「おい、ここは立ち入り禁止だぞ。」
と注意すると男は振り向いた。
男の首にはナイフのようなものが刺さっていて目の色もおかしく見えた。
腰を抜かし、
「わぁ、真夜中に肝試しか?ふざけるなよ。」
男はふらつきながらこちらに向かってくる。
腰を抜かしたまま、後ずさりするが男は距離を縮めてくる。
「な、なんだよ。通報するぞ。」
男は見回りの人の首を噛みちぎった。
昼休み校舎裏のアメリカンショートヘアに餌付けをする。
「ミケ、ここらへんは草刈りした後だから残ってる棘に気を付けろよ。」
ミケはそっけなく裏山に戻る。
いつものように一棟の教室に入る、自分の好きな場所に座って講義を聴く、今日は紅葉が赤いから窓側の端に座ろう。
座ったらノートとその授業の資料を出す、そこに幼馴染が来る、
「こんな前に座るのか?」
「だって窓側はここしか空いてなかったから。」
後ろををふりむき幼馴染と会話しつつ18列目までの席の生徒の密度を測る。
「ったく勘弁してくれよ。」
と言い横に座る。
その光景を二人の女子大生が見ながら、
「木田くんのどこがいいの?」
「強くて頼りになる所かな。浮気は仕方ないと思うけど・・・」
「いやいや、別れた方がいいよ。」
「真央にはわからないんだよ。」
ビルの屋上から見える若い男は体に幾度の銃弾を浴びても倒れず、頭を撃たれようやく倒れて動かなくなる。
「なにこれ、造り物?」
「さあな、この動画はロサンゼルスで撮影されたものだ、それにこれも。」
と幼馴染から見せられた別の動画は女性の頭を鈍器で破壊している、背後にエッフェル塔がうっすら見える。
「そんな教育に悪いグロッキーなもん、僕に見せないでよ。」
「わりぃ、ところで鬼ごっこのサークル行くだろ?今日は女子大だから倍率は2倍だぜ?」
鬼ごっこのサークルとは表だけであって実質合コンサークルのようなものだ。
「ゲスイなお前。」
「欲のないお前よりは社会の役に立ってるぜ。」
鐘が鳴り、教授が入ってくる。
小声で、
「欠員がでたんだ。」
放課後幼馴染に言われ、広場に集まった。
「少ない男が鬼で。1分後鬼動きます。」
そう幹事長が言った瞬間女子は一斉に逃げる。
「お前は彼女いるのにいいのか?」
「ベジタリアンの代わりに食べるんだ。」
「お前はとことんゲスイな、恋敵にしたくない奴だ。」
空が茜色に染まる、銃声が鳴り、鬼は走り出した、銃声を鳴らすのは女子の役目だ。
逃げる範囲はあらかじめ決められている、その舞台となる大学の敷地だけだ、ただし出入り口は使ってはならない。
もちろん大学のすべての講義が終わってからである、そのため完全に太陽が沈んでからやることもあった。
幼馴染と2人で校舎と校舎をつなぐ渡り廊下に、
「春人、二手に分かれて追い込むぞ。ここは俺たちのホームだ、さっさと終わらして連絡先聞くぞ?」
「おっけー、校舎裏で会おう。」
だが誰もいなかった。
「クソっ。」
「まあ、そう苛立つな。先輩たちが捕まえてくれてるよ。」
「・・・そうだな。メインディッシュはこの後だもんな。」
結局半分しか捕まらなかったが、本当はここからが醍醐味だ。
「捕まった数10、たった半分でした。解散。」
この解散とは連絡先交換の合図である、ただし一人だけしか聞けない。つまりその日の本命という意味であった。
だが混乱は生じる。
ハーレム・逆ハーレムあるいは四角それ以上の構図になることもある。
連絡先を交換するだけでだ。
実体験で本命に行くと、本命が自分の先輩に連絡先を聞いていたのを見て最初はショックであった。
それ以来自分で行くことはなくなっていた、ちなみに自分は聞かれたことはない。
たまに欠員が出た時要請されて参加するが、一番なにをしていいか分からない時間だ。
幼馴染はもう横にいなかった、気が付けば周りにグループができていた。
「田崎くん、連絡先教えて。」
と無表情で一人女子が聞いてきた。
「え?」
目と耳を疑ったが明らかに目の前に居て名字も田崎、しかも田崎はここにひとりしかいない。
「なんで僕なんですか?」
無表情を崩さず、
「いいから。」
強めに言われ若干気を使い対応した。
名札には金村と書いてある。
暗闇を照らす外灯、幼馴染と一緒に帰り道を歩く。
「まさか・・・春人にも春がきたか・・・へへ。」
「へへじゃねーよ、あの人同い年だけど終始不愛想で怖かったからな。」
「じゃあ、デレた時たまんねーな。」
「そんなことより彼女に悪いと思わねーのか?」
「犯罪じゃないんだ、まあそう真面目になりすぎるな。」
幼馴染は肩を叩いてくる。
幼馴染とは同じ賃貸で暮らしていた、お隣さんでもある。
「ただいま。」
「おかえりー。今日オムライス作ったよ。」
と幼馴染が戸を閉めるまでその会話は聞こえる。
戸が完全に閉まるのを確認して
「浮気してるくせに彼女連れ込みやがって。」
と思わず漏れる。
仮屋に帰り携帯を見ると、
【アメリカンショートヘアにミケとかウケる】
と金村からメールがきている。
鬼ごっこが終わる30分前幼馴染と二手に分かれた時校舎横でアメリカンショートヘアが前足を怪我し、三足歩きしていた。
「ミケ、大丈夫か。」
春人は猫の肉球に刺さった棘を抜き、ポケットからリパテープを貼ってあげた。
それを隠れていた金村はこっそり見ていたのだ。
【ミケじゃなくてミケランジェロ。】
と送ると1分もたたず、
【ウケるー、返信も誠実だね】
その受信以降その日返信することはなかった。
次の日バトミントンの授業で、
「田崎木田ペアと高田松本ペア。」
と先生に言われ、ネットを挟んで、
「春人、どっちがタイプだ?」
「お前はスポーツマンシップにのっとったことないよな。」
苦言を呈す。
「で?どっちだ。俺はどっちもきょにゅうで選べないぜ。」
羽を撃ちかえし、
「そうか・・・」
と聞き流すしかない。
高田さんは前期の英会話でディスカッションしたことがあり対話したことはある。
その一時間はずっと幼馴染のきょにゅうの話を聞いていた。
バトミントンの授業が終わり、普段着に着替えて出て行く。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
と高田さんとあいさつを交わす。
どこかで僕を軽蔑しているようだ。
高田はそのまま体育棟を出て行く。
その後幼馴染が男子更衣室から出てきた。
「わりぃ、おまたせ。」
「おう、食堂行こうぜ。」
食堂で一人行列を並んでいると高田さんがたまたま後ろに並んだ。
不快そうに僕の後ろに並ぶ。
「な、なんだよ?」
「なんで田崎くんは木田くんの友達なの?」
一言でいえば浮気野郎の友達もクソ野郎ってことだろう、僕はそう解釈する。
「僕だって言ってるが、あいつは聞かない。」
「それって友達って言える?」
頭に来た、
「自分が納得できないなら木下さんと友達やめるか、別れさせろ。関わらないでくれ。」
「開き直るんだ、あなたも木田くんと変わらないね。」
席に座り、木田がトイレから戻ってくるのを待つ。
気が立っていたので、勢いで
【今度飯行かない?】
と金村に返信した。
「春人、待たせたな。」
「ああ、待ったぞ。」
横柄な態度で答える。
「どうした、何かあったのか?」
「・・・まあいい・・・早く食べよう。」
「お、おう。」
いつものように一人で校舎裏に行く、ミケはいなかった。
珍しく思い、立ち入り禁止の柵を越えてミケを探していると人が棒立ちしていた。
まずいと思い木に身を隠す。
その時、ブーブーと携帯がマナーモードで振動した。
音に吸い寄せられるように落ち葉を踏む音が徐々に近づく。
観念して木陰から出ると顔を真っ青にした高田さんであった。
「ち、ちがうんだ、見回りの人だと思ったんだ、でもこんな時間に見回りなんてしてるの見たことないと思ったし・・・」
と言い訳をしているが高田さんの耳には入っていないようだ。
「田崎くん、どうしよう・・・」
高田さんは何かにおいつめらているようであった。
「どうしよう?」
しめたと思い、丸め込むことにした。
「大丈夫だよ、今から校舎に戻れば授業に間に合う。」
「そうだね。」
高田さんは目がうつろである。
校舎に向かって歩きだし、後を歩こうとしたとき後ろが泥まみれで汚れている。
「後ろ汚れてるけど大丈夫?」
と聞くと高田さんは体が震える。
何かがおかしいと思っていたが我慢できず、興味をかきたてられ、高田さんが棒立ちしていた場所に行く。
我に返り、
「駄目。」
と僕に向かって叫ぶ。
僕は半分茶化すつもりで棒立ちしていた場所に行く・・・
顔が真っ青になった。
男の首にナイフが刺さって仰向けで倒れている。
そこに再び高田も戻る。
倒れている男は鬼ごっこサークルの責任者であった。
「あ、アメショーだ。見て見て真央。」
「林檎、本当?」
「遊んできたら?後期初めて見るから。」
「先にカフェ行っといて。」
一人校舎横を抜けて校舎裏に猫を追いかける。
猫は前足に少し違和感を感じさせる歩きをしていた。
柵を越えて裏山に入ると見失った。
そこに後ろから首を絞められ、抵抗する。
腹に肘打ちを喰らわせ振り払って逃げる、校舎からどんどん遠くなる。
つまずき倒れた。
そして仰向けにされ、男は馬乗りになり左手で首を掴まれ、右手でナイフを取り出した。
にやけながら、
「声出したら殺してやるからな。」
と小声で脅し、ナイフを顏の横の地面に刺す。
それでも声を出し抵抗した。
「誰か助けてーーー」
男は頭に血がのぼり、ナイフを地面から抜いたとき、力を振り絞り両手で男の右手を掴み首に刺した。
血がつかないようにすぐに男を突き飛ばし、服装を整えできるだけ汚れを掃った。
警察に自首しようと、携帯をとりだすも手は震え勇気が出ない、時間が経つにつれてその勇気はなくなっていく。
そこに自分の携帯でない電子音がかすかに聞こえた。
「け、警察に電話しないと。」
携帯を取り出すと手首を握って来た。
「や、やめて・・・」
「大丈夫だ、正当防衛だし状況を詳しく説明すれ・・・」
話すうちに顔を見て察した。
「そうか・・・さらし者になるのが嫌なのか。」
顔を背ける。
「こっちを向け。」
だが顔は背けたままである。
両手で顔をこっちに向け言い聞かせるように、
「さらし者になるか、犯罪者しか選択はない。」
その後落ち葉を幹事長の体にまぶし始めた。
「なにやってんの?」
と止めにかかった。
「アリバイがいる・・・もう午後の授業は始まってるから急いだ方がいい。放課後また来て話し合おう。」
「う、うん。」
幹事長の体を落ち葉で隠した後、高田さんを落ち着かせて二人別の授業に遅れて出た。
ほとんど席が埋まった教室で幼馴染を見つけて、
「悪い、遅れた。」
「珍しいな、あと30分だぞ、最初の10分ノート写せなかったけどいいか?俺も遅刻しちゃってさ。」
「大丈夫だ、自己責任だからな・・・でもノートは後で借りるよ。」
放課後校舎裏に集まる。
「田崎くん、ありがとう。私自首するね。」
「分かった・・・一応二人で見に行こう。」
柵を越えて争った場所に行く。
落ち葉が不自然に積もっている所で驚愕した。
倒れた男が居ないのだ。
「なあ・・・高田?」
殺されると思った、別の場所に遺棄して僕も消されると覚悟した。
「なに?今110番してるけど。」
振り向き、携帯を取り上げ回線を切った。
高田は驚き、静止した。
「ないんだ・・・ないんだよ。」
「なにを言ってるの?」
高田も嫌々見てみると血痕しかなかった。
血痕は山奥のほうに続いている。
「高田さんがどこかに・・・」
「いえ・・・何も知らないけど。」
携帯電話を取り出し、ある人にかける。
「誰にかけてるの?」
「さっきの男だ。」
高田さんは目を開き、怒って校舎裏に戻る。
それをおいかけながら幹事長に電話するが出ることはなかった。
「待て。」
と手を掴むが振り払う。
「知り合いだったなんて、なんで隠してたの?」
「いや・・・高田さんが普通じゃなかったから。」
「今も普通じゃないし。」
すると山奥からゆっくりと落ち葉を踏む音が近づく。
「やばい、隠れるぞ。」
怒っている高田を木陰に引きずり隠れた。
「返って不自然じゃない?」
「様子を見よう。」
その足音は校舎を無視してまた山奥に遠ざかる。
木陰から覗くと服が汚れた幹事長の後ろ姿であった。
「幹事長。」
と叫ぶと、ゆっくりこちらを振り向く。
首には刃物が刺さっていて上半身は血だらけであった。
早歩きで幹事長がこちらに向かってくる。
「ちょっと、固まらないで今は逃げるわよ。」
手を引かれ校舎の柵を飛び越えた。
幹事長は柵を飛び越えては来なかった。
数時間考えたが結論は出ず、真夜中になる。
「生きてるのか・・・」
「とりあえず警察に。」
「いや、この状況をどう説明するんだ?」
「そうは言っても私達じゃあ解決できないでしょ。」
山奥から光が、
「誰か来た、逃げよう。」
「・・・」
大学を出て高田さんを送る。
「家まで送るよ。明日の早朝に校舎裏に行ってみよう。」
「うん・・・ごめんね、こんなことに巻き込んで。」
「いいよ、俺はおせっかいだから。翔にも何度も彼女を悲しませるなって言ってるんだけどな。」
「でも、これは次元が違う話だから。」
女子寮に着き連絡先を念のため交換した。
「じゃあな。明日早朝来いよ。」
「うん。」
と言ってドアを閉めた。
携帯には着信があった。
【明日空いてるよ。】
金村さんからであった。
昼休みの着信メールである。
【じゃあ明日夜レストランで会いましょう。】
深夜家に帰ると、すぐにドアを叩く音がする。
「はい。」
と開けると幼馴染であった。
「春人、なんでこんなに遅いんだ?」
「お前の浮気癖を治せないかどうか高田さんに怒られてたんだ。」
「なんだそれ、心配して損したぜ。」
幼馴染は隣の仮屋に戻った。
早朝に校舎裏に行くと警察が柵の外側に野次馬が校舎裏に集まっていた。
高田さんの姿はそこになかった。
情報は公開されていないが、襲われたのは見回りの警備員だという噂が立っている。
昼休みには全授業臨時休講という異例の放送が流れる。
金村から着信が、
【今から会える?】
【分かった、駅前で会おう。】
と返信した。
直接歩いて駅前に行くと電車は運行休止している。
駅前には大勢の人が立ち往生している。
「大丈夫?」
「金村さん、電車で来たの?」
「噛まれたり引っかかれたりしてない?」
「え、なに言ってるの。」
近くのレストランに行き、話を聞く。
「一体どうしたの?」
「まずこれ見て。」
と動画を見せられた、それは世界各地で反対運動をしている人々を弾圧する武装組織の姿、あらゆる動物を喰らう人々の様子など。
「これを信じろと僕に?」
「ええ、父は国際的なジャーナリストだから感染してない人と逃げろって。」
「日本じゃあありえない。これこそウケる。」
と一刀両断する。
「分かった、あなたに頼ろうとした私がばかだった。」
と金村は言い放ってレストランを出て行く。
「なんだよ、意味が分からない。」