黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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原作のソーマでは(๑•﹏•๑*)何やら、ドラマの予感がしますね。近頃は暑いので皆さん、水分を取って熱中症には注意してください( 'ω'` )←熱中症に負けた人


四十話 報いるには

 

 

 

 

 秋の選抜本戦二日目、一回戦第三試合。

 対決テーマはハンバーガー。オーソドックスな調理例として牛挽肉、塩コショウ、とナツメグを適量振りかけて混ぜ込んだミートパティを作り、テニスボール大に丸めてから平らに引き延ばしてから、両面に焦げ目がつくくらい加熱し、トーストしたバンズに乗せてからミートパティにケチャップをかけ、サンドにして食す。お好みでトマトやレタス、マスタードなどが挟まれるだろう。

 

 会場内に響き渡る司会の声。対決カードは新戸緋沙子、葉山アキラ。両者互いの実力を知っているだけあって、どちらが勝つか負けるかという検討はつかないけれど緋沙子に勝ってほしいと思う自分がいた。

 いつだって前を向いて努力をし続け、薬膳料理を極めた料理人と天性の嗅覚を研ぎ続けた料理人の両者が持ちうる全ての力を注ぎ込んだハンバーガーともなれば凄まじい一品になるのは確実。

 

 

 隣でムスッとした表情を浮かべているお嬢を余所に緋沙子への不安が胸を覆う。昨日のクラージュの言葉が引っ掛かる。かつて、港町のレストランでの常連客。嘘をつくような奴じゃない、寧ろ正直な女性だったので好感を持てていたが、まさかここで薙切薊という言葉を聞くことになるとは。

 宿泊研修の時に堂島シェフから薊の話を聞いた時、狙いはえりな嬢、もしくは俺かと思っていた。しかしクラージュは俺に関わる人達の名を挙げていた、気を付けろと。えりな嬢には緋沙子が付いているし、お嬢には俺が付いてる。だが、逆を言えば緋沙子と俺には誰も付いてない。

 

 

「まったく……私の駄犬は未だに昨日の美女のことでも考えてるのかしらね」

 

「まっらく、考えひぇらいれす、ふぁい」

 

 お嬢が頬をつまんでくる。結構、強めにつまんでくるので昨日のクラージュが来たことでまだご立腹なんだろう。いつもなら俺が女子と話したりしてても別に顔や態度には全然出さないのに、昨日はそれはもう鬼のようだった。夕食を抜きにされてしまうほどに。

 

「それで今日は緋沙子と葉山くんのどちらに軍配が上がるの、リョウくん」

 

「難しいですね……個人的には緋沙子を応援してるんですけど、葉山の嗅覚と実力だと苦戦は避けられないかと」

 

「本当に駄目駄目な子ね。ここはハッキリと緋沙子が勝ちます、くらいは言ってほしかったのに」

 

 苦戦は避けられないけれど、勝てないとは言っていない。緋沙子が俺に薬膳料理を師事してくれたように、俺も自分の持ちうる技術を、知識を緋沙子に教えている。

 

 

「俺の知ってる新戸緋沙子はここで負けるような料理人じゃないですよ」

 

 頑張れよ、緋沙子。

 

 

 

 

 

 

 対決カードは葉山アキラ。

 対決するテーマはハンバーガー。葉山アキラとはジャンルは違えど、方向性は似ている。スパイスと薬膳という方向性は似ているが決して彼の才能には私は力及ばないということ。葉山アキラが天才であるなら、私は凡才だ。

 天性の嗅覚など持ち合わせていない私が彼と互角に渡り合うのに必要なのは日々の努力。努力の数なら、時間なら誰にも負ける自信はない。えりな様のお傍にいるというのは名誉でもあり、負けることなんてあってはならない。アリス嬢や黒木場くんという強者の料理人がいるのに私だけが弱い、と言われてはえりな様の顔が立たない。

 

「よう……今日は全力を出させてもらうぜ。薙切家の付き人の実力は身をもって知ってるから、手加減なんて出来ないからな」

 

「手加減、か。今日の私はひと味もふた味も違うというのを見せてやる。葉山アキラ、お前は黒木場くんの足元には到底及ばないというのを身をもってもう一度知ってもらう」

 

 視線が交差する。

 葉山アキラは過去に黒木場くんからスパイスの扱いを師事してもらったというのは聞いている。だがそれは私も同じ、黒木場くんに薬膳料理を教えているように、私も彼からちゃんと教わっている。彼の得意とする料理ジャンルの一つ、海鮮料理を。

 

『ーーでは一回戦、第三試合。調理を開始してください!!』

 

 私が作る品は海老のハンバーガー。

 薬膳料理と海鮮料理を合わせて作る、この品はおそらく今まで作って来た料理の中で最も難易度が高い。試作を重ね、ようやく完成させた料理をもって葉山アキラを破る。

 黒木場くんがロッシくんを破るために、自ら薬膳料理を合わせるのは分かっていた。それなら私も彼に少しでも報いるのにどうすればいいのか考えた末に出した答えが、海鮮料理を合わせるというもの。

 

 伊勢海老を使い、薬膳の中でも辛味のあるものを合わせて辛さの中に旨みがある極上のハンバーガーを生み出すためにはどうすればいいのか。パティをライスにすればどうか、など具だけではなくパティにもこだわってみた。全ては勝つために。少しでも葉山アキラという天才を打ち負かすために。

 

 調理へと移ると観客達のどよめきが響く。葉山アキラの方へ目を向けると、薄切り肉を重ねていくのが見えた。ドネルケバブか、最も脂身やスパイスが溶け合う方法を選んできたか。

 しかし、私も負けてはいない。伊勢海老を取り出す。頭と腹との殻の境目の柔らかいところを背腹両面を切る。腹のところをひねってねじ切り、身を頭の中に残さないように身を抜き出していく。

 

「伊勢海老、か。もしかして黒木場がイタリア料理と薬膳料理を合わせたように新戸は薬膳料理と海鮮料理……を合わせようと考えたのだとしたら浅いな。お前には無理だ」

 

「無理? それは違う。出来る、出来ないという話じゃない。私は今日、ここで認めさせる……ロッシくんのように他に私を見くびる人達へ、えりな様のお傍に私が相応しいのだと!!」

 

 必ず作りあげる、極上のハンバーガーを。

 

 

 

 

 

 

 黒木場に関わった奴は変わる。

 それは悪い方向ではなく、良い方向にだ。新戸緋沙子は薙切アリスや薙切えりなに次ぐ、黒木場とそれなりの多くの時間を共にした近しい料理人だ。言うなればリベンジマッチである黒木場との前哨戦だ。

 

「伊勢海老、か。もしかして黒木場がイタリア料理と薬膳料理を合わせたように新戸は薬膳料理と海鮮料理……を合わせようと考えたのだとしたら浅いな。お前には無理だ」

 

「無理? それは違う。出来る、出来ないという話じゃない。私は今日、ここで認めさせる……ロッシくんのように他に私を見くびる人達へ、えりな様のお傍に私が相応しいのだと!!」

 

 新戸の目は本気だった。

 そこに不安の色なんて一切、無いように見える。気負い過ぎなだけなのかもしれない、ただ不安を隠すのに必死なのかもしれない。だからこそ楽にしてやるよ、新戸緋沙子。俺が作る品であるケバブハンバーガーでな。

 

 強者の料理人の傍にいるが故のプレッシャー。常に勝ち続けなければいけない、努力し続けなければいけない、高みへという思いは決して悪くない、褒められることだろう。時としてそれが敗因にもなりうるのは確かだ。俺に勝つことに必死で、きちんと薬膳と海鮮の合わせるのにミスは無かったか、香り、味の深みに間違いは無かったのか。

 

 些細なミス一つで味は変わるし、こだわることによって味は更なる飛躍を迎える。

 

 新戸、お前は戦う前から俺に既に負けているんだよ。薬膳料理、単体ではなく海鮮料理を合わせようと考えた時点でな。

 秋の選抜は自分の武器を最大限に生かすべきだ。薙切アリスのように黒木場から教わったことが仇になって負けたように。良い方向へと変えてくれた料理人が、結果的には負けへと導く、なんていうのは皮肉だな。

 

 教わったことをきちんと生かすには自分ベースでの料理を作らなければいけない。黒木場リョウという料理人をベースにしてしまえば作れるわけがないんだからよ。

 

「努力したのは認めるけど、負けるイメージが思い浮かばないなーー」

 

 悪いが、勝たせてもらう。

 そう呟きながら応援に来ている潤へと視線を向ける。予選ではみっともないとこ見られたからな、今度はきちんと勝つとこを見せてやるよ。

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございました(*•̀ •́)

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