気楽に思いつつ、背後で慌てたように呼ぶ声をあしらいながら、金剛は鼻歌を鳴らし始めた。
金剛ちゃんやアイオワさんがルー語でしゃべっていないのは二人が英語で会話しているからです。
金剛はアイオワの日本語教育係に任命されていて、頑張って教えてる途中です。
念のためにガールズラブはつけましたが、これは百合と呼べるのだろうか……でもこういう間柄が好きです。
短い文ですが、ご読了、ありがとうございました。