崇められても退屈   作:フリードg

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第14話 助けられたけど、怒る(照)!

 

 

 

 

 

 

 

―――ここは……何処、なんだろう?

 

 深い深い闇の深淵の中で、チェルシーは、何かを感じていた。あの陽気な声が聞こえてきた、と思ったのだが……、今は何も聞こえない。

 今、自分が何処にいるのか、一体どうなっているのか、それさえも判らない。

 だが、殺し屋として生きている以上、……自分の手を血で染めた以上、いつか、報いを受けるのだという事も判っていた。……その、つもりだった。

 

 でも、当然だけど――死ぬのは初めてだ。ここから、何処へいくのかも判らない。

 ありきたりな話では、自分が過去に殺してきた者達が、黄泉への案内人となり、自分を苦しめながら、連れていく。死後の世界は、様々な諸説があるが、誰一人として知る者はいない。……現世には、死んでいる者はいないのだから、当然だろう。

 

――殺し屋には、闇の中がふさわしい、かな……? でも、何? なんだか……力強く、抱かれてる気が……。

 

 そう、見えない闇の中だというのに、殆ど感覚がつかめないというのに、触覚だけは伝わっていた。暖かくて、何処か安心できる。

 

 ふっ、と身体から更に力が抜けた次の瞬間だった。

 目の前に一筋の光が現れ――、闇が払われたのだ。

 

「………?」

 

 チェルシーは、突然の光に、目を閉じてしまったが、ゆっくりと開いた。まだ、ぼやけている視界。少々息苦しさも感じるが、まだ大丈夫だった。……そして、目の前に何かがあるのは判るが、それが何なのか、判らない。……それでも徐々に鮮明になっていき……輪郭が……。

 

「ん……っ」

「…………!!!」

 

 目の前に、いるのは……、顔だった。そう、目の前。……眼前。零距離。

 そして、今――自分がどうなっているのかが、ゆっくりと――確実に、理解する事が出来てきた。

 

 息苦しいのは……、口を閉じてしまっているから。……開く事が出来ないから。

 何故なら……、自分の口は……。

 

「んっ………、ふぅ……」

 

 ちゅぷん……、と 艶やかな音を奏でながら、眼前の顔は、ゆっくりと離れていった。

 そして、更にチェルシーの感覚が鋭敏になる。元に急速に戻っていってる。

 

「あ……、な………なな………」

 

 後は1秒もかからないうちに、チェルシーは完全に身体の感覚を取り戻す事が出来ていた。

 

 今、何がどうなっていたのか……、何をされていたのか。……目の前にいるのが誰なのか、全部、全て。

 

「お、目を覚ましたな? 大丈夫か? チェルっち」

 

 陽気な声、そして にこやかな顔が、眼前にある。

 

 

 そう――、自分はこの目の前の男に―――――、自分の唇を―――――――――――。

 

 

 

「なななななな////  な、なにすんのよーーーーーっっっっ!!」

「ぶっ!」

 

 かぁっ! と一気に顔が紅潮し、その赤くなる勢いと同じくらいの速度で、頭突きを打ちかました。初めて、攻撃する事が出来て、妙な達成感も覚えなくもないが、今はそれどころではない。

 

「あ、あああ、あんた!! わ、わた、わたしのっっ」

「あたたた……、ほれ、チェルっち、元気になったのは結構な事だが、ちょっと落ち着いて。暴れると落ちるぞ?」

「落ち着いていられないわよ!! わ、わたしのファースト…… えっ?」

 

 羞恥から激高していたチェルシーだったが、ここで漸く今の自分がいったいどういう立場に立たされているのかを理解できた。

 今、自分がいるのは上空。帝具(ガイアファンデーション)を使っていない。つまり、ただの人間の状態。そんな状態で、この空にいれる訳は無い。

 

 つまり―――。

 

「そっ、そゆこと。チェルっちは、今お空の上。でも、大丈夫。オレがしーっかり、抱きかかえてやってるからな。安心しろ。別に下心なんてないんだぜ~♪」

「わ、わたしには帝具があるんだから! そんな事しなくてもいいじゃないっ!! って、説得力無いわよ! 手っ、むねっ、むねっ、触るな、揉むなっ!!!」

 

 お姫様抱っこの要領で、抱えられているから上半身に回されている手で、悪戯をされている事に十分気付けた。

 

「おおっと、これは失礼っ! 動けない所にするのは 面白味半減だな~。 ……でもな、チェルっち。帝具(それ)使う事が出来るコンディションじゃないだろ? 体調が万全じゃないと、コントロールが効かなくなるんだぜ? 帝具ってやつは。どれだけ慣れててもな?」

「そ、それはそうだけど……、って! そんな事より!! どどど、どう云う了見よっっ! セクハラしただけじゃ、飽き足らず。わ、私の ふぁ、ふぁーすと、きす/// ……奪うなんてっ!」

 

 殺し屋に身をやつした以上、まっとうな生き方は出来ない。と、判っていても、やっぱり乙女な部分がチェルシーにはある。だからこその猛抗議だった。

 

 そんなチェルシーの、柔らかい唇に人差し指を当て、言った。

 

「いや、これはほんと。マジで悪いと思ったんだがな? チェルシー。チェルシーの受けた傷、結構深手で、内1つは、肺にまで達していた。だから、ちゃんと治すのに時間がかかる上に、ああでもしないと、身体ん中の負傷は治せないんだ」

「え……? 傷??」

 

 チェルシーは、何時になく真面目な顔になった事に驚いたのと、本当に一体何を言っている? と思ったが、ここでまた1つ思い出す事が出来た。

 自分がいったいどうなってしまっていたのかを。……そう、追跡をしていて、見つかってしまった挙句、撃ち落されてしまったという事実を。

 

「いやぁ、あの坊やたち、大したもんだ。チェルシーとあんまり歳変わらないって感じなのになぁ。それに……あの子ら(・・・・)も、な」

 

 じ、っと眼下を見下ろした。そこでは、まだ戦塵が立ち上っている。

 

「わ、私――、そっか。ケガ、したんだ」

 

 チェルシーは、傷の痛みも、何処を貫かれたのかも、全て思い出した。

 改めて、自分の傷を確認する為に、視線を向けた。……治療をしてくれた、と言う事なのだろう。服にこそ、穴が開いているものの、身体そのものには傷は全くなかった。痛みも、今は全く感じられなかった。

 

 あんな傷があっさりと治る訳がない。……でも、間違いなく彼が治してくれた事も理解できた。

 

「ケガの一言じゃすまないくらいの傷を負ってたな? だから、ポカミスするなよー、って忠告したのに」

「……悪かったわよ。それに、その……」

 

 チェルシーは、顔を背ける。

 

「ん? どーした、チェルっち」

 

 背けた側に、にこっ、と笑いながら顔を向けて、視線を合わせた。……からかっている事は判る。それでも、チェルシーは今回ばかりは。

 

「あり、ありがと……」

 

 今回は完全に命の恩人だから、しっかりと礼を言った。

 

「ははは‼ とーぜんだろ? オレ、チェルっちの事、気に入ってるんだから。それに、チューもした仲だし、更にとーぜんっ! つ~まり~、チェルっちはオレの~っ♪ ごちそーさんでした~~☆」

「わ、わたしは同意した覚えは無いっっ! それに、さっきのキ……、っ じ、じんこーこきゅーみたいなもんでしょっ!」

「まぁ、それは 否定はしないけどね。しっかりと、チェルシーを攻略してやるからな? かーくごしとけよー」

 

 男はそういうと、腕を少し強め、チェルシーを強く抱いた。

 移動をする為に。

 

「も、もう……///」

 

チェルシーは、それ以上は何も言えず……ただただ、身を任せるしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 そして、暫く飛んでいて、疑問に思った事があった。

 

「それで、あの凄腕集団はどうしたの? ……ひょっとして、全部片付けちゃった?」

 

 そう、それだった。

 自分が撃ち落されて、彼が助けてくれたのなら……、間違いなく鉢合わせをしている筈だから。

 

「ん? 馬ー鹿。そんなもったいない事しないって。あの子らは これから(・・・・)なんだ。若い芽を摘むつもりは毛頭ない。……茶々は入れてもな?」

「んんっ! もうっ! 呼吸をする様に、セクハラするな!」

「ははは! っと、真面目に答えとくと、あいつらは、今稽古してる最中」

「は? 稽古??」

 

 チェルシー、何度目かの混乱である。言ってる意味がよく判らないから仕方ない。

 

「ほれ、見てみ」

 

 男が人差し指と親指で、○の形を作り、チェルシーに見せた。

 一体何がしたいの? と思ったチェルシーだったが、軈て吸い込まれるかの様に、その○の中を覗き込む。……すると、驚く事に、まるで望遠鏡でも覗き込んでいるかの様に、しっかりと見えたのだ。……それも、ピンポイントで、音声付き。

 

 

『ははは。なかなかやるではないか。久しぶりの戯れ、余も満足しておる』

『この、化けモンが!!』

 

 あの集団の中でも一番の大男。何やら全身に防具? の様なものを身に着けていて、顔は見えないが、大きな拳に更に何か大きな岩? 石? の様なものを纏わせて殴りつけていた。

 

 が、その拳もどこ吹く風。全く届いていなかった。

 

『おい、雑魚。冷静になれ。……あの男……、実体がない、と言うのか』

『ほう……、何故そう思う?』

 

 恐らくリーダー格の男。金髪のつり目の男が疑問視し、それに興味を持ったのか、あの黒い何かが、面白そうに聞いていた。

 

『オレの攻撃。殆ど躱されたが全てではない。……間違いなくとらえた筈だ。だというのに、まるで手ごたえが無かった。……水や霧、無を相手にしている様だった』

 

 剣の刃を確認しながら、そう呟く。

 

『私も同じだ……。剣が全く届かなかった。身体を捕らえた筈なのに』

 

 もう一人の女の子。こちらはもうちょっとで、素顔が確認出来そう……って所でフェードアウトした。

 

「ちょ、ちょっと。もうちょっと見せてよ」

「はい、だーめ。ネタバレはここまで。バーバラやタエっちの会社にチェルシーが入ってる以上、あの子らとぶつかるだろ? 楽しみはとっとけって」

「楽しくなんかないわよ! あんな凶暴な連中を相手にするなんて!」

「そこは、腕の見せ所だろ? 暗殺者、殺し屋って、必殺が通常。正面からの戦闘以外にもやり方は色々あるし。何? チェルっち。正面衝突するつもりだったのか? ぶっ刺されたのに??」

 

 ぷぷぷ、と含み笑いをするのを見ると、非常にイラッと来る。

 

 そして、ババラが言っていた言葉もこの時同時に思い出していた。

 『傍観』と言う言葉。……安易な情報は渡してくれない、と言う事だろう。

 

「(かといって……、わ、わたしの身体を売るような真似なんて、絶対やだし……、くっそ……、ぜ、ぜったい目にもの言わせてやるんだからっ……!)」

 

 それ以上は、チェルシーは何もせず、ただただ我慢して運ばれるだけだった。

 ……時折セクハラしてくるのだけは抵抗して。

 

 

 

 


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