①戦闘前にエナジーブレッドを持てるだけ買い込みます。
②戦闘中、コングマンにすべて叩きつけます。
③コングマンが倒れない場合はフレアボトル等を使って倒します。
④最終手段として古代兵器(召喚魔人)を用意しておきましょう。
というお話です。
フィッツガルド地方の南端にある都市、ノイシュタット。
地方一栄えた港町は人の活気で溢れる街だ。
一方でその賑わいとは別に貧富の差が問題になっている街でもある。
そんなノイシュタットには力自慢が集う闘技場がある。
町の名物でもあり、大衆の娯楽の一つだ。
その中心に青年はいた。
彼の名はスタン・エルロン。
ノイシュタットと同じフィッツガルド地方にあるリーネ村の出身だ。
(どうして、俺はここにいるんだろう)
彼は自分がここにいる理由を考えていた。
現在、彼は闘技場の試合に8連勝し、チャンピオンへ挑戦する直前である。
後は試合会場にチャンピオンが登場するだけとなっていた。
今か今かとチャンピオンの登場を待つ闘技場にいる観客達。
スタンは観客席からのボルテージの高まりを感じ身震いがした。
(うぅ、気分は悪くないけど緊張するなぁ。それもこれも全部あいつが……)
彼の頭の中に、一人の仲間が思い浮かんでいた。
同じソーディアンマスターで金の亡者な人間。
その顔を思い浮かべて、溜め息を一つ吐く。
彼はここに至るまでの経緯を思い起こした。
~ノイシュタット レンブラント邸~
「納得できなーい!!」
荷物整理をしていた少女が突然大声を出した。
スタンは何事かと、声を上げた少女のいる部屋へ向かった。
「どうしたんだよルーティ」
二階にある部屋へと到着したスタンは大声の張本人に声をかけた。
ルーティと呼ばれた少女はスタンの方を見て、苛立ちを隠さずに言った。
「昨日の海賊退治で拾ったアイテムがしょぼ過ぎんのよっ!」
その言葉に彼は首をかしげる。
「え、アイテムなんか落ちてたか?」
「アンタは敵しか見えてなさそうだったものね」
「いやぁ、それほどでも……」
「褒めてないわよ」
彼は照れ照れと頭を掻く。
その様子に呆れたと言わんばかりに彼女は溜め息を吐いた。
彼らは昨日、ノイシュタット近海で略奪行為を行う海賊船団を退治した。
その海賊を指揮していたバティスタという男で、それを捕縛。
しかし、その日の夜にバティスタに逃げられ、スタン達は男を追うことになったのだ。
その準備のため、現在彼らは拠点としていたレンブラント邸にて荷造りを行っているのである。
余談だが、レンブラント邸はレンズによる事業を展開しているオベロン社の幹部、シャイン・レンブラント、イレーヌ・レンブラント親子が構える邸宅だ。
「騒々しいぞ、何事だ」
と、そのとき部屋に一人の少年が入ってきた。
「リオン」
スタンが少年の名を呼んだ。彼がリオンに事情を説明する。
すると少年はくだらん、と吐き捨てた。
途端、その言葉に食って掛かるルーティ。
「何ですってぇ!?」
「くだらんと言ったんだ。お前の耳は腐ってるのか?」
「ふんっ、そういうアンタは性根が腐ってるみたいだけど?」
「なんだと!?」
「なによ!!」
「まぁまぁ、落ち着けって二人とも」
スタンは睨み合う二人の間に入って仲裁を行う。
するとルーティの怒りの矛先がスタンへと向かった。
「元はといえば、アンタが考えも無しに手当たりしだい敵相手に向かっていったのが悪いんじゃない!!」
「なっ!?お、俺だって考えて動いてたぞ!」
「へぇ~、どんな考えなのよ」
「えっと……出会う敵は全部倒す、とか」
「それが考えも無しに動いてるっていうのよ!!」
「あべし!」
ルーティの突っ込みと共に放たれた右ストレートを顔面にもらうスタン。
付き合ってられない、とでも言わんばかりにリオンはため息を吐いた。
「準備が終わったら、さっさと下に降りて来い」
そう言ってリオンは部屋から出て行く。
その後ろ姿を見つめながら、ルーティは口を尖らせながら言った。
「何よ、偉そうに」
「いたた……。んじゃ、俺も下で待ってるよ。早く来いよ」
そう言って、殴られた頬を押さえながら、部屋から出て行くスタン。
わかってるわよ、とぶつぶつと文句を言いながらルーティは荷造りを再開した。
・・・・・
「お待たせ!」
荷造りを終えたルーティが一階の広間に降りて来た。
既に広間には準備を終えた仲間が集まっており、どうやら彼女が最後のようだった。
リオンが彼女を見て言う。
「遅い、どれだけ時間がかかるんだ」
「うっさいわね、これでも急いだんだから」
「まぁまぁ」
二人の間に先ほどと同じように割って入るスタン。
彼らはそれ以上の口喧嘩は行わず、素直に引き下がった。
リオンは一度、咳払いをしてからスタンたちに向かって話し始めた。
「それでは、これからバティスタを追う。奴が逃げ込んだ先はアクアヴェイル公国だ」
「あー、それって東のほうにあるんだっけ?」
「そうだ。現在はセインガルドと敵対関係にある。心して臨め」
スタンの問いにリオンが答える。
そして彼はメンバーに促すようにして言った。
「イレーヌに船を手配してもらっている。港へ行くぞ」
「ちょっと待ったぁ!」
「どうしたんだよルーティ」
リオンの言葉に待ったをかけるルーティ。
スタンはぐいっと前に出た彼女を不思議そうに見つめながら言った。
「却下だ」
「まだ何も言ってないじゃない!!」
ルーティの言葉を待たず、判断を下すリオン。
納得のいかないルーティは声を荒げた。
「どうせくだらん思い付きだろう」
「チッチッチ、これはパーティにとっても大事な話なのよ」
ふふんと得意げな顔をする彼女に、仲間の一人である大柄な女性が復唱した。
「大事な話、か?」
「そうよマリー。大事な話よ」
女性をマリーと呼んだルーティは、いい?と人差し指を立て言葉をつむぐ。
「これから私達は敵陣に殴りこみに行くところでしょ?今すぐに行くよりは、少しでもお金を貯め、力をつけ、アイテムをストックしておく必要があるわ。準備をしたとはいえ、今のままじゃ物足りないじゃない?」
「確かに、その通りですわね」
仲間の、眼鏡をかけた少女=フィリアが同意を示す。
ルーティはそれに気を良くし、笑顔で話を続けた。
「でしょ!そして、それを全て満たせられる所がこの街にはある!」
「「「?」」」
「それはね、闘技場よ!」
首をかしげる仲間達に、彼女は意気揚々と言葉を発した。
「闘技場で試合をして勝ち進めば賞品でアイテムが貰えるし、モンスターと戦うんだから力もつくわ!」
「だからこれから私達は闘技場に「却下だ」
「まだ全部言い切ってないじゃない!」
全てを言い切る前に否定したリオン。
その態度にルーティは腹を立て文句を言う。
「お前はバカか?僕たちは一刻も早くバティスタを追わなければならないんだ。そんな事をしている時間はない」
「大丈夫よ。私たちが行かなきゃイベントなんて進まないんだから」
「メタ臭い話をするな!とにかく却下だ!お前等は自分の立場を分かっているのか!?」
「なによ!このどケチ!お子様ランチ!」
怒りを露にするリオンに対し、彼を罵倒するルーティ。
するとリオンはポケットに入れていたスイッチに手をかけ、ボタンを押した。
「キャアアアアアアアアアアアア」
すると、ルーティがとある事情により身に着けていたティアラから電撃が流れ出す。
彼女はそれに耐えられず、悲鳴を上げた。
「ルーティさん!?」
「リオン!」
「その女には電撃なんぞ軽いものだ。お前たちもこうなりたくなければ、黙って来い」
そう言って、リオンはレンブラント邸から外に出る。
マリーはルーティに声をかける。
「大丈夫か、ルーティ」
「ぐぬぬ……覚えてなさいよぉ」
よろよろと立ち上がるルーティ。
彼女はリオンの後姿を目で追いながら、いつの日かのリベンジを誓うのであった。
~ノイシュタット港 船着場~
港に着いたスタンたち一行は、さっそく船着場へと向かった。
到着した船着場では何やらあわただしく人々が動いている。
そこで指示を出していた一人の女性が、一行に気づき、声をかけてきた。
「あ、リオンくん。みなさんも」
「すまないイレーヌ、待たせたな」
イレーヌと呼ばれた女性は首を横に振った。
腰まで伸びる薄紫の長い髪が揺れる。
「そんなことないわ。それに謝らなければならないのはこっちだもの」
「どういうことだ?」
イレーヌの言葉にリオンは怪訝な表情を見せる。
「実は、船の整備中に不具合が見つかってしまって。それを直すのにかなり時間がかかりそうなの」
「多少の不具合なら、僕等は問題ない」
「駄目よ!リオン君達を少しでも危険な目には遭わせられないわ!それにリオン君に何かあったらヒューゴ様に顔向けできないもの……」
「……それなら、他に代わりとなる船を出してくれないか」
「代わりになる船は全て出払ってしまっているの。出せる船は故障中のこの船だけ」
「打つ手なし、か」
「ごめんなさい、リオン君。こちらの不手際のせいで……申し訳ないわ」
「いや、気にするな。それなら修理が終わるまで僕達は……」
「闘技場に行くわよ!!」
リオンとイレーヌのやり取りを黙って聞いていたルーティが大きな声で高らかに宣言する。
途端にリオンは眉をひそめた。
「おまえ、懲りずにまだそんなことを言ってるのか」
「だって今やることないんでしょ?それなら別にいいじゃない。それに闘技場に出れば力もつくし、アイテムも手に入るわ!ねぇ、イレーヌさん?」
ルーティはイレーヌに同意を求める。
リオンが、何を言ってるんだ、と言葉を口にしようとした瞬間だった。
「あら、いいと思うわよ」
「イレーヌ!?」
イレーヌがルーティに同意したのだ。
てっきり反対するものだと思っていたリオンは驚いた表情で彼女を見る。
ルーティは彼女の言葉に満足気な様子だ。
「ほうら!イレーヌさんもこう言ってる訳だし、ちゃっちゃと闘技場に行くわよ!」
そう言って、気分良さそうに闘技場へと向かうルーティ。
いきなり歩き出した彼女に、仲間たちは慌てて付いて行く。
「お、おい!待てよルーティ!」
「やれやれ」
「あぁ、皆さん!お、お待ちください~」
「お、おまえら!勝手に……」
差し出しかけた手が空しく空中で止まる。
そんなリオンにイレーヌが声をかけた。
「こんなときにこう言うのも不謹慎かもしれないけれど、リオン君」
「……なんだ?」
「たまには羽根を伸ばすことも大切よ?」
イレーヌの言葉に、リオンは俯く。
「僕は……」
「?」
「いや、なんでもない」
リオンは言いかけて、しかし続く言葉を飲み込む。
彼のその様子に、イレーヌは優しい微笑を浮かべた。
「ちょっとした気晴らしだと思って、ね?」
数秒間リオンは考え込んだ後、首を横に振り、顔を上げた。
「……ふぅ。馬鹿共のお守りも楽じゃないな」
「ふふ、数時間経ったらまた来てみて。そのころにはきっと、修理も終わってると思うわ」
「分かった。よろしく頼む」
「ええ」
『(お守りも楽じゃない、か。それは僕の台詞だけどね)』
「シャル、何か言ったか?」
ソーディアンであるシャルティエは自分の使い手の勘の良さに驚いた。
『な、何も言ってないですよ!坊ちゃん!さぁ、早く皆さんに追いつきましょう!』
シャルティエは狼狽しつつも、なんとか話を逸らそうと、己のマスターを闘技場へ行くように促した。
・・・・・
・・・
・
(……で、そのあと無理矢理、ルーティに試合に出されたんだっけ)
ここまでの経緯を思い返していたスタン。
すると、タイミング良く闘技場の実況者の声が闘技場内に響き渡った。
『レディース、エェェェンド、ジェントルメェェン!いよいよこれから待ちに待った決勝戦が始まるぜ!!』
今か今かと待ち望んでいた決勝戦開始の言葉に、観客の歓声に場内が沸く。
スタンはごくりと一度、唾を飲み込んだ。
『チャレンジャーはスタン・エルロン!リーネ村出身という田舎からやってきた青年だ!!』
(田舎は余計だろ!)
実況の言葉にスタンは少し不満気に口を尖らせる。
しかしスタンの思いは当然ながら実況には届かない。
『そして対するはノイシュタットの誇る伝説的英雄!』
『武器防具の類を一切身に付けず、己の肉体のみで戦うことを信念とした漢!』
『小細工なしの一発勝負のチャンピオン!その男の名は……』
「「「「「コング!コング!コング!」」」」」
テンションの上がった実況を受け、場内360度から熱い声援が巻き起こる。
実況者もこれに気を良くし、チャンピオンを盛大にコールする。
『マイティィィィィィィコングマァァァァァァァァァァンッッッ!!!』
その言葉に呼応するかのように、地鳴りの様な歓声が場内に響き渡る。
そうしてフィールドに現れたチャンピオン=コングマンはいつもの台詞を言い放つ。
「俺様がチャンピオンよ!」
『両者が向かい合い、火花を散らす!今、戦いの火蓋が切って落とされようとしているッ!!』
コングマンはスタンを一瞥すると、口の端を上げた。
「また来たな、トンガリ頭!」
「今回こそは勝たせてもらう!」
そう言って、スタンは自分の相棒であるディムロスを構えた。
『さぁ、試合の始まりだ!!』
「へっ、せいぜいやってみるんだな坊主!」
「勝負だ!脳みそ筋肉ゴリラ男!」
ぴくっとコングマンの眉が動く。
『レディィィ……』
「だ、誰がゴリラ……だと?」
「お前しかいないだろ!ツルツル頭!」
ぶちっ。
スタンの言葉にコングマンの中で何かが切れた。
『ファイッッッ!!』
「ぶっころす!!」
コングマンは怒り心頭で合図と共にスタンへと向かっていく。
するとスタンは道具袋の中から何かを取り出し、それを地面へ叩きつけた。
「てりゃ!」
「グワッ!?」
すると、スタンの出した何かから電撃が一直線にコングマンへ襲い掛かった。
電撃を受けたコングマンは動きが止まり、戸惑いを見せる。
「な、なんだこれは!?」
「もう一丁!」
「ぐうぅ!?」
スタンは次々と電撃を発射する物体を地面に叩きつけていく。
コングマンは何とか前へ進もうとするも、何度も電撃を浴びて動こうにも動けない状態だ。
その様子を観客席から観ていたルーティが声をあげる。
「ちょ、あれって……」
「あれはエナジーブレッドだ」
ルーティの言葉にリオンが答える。
彼の答えにフィリアが反応した。
「エナジーブレッド……と申しますと、オベロン社の製品ですか?」
「そうよ。前方に向けて電撃を発射して、敵を撃退する使い捨てのアイテムね」
彼女の質問に今度はルーティが答える。
そしてルーティは訝しげな目で戦闘中のスタンを見て言った。
「それより、どうしてあいつがそんなものを持ってるのよ」
「そういえば、海賊船退治の前に、スタンがレンズショップで何か買っていたようだったが」
「マリー、それ本当!?」
ルーティは驚いてマリーに尋ねる。
ああ、とマリーが頷いた。
するとルーティは、戦っているスタンを睨んで呟いた。
「あいつ、いつの間に……」
「これで、ラストだ!」
「ぐぬっ!」
スタンが最後のエナジーブレッドを使い終えた。
電撃の嵐にコングマンは耐え切ったものの、大ダメージを受けたようで少しふらふらとしている。
「どうだ!これが現時点で出来うる、最高のコングマン対策だ!」
「ぐっ、正々堂々と勝負しやがれ……」
「こっちのレベルが足りないんだから、仕方ないだろッ!」
「わ、訳わかんねぇこと言いやがって……」
しかしコングマンは歯を食いしばると、体勢を立て直し、叫んだ。
「だが……これで倒れる俺様ではなぁぁぁい!!」
「なっ!?」
雄たけびを上げ、スタンへと猛ダッシュするコングマン。
彼の気迫にスタンは思わず1歩後ずさりしてしまう。
「ロンブショルダァァァァァ!!」
「ぐあぁ!!」
コングマンの拳がスタンを捉える。
強烈な一撃を貰い、スタンは大きく後方へと吹っ飛んでいった。
「どうだ坊主!俺様が、チャンピオンよ!」
「「「「「コング!コング!コング!」」」」」
コングマンのその姿に、観客からコールが巻き起こる。
スタンはよろめきながら何とか立ち上がると、道具袋に手を入れた。
「くっ、こうなったら……」
「あぁ?」
「出でよ、シルフーーー!!」
スタンが道具袋からまたもや何かを取り出し、掲げて叫ぶ。
すると、上空から巨大な半獣半人が姿を現した。
シルフと呼ばれて現れたそれは、腕が羽に、足が鳥の鍵爪となっている。
「なんだぁ、こいつぁ……」
コングマンはそれを見て思わず呟いた。
それの見た目は魔物のハーピーのようだが、その体から醸し出す威圧感は到底そこらの魔物の比ではなかった。
「舐めるなァ!俺様はチャンピオンだぁぁぁぁぁ!!」
しかしコングマンは怯まなかった。
王者としての誇りが彼を突き動かす。
彼はスタンと、その半獣半人=シルフに向かって行った。
するとシルフは、羽を大きく振り、強烈な風を巻き起こした。
風は刃となってコングマンに襲い掛かる。
「くっ……ぐああああああああああああ!!」
さすがのコングマンでもこれには耐え切れなかった。
風が止み、シルフが消え去ったあとには、地面に突っ伏すコングマンの姿があった。
暫く場内を静寂が包んだ。
あまりの展開に呆然としていた実況者がハッとして我に返って、叫んだ。
『ち、チャンピオン撃沈ー!!勝者は挑戦者、スタン・エルロンだぁぁぁぁぁ!!』
「やったぁ!」
実況の声が場内に響き、スタンがディムロスを天高く掲げる。
激闘はスタンの勝利に終わった。
・・・・
・・
・
「皆!勝っブファ!?」
闘技場の控え室。
仲間たちの下へと意気揚々と戻ってきたスタンだったが、出迎えたのはルーティの右ストレートだった。
彼は後方に吹っ飛び、尻餅をついた。
「な、何をするんだ!」
抗議の声を上げるスタン。
手をポキポキと鳴らすルーティの形相は、まるで般若のようだ。
「ス~タ~ン~」
「な、なんだよ。ちゃんと言うとおり優勝してきたじゃないか!」
「その優勝の仕方が問題だって言うのよ!!」
「どういうことだよ!」
「エナジーブレッド」
「!」
彼女の呟きにスタンは焦り、冷や汗を掻く。
「アンタ、エナジーブレッド15個、持てるだけ買ってたみたいね?」
「い、いや、それは、昨日海賊退治で、もしかしたら使うかもと思って買ったんだけど……」
「相談も無く?」
「……あぁ。相談しないで買ったのは悪かったよ」
スタンは申し訳無さそうに謝った。
その姿を見て、ルーティは話を進める。
「まぁ、いいわ。それに関してはこれ以上問わないであげる。一応、海賊相手に使うかもしれなかったし」
スタンは内心、ホッとした。
てっきりルーティのことだから烈火の如く怒るのではないかと思っていたからだ。
現に彼は先ほど彼女より右ストレートを受けている。
「そしてもう一つ、問題があるわ」
「?」
なんだろうか、とスタンは首を傾げた。
「どうしてシルフを使ったのか、よ」
「あ、あぁ。それはその……」
「あそこまで追い詰めてたんだから、使う必要もなかったわよねぇ……?」
「えっと、それは……」
「それは?」
「コングマンの気迫に負けちゃった、かな」
てへっ、と困ったように笑うスタン。
ぶちん。
ルーティから何かが切れる音がした。
「負けちゃった、じゃなああああああああああああああい!!」
「ひぃい!?」
「レアアイテムを無駄遣いしてんじゃないわよっ!!」
「だって……」
「だっても何も無い!!古代兵器なんてそうそう手に入らないのに!!」
「し、仕方が無かったんだよ」
「どこが!?フレアボトルでも飲んで殴り合いなさいよ!このスカタン!!」
「だ、誰がすかたn」
「アンタだあああああああああああああああ!!」
「ばべし!?」
スタンはルーティから右アッパーを喰らう。
そのとき、控え室にスキンヘッドの大男が入ってきた。
「おい、坊主!」
「こ、コングマン!?」
「……あ?何やってんだおめぇら」
「別になんでもないわよ。で、この馬鹿に何か用?」
二人の様子を不思議そうに見つめるコングマンをルーティが促す。
コングマンはおう、と頷き、スタンに向かい合った。
「おい坊主、俺様も一緒に連れて行け」
「は?いきなり何を……」
彼の突然の申し出に困惑するスタン。
「何を言ってやがる。お前が勝って俺様が負けた。当然、敗者は勝者に従うってもんだ」
「ちょっと、それって私たちの旅について来るってこと?」
傍でやり取りを聞いていたルーティがコングマンに質問をする。
「そういうことよ」
「ということは、その間ノイシュタットの闘技場にチャンピオンはいない?」
「おう?……おう。そらぁ、そうなるな」
「ならオッケー。ついて来てもいいわ」
「ルーティ!?」
ルーティが承諾したことに、思わずスタンは声を上げた。
彼も、他の仲間たちも皆、彼女の言葉に驚く。
しかしルーティはそれを気にする素振りもなく、スタンを指し、命令口調で言った。
「そしてアンタは今から闘技場の試合に出なさい!」
「また!?」
「当っ然!チャンピオン不在=コングマンと戦わない⇒楽に勝ち抜ける=賞品ガッポリゲットって図式よ!」
「でも……」
「でももへちまもなぁーいッ!ほら!さっさと試合に出た出た!!」
「わ、わかったよ……」
ルーティがスタンに出場するよう煽り、彼は渋々といった様子で承諾する。
「シルフ消費分はちゃんと取り戻してきなさい!!じゃないと、後で酷いわよ……ッ!!」
「は、ハイ!!」
ルーティの威圧感に屈したスタンはすぐさま立ち上がり背筋をピンと伸ばした。
彼らの様子を見ていたマリーがリオンに問いかける。
「いいのか、リオン」
「……まだ時間はある。それに、今はあの馬鹿女と関わりたくない」
「そうか」
マリーの言葉に答えたリオンは、うんざりだといわんばかりに溜息を吐いた。
こうしてスタンは闘技場の試合に何度も出場することとなった。
イレーヌから船の修理が終わったことを告げられるまで、彼の受難は終わらない。
「これで10回目だぞ!!もう試合に出るのはいやだぁああああああああ!!」
「うるっさい!優勝賞品のグミセットじゃシルフ代なんて中々賄えないんだからね!!」
「マリーさん。私たちはどうすれば……」
「私達に出来る事は祈ることだけさ、フィリア」
「おい、ところでこれから何処に向かうってんだぁ?」
(まだ船の修理は終わらないのか……)
”彼”の受難は、まだ終わらない。
END