黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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2016年の9月に掲載開始、気付けばもう2018年の3月。それなのに私の作品はようやく、秋の選抜の本戦に突入。なんという亀さん並みの話の進み方なのでしょう( ・_・̥̥̥ )周りのウサギさんにどんどん追い抜かれる日々です。面白い良い作品を文章量も厚く早く書ける作者の方々、感服します(`•ω•´)読者の方々、亀さん並みの速度の私の作品を読んでいただいて本当に感謝してます。これからも亀さんかもしれませんが長く作品を読んでいただけるととても嬉しいです(*’ω’*)


三十五話 箱に詰められたもの

 

 

 

 

 

 

 薙切、悪いんだけどさ。

 俺はまだスタート地点に立ってすらいないから負けるわけにはいかないんだわ。今日ここでアンタを倒して得るもの全てを俺の血肉に変えてやるよ。黒木場と共に長い時間を過ごしてきたなら同じ料理人としても格が違うかもしれないけどさ、俺も小さい頃から食事処ゆきひらの厨房で多くの料理を振るってきた。本戦の一回戦すら勝ち抜けないようじゃ、ゆきひらの看板を背負う料理人として、この学園の頂点を獲る男として名が廃るってもんだぜ。

 

「へぇ……薙切が作ってんのは三色弁当か。しかも弁当を作る上での想いも乗ってるようだし、分かってんじゃん」

 

「ふふんっ。当たり前よ、幸平クン。自分の料理の全てを捧げられると思う男の子に出会わなかったら今の料理人としての私は存在しなかったと思うわ……もちろん、リョウくんのことよっ」

 

 なるほどな、それほどまでに黒木場のことを想ってたのか。良い料理人ほど自分の全てを捧げられると思える存在がいるっていうのは今ハッキリ分かった。

 黒木場や葉山、アルディーニ兄弟に極星寮の皆にもそんな存在がいるからこそ一番美味しい料理を作れる。俺にとって自分の料理の全てを捧げられると思える女の子にはもう出会ってる、それも今この会場のどこかで俺のことを応援してくれてるであろう女の子に今日出す弁当を捧げる。

 

「……今日はお前の為に作るぜ、田所」

 

 今日の対決テーマである弁当は食事処ゆきひらの料理人として厨房に立ち続けた俺にとって朝飯前。仕出し弁当を食べてもらう上で大切なことは美味しい料理を温かい心と共にと届けること。薙切のように冷たくなった料理でも美味しく食べてもらえるように味が落ちない三色弁当を選ぶのは良い考えだと思うけど、俺は更なるその上を行くぜ。

 

 今日俺が出す品は幕の内弁当だ。弁当の王道して考えられるのはのり弁だったけど、予選の薙切の映像を見たら真正面から料理人としてぶつかりたいと思ってしまったんだよな。薙切が予選で出したコルマカレーは確実にこの大会で黒木場の作ったブリ大根のスープカレーの次に圧倒的だった。だからこそ負けてられねぇ。

 鶏もも肉、水煮タケノコを一口大に切り、ニンジンとゴボウは乱切りにしていく。鍋にゴマ油を入れて熱したらゴボウとニンジンを炒める。さらに鶏もも肉と水煮タケノコ、塩を加えて炒めていく。鶏もも肉の表面の色が変わったら水、しょうゆ、みりんを加えて蓋をして15分程煮たらこれで炒り鶏の完成、器に盛り付けてインゲンを飾る。

 次はシイタケのグリル。シイタケの柄の部分を取り、ひだになっている部分にしょうゆをたらす。魚焼きのグリルでシイタケを火が通るまで8分程焼き、ルッコラと一緒に、器に盛る。

 よし、次は鮭のアーモンド焼きだ。鮭の骨を取り除いて半分に切り、両面に小麦粉をまぶしす。皮がついているほうの面に溶き卵をつけてアーモンドをまぶし、サラダ油を熱してあるフライパンに鮭のアーモンドのついた面から順に弱火で焼く。香ばしい焼き色がついたら上下を返してフタをし、弱火のまま2~3分間焼く。これで最後に余った鶏もも肉で出汁をとって作っておいたスープをランチジャーの容器に移してっと。

 

「良い感じに仕上がったな、最後は容器に俵形ご飯を詰めたら……ゆきひら流、特製幕の内弁当の完成だぜ!! どうぞ、おあがりよ!」

 

 田所の分もちゃんと作ったし、後は審査員に食べてもらって薙切に勝たねえとな。

 

 

 

 

 

 

 お嬢と幸平の弁当が仕上がったみたいだな。後は審査員の次第、敗者と勝者が決する。審査員にはお嬢とえりな嬢の祖父である薙切仙左衛門様も居られるが、食の魔王として呼ばれ畏怖されてるだけあって自身の孫であるお嬢にも決して贔屓目はしないはず。

 

『ーー黒木場リョウ、ジュリオ・ロッシ・早乙女の食戟は食戟管理局が受託致しました! 双方共に条件はよろしいですね? 本戦である二試合目を食戟とします!』

 

『うす』

 

『問題はない。黒木場リョウ、学園最後に瞳に焼き付けるがいい。自分の主人の姿を』

 

 

 控え室のモニターから見るお嬢の姿はいつもと違ってほんの少しだけ逞しく見える。いつもわがままでヤンチャしてばかりのお嬢だが、料理に向き合う心は真っ直ぐだ。えりな嬢と一緒に肩を並べたいという気持ちから最先端技術を用いた調理法を自在に操る料理人になったにも関わらず、今日は一切使わずに幸平とぶつかろうとしている。

 

『た、たまらん!! 何だこの三色弁当はう、美味い!! 肉そぼろに炒り卵が絡み合い、旨みを増させている……それをきぬさやの甘みでしっかりと纏めてご飯との相性を最高まで高めている!!』

 

『仙左衛門殿が、いつの間にかはだけているっ!!』

 

 肉そぼろ、炒り卵の絡み合った旨みをきぬさやの甘みに隠されたレモン汁が肉そぼろと炒り卵の味の奥深さを際立たせているな。冷めても美味しいままを保てるように、と考えての三色弁当とはお嬢考えたみたいだな。

 この流れのまま、お嬢に勝ってほしかったがそうはいかないようだ。幸平が作っていた幕の内弁当、流石としか言いようがないほどの品。

 ただの幕の内弁当なら、お嬢にだってまだ勝ち目は見えたんだろうがアレ程の物を作るとは。幸平が弁当箱に選んでいる上の段、ランチジャーということは一つしかない。おかずにご飯、それぞれを少し残してランチジャーの中に入れてあるであろうスープをかけて即席のお茶漬けの完成。弁当箱を開けて二度楽しめるように、工夫がされてるとみた。

 

「お嬢に冷めても美味しい弁当の作り方のコツは教えたことがあったけど……弁当の楽しみ方、までは教えてなかったな」

 

 お嬢の完敗、だな。

 

 

 

 

 

 

 ありえない。

 そんな風に思った時にはもう手遅れであって何の解決にもならないのは分かってる。私は自分自身が間違えたなんて思わないし、リョウくんから教わったことだけを忠実に守ったわけでもない。ただ、少しだけ幸平クンの強さを見誤ったのと嫉妬したのと、お弁当の楽しみ方というのを知らなかっただけなの。まだ結果は出ていない、私は負けてない。

 

『ふむ……絶妙なバランスで考えられた幕の内弁当、ただそれだけではなく余った鶏もも肉からスープを作り、最後にご飯とおかずを残してスープをかければ即席のお茶漬けが出来る……弁当の楽しみ方を二度に増やすとは中々にやりおる!!』

 

 嫌よ、まだ一回戦なのよ。私は勝って勝ってリョウくんと闘いたいの。御祖父様の温かい視線が私を射抜いた、まるで哀れみを込められてるように見えて直視することも出来ずに視線を外してしまった時点でもう結果は今見えた。

 

『アリス……冷めても美味しい弁当という点を踏まえた品は見事であった! これならばいつ何時でも美味しい弁当を味わえるであろう、しかし幸平創真はいつ何時でも温かい弁当という点に目をつけ、弁当の蓋を開けた時の楽しみ、さらにランチジャーを利用し考えられた即席の茶漬けという楽しみ。これは食べる側を考え抜いた上での料理人としての判断としては誠に最良なものである!! おかずも一品一品が常日頃から研鑽されているのか、非常に美味であったぞ、幸平よ。本戦、一回戦一試合目の勝者は幸平創真!!』

 

『勝者ーー幸平創真』

 

 

 ああ、私は負けてしまったのね。今にも泣き喚いて地面を転がりたいけど我慢我慢。幸平クンを料理人として認めざるをえないわ。料理人としてはまだリョウくんの領域にまで踏み込んではいないと思うけど、料理に対する発想は不思議と心を楽しませてくれる。流石のリョウくんも弁当に対してここまでの発想は出てこないだろうし。

 

「薙切、お前の作った三色弁当を今度俺にも食わせてくれよ!!」

 

「もちろん良いわよっ。でも幸平クン勘違いしないでね? 次に闘う時があったら勝つのは私なんだから!」

 

 

 会場からの大きな拍手浴びながら月天の間を後にする私が向かう場所はもちろん決まってる。自分の敗北なんかがちっぽけに思えてくるほどに重要な闘い。リョウくんとロッシくんの食戟、これでリョウくんが負けようものなら遠月学園を退学になってしまうなんて。ロッシくんを緋沙子に料理人として謝罪させるために退学を賭けるなんて本当に、駄犬なんだから。

 リョウくんのことを考えてるはずなのに先の幸平クンとの闘いがショックだったのか、涙がポロポロと零れ落ちちゃう。主人として笑顔で会場に送り出してあげないといけないのに。

 

「お嬢、泣くなよ」

 

「なな泣いてなんかいないわよ、リョウくんの馬鹿!!」

 

「お嬢の弁当に対しての考えは間違ってねぇ。もし俺が弁当というテーマで料理を作ったのだとしても果たして幸平の発想まで辿り着けたのか自信ないですし」

 

「慰めの言葉なら、屋敷に戻った後でたくさん聞いてあげるっ……だから、次の二試合目を負けたりなんかしたら許さないんですからね、リョウくん」

 

「うす、行ってきます」

 

 いつも見慣れてるはずのリョウくんの背中が少しだけ大きく見えた気がした。

 

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございました´ω`*

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