崇められても退屈   作:フリードg

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第5話 山道は疲れる……

 

 それは、とある場所での出来事。

 

 

 3人組が山道を歩いていた。

 

 

 歩けど歩けど、続くのは山道……、時折 木々があったりするけど、殆ど不毛の大地。何時になったら目的地へと辿りつくのか判らない。寧ろ、目的地はまだ定まって無い状態だった。小柄でターバンを頭に巻き付け、表情の殆どが見えない者、声色からそれなりに年配の老婆だろう。その老婆の後ろに2人の少女がいる。

 

 その2人の内の1人、全体的に遅れ気味の少女は、げんなりと表情を落としていた。

 

 その容姿の特徴は、やや薄く腰まである長い赤毛、山道を歩くには、少々華奢ではないか? と思える程線が細い。

 

「バン族の要人の暗殺はもう済んだから、次行くよ」

「えー、次ってまだ 指令は来てないじゃないですかー。ちょっとくらいゆっくりしても、罰は当たりませんよー?」

「つべこべ言わず、さっさと来な。町に帰る道中に、伝書鳩は来る筈さね。……新人のアンタを更に使って、飛ばせたって良いんだよ。その方が大分短縮になるからねぇ」

 

 その言葉が、ぐさっ! と少女の華奢な身体を貫いた。

 

 それも仕方ない。つい先ほどまで、それこそ馬車馬の如く、動かされまくり、様々な場所の偵察やら、監視やらをやらされ続けたから。

 これ以上、同じ様な事をやらされては、体力が完全にすっからかんになってしまっても不思議ではなく、体力が切れたら、気力を、と言われかねない。……その点を考えれば、『歩いていく』と言うのは、それなりに気を使ってくれた? と思える。

 

 彼女が持っているとある道具を使えば、文字通り飛ぶ事は出来る。……が、非常に疲れるのは目に見えているので、全力で拒否をしたい所だ。

 

「それは、勘弁願いたいです……教官。私、昨日から飛びっぱなしで……。翅って、思いのほか、変なとこの筋肉使うみたいで……、きょうかぁん……、このままじゃ、胸筋がついちゃう……。女子力低下は、乙女にとってあるまじきです」

「その方が良いんじゃないかい? さして、ふくよかさがある訳でもなし。筋トレでもして、引き締まった方がプラスになる、ってもんさ」

「ちょっ! へ、平均くらいはありますよっ! 平均くらいっっ!!」

「タエコを見て、同じ事が言えるのかねぇ? 女として」

「ふぐっ……」

 

 またまた、ぐさりっ、と言葉の刃を突き立てられてしまった。

 《タエコ》と言うのは、共に行動をしている3人の最後の1人。黒髪をポニーテールで結って、一部、色合いの違う髪の束が触覚の様に前髪よりも前に飛び出ている少女。

 

 ……同性の自分から見ても、確実にプロポーション負けちゃってるから、思わず自分自身の胸元を見下ろしてしまう。

   

 突然自分の話題にされたタエコだったが、さして気にする様子も無く(興味ないと思われる) ただ悠々と、目の前の老婆に付いて行くだけだった。

 

「兎も角、さっさと行くよ。休憩なら ここを超えたらだ」

「……ここって、この山道を?」

「それ以外あるかい?」

「な、何km程歩けば?」

「ん~、まだ耄碌してないつもりだよ。大体42km、ってとこかね」

「………」

 

 見事な目測である。山道のアップダウンを考えれば、多少増減はするだろうが……、それでも完璧。

 

 まだ、殆ど歩き始めて間もない、と言うのにも関わらず、早速足が棒になりそう……、と頭で思ってしまうと、益々足が遅くなる。

 

「トロトロするんじゃないよ、チェルシー。なんなら本当に飛ぶかい? 飛んだらさっさと終わるから、ワシら背負って飛んでみるってのも試してみたいねぇ」

「歩かせて頂きます」

 

 大きく、両手を交差させて、× の字を作り、せっせと追いつく少女。

 その苦労人女子の名はチェルシー。

 

「ぅぅ~、殺し屋も楽じゃない……」

「当然。オールベルグの鍛錬はこんなもんじゃないよ」

「……知ってるつもりですぅ………」

 

 がっくりと、項垂れてしまう少女は、今日も足を棒にして頑張る他無かった。

 

 

 

 

 

□ □ □ □

 

 

 

 

 

 と、言う訳で、ウン時間掛けて山登りを開始。

 昇れど昇れど、進めど進めど……40㎞と言う距離はなかなかに遠く、険しく……つまり、さっぱり終わりが見えない、と言う事。

 

 もうこの際、伝書鳩の1つや2つでも飛んできてくれやしないか? と時折空を見るチェルシーだった。

 

「まぁ、次の任務の検討はついてる」

「ぅへ……。へ?」

 

 道中では、殺し屋としての心得だとか、色んな説教を受けてしまっていたが、何やら気になる話題が聞こえた為、疲れていたチェルシーも、耳を傾ける事が出来ていた。

 

「少し前、『反乱軍の収入源である国外との交易ルートを調査中。直に判明』って偽情報を帝国側に流してるからね。調査中が、判明になったら……。馬鹿でも判るだろ?」

「交易ルートの運び屋になりすまして迎撃する……と言う訳ですね。次の相手は帝国の部隊かぁ。最近、少数精鋭のやばめな部隊が出来上がりつつある、って聞いてるし、大変そう……」

 

 身を粉にして働き続けなければならない現状は、やっぱりげんなりしてしまう、と言うものだ。

 

「もっともっと体力つけな。それも、生き残る為に必要さ。チェルシー、お前の変身は恐ろしく、応用力も高い。だけど、肝心な所でモノをいうのは、やっぱり体力だからね。肝に銘じときな」

「はぁ~い。……でも、もうそろそろ マジで足が棒……」

 

 説教は小言を訊きつつの、歩き続け。ちょっとした拷問も良い所だ。だから、精神的にも体力的にも……、毎ターン、HP,MPゲージをガリガリ削られて歩く様なモノだから、とうとうチェルシーは悲鳴を上げていた様だ。

 

「……おんぶする」

「やったーーっ! タエコさん、愛してるっ♪」

 

 かと思えば、見かねてくれたタエコが、背負おうと申し出て、光の速さで元気を取り戻すチェルシー。……演技力もなかなかに鍛えられている様だ。本気出したら、もっと行けそう。

 

「全く、甘やかすんじゃないよ。と、言いたいけどそろそろ休息にするよ。……1通来た様だ」

「……みたいだね」

「わーーいっ♪」

 

 遠い空から、1羽の鳥がやってくる。その手には巻物が握られており、通信手段の1つとして活用されている伝書鳩だ。

 

「30分休憩にする。色々とこっちから伝える事もあるからね。適当に休んで良いよ」

「んー、この辺に水辺でもあれば良いんだけどぉ……」

 

 きょろきょろ、と辺りを見渡すが、生憎今の視点では限界がある。

 

「きょーかん。ちょっと、探してきます。出来たら水浴びもしたいです!」

「はぁ、あまり遠くに行くんじゃないよ。……ま、この辺には 集落の類も無ければ、周囲に気配も無い。大丈夫だとは思うが、おっ死なない様に」

 

 物騒な事言ってるけど、それがスタンダードである事をチェルシーは知っているし、久しぶりの休憩でテンションが上がってるから、動じない様子。

 更に、汗臭さを段々感じられる様になってきたから、この辺りに水辺、湖があったら、と言う期待感もあってか、色々とテンションが上がってる様だ。……さっきまでの何だったの? と訊きたいが、馬耳東風だろう。

 

「んじゃ、ちょっと行ってきます」

「付いて行こうか?」

「大丈夫ですよー、タエコさん。良い場所があったら、また戻ってきて、教えますから。一緒に水浴びでもしましょーよ。山の中だけど、ちょこちょこ森だって見えてきたし、ひょっとしたら……、って期待も出来るでしょ?」

「ん。……ありがとう」

 

 チェルシーは、ぶんぶん、と手を振ってそう伝える。

 

 因みに、ちょっとした策士。一緒に行って、もしも見つけたら、これまた一緒に水浴びして、帰って来て……つまり、最短コースになってしまう。だけど、自分ひとりで周囲の散策の名目で、行ってきて、見つけて 先ずは自分が入り、その後にタエコに伝えて入ったりすると……、ひょっとしたら、休憩の時間が増えるかもしれない! 

 

 と言うチェルシーの少々浅ましい考えだ。

 

 教官、と呼んでる老婆に、あっという間にバレてしまいそうな気がするから、早速行動を開始。取り出したとある道具を使用し、瞬く間に物質質量を全く無視した形態に変身。

 翅を羽ばたかせながら、チェルシーはまるで、籠の中から脱出し、自由になった鳥の様に、大空へと羽ばたいていくのだった。

 


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