まさに死屍累々……。ここに揃った女の子達の殆どが地に付していた。
時々身体を震わせながら
『も、勘弁して……』
『揉まないでぇ……』
『せ、セクハラ反対……』
と聞こえてくる。
だが勿論、彼は追撃なんかしていない。やっぱり活きの良い相手とだから楽しいと思っているのだろうから。チェルシーとか何度も抵抗するから更に面白がる。そして チェルシーがその意図に気付いて相手にしない仕草をしても、ただで触らせるのは嫌だから 先手をすればやっぱり抵抗する。つまり、チェルシーが彼にとってのお気に入りだと言う事は当然。
強い女の子に惹かれるのだから。そう、彼の目の前でまだ しっかりと自分の足で立ってる彼女なんか尚更。
「やるな!? アカメっち! オレの厳しい攻撃をここまで耐えきるとはさっすが~♪」
チューされたり、触られたり、と散々な目にあってた内の1人であるアカメ。乙女な心は持ち合わせておらず、帝国の為に人を殺す事以外は脳内では常に喰う事しかない《色気より食い気》な彼女だったから 最低限度の効果しかなかった様子である。
その辺りはポニィもそうなのだが、彼女はくすぐり地獄を受けちゃってるので仕方ない。
「ぐっ……、こ、この出鱈目男……っ」
でも、やっぱり立っている事が精いっぱいであり、攻撃に転じられる程気力も無かった。
斬っても斬れない、倒せない相手。そんなのをいつまでも相手にし続ける。まず先に心が折れてしまうのが常だ。……つまり、彼に色んな意味で対応するオールベルグはやっぱり別格。いや ほんと色んな意味で。
「それにしても……うん。アカメって名前もそうだけど……」
彼はアカメの顔をまじまじと見つめながらつぶやいた。
「な、なんだ……こ、このっ……! なっ……!」
剣を構えて受けて立つ構えのアカメだったが、相手が姿が霧の様に霧散した。漆黒を纏っていた筈なのに、今度は湯煙に交じって姿が消えてしまったのだ。湯煙の中に漆黒。つまり 白の中に黒は圧倒的に目立つ筈なのに、見失ってしまう。
「ちょい失敬」
「うわっ!」
「アカメちゃんっ!!」
「「アカメ!!」」
背後を取られた。挙句首にもすっぽりと腕が入る。
絞め落される、否首を折られてもおかしくない体勢だった。
「すんすん……」
「こ、こら!! 嗅ぐな変態……っ!」
「変態は酷いって。えっちぃ~にしてってば! それに 他の皆も落ち着いてって。さっきから攻撃してくるのそっちだけだし、オレ 手ぇ出してないだろ? そんな事するつもり毛頭ないってば」
アカメの頭を、黒く長い髪に顔を埋める。明らかにアカメの匂いを嗅いでいる変態の構図だ。ここから『えっち~』とはならないだろう。客観的に見ても変態だから。
「うーん…… やっぱ アカメっちとクロメっちは似てる。ってか姉妹かな? 顔立ちもそっくりだし。うん、違うのは髪の長さと服装くらい?」
「なっっ! クロメ、だと!!」
アカメの身体に力が戻ってきた気がした。接しているだけで その身体が一気に熱くなるのも。それと同時に アカメは振り払い剣を振るう。その剣閃は男の頬を掠らせた。今の今までは 斬った手応えがあっても身体に傷が入っていないと言う異常な状態だったのだが、今ははっきりと判る。
「いててっ ひっどいなぁー」
男の頬から血が一筋流れているのだ。
因みに、誰もが知る由も無いが 彼が血を流す、と言うのは殆どなく アカメの快挙である。
「でも、太刀筋は見事! うんうん。タエっちと同等? いや それ以上かも……? やるなぁ、アカメっち」
アカメに一撃を入れられたと言うのに彼はサバサバしている。
そして、次に目を疑ったのは……。
「な………!!」
アカメが扱う武器は 臣具《桐一文字》。それは斬った傷口が治癒不能になる刀の武器。妖刀 村雨には及ばないものの現時点では限りなく近い刀、と名高い一刀だ。血が流れれば何れは消耗する。小さな傷でも決して無駄にはならない。そこから反撃の意図を と探っていたのに。
「ふぃ~~ いててて。うん。これで良し!」
手を当てて ゆっくりとスライドさせたらそこには 傷はもう無かった。
血も完全に止まっていた。
「あ、アカメちゃんの剣は……」
ツクシもそれに気付いたようだ。アカメと一番仲の良い彼女はアカメの武器もよく知っている。傷が治らず血が止まらず倒れた魔獣の事も知っているから、当たって傷が出来た時喜んだんだから。
でも、実際は。
「や、やっぱ 化けモンだよ……、コル姉、どうする……? チーフやお父さんのトコに……」
「簡単に行かせてくれるのなら、ね。……私達じゃどうしても……」
「んじゃあ ここはセクハラ我慢して突っ切る!? アタシとしてはやり返したい気満々! だけど、あれには勝てないし、空回りするくらいならそっちの方が……」
胸触られたり、股間を触られたり、チューされたり……女の子にとっては最悪だが 死ぬ様なら別だ。
ポニィにしては よく考えた。頭、初めて使った! と褒めてあげたい気分だったが、首を横に振るのはコルネリア。
「確かに、死ぬようなことはしてきてないけど、そこは相手の気分次第でどうとでもなるんだよ。……あいつは女ったらしだから 今楽しんでるだけのようだけど…… チーフやパパは男。……あの時みたいなモードに入られたら 今度こそ殺られる可能性の方が……」
「うっ…… あ、あれも半端無かったし、んじゃあ……どうすれば」
コルネリアが言っているのは、河川上で戦った時の男についてだ。漆黒のマントを纏い素顔も見せず、感じる威圧感と圧倒的な実力、そして その口調もぜんぜん違った。楽しんでる、と言った点においては同じかもしれないが、それでも 殺す事を躊躇する様な様子だとは思えない。
色々と考えているからこそ 今 最適な解が判らなかった。どうすればベストなのかが。
「……答えろ。なぜ、クロメを知ってる? クロメに何かしたのか!?」
剣を構え、これまで以上の殺気を見せるアカメ。
びりびりっ、と感じる殺気は クロメの為に、クロメの為ならば どんな事でも出来るし、どこまでも強くなれる、とそのまま体現しているかの様だった。
「愛されてるなぁ、クロメっちは! 良いよ、良いよ。そーいうの嫌いじゃないし、ってか好きだし! 皆皆大好きだぜ?」
「質問に、答えろぉぉ!!」
「おっとと」
クロメの事なら暴走するアカメ。それをしっかり認識した後。
「ほいっと 没収~」
「あっ……!」
武器が手に有れば 話しもしにくい。と言うか話を訊いてくれないだろ、と言う事で没収した。
「落ち着いてって。知ってる事話してやっから。後、クロメっちは元気だぜ? それだけ教え解くからよ」
飄々としている男だが、全く信用していないアカメは強く睨み付けた。
「くっ…… それは、本当だろうな……? 嘘だったら 私はどんな事をしてでも、……例え敵わなくても、お前を、……殺す!!」
それは 必ずどんな事をしてでも殺すと言うすさまじい殺気だった。
でも、それでも 男の表情は崩れない。ただただ笑っていた。
「心地良いね。それだけオレを想ってくれるんだからよ? ま、殺意だけど その点は目ェ瞑るって事で ホレホレ。皆集まって~ 聴きたいだろ? 確か、お前さん達は なんちゃらランクの上位クラス。あの長髪の渋めなコズキのおっちゃんのチームだったよな?」
男の言葉に 皆が目を見張る。
自分達の
「顔見知り~とまでは行かないかもだけど、結構前に会ってんだー。メズちゃんに色々と手解きをしてやった時とかにも会ってるし♪」
「……嫌な顔に、嫌な手つき……。さいてー」
コルネリアは、嫌悪感を感じつつも 前に出てきた。
「よしよし。もー よーやくゆっくり話が出来るなぁ。桃源郷を見つけた~♪って思って心も身体もリフレッシュするつもりだったのに、まさか稽古するハメになるなんてなぁ?」
「全部お前のせいだろ!! いきなり覗きに来て好き放題しまくって! 普通は刺されるぞ!!」
ポニィの盛大なツッコミも冴えわたるが、男は全然堪えた様子はない。
アカメはまだやや興奮してる様だが。
「アカメちゃん。落ち着いて。……だって、私達が大丈夫だもん。えと クロメちゃん、かな? きっと大丈夫だよ」
「あ、ああ。すまない ツクシ……」
しっかりとツクシがそばについててくれてるから大丈夫だった。
「んじゃあ、話そう! クロメっち達との運命的な出会いを……。うーん 自分で言っといてなんだけど、どーだろ? 運命的~とは違うかも?」
「知らんわ!! 話すなら早く話せ!」
「わーったわーった。ほらほら、もっと笑顔だって ポニィちゃん。ほれほれ~」
「わきゃきゃきゃ!! く、くすぐりは、はんたっ、やめ、やめっっ」
話しが進まなそうだったから、コルネリアは持ってた桶で盛大にお湯をぶっかけた。
「(さっきまで本当に死に直面する程の修羅場だったのに……。なんなんだろ、この状況……)」
ため息を吐きながら、改めて座って話を訊く事にしたのだった。
因みに 別に逃げてもよさそうな感じだったが アカメが梃でも動かなさそうだと言う事、そして アカメの妹については以前から気になっていたから、と言う理由があった。
そう、あれは帝都近郊にある草原。直ぐ傍には村があって 少しばかり休憩してまた 飛んだ時に 彼女達を見たのだ。
『やっぱ
そこでは争いが始まっていた。
ルボラ病がどうとかと、騒いでいた事もあって結構殺伐としていた雰囲気の村だったが、それに拍車をかける様に始まっていたんだ。
『でも、面白そうかもな! うーん、村から出てきてる男たちはむっさいから 置いといても、あの子達は可愛いなー』
基準はそこである。
無類な人間の女好きな男 クロ。
宙に浮いていた身体をゆっくりと下降させた。そして徐々に 速度を上げた。
何故なら 危なかったから。
『あの子、油断してる。……危ないな、斬られる』
そう、一際幼さが残る長い金髪の少女。身体の四肢が斬れ、血飛沫が舞散るこの修羅場でも笑顔を見せれると言うのは 凄いと思うが 如何に訓練を受けたとは言え 身体の方はどう見てもただの人間だ。あの刃を受けたら、ただじゃすまないだろう。
『うん! 笑顔が可愛い! 死なすの、絶対だめだ!』
と言う訳で、全く関係ないのだが参戦? をする事になったのだった。