[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです 作:型破 優位
重大発表があります。
シャリシャリシャリ……聴覚的にも涼しい音が鳴り響くビーチでは、現実的にも涼しく快適な気温になっていた。
今この場にはエリカ、美月、雫、深雪、佑馬、ジブリールがいる。
そこに遊泳から帰ってきたレオが加わり、首を傾げる。
「あれ、達也と……光井はどうしたんだ?」
「向こうで、ボートに、乗っているよ」
それに答えたのは同じく遊泳から帰ってきて疲弊している幹比古。言われて見ると、確かに遠洋へ向かうボートが一つ。達也とほのかのシルエットが見えていたが、それは中々に奇妙な光景だった。
その二人の間に現れる人物が一人。
「なあ二人とも、あれ見てどう思う?」
「ちょっと佑馬君っ!」
「いい雰囲気だと思うぜ」
「そうだね」
その瞬間、二人の背筋に寒気が走った。
嫌な予感がしたのもそうだが、単純に気温が下がったのだ。
そして聞こえる、聴覚的には涼しい、だがあまり良い気がしない音。エリカはもうどうなでもなれと言った風に、佑馬は思い通りの事をしてくれたレオと幹比古に口を吊り上げ、その二人はお互いに隣へと視線を向けた。
「吉田君、よく冷えたオレンジは如何かしら?」
愛想よく話しかけられて、幹比古はカクカクと頷きながら深雪から冷え過ぎたオレンジを受け取った。
計ったようなタイミングで、黒沢からスプーンが差し出され、佑馬がヘタの周辺を取り除いて掬いやすい形へとカット。
シャーベット用のスプーンを手に取る幹比古に、深雪は新たなフルーツを手にして再び生シャーベットを製造、今度はレオへと渡した。
「西城君もお一つどうぞ」
「あ、どうも……」
そして再び計ったようなタイミングで渡されるスプーンに、視線が移ったタイミングで食べやすいようにカットされるヘタ。あっという間に生シャーベットの完成だ。
深雪はまだ八つ当たりが足りないのかフルーツに目を向けたが、どうやらフルーツへの八つ当たりはもう飽きたらしく視線を外し、そしてまた視線を向けた。
声をかけられたからだ。
「深雪、俺はリンゴでお願い」
「それでは私は桃でお願いします」
「二人とも私をなんだと思っているのですか?」
「なんか作り足りなさそうだからついでにってさ」
「佑馬の分のついでですね」
「答えになっていないのだけど……まぁいいわ」
今の深雪の状態を知っている者はこの行動には唖然とするばかり。
深雪は現在、仕方がないとはいえほのかに嫉妬丸出しの状態なのだ。こうなった原因は一時間ほど前に遡り、佑馬とジブリールが遠洋で遊んでいた時の荒波が深雪達の乗っていたボードを直撃。達也が助けに入りほのかをボードへと上げた際、デザイン重視のだった水着が取れてしまっていたために見てしまったのだ。
その償いが、今のほのかと達也の状況。
つまりは佑馬とジブリールが悪いわけなのだが、そんなことを御構い無しにこの対応なのである。
それは唖然もするだろう。
再びシャリシャリという音ともにリンゴでシャーベットを作った深雪はそれを佑馬に渡し、そのタイミングで黒沢がスプーンを差し出そうとするも、それを制止。魔法式を発動してそれを溶かし、何処から取り出したのかストローを刺して飲み始めた。
果汁百パーセントジュースである。
ジブリールもまた同じようにジュースにして飲み始めた。
この二人、本当に自由である。
「やっぱり夏は冷えたジュースだよなー。反射してるから別に暑くないけど」
「そうですね。私も全く暑くありませんが」
「佑馬君もジブリールも、もうわざとやってるよね?」
「当たり前だろ」
「勿論です」
「うわぁ……」
深雪が嫉妬に向いているのを良い事に好き放題やる二人にはさすがのエリカも引き気味だ。レオと幹比古はもう知らないフリをして夕焼けを見ながらシャーベットを食べている。雫はぼーっと、美月はずっとオロオロしているためこの二人はある意味平常運転と言えるだろう。
そして再びフルーツの山に目を向けた深雪だが、今度こそ飽きたようで視線を外して立ち上がった。
「雫、悪いけどわたし、少し疲れてしまったみたい。お部屋で休ませてもらえないかしら?」
「良いよ、気にしないで。黒沢さん?」
「はい。深雪お嬢様、ご案内致します」
黒沢に続いて、深雪が別荘の中に姿を消した。
今まで縮こまっていた美月がホッとした顔になり、エリカも佑馬達のせいでいらない気苦労を強いられてため息をついた。
◆◆◆
夕食は、バーベキューだ。
黒沢と佑馬、ジブリール―――佑馬とジブリールが遊び―――で取ってきた海の幸を主に、準備してある食材を次々とコンロで焼いていく。
深雪も一休みして落ち着きを取り戻したのかほのかが甲斐甲斐しく達也の世話を焼いている姿を前にしても、気にせずエリカや雫と楽しげにおしゃべりしている。
美月は昼のティータイムが軽いトラウマになったのか、深雪たちと少し離れた席で幹比古と遠慮がちな会話を交わしている。
レオは専もっぱら食べる方に口を使っており、黒沢はほとんどレオ専属の給仕係と化し、ジブリールは佑馬の隣へ、佑馬が基本的に全体の焼き係を担当していた。
無論、はっきりとしたグループ分けがされているわけでもなく、時に、ほのかは深雪たちの輪へ加わり、達也はレオとフードファイトを繰り広げたりした。
しかし全員が感じていた。
いつにも比べて、空気がぎこちないことを。
◆◆◆
「少し外にでない?」
「……いいわよ」
夕食後、レオはふらっと出ていって、女性陣はカードゲームを、達也と佑馬が将棋をするなか、美月の負けで決着してすぐ、雫が深雪を誘ったのだ。
一瞬戸惑った深雪だが、すぐにニコッと笑って頷いた。
「……えっと、お散歩ですか? じゃあ、私も」
「美月はダメよ。罰ゲーム、あるんだから」
深雪の後を追って立ち上がりかけた美月だが、そのシャツをエリカが掴んで引き止めた。
「えぇ!?聞いてないよー」
「敗者に罰ゲームはつきものなの。じゃ、そういうことで、二人とも気を付けて」
エリカは、気づいていた。
雫と深雪の間に漂う、張り詰めた空気に。
それはレオも同じで、ふらっと出ていったのはこの空気の兆候を嗅ぎとったからだろう。
もちろん、佑馬も気がついていたが、今はそれどころではない。達也との将棋はかなり白熱したものとなっていた。盤面を制しているのは当然佑馬だ。
あの二人で一人の最強のゲーマーと互角にやり合ってきた彼がゲーム勝負において遅れを取ることなどあり得ない。それが例え達也であっても、だ。
「王手」
そして八十二手目、佑馬が王手をかけた。
最早、誰がみても明らかな達也の劣勢。観戦している幹比古も固唾を呑んで勝負の行方を見守っている。
逃げの一手を打った達也。
完全に打たされたものだ。
「王手」
再び、佑馬が王手をかける。
だが、それは一つ前に出た歩によって防がれた。
そこで、達也と幹比古が同じタイミングで気づく。
いつのまにか、佑馬の陣形が変化しており、難攻不落準備のものとなっていることに。
恐らく達也はここで勝負が合った事を察しただろう。それから更に数十手。予感の通り、その勝負が終わりを告げる。
「王手っと。詰みだぜ達也」
「……参った。さすがに強いな、佑馬」
佑馬の圧勝だ。
しかし一手でも失敗したら流れが変わるという白熱具合に、幹比古も含め三人はかなり清々しい様子だ。
「やっぱりゲームはいいもんだ。久しぶりに楽しかったぜ?」
「ああ、俺もここまで強いやつは初めて見た」
「だろうな。俺よりも確実に強いと言い切れる奴を俺は一人だけ知っているからな」
「ジブリールか?」
「いえ、私ではございませんよ?」
佑馬達の会話が聞こえてきたのか罰ゲームをしている美月を横目にスッと現れたジブリールは即答した。ある程度は理解しているが、恐らくジブリールもとてつもなく強いだろう。
「ちなみにジブリールも強いぞ?」
「なんとなく分かってはいたよ」
「まぁ達也ならもしかしたら勝てるかもしれんけどな」
「おやおや、それはさすがに聞き捨てなりませんよ佑馬? 帰ったら私と決着を付けましょうか」
「望むところだ」
「あ、あの達也さん!」
何故かばちばちと火花を散らせる二人に、だが若干大きめのボリュームでいきなり放たれた声に、彼らは視線を声のする方へと向けた。
「どうした、ほのか?」
「えっと……外に出ませんか?」
チラッ、と三人を見る達也。
それに頷き返す三人。
「いいよ」
そのままほのかと達也は外へ出ていき、この場には佑馬とジブリール、幹比古しかいなくなってしまった。
「ジブリール、今ここで勝負だ」
「勿論そのつもりでございますよ?」
◆◆◆
次の日、何故か朝から熱い熱い闘いが繰り広げられていた。
「お兄様、お背中を。日焼け止めを塗りますので」
「達也さん、ジュース、飲みませんか?」
深雪と、ほのかだ。
「雫がジェットスキーを貸してくれるそうです。乗せていただけませんか?」
「少し沖に出るとダイビングスポットがあるそうですよ?」
昨日、達也とほのかの間で何があったのか、深雪と雫の間で何があったのか佑馬たちにはわからないのだが、何かがあったのは間違いない。
達也は深雪とほのかのリクエストを順番に、時にため息をつきながらさばいていく。
そんな達也だったが、何処か楽しげに、いつもよりはリラックスしているかのように佑馬の目には映った。
なんと私の師匠(勝手に言ってるだけ)のオウカシリーズで有名なあのこいしさんの一次小説が商品化することとなりました!
それに伴い私もこちらを更新しました!
本当におめでとうございます!
更新遅れてしまい、申し訳ございません!
次回から恐らく横浜騒乱編になるかなー?って思ってます。