黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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最近、寒くなってきましたね。皆さんも風邪にはお気をつけください:(´◦ω◦`):


十一話 力の差

 

 

 

 フランス料理にフリカッセというのがある。

 フランスの家庭料理で白い煮込み。 バター等の油でたまねぎをしんなりするまで炒め、鶏肉や魚介類を加えて絡めて炒め、ワインやブイヨン、ローリエを入れ、煮立ったら生クリームを加えて作る料理である。

 

 俺が今から作るのもチキンフリカッセというものだが、残念ながら余っている食材で作れるには作れるが大きく、味が落ちてしまう。フリカッセやソテーような料理で味の主役ともいえる食材達が傷んでいたり、鶏肉ではあるけど美味しい鶏ではなかった場合に料理そのものが美味しいと感じられなくなってしまうことがある。料理人は目利きが大事、今日の課題で余った料理人たちに選ばれなかった食材を使って立派なチキンフリカッセに変身させることが出来たらまた、興というものだろう。

 

「ーーどんな食材でも生かすも殺すも料理人の腕次第だ」

 

 

 鍋を中火にかけてバターを入れ、溶かしている間にセロリ、ニンジン、玉葱を適当な大きさに切っていく。切り終わった食材を鍋に入れて五分炒めて焦げないように充分気を付ける。そして問題の鶏肉だ、コイツは一工夫させてもらうぜ。皮面にはやや軽めに塩と胡椒を振りかけ、身の方にはしっかりと塩麹をつけ込む。

 フライパンにオリーブオイルを入れて煙が出るくらいまで熱し、もう一度オリーブオイルを更に入れて温度を下げる。火は中火強~強火で鶏肉の皮面から焼いていくのと同時に刻んでおいたにんにくを入れる。軽く抑えながら、こんがりと焼けるまで待つ。

 

「凄い香ばしい香りだわ……!!」

 

「俺の料理はまだこんなもんじゃないっすよ」

 

 フリカッセは白い煮込みであり、鶏肉に色を付けないように焼くのが正しい元々の作り方だ。だが今回のような食材の力を底上げするためには野菜や鶏をびしっとしっかり焼くことによって香ばしさや味わいがキモになってくるのでチキンフリカッセを仕上げるには必要不可欠な工程だ。もちろん、白い煮込みである以上は白くしないわけにはいかない。

 

 先程の食材を炒めた鍋に鶏肉を入れ、そこに白ワインを適量注ぐ。入れすぎるとワインによっては酸味が残ったり、ワインがきき過ぎてしまったりするから要注意だな。一応、まだ学生の身だし。蓋をして火にかけて蒸し煮にしながら、しっかりとワインを煮詰めていく。

 

「ーーここからが本番だぜ」

 

 

 ワインが煮詰まったのを確認出来たら生クリームを加える。蓋をして中火で生クリームがトロッとソースになるくらいの濃度になるまで火をいれていく。詰まりすぎたら水を足し、ソースの味を確認して旨味が足りないようならフォンドヴォーを少し加えて旨味の補強をする。

 鶏の旨味だけでも充分に食えるだろうが、えりな嬢の神の舌を満足させるにはこれくらいやらないと意味がない。良い感じに煮詰まったら、仕上げといくぜ。器に盛り付け、パセリのみじん切りに黒胡椒を振って完成だ。

 

「チキンフリカッセの完成だ。幸平、そっちはどうよ?」

 

 香ばしい香りに白いソースに絡み合いキラキラと輝きを放つ鶏肉と野菜。自分で作っておきながら今すぐにでも食べたくなるような出来だ。

 

 

 

 

 

「チキンフリカッセの完成だ。幸平、そっちはどうよ?」

 

「おう、こっちも後もう少し出来上がるぜ!!」

 

 

 初めて黒木場と出会った中学三年の秋のことは今でも忘れねえ。俺が作ったゆきひら流・ふわふわ卵の親子丼を食べて何かが足りないと言われた時は正直、驚いた。今まで親父に食べてもらったり、お客さんに振舞ってきてそんなことを言われたことは一度もなかった。

 でも黒木場は親子丼に足りなかった、香辛料の存在。恐らくは意地悪な親父のことだから気付いていて敢えて言わなかったんだなってすぐに分かった。黒木場のおかげで山椒に胡椒を混ぜて親子丼にかけた瞬間に俺の親子丼は未完成から完成という輝きを放つ丼になった。

 

『店の厨房に立ったことねー奴に……か。甘ったれんなよ? 世の中には厨房に立ったことはなくても美味しい料理を作ろうと日々、努力している奴らは大勢いる』

 

 初対面で料理もしたことない、少し料理をかじってるような奴に俺の料理にケチをつけられたと思うと悔しくて、つい言っちまった言葉に黒木場はこう返した。確かにどんな形であれど料理を作る奴はたくさんいる。それなのに俺は厨房に立ったこともねー奴に負けたくないとか変な意地を張ったのは正直、恥ずかしい。

 

『……お前はもっと日本の広さを知れ。ここの料理が全てじゃねえ。自分の料理こそ一番っていうのを証明したきゃ、遠月学園に来い』

 

 黒木場のあの言葉は俺を強く揺り動かすだけの力があった。食事処ゆきひらで店の看板を継いでお客さんに今のまま、料理を振る舞うのはダメだとアイツに思い知らされた。

 だからこそ、遠月学園に編入した俺は自分の知らない世界の広さを知って料理人としての高みを目指す。この学園の頂に上り詰めてみせる。

 

 

「俺はあれから成長したってとこ、見せつけねーとな!!」

 

 沸騰する鍋を開けるとそこには海老とたっぷりの野菜がご飯の輝きを強調するように輝く。まだこの料理は完成していない、ここにさらにみじん切りにした生姜を入れる。海老、野菜、温玉、ご飯。それぞれの食材の力を底上げするには生姜が欠かせない。とろーり温玉に絡み合うご飯、そしてぷりぷりの海老とそのエキスを吸った野菜、その全てを完成させてくれる生姜が雑炊を完成させてくれる。

 

 再度、蓋を開けるとさっきとは全然違う香りがする雑炊。一手間加えるだけで料理は大きく変わるってのをアイツに教わったからな。俺は絶対に黒木場を越えて見せるぜ。出来上がった雑炊を綺麗に皿に盛り付ける。

 

「よし!! ゆきひら流、海老と野菜たっぷりの温玉雑炊のおあがりよ!!」

 

 さあ、勝負といこうぜ黒木場。

 

 

 

 

 

 目の前に置かれた皿、チキンフリカッセ。

 今日の課題で余った食材のみで作ったとは信じ難いほどに見た目は素晴らしいわ。白ワインをベースに煮詰めて生クリームを使ってソースを作り上げたのね、鶏肉がこんがり焼かれているとフリカッセの見た目は落ちるのが普通であるのに対して、このフリカッセでは鶏肉を強調させることなくソースとの絶妙なバランスを保っている。

 

「まずは黒木場くんの作ったチキンフリカッセからいただくわね……はむっ」

 

 

 口の中で感じるバターの風味、じっくりと煮詰められた鶏肉は外はサクッと中はジューシー、なによりソースと全ての食材がこれでもかというほどに互いにぶつかり合うことなく、譲り合って私の舌がとろけちゃう。バカンスに行って最高級のおもてなしを受けているような気分、思わずはふぅ、はだけちゃう。

 食べたら食べた分だけ幸せを感じてしまうわ、ああ、スプーンが止まらない。なぜ止まらないのかしら。本当に美味しいわ。相変わらずの料理の腕前の高さ、あの日よりさらに高みに登っているのが凄く分かる。

 

「なんだよ、あの薙切が……はだけるほどに美味しいってのか!! 黒木場、俺にもくれ!!」

 

「おう、ほれ」

 

「っ!!!! う、うめぇ。こんがりと焼かれた鶏肉がソースと絶妙に合ってる、なんでこんなに合うんだ。普通はこんがりと焼かれたら煮詰めても限度があるんじゃ……」

 

「一口目で気付かないのか、幸平。落ち着いて食えよ、この鶏肉の身には塩麹がつけ込んであってソースとの相性を抜群に良くしているんだ」

 

 ここで塩麹を使うなんて。塩麹は肉を柔らかくすることに主に使われたりすることが多いけど、こんがりと焼いた後に煮詰めることによって外側をサクッと煮詰めて中にまでソースを染み込ませることによって最上級の味が出たというのね、凄まじいわ黒木場くんは。

 

 

「ふぅ、流石ね……黒木場くん。昔より料理の腕を格段に上げているようね。次は幸平くんの海老と野菜たっぷりの温玉雑炊をいただこうかしら……はふっ」

 

 幸平くんの料理は編入試験の時に食べた化けるふりかけご飯のみ、あれからまだそう日は経っていないけど料理の腕が上がっているとも思えないわね。一口、頬張ると温玉がご飯に絡まりあい、ぷりぷりの海老が自らを強調していく。さらにじっくりとコトコト煮た野菜は甘く、海老のエキスを吸っていて甘くて美味しい。

 黒木場くんの作ったチキンフリカッセには塩麹を使っての一工夫があったけど、幸平くんはどうやら生姜を使っているようね。確かに夜ということもあって、生姜に雑炊、味も確かなものだわ。

 

 でも残念ね、幸平くん。あなたはまだまだ黒木場くんには追い付けない。次元が違うわ。あなたは生姜を使っての一工夫があったのは確かだけど、黒木場くんはさらにその先にフォンドヴォーを使って味の補強をしているわ。鶏肉や野菜、ソースをそれぞれ一つにまとめあげて食材達の力を最大限に底上げして活かしている。一流のお店で出してもおかしくないほどに美味しいわ。

 

「どうだ、薙切。俺の雑炊もなかなかのもんだろ」

 

「ええ、確かになかなかのものだわ。化けるふりかけご飯を作った時より腕は上がっている」

 

 でもね。

 

 

「この料理対決の勝者は黒木場くんよ」

 

 

 あなたのような料理人が追い付けるレベルではないわよ。

 

 




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