崇められても退屈   作:フリードg

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プロローグ

 

 此処は千年の歴史を誇る帝都。

 

 

 その繁栄の歴史は異国と比べて……、いや、比べる事も烏滸がましい程のものであり、様々な人種の者達が帝都へ求めていく華々しい歴史。

 

 だが、人も永遠に生きられない様に、何れは朽ち果てていく。そしてそれは、国も例外ではない。

 

 千年栄えた帝都も、決して例外ではない。

 

 腐敗の元凶、それは人の形をした魑魅魍魎共が、我が物顔で跋扈し、千年の歴史を誇る帝都を内側から腐らせていっている故にだ。

 

 全てを持っている強者が、弱者を嬲り、蹂躙していく国。――それが現在の帝都。

 

 圧制と恐怖政治を続けるが故に、民衆の意志として 立ち上がったのが、帝国に対する反乱軍――、そして 闇より悪を裁く暗殺者。

 

 

 だが、そんな腐敗し、生き地獄と化した帝都にも、僅かではあるが心の安寧の日はあった。

 

 

 

 帝都では誰しもが一日に何度か取る行動がある。それは人々を苦しめ、国を腐らせる為政者たち、必死に毎日を働く者達。虐げられ続けた弱者たちと例外は無い。……誰しもが気が向けば、帝都の()を眺めているのだ。

 

 来る日も来る日も、空だけは欠かさずに見上げていた。

 

 それは、意味なくしているのではない。

 帝都に長年語り継がれる言い伝え――。

 

 

【白と黒の鳥の伝説】

 

 

 それが、空に現れていないか確認しているのだ。 

 

 

――その鳥の半分は、天使…… 半分は悪魔。

 

 

 そして、その鳥が帝都の空に現れたのなら――、何もできない(・・・・・・)

 

 帝都と同じく、千年続いたとされる言い伝え。いや、或いはそれ以前からも続いていたのかもしれない。

 

 

――白は、天使。黒は悪魔。

 

 

 異なる2つは反転を続ける。……生きとし生ける者達は全て平等。どんな悪人であっても どれほどの善人であっても、等しく平等。

 

 

 その鳥が、全ての裁決を下す。

 

 下す相手が、悪人だろうが、善人だろうが、関係ない。

 

 

 

 

 そして、その審判からは逃れる事は出来ない。

 

 

 

 

 だからこそ、人々は、天の眼に見つからない様に、その日は 1日穏やかに暮らす。それが帝国の幾年月、色褪せる事の無い暗黙のルールだった。罰が当たる、と言う幼稚染みた代物ではなく、絶対的で不変なもの。

 

 

 ……そして、それはどれ程の強者であれ、為政者であれ、決して例外はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ 帝国 □□ 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ……………。今日は、その日(・・・)ですか。今日は本当に食が進まなくて進まなくて、悲しい限りですよ」

 

 そこには非常に大柄な男が1人、妙に哀愁を漂わせていつつ、開口一番。

 何を言い出すのやら、と思えば自分自身の頭部よりも二回りは大きいであろう肉塊にかぶりついていた。客観的に、食が進んでない様には見えないのだが……、本人が言うのだから、とりあえず良いだろう。

 

「食が進まん、と言うわりには、何時も以上に食ってると思うが? 甘い物ばかりで糖尿病になるなよ、と言うのは今更か」

 

 その隣には大柄な男とは対照的な女性。

 透き通る様な白い肌、蒼く長い髪を僅かに靡かせながら、呆れんばかりにため息を吐いていた。

 

「失礼な。これでも健康そのものです。と言うか、前にも言った様な気がしますよ」

 

 最終的にお互いにため息を吐き合っている様だった。

 

「それにしても、やはり 良い気はしませんな。じっとしてれば良いだけなんですが、楽しい事が出来ない、と言うのは」

「それも仕方のない事だ。だが所詮は数日程。黙ってみてれば良いだけの事だろう。休息の時間とでも思えば良い」

「……貴女でも、そう言いますか。この現状は」

 

 ちらり、と視線を向けた。この相手の腕っぷしは半端ではない。帝国最強とも呼ばれている武力の持ち主だからだ。……その上、どS。

 

「ふむ。戦が、闘争、殺戮。全て心躍る私だ。善行、悪行、全くの自覚は無いのだが、それも関係ない様なのでな。それに生憎 危険種でも人間でも、……生物でもないモノには興味は向かん様だ」

「数少ない報告ででは、一応、人の形をしたナニカ(・・・)が降りてくる、と言う話もあるんですがね?」

「うむ。それは私も知っている。……と、言うより見た事もあるし、相対した事もある」

「なっ!」

 

 それを訊いて、思わず取り乱す様に立ち上がる。

 

 天災、厄災の化身とまで帝都では、称されている者で、云わば絶対に回避しなければならない災害そのものだ。……無論、それは悪事をしている、と言う自覚や意識を持つ者に限られている為、一般人の間では それ程まで危惧はされていない。

 正義の味方、と言う訳じゃない事は判っているから、大々的に頼る様な真似もしていない。……云わば、《国民の休日》程度の認識だけだった。

 

 寧ろ、政管たちは自分達も歯が立たない、様な情報は極力流れないように気は使っているのだ。

 

 それに何より……《鳥》が空に飛んでいない日に、酷い目にあう事が多々あった為、表立って行動をしたりする者こそ皆無だった。

 

「詳しく、訊かせ願いますかな?」

「うむ。そうだな。よくよく考えてみれば、誰にも話したことが無かった様だ」

 

 一息つくと、彼女は語り始めた。

 

 

 

 厄災、災厄、災害、天災、禍害……etc

 

 

 

 様々な比喩が並べられる帝国のトップが頭を抱える癌とも言える現象。

 

 その一旦が語られるかもしれない、と 頬張っていた手を止め、やや前のめりになる。

  

 

「あまり期待はするな。会ったと言っても、ほんの少しの間だけだ。だが、その少しではっきりと判った事がある。……一言で言えば、そうだな……。アレは、不死者(ノスフェラトゥ)だ」

 

 

 彼女から語られるのは誰もが知らなかった事実。

 国の全てを掌握し、己の欲望を思うままに満たし続けている大臣でさえ、知らない事実。

 

 

 

 

 

 これは、天より下界を見下ろすモノが この広がる現世を巡り巡る物語。

 

 

 

 

 

 色々と畏怖されている存在なんだけど実は――――

 

 

 


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