崇められても退屈   作:フリードg

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第9話 久しぶりだから、触りたくもなる!

 

 

 この展開は、チェルシーにとっては、良かったのか、悪かったのか……。

 正直なところ、判らないのが実情だった。

 

 タエコと合流できたことは非常に好ましい。彼女の実力は、一緒に行動し、作戦を共にし、サポートにも何度か回ってきたからこそよく判っているつもりだ。何よりも、暗殺結社である《オールベルグ》の暗殺者。並大抵の実力じゃないことも、そこからわかる。

 

 だけど……、眼前にいる男もまた、並ではない。

 

 いや、『並ではない』どころではない。

 危険種の群を一掃したこともそうだけれど、この男には、それ以上に何か(・・)を持っている、と チェルシー自身にも、ひしひしと伝わったりしているのだ。

 

 正直に言えば、ついさっきまで セクハラされまくったから、頭から離れてしまいそうだったけれど、もともとの登場の仕方を考えれば、この男も有り得ない実力者だということもよくわかる。……何も言ってはいないが、チェルシー自身と同じ、帝具使いである可能性も否定できなかった。

 

「(う……、ど、どうしようかな。タエコさんに 正直に話して、何とかしてもらうのが良いか……、それよりも、てきとーにはぐらかして、荒波立てないほうが良いか……)」

 

 チェルシーが思考の渦の中に身を投じていた時。時間にして、数秒程度だというのに、 男の行動は、もっともっと早かった。

 

「お~~♪」

 

 陽気な声と共に、チェルシーの肩に手を触れつつ 前へと出ていく。そのままタエコの方へと行こうとしたんだけど、ぐいっ、と肩を掴んで前に出て……“もにゅっ……!”っとひとモミ。しれっと、チェルシーの胸を触るのも忘れてなかったりして。

 

「な、なにするのよっっ!」

 

 カウンター・パンチ! を食らわせようとしたんだけど、やっぱり体をとらえられずに空を切ってしまった。

 男は、ゆっくりとタエコのほうへと向かっていく。

 

 もう、チェルシーは迷わず即決。

 

「た、タエコさんっ! そいつ、変質者! 痴漢、犯罪者! 女の敵だから、気を付けてっっ!! なんなら斬っちゃって!!」

 

 咄嗟に叫ぶチェルシー。

 当然ながら、男にもそれは聞こえていて……。

 

「犯罪者って……、チェルシーだって、暗殺者のくせに、棚に上げてくれるじゃん? それに! 良い女、可愛い女の子がいたら、欲情しない方が失礼だ! というわけだから、逆に触らない方が失礼だ! チェルシー、ナイス(ばでぃ)っ♪」

「堂々と、清々しいまでに宣言してくれたわね!? いい迷惑よ!」

 

 がーーっと、怒るチェルシーと、指をびしっ! と突きつける男。

 

 妙な展開である事は、客観的にみても明らかだった。普通なら、チェルシーのピンチに駆けつけてきた、という事で、それとなく助けようとするだろう。だけど、普通(・・)なら、である。……タエコ自身が感じているのは、また別だったから。

 

 なぜなら――。

 

「っとと、今はそれよりだ。チェルシー。この問答は後。ちゃんと納得させてやるから安心しろ。サービスしちゃうぜ!」

「納得なんてする訳ないでしょっ! そんなサービス、いらないわよっ!」

 

 チェルシーの怒声をバックに、男は改めてタエコのほうを向くと。

 

 

「おーい、タエっち、タエっち! うわー、すっごいひっさしぶりだなぁ!」

 

 

 にこやかな笑顔と共に、手を挙げて 再びタエコのほうへと歩き出したのだ。

 フレンドリー。その言葉がよくあてはまる、といえるだろう。

 タエコ自身も、手を軽く上げて答えている様子。

 

「………へ?」

 

 思わずポカーン……、とするチェルシー。

 まさかのまさかな展開、タエコとは顔見知りの様だ。

 

 タエコは生まれた時からずっとオールベルグで育てられてきた身だから、この男とオールベルグにはつながりがあるのだろうか、 とチェルシーは思った。

 

「(これは良いのやら悪いのやら………、あ、でも 教官(ババァ)がいてくれたら、大丈夫かも? 年の功ってやつで)」

 

 淡い期待をするチェルシ-。

 色々と実害があった事で、もう正直うんざり気味だから、分散してくれれば助かる、とも思っていた様だ。

 

 やがて、男とタエコの距離が近づいて行ったその時。

 

 またまた、予想外の展開が待ち構えていた。

 

 鞘に納めていた剣の柄を、一瞬の内に握り、そして素早く、目にも止まらぬ速さで懐に急接近したタエコ。

 そして、その勢いのまま……。

 

 

「飛天」

 

 

 それは、オールベルグ流剣術の1つ、抜刀術。

 

 鞘走りで剣速をさらに加速させ、一瞬の内に両断する最速の剣技。左切り上げで男の体は2つに分断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□ □ □ □

 

 

 タエコの一撃は、間違いなく男の体をとらえ、その一刀の元に、両断された。目に焼き付いてしまった程、鮮やかに、……最速で。

 

 

「っっ……!!」

 

 あまりの突然の事に、チェルシーも思わず絶句してしまう。体が真っ二つに斬られるようなシーン自体は見たことないわけでもない、どころか この職業をしていると、対して珍しくもないのだ。

 

 だけど、あれ程の気を発していた男がああもあっさりと斬られてしまった事実に やはり驚きを隠せられなかった。

 

 それともう一つ………。

 

「(あ……、私 アイツに助けられたのって、事実……だったんだよね……)」

 

 そう、先ほどの危険種の群と遭遇した時、あの男が追い払ってくれてなかったら、正直逃げ切れたかどうか判らない。

 

 男の言葉のすべてを信じる訳ではないが、もしも本当だというのなら、最初から危険種たちはチェルシーを狙っていて、それを助けてくれたんだから、ある意味では命の恩人である事実は間違いではないだろう。

 

 そう思ってしまったからこそ、チェルシーは さっきまで、必死に助けられた事実を否定していたというのに……、斬られた所を見てしまえば、複雑な感情が彼女の心の内に湧き上がってきた。

 

「(………女の敵、だったんだけど……私。命を、ほんとうに、命を助けてくれたのなら……、あれくらいは……あれくらいしたって…………、そ、それに………)」

 

 何度も、セクハラをされた。セクハラ自体は、不快感抜群だけど、時折言葉の中にあった『可愛い』や『良い女』『綺麗』という褒め言葉。軽口だと思っていたけれど……、それでも、今は……。

 

 チェルシーは、ぐっ、と目を閉じた。

 

 考えをやめて、気持ちを切り替える様に、努力した。

 

 人の死は何度だって見てきている。悪党ならなんとも思わないが、善人が、顔見知りが、世話になった人が死んでしまった、殺されてしまった時にも、心を抉った。でも、それでも、自分の行動に支障がないように、必死に切り替えた。

 今回も同じ事だ。……いや、まだ軽いとだって言える。

 

 だからこそ、僅かにだが芽生えかけてしまった感情の芽を摘んでいったその時だ。

 

『おー、なかなか良いな!? 腕を上げたな、タエっち』

 

「……ええっ!?」

 

 先ほど、斬られたシーンを間違いなく見たはずなのに……、血が噴き出すシーンも、見えたハズなのに、あの男のあきれ果てるほどの陽気な声が響いてきたんだ。

 

「っ……、やはり、貴方には届かないか。わたしの剣術も、まだまだ未熟……」

「まぁまぁ、タエっち。すげー、上達してるぜ? 前より剣のスピードが0.5秒ほど上がってる。現状の段階でさらに腕を上げるなんて、大したもんだ。お兄さん、驚いちゃったよ」

 

 タエコの頭をぽんぽん、と叩く男と、剣を鞘に戻しているタエコ。

 いったい何がどーなっているのか? とチェルシーは首を傾げていたその時。

 

「いやぁ、育ちも育ったっていうのに、あーんなに早くなっちゃって、重くないのか? そーんな立派になっちゃって。うんうん、肩もこりそーだと思うけど? だいじょーぶ?? ん? んん??」

「んっ……!」

 

 両手で、タエコの両胸を“もにゅっ”……っと。

 触る所じゃなく、掴む、鷲掴み、両手で鷲掴み。大事なことなので、2度言いました。タエコは、一瞬だけ体を震わせたけれど、反撃するような素振りはなく……。そのまま2度、3度と止める気配はない。

 チェルシーよりもさらに豊満なタエコの2つの膨らみが形を変えるのを、4度見たところで。

 

 

「こ、この…………!!!」

 

 め~~いいっぱい振りかぶって――———。

 

 

 

「へんたーーーーーいっっ!!」

 

 

 

 ぎゅんっ! と拳大ほどの石が、男の頭にジャストミート。チェルシーの華奢な体から、どこにそんな力があるのか? と思える様な剛速球を眉間にすこんっ! と受けた男は、あおむけに倒れてしまったのだった。

 

 

 


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