崇められても退屈   作:フリードg

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第13話 全員で攻める!

 

 

――本当に、不注意だった。注意力に欠けていて、……散漫だった。

 

 

 普段だったら 間違いなく深追いせずに、即座に逃げる事を選んでいた筈なのに、更に接近してしまった。本当に、不用意に近づきすぎた。……チェルシーは、自分の見栄を、優先してしまった。それは、殺し屋としてあるまじき行為だ。

 

 そして、これがその代償、なのだろう。

 

「っっっぁぐっ!」

 

 一瞬だが、永遠にさえ感じる事が出来る時の矛盾を感じたチェルシー。痛みが脳に伝達する間の刹那の時ではあるが、その間に長く後悔をしていた。……軈て、焼ける様な痛みが、右肩に感じる。

 右肩だけでなく、脇腹にも同じ強い痛みが襲ってきた。

 

「(肩……、腹……、とび道具……、武器……、不味い…… 致命傷)」

  

 ぐるぐると、脳が回転を速めるが、最早手遅れと言っていいだろう。

 鳥が翼をもがれてしまえば、どうなってしまうのかは明らかであり、飛べなくなってしまったら、何が待っているのかも、明らかだ。

 

 そして、強烈なダメージを受ければ、帝具(ガイアファンデーション)の擬態も完全に解けてしまう。

 

 姿を晒し、且つ下にいる化け物たちの元へと落下してしまえば、待つのは死だけだ。

 

 

「動物虐待は趣味じゃないんだけどなぁ、チーフ」

 

 見事、一瞬の隙をついて、攻撃を当てる事が出来たのはグリーン。それは、本当に一瞬だった。チェルシーの散漫さもあったかもしれないが、それなりに離れている上空。そこにいる(チェルシ-)に攻撃を当てる事が出来たのは、グリーンの持つ武器にあった。

 

 それは《臣具》と呼ばれる武器の1つ《サイドワインダー》。

 

 扱いづらさはあるが、持ち主の意のままに動く鞭状の武器である。先端には鋭利な刃を備え付けてあり、鞭の回転速度と音速を超える武器捌きで、直撃させたのだ。

 

 等のグリーンはと言うと、チーフのナハシュの指示が動物虐待、としかとらえて無かった様で、少しばかり嫌な表情をしていたのだが、それを一括する。

 

「黙ってみてみろ、雑魚」

 

 上空を睨み付けるナハシュ。

 

「え?」

 

 それにつられて、グリーンも空を見上げた。

 

 

 

――あぁ、私……ほんとバカだ。

 

 2人の会話は、嫌と言う程、聞こえていた。

 どうやったのかは、正直判らないが、変装を看破されてしまった、と言う事は理解できた。つい最近、自分の変装を見破られたばかりだというのに、同じ轍を踏んでしまった事に、チェルシーは 心底自分自身に呆れてしまっていた。

 

 だけど、もうどうする事も出来ない。

 

 鳥の翅の部分は、自分の肩。……そして、もう一か所は腹部。そこを貫かれてしまったのだから。

 

 今日だけで、二度も死の覚悟をするとは思ってもみなかったが、今回は本当にダメだと、チェルシーは、諦めていたその時だった。

 

『だーから、言っただろ? ポカミスするなよーって』

 

 あの声が――、あの、陽気な声がまた 頭の中に響いてきたのだ。

 

 

 

 

 ナハシュ、そして グリーンが上空を見上げた時だ。

 メガフクロウがいた場所。その空域を覆うかの様に、黒い靄が生まれていた。

 

「あ、あれ? ちゃんと当てたのに、あの鳥はどこ行ったの?」

「…………」

 

 グリーンは困惑し、ナハシュは、自身の剣を握りしめた。

 

 この時のナハシュの脳裏に浮かんだのは『パンドラの箱を開けた』だった。

 

 不信感を持ったまでは良かった。だが、予想が完全に外れてしまった。

 

――あのメガフクロウは、敵側の伝達役を担っているのではないか?

 

 程度にしか考慮していなく、落とせば 敵側の情報を得る事が出来るだろう、と考えてグリーンに指示を出したのだ。……だが、現れたのは 黒い靄であり、それも 広がっていっているのだ。

 日も落ち、暗闇が辺りを支配する時間帯だというのに、夜の闇よりも暗い何かが、現れたのだ。

 

『……余に、手を出したのは、うぬらか?』

 

 その靄、暗黒がゆっくりと左右に広がっていき、軈て 形を成していく。

 それは、人の形。……闇を纏った何かが生まれてきた。

 

『いい度胸だな……、人が、余に手を出すとは。……余はただ無害な小鳥を演じ、ただ見ていただけなのだがな』

 

 黒い何かは、口元に手を当てて、くくっ、と笑みを見せていた。

 

「……ちーふ? アレ、なに??」

「……構えろ、雑魚。今までの相手とは違う」

 

 ナハシュは、剣を素早く構えた。

 グリーンも慌ててナハシュに続いて構えた。

 

「……何者だ?」

 

 空にいる何かは、ナハシュの問に答える様にゆっくりと降りてきて、水面に立った。

 

『闇』

 

 そう答えた瞬間、翼の様なモノが、何かから生えた。

 圧倒的な威圧感を携えながら。

 

 「おい、ナハシュ! 一体なんだってんだ、アイツぁ!」

 

 残党狩りを終えたメンバーが次々と戻ってきて、同じ船に飛び乗った。

 

 ガイ、ポニィ、ツクシ、コルネリア、アカメ、グリーン、ナハシュ。

 

 幼き日より、帝国の暗殺者として、鍛え上げられ、帝具には劣るものの、強力な兵器である臣具を操る強者たちである。

 

「雑魚共。油断するな。……アレは、異常だ」

 

 一筋の汗の滴が、ナハシュの頬に伝っていた。

 この暗殺グループのチーフ。まとめ役であるナハシュの実力は、この場の誰もが知っている。自分達のNo.1だという事も、含めて。そんな男が見た事もない程表情を強張らせている。

 

「(チーフが、相手を《雑魚》って言わないの、初めてかもしれない……)」

「(気味が悪いよぉ……)」

 

 ナハシュの隣に来ていたアカメは、いつもと違う様子を見て、警戒心をさらに上げ、相手の不気味さを見た目ですぐにわかったツクシは、ただただ 怖がっていた。

 

「(……これまでの相手とは、桁が違う様ね……)」

「アイツ、いったい何なのよ……。なんか気持ち悪い」

 

 警戒心を上げているのは、アカメだけでない。No.3のコルネリアも同じだった。そして、いつも勝気なポニィ、どんな相手でも正面突破を繰り返してきたのだが、今回ばかりは、安易に動く事が出来なかった。

 

 これまでに見た事もない相手と戦う事は決して珍しくないが、それでも、今までで、最強の相手と比較しても、全く話にならない、と言うのが第一の印象。

 

 危険度を肌で感じた面々は、夫々の武器を構えた。

 

 手甲、鞭、布、剣、鎧、銃、刀。7人其々が、決まった武器ではなく、異なる武器を所持しており、それらは全て臣具。強力な兵器だ。数で勝り、武器の強さもあり、普通であれば圧倒的に有利だ、と言えるだろう。……だが、今回の相手は普通じゃない。

 

 相手の強さを理解できるのも、強さの内である事を、ナハシュは知っている。そして、肌で感じたのだ。その相手の異質とも言っていい力を。

 

 

 武器を構えたメンバーをゆっくりと見渡した後、闇はまた笑った。

 

『くくく……。面白い。余興も面白いかもしれん。……余が直々にぬしらに稽古をつけてやろう。……そうだな。これは褒美だ。余の正体を看破した童への』

 

 翅をさらに大きく広げた瞬間。

 

『うりゃあああ!!』

『うおおおおっ!!』

 

 闇を纏った何かと、ナハシュ率いる暗殺部隊が激突したのだった。

 

 

 


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