食戟のトニオ・トラサルディー Sesame's Treet (ソーマXジョジョ) 作:ヨマザル
静・ジョースター
彼女は赤ん坊のころ、東方 仗助の父、ジョセフ・ジョースターが杜王町で発見・保護した女の子だ。仗助とジョセフの必死の捜索にもかかわらず彼女の父と母は見つからず、彼女はジョセフの養子となってニューヨークで生活していた。
高校生になったのを機に自分のルーツである杜王町に戻ってきたのが、つい半年ほど前のことだ。
そんな彼女は山中を必死に走っていた。藪をかき分け、木の根を飛び越え、息を切らせて走る。吉野が森の中に駆け込んでいくのを発見し、彼女を守るべく必死に追いかけていた。
「ちょっとアンタッ! リョーリはどうしたのよッ」
静は前方に見える吉野の背中に向かってどなった。
「アンタ、ここからは変な蟲が大量発生していてヤバイってば。引返しなッって」
吉野は階段わきの藪から出てきた静をちらっと見たが、また一心不乱に階段を駆け下りていく。
「ちょっ、アンタ待ちなって」
静は吉野の手首をつかみ、強引に立ち止まらせた。
はぁ……はぁ……
吉野は真っ赤な顔だった。呼吸も荒く、すぐにはしゃべることもできそうにない。
静が差し出したペットボトルの水も、しばらくは飲むことができないようすだった。
なんとか息を落ち着かせ一口水を飲むと、吉野はすぐに立ち上がった。
「ありがとうッおかげでちょっと楽になったわ! じゃ私は急ぐからッ」
「だから待てって。アブねぇぞっ」
「いや時間がないの」
「アンタねぇ……聞いているの? この先は危ないのよ」
「いいから手を放してッ」
「そういうわけにはいかないってば」
と、言い争う二人が突然黙り込んだ。二人に向かって蟲の群れがやってくるのが見えたのだ。
「ヒィィッ。何あれ、キモイッッ」
「ほら、言わんこっちゃぁない」
静は舌打ちをした。吉野を背後にかばい、スタンド:ワイルド・ハニーを出現させて臨戦態勢をとる。
(さぁってねぇ〰〰。どうやってこのコを守りながら戦いますかねぇ)
呼び出した自らのスタンドを眺めながら、静は思いを巡らせていく。
静のスタンド能力は『透明化』だ。この能力は、望むと望まざるとこれまで静の人生に大きな影響を与え続けてきた。
まだ赤ん坊の頃に自分の本当の両親とはぐれてしまったのも、きっとこの『透明化』の能力のせいだ。
もし『透明』になった自分に、養父ジョセフ・ジョースターが気づかなかったら、命をとして探し出してくれなかったら、おそらく自分は車にでも引かれるか、犬にかみつかれるか……長いこと生きていくことはできなかったであろう。
生物学上の両親のことは何も知らない。
隣の同世代の少女をチラリとみる。彼女やその仲間たちは、少なくとも自分が誰の血を継いでいるのかはっきりと知っている。言動を見ても、きっとご両親から愛されて育ったのだろうことが、よくわかる。
自分とは違う。
でもそんな彼女たちが、この二週間それこそ必死に努力し続けてきたことも知っている。
自分とは違う。
複雑な思いが湧き上がってくる。
群れから離れて一匹の蟲が先行して近づいてきた。それをワイルド・ハニーがはたき倒した。
ワイルド・ハニーは近距離パワー型、何処となく蜂を思い起こさせる外見の人型スタンドだ。このビジョンは杜王町にきてから元々のスタンドが成長し、出現したものだ。
元々のスタンド:アクトン・ベイビーは決まったビジョンがない、透明化するだけの能力であった。
このスタンドの変化が、自分が生まれた杜王町に来たことがスタンドに影響を与えた結果なのか、単に静の精神の成長を反映してスタンドも成長したのか。はたまたスタンド自身はずっと静のそばで変わらずにいて、ただこれまでは自らの姿を透明にして隠れていたのかもしれない。
真実は、何もよくわからなかった。
蟲は次第に数を増し、周囲をぶんぶん言いながら飛び回っていた。
「うぉぉぉぉ〰〰!」
静の隣で、吉野が雄たけびを上げていた。上着を脱ぎ、蟲の接近を防ごうとバタバタとそれを振り回している。
その服から小さな何かが無数に現れ、あたりを飛び回り始めた。
まさか新手の蟲か……
その一匹を捕まえた静は、思わず目を丸くした。
静が捕まえたのは、プチトマトに手足がくっついたようなスタンド。トニオのパール・ジャムであった。トニオがスタンドを吉野に取りつかせていたのだ。
『プシャァァ──ッ』
パール・ジャム達が吉野の服から飛び立った。そして蟲に取りついていく。
二体のパール・ジャムが蟲を押さえつけ、別の一体が手にしたクッキーのカスのような何かを、蟲の口に押し込んだ。
すると蟲は悶えはじめ、地に堕ちた。
吉野の振り回すジャケットからは、パールジャム達が次々に飛び立っていく。
(へぇ。さすがトニオさんだってば。これなら何とかイケルかもね)
思い直した静は、吉野の手を握って走り出した。
「で、どこにあんのよ? アンタが探しているその食材はさぁ……」
(この蟲……気になるしね。彼女を送ったら、ちょっと山を探ってみますかねぇ)
15分後、吉野は一人真っ赤な顔をして階段を駆け上っていた。
途中で出会った同い年の少女、静・ジョースターはとんでもなくタフな女の子であった。気味の悪い蟲に囲まれたのに、吉野をかばって冷静に蟲を打ち払ってくれたのだ。
いったいどんな暮らしをすれば、あんなにタフでいられるのだろう。遠月の知り合いの中にも、恵や北条さんを中心として芯の強い女の子はいる。でも、あんなに修羅場慣れしている人はいないはずだ。
今も彼女は、吉野を先に行かせて、自分は蟲をぜんぶ引き付けてくれている。
正直、一人で置いていくのは忍びなかった。
だが
『横にいてくれたら、逆に足手まといだっつーの。アンタの戦いの場に早くもどんなよ』とそっけなく言われ、追いはらわれたのだ。
だから今、吉野は必死に走っていた。やがて鳥居が見え、そして必死に調理を続けている仲間の姿が見えた。
ゼーハーと息を切らした吉野は、手にした食材を涼子に手渡すとしりもちをついた。酸欠で目の前がチカチカした。
「吉野、ありがとう」
涼子は礼を言って吉野から受け取った食材を確かめた。そこにあったのは
*山ぶどう
*栗
*サルナシ
の3品であった。
「あ……朝、この石段を登ってくるときにチラッと見えた気がしたのよ」
「よく見つけましたネ」
トニオがコップの水を吉野に手渡す。
吉野は一息に飲み干すとピョンと立ち上がった。どんな魔法(スタンド)をつかったのか、もう元気いっぱいだ。
「へへっ。師匠の下でマタギの修行をしたのが役に立ったわネッ。じゃあ、これで何を作る? 私が思うに……」
吉野の説明に涼子もうなずいた。
「そうね、いい考えだと思うわ。そうするなら、ここは……」
二人は元気を取り戻し、いまある食材の組み合わせ方を相談し始めた。話し合う中で二人の個性がぶつかり合い、新たなドルチェの大枠があっという間に形作られていく。
そして出来上がったのは……
しっとりとした甘栗をつるつるのラビオリの中に包んだ一品であった。
そこに3種類のソースがかけられている。ハチミツとサルナシの緑のソース、柑橘類の黄金のソース、そして山ぶどうで作った紫のソースだ。
さらにその上には、赤いザクロの粒が宝石のようにちりばめられている。元々マチャドニアに入れるつもりで用意していたものに手を加え、味を調整したものだ。
さらに5分後……
「フム……待ちかねたぞ」
「よしよし、頑張っているね。おねぇーさんはうれしいぞッ」
テーブルで待っているスミレと上砂 和夢に対して、にこやかに笑いながら二人は渾身の一品をサーブした。
そして一時間後:
「よっ、久しぶりっ!」
「うふふっ、全員無事みたいね」
「……丸井君はちょっと無事とは言えないみたいだけれどね……」
「……」
「みんなッ、やったなっ」
再会した若き料理人たちはパチンと手を合わせた。
そして力尽き、全員地面にぶっ倒れた。
ここは、料理試しの社からさらに登った、本宮の前の空間であった。
料理試しの1STステージが終わったのだ。
月が雲から出て、あたりを照らした。反対側には天の川が見える。
遠月学園の生徒達とトニオの子供たちは、地面に寝転がったまま星を見上げ、話を続けた。
「……うまくいった?」
「ぼ、僕たちの所はゲストが怒りかけて……怖かった……」
「あら、二人とも最後は満足して帰ったじゃないの。それに、予定通りだったでしょ?」
「……まぁ、そうだったけどさ。でも尋常じゃない迫力だったよ」
「あの、ザリガニとホット・メルバはうまくいったの?」
「バッチリよッ」
「アリスと丸井君チームは攻めていたモンねぇ……お客様が最初はびっくりしても仕方ないよ」
「あらっ、お二人の料理こそ、和イタリアンなんて変化球で勝負していたじゃない」
「あれは、私たちにとっては勝負じゃないのよ。むしろ慣れている土俵にイタリアンの要素を引き込んだってわけ」
「それで、うまくいったの?」
「いやぁ、私が途中で料理をひっくり返しちゃってさぁ」
「でも、ユウキが山の中で食材を見つけてきてくれたおかげで、なんとか逆転できたのよ」
「へ……へぇ、な……何を、つつつ、つくった……の」
「丸井君、本当に大丈夫なの? えぇと、私たちが急遽作ったのはラビオリのドルチェよ。ユウキがとってきてくれた山栗を包んで、3種類のソースに包んで出したのよ」
「へぇ、おいしそうだね。今度作って見せてくれないかい?」
「タクミっチはうまくいったのかい?」
「こいつ、途中でメニューを変えやがってよぉ」
ニーノがボソッと言った。
「ついていくのが大変だったわ。でも何とかうまくいったと思うわ」
ルチアも言った。
ニーノとルチア、トニオの子供たち二人は遠月の生徒たちから少し離れた松の立ち木に背を持たれ、足を投げ出して座っていた。その目にも少しだけ、やり遂げた……という満足感を漂わせている。
「なにタクミッチ、予定を変更したの?」
「何かあったの?」
「いや、お客様からの依頼さ。プリモピアットを二品出してほしいって言われてね」
「まぁ、なんてワガママなんでしょう」
「ハハハッ、トラットリア(大衆食堂)では急なオーダーなんてよくあることさ。慣れてるよ」
「で、何を作ったのさ」
「元々予定していたのはパッパ・アル・ポモドーロ(トマトのパン粥)だったからね。全然違うけれど、コースの中に溶け込む料理として何がいいか、ずいぶん悩んだよ。それで、ニューディを作った。フィレンツェ風のね」
「にゅーでぃ? 何さ、それ」
「……ヌードって意味の料理だ……よ」
「あらっ♡」
「ラビオリの中身(ヌード)だけを使った料理なんだ。それで、ニューディ。ゆでたホウレンソウと、卵、チーズ各種、ハーブを小麦粉でつないで団子にするんだ。それをバターソースに合わせるんだけれど……」
チッと、ニーノが舌を鳴らして会話に割り込む。
「待ってくれよ、コイツが作ったのは、そんなスタンダードな奴じゃなかったぜ」
「聞いてよッ、料理に使った具材は肉厚のマイタケ、にんじん、ゴボウ、セロリ、ショウガ、それにギョウジャニンニク……全部純和風の食材よっ」
「お客様から渡された食材だったからね。それを全部使って、小麦粉の代わりにオリーブオイルとチーズ、パンを使ってまとめた。ソースはバターじゃなくてブロードとオリーブオイルをベースにしてさっぱり感を出したのさ」
「肉は? コクが出るものは入れなかったの」
「ああ、コレさ、これを入れた。チョコっとね」
そういってタクミが出したのは、サラミとダークチョコレートだった。
「ちょうどポケットに入っていたこれで、歯ごたえとコクを追加したってわけ」
「へぇ、ちょっと興味あるわね」
「帰ったら、みんなの料理の試食会をしましょうよッ」
「アリスッチ、それいい考えッ」
「寮に帰ったら、ね。そしたら恵や伊武崎君にも食べさせてあげられるしね」
「そうねッ、みんなに会いたいねぇ……」
と、地面に寝転がって『星』を見ていた皆の目の前に、億泰がひょっこりと顔を出した。
「ほら、おきなぁ。おめぇらに、ご褒美をやるぜぇ〰〰」
立ち上がった若者たちは目を丸くした。
そこには大人たちが作った料理が並んでいたのだ。それも、皆がこの料理試しで作ったものと同じ料理であった。
その少し前……
「オラオラオラアラオラッ!」
スタンド:ソフト&ウェットでひたすらラッシュを続けながら、香西 定文は先を急いでいた。
少しでも蟲の数が多いところをわざわざ選んで進んでいく。
定文は道を外れ、急斜面の坂を慎重に上りながら、先へ、先へと進んでいた。蟲をたどっていけば、敵の本体を見つけられると予想してのことだ。
当然、敵の本体に遭遇したら命がけの戦いになるだろう。
定文は苦笑した。元々、定文には関係のない戦いなのだ。料理試しに赴く高校生たちにはなんとなく好感を感じたが、彼らのことはほとんど知らない。東方仗助とジョルノ・ジョバーナの二人については、なぜか他人とも思えず、なんとなく縁を感じる。だがそれだけだ。
なのに気が付くと、自分から最も危険な役割を担おうとしている。
その理由は、はっきりしていたが。
携帯が鳴った。
開くとそこには『右』Or『雲』という選択肢が出ている。定文は少し考えて、『雲』を選んだ。そして、まさに『雲』のように群がる蟲の群れに向かって、飛び込んでいく。
襲い掛かってくる蟲の数は一気に増えた。さすがのソフト&ウェットも、少し持て余し気味になるほどだ。
と、もう一度携帯が鳴った。画面に表示された次の質問は
『一人』Or『二人』だ。
定文は全く迷わず、『一人』を選んだ。
そして自分のスタンド:ソフト&ウェットに巨大なシャボン玉を作らせた。そのシャボン玉に自分とスタンドを包み込ませ、狭い空間で『一人』になる。
すると超巨大なシャボン玉は定文を包んだまま浮き上がった。その周りに蟲が群がり……シャボン玉に触れた瞬間にバラバラと落ちていく。
定文のスタンド:ソフト&ウェットの能力は『触れたものから物理的な何かを奪う』シャボン玉を作ること。シャボン玉に触れた蟲は『水分』を奪われたのだ。
そして、携帯電話で定文に行先を示したのもスタンド能力だ。そのスタンドの名はペイズリー・パーク。定文の想い人、麦刈 恭帆のスタンドだ。
そもそも、ここで料理に挑んでいる高校生たちと縁があったのも、その縁でこの『ヤマオロシ』に対抗するための作戦に声がかかっていたのも、恭帆のほうであった。後からそれを知った定文が、危険な作戦に彼女をかかわらせまいと、一計を講じて当日恭帆に外せない用事を作ることにしたのだった。そして、恭帆の代わりに自分がこの作戦に参加したのだ。
定文を包んだシャボン玉は、時折チョッピリ空気を放出して方向転換をしながら、ゆっくりと山肌を登っていく。
そしてついに定文は蟲たちをけしかけた首謀者と思わしき者たちの目の前に到着した。一人ではなかった。そこにいたのは、5名であった。
5人が定文をにらみつけ、笑った。その顔のそれぞれ違う部位が少しづつ石化している。岩人間だ。
岩人間ということは、全員がスタンド使いの可能性が高い。
無謀だった。
定文はあわててスタンドの泡を破裂させた。退こうとバックステップしたところで、敵が襲い掛かってくる。
敵は定文の予想通りスタンドを出現させた。
「マーダードールズッ」
『鼻が岩』の男が叫び、ジャケットのポケットから人形をばらまく。すると人形たちが定文めがけてカタカタと動き出した。
「集え蟲よッ」
『右目と右耳が岩』の女が叫ぶ。その背後から『蟲』が何匹も現れた。
「「我がスタンド、ベント・アウト・オブ・シェイプスは脳に作用する催眠能力っ。脳のあるあらゆる生き物を支配できるッ!」
蟲たちは素早く定文の周りを飛び回ると、一斉に攻撃してきた。
『オラッ』
ソフト&ウェットが、襲い掛かる蟲を叩き落すッ。
だがそのすきに数匹が定文の懐に飛び込んでくる。ソフト&ウェットの拳をかいくぐり、そのうち一匹が定文の肩を刺すッ
「くッ」
定文をさした一匹はすぐにソフト&ウエットに捕まり、全身の水分を取られて消滅した。
だが蟲は退治したものの、あまりの痛みに定文は肩を抑えてうずくまってしまう。
「いってぇッッ」
「チェックメイトだな。ガキィッ」
定文が顔を上げると、目の前に人形たちが迫っていた。
人形たちはゆっくりと右手を上げ、定文に向けた。その手には小さな銃が括り付けられている……
「動くなよ。動いたらズドンだぜぇ」
さらには再び飛来した蟲が迫ってくる。
「ギャハハハハッ! ざまぁねぇなっ。カッコ悪いぜおめぇ〰〰〰ッ」
『鼻が岩』の男が笑う。男は背中にしょったボストンバックからひときわ大きな人形を取り出した。1Mぐらいのグラマラスな美女をかたどった人形だ。妖艶なドレスを身にまとった人形は、背中からナイフを取り出した。
「ニャハハハハッ。お前のとどめは、この沙也加チャンにやってもらうぜぇッ」
沙也加と呼ばれた人形が、ゆっくりと定文に歩み寄っていく。
「……変態」
『右目と右耳が岩』の女がポツリと言った。
「ジョーイ、あんた気持ちが悪いわよ」
「レインボウ、俺の趣味にいちいち口出すなよ。お前にゃ迷惑かけてねぇだろ」
「だから、キモイんだって」
「ああっ? おれの『沙也加』を馬鹿にすんのかぁ」
「知らないわよ。それに、キモイのはアンタよ。人形じゃあないわ」
「『人形』じゃあねぇ、『沙也加』だって、言ってるだろうが……おっと、大丈夫かオメー」
「……大丈夫よ、この男に私の蟲ちゃんたちをずいぶんやられたからね……少し気持ちが悪いのよ」
レインボウは定文に近寄っていく。
定文は近づいてくる女をにらみつけた。
「お前たち、何者だ?」
「それがアンタにカンケーあるの?」
「何故 料理人たちに蟲をけしかけた? 彼らはただの学生だぞ」
「あの子たちに危害を与えたりはしないわよ。でも、料理試しを終えて『山嵐』の先に行かせるわけにはいかないの……ちょっと邪魔するだけよ。アンタこそ、なんでアタシ達の邪魔するのよ」
「……トラサルディの料理は、うまいんだ」
「はっ?」
「あの料理をもっと食べたいんだ。恭帆ちゃんと一緒に」
「はぁ? レストランでしょ。食べに行けばいいじゃない? なんでこんな山奥にいるのよ」
「それが難しいところなんだ……でも俺は、ただうまい飯が食いたいだけだ。そのためには彼らの挑戦に協力する必要がある。なぁ、アンタたちこそ余計な邪魔はやめてくれないか。俺のほうにはアンタたちと戦う理由はないんだ」
「アンタ、ずいぶん調子よいこと言うわね。でも、ずいぶんアタシが呼び出した蟲チャンをやってくれたじゃあないッ。こっちはアンタと戦う理由ありありよ。それにね、そういうことは自分が有利な状況で言わないと」
「くっ……」
「ねぇ……アンタ今うごけないでしょ。このコ達は麻痺毒をもっているからねぇ」
定文が動けないことを確かめてから、レインボウ肩口を蹴り飛ばした。一発、二発、蹴るたびにレインボウの目から恍惚な光が浮かぶ。蹴りはどんどん強くなっていく……
と、突然レインボウが横殴りに吹っ飛んだ。次の瞬間、定文の体が透明になっていく。
「ウッヒョッッ。マーダードールズちゃん、撃っちゃってぇッ」
ジョーイが気勢を上げた。
消えた定文の体があったあたりを、マーダードールズの銃が襲うッ
何もない空間を銃弾が飛んでいく……
ジョーイは構わず、あたりに銃を撃ちまくった。
「ううっ」
と、何もなかった空間から不意に血が噴き出たッ!
そして、膝を抱えてうつぶせに倒れる少女と、その横に腹ばいになっている男の姿がだんだん現れた。男は定文であった。
「む、蟲を追っかけていたらまさかアンタが戦っているなんてね、ビックリしたわよ」
「シズカちゃん、逃げてくれ……」
定文の言葉に、少女は舌打ちで答えた。
「『シズカちゃん』じゃぁねぇッつ──のッ。アタシはジョースター。源静香じゃねぇよ」
「シズ……ちゃん。俺を置いて逃げるんだ」
「はぁっ? なにいっているのよ。アタシも動けねぇんだッてば」
「すまない」
「アンタが謝るようなことじゃあないよ」
静は膝をよろよろさせながら立ち上がった。
「ここはアタシが時間を稼ぐわ」
「……それは頼めないな。オレも一緒だ」
「へぇ〰〰仲いいじゃぁない」
蹴り飛ばされたレインボウが再び立ち上がった。怒りのあまり額に青筋が立っている。
その周囲に再び真っ黒な蟲が集まっている。あまりの量に、森が真っ黒に染まるほどだ。
「かかってきなさいよ。ババぁ」
「ああっッッ! なんですってぇッこの小娘がっ」
再び蟲が静を襲うッ。
「遅いってぇのッ」
静は体を透明化させ蟲をよけるッ。
「ハッ、アンタが透明になったって無駄さぁッ。見なよっ、すでに蟲どもがこの周囲10Mをくまなく覆っているッ! アンタはそこよ。その蟲たちの姿が消えている一角にいるッ。死ねぇッ」
蟲が飛び交うなか、なぜか一か所だけぽっかりと蟲のいない空間があった。
静の透明化能力が働いているのだ。
レインボウはにやっと笑いながら、そこへ蟲を一斉に襲い掛からせるッ!
だが勝利を確信したレインボウが目にしたのは、透明な空間に触れた蟲が『水分』を奪われ、次から次へと落ちていく姿であった。
「オレ達の勝ちだ。すでに『水分を奪う』シャボン玉を仕掛けていた。静ちゃんの能力で透明にしてね」
レインボウの背後から、定文の声が聞こえた。
「もう一度、たっぷり言わせてもらいます。オレ達の勝ちだ。もう麻痺も解けた。傷口から麻痺毒を奪ったからな……体に入った毒はほんのちょっぴりだった」
レインボウがあわてて振り返ると、そこには麻痺が解けて立ち上がった定文と、定文に抱えられた静がいた。
「スタンドの射程距離内に入ったわッ。苦労したわ……もう逃がさないっつーのッ」
「反撃させてもらいますッ」
「ハハハッ。たった二人でよくやるじゃあない」
レインボウが甲高い声で笑った。
「でも、私たちは5人いるのよッ。5対2で、勝てるかしら?」
その周囲に黒い蟲がまとわりつく。
レインボウの腕に、顔に、蟲がまとわりついていく。蟲の数はどんどん増えていき、ついには体じゅうが真っ黒な蟲に覆われ、男の姿は全く見えなくなった。
気が付くと、『左目と左顎が岩』の男と『額が岩』の女が定文と静の背後に回りこんでいた。
『左目と左顎が岩』の男は、フレウと名乗った。
『俺のライノセラスはツエェゾッ』
『額が岩』の女は、ニヤニヤ笑っている。その額からは、まるで牛か鬼の角のようにとがって湾曲した岩が左右に突き出ていた。その女はスタンドを出すと、ペロリと上唇をなめた。
「アタシはチェリー。そして私のスタンドの名前は、ダーティ・ワークよ……」
そういうと、スタンドの上腕部から湾曲した刃がぬるりと出現した。チェリーはペロリと舌を出し、スタンドの刃を舐めあげた。
「アタシのスタンド、よく切れるわよ♡」
「アンタたちみたいなヘナチョコなんて、二人で一人分じゃあない。何の問題もないわよ」
静が歯をむいた。その背後から、まるで蜂と人間のあいのこのようなスタンドが姿を現す。
「さっさとかかってきなさいよぉッ」
と、一歩踏み出した静の手首がスパっと切れた。
「なっ!」
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃヒャッ」
チェリーが笑った。
「引っかかったわねッ、アタシのスタンドの能力を誤解していたんでしょ? 教えてあげる。アタシのスタンド・ダーティワークの本当の能力はねぇ……空中に見えない刃を発生させることなのさぁッ」
静はちぎれた自分の腕を拾い上げた。出血はとまらず、静の腕を、地面を地で染めていく……
と、定文がちぎれた静の腕に手を伸ばした。
すると、静の血が止まった。定文は静の傷口に小さなシャボン玉をまとわりつかせたのだ。シャボン玉に触れた血から水分が奪われ、血が凝固して傷口をふさいでいく。
「静ちゃん、痛いだろうけど……まだ頑張れるかぃ?」
「もちろんッ! 私もジョースター家の一員よッ。こんなケガぐらいでへこたれていられないわよ」
強がる静の顔は、真っ青だ。
「勇ましぃねぇ〰」
ジョーイのマーダードールズが二人に向かって銃弾を放つッ
『ドラドラドラッ!』
『オラッ!』
静と定文は足を止めたまま、スタンドで銃弾をはじき返すッ
「ニャハハッッ。たいへんっすねぇぇぇっ。ちょっとでも動いたら、見えない刃で体がぶっ飛んじまいますもんねぇぇ」
「蟲たちよッ、地面を這ってあの二人に飛んでいきなっ! 食らい尽くせッ」
レインボウの体からぞぞぞっと蟲が動き出した。蟲は地面に広がり、静と定文に向かってゆっくりと進み始めた。
「ライノセラスッ」
フレウの背後にゴーレムのような巨大な石造りのスタンドが現れた。スタンドは石を投げつけた。いくつかは空中で切断されたが、定文たちの所に到達した石は互いに組み合わさり、小さな石人形になった。
石人形が静と定文の肉をえぐるッ
「ぐおおっ」
定文のS&Wが石人形が触れている肌の『摩擦』を奪うッ。
石人形は地面にコロリと転がり落ちた。
それを静が蹴り飛ばすッ!
「なかなか粘るわねぇ……」
「だが、いつまで持つかな。も、つ、か、なぁぁぁっ!」
その時、粋がるジョーイの頭から突然血が噴き出した。
「アクトン・ベイビーの能力でアンタが投げた石をいくつか透明にしてやったのよ。うまくけれたみたいね、我ながらナイスキックだわ。もしかしたらもっとサッカーを真剣にやっておけばよかったのかも」
静がしてやったりと笑った。ジョーイたちの背後を見て、その笑みがさらに大きくなる。
「生意気なっ! 食らえッライノセラスッ」
フレウが再び叫ぶ。周囲の大岩がどんどん集まり、5Mはありそうな巨大なゴーレムが姿を現す。
「ゲヘ、ウへへへッ。俺っちの最大の力を込めた巨大ゴーレムよっ。ガンダムばりにつえぇコイツに、ぺしゃんこにされちまいなっ」
巨大なゴーレムはゆっくりと動き、両腕を振り上げた。頭上で手を組み、振り下ろすッ……
その動きの途中で、ゴーレムが真っ二つに分裂した。真っ二つに割れたゴーレムの破片が、フレウの頭にぶつかるッ。
「ギャッッッ」
フレウが悲鳴を上げ、倒れた。
真っ二つに割れたゴーレムの真ん中には、紫色の『異形』の怪人がいた。その男の右手首からは、長大な刀が生えている。男は近くの木から飛び降りてきて、刀でゴーレムを真っ二つに両断したのだ。
男が両手を広げる。すると、その指先から紫色の体液が放出された。密かに隠されていた見えないダーティ・ワークの刃、姿を現していく……
『バルっ……』
怪人が静と定文の背後を指さした。
「俺の妹に、なんてことをするんすか。許さえぇっスよぉぉ」
「……無事に返す訳にはいかないですね」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……
ジョーイ達が背後を確認する。
すると、ジョルノ・ジョバーナと東方仗助が立っていた。
怪物の皮膚がボロボロと剥がれ、中からは橋沢育朗が顔を出した。
「……あとは任せたよ。僕は『手加減』できないからね」
「任せろよ、イクロー……ところでお前が先行してくれて、助かったッスよ」
「スゴイ力ですね。驚きました……スタンドではないようですが、詳しい事情は教えてくれないのでしょうね……」
「悪いけれど、話したくはないな。ボクはただ穏やかに暮らしたいだなんだ……失礼だけど今の君とはあまりかかわりたくない」
イクローは肩をすくめると、近くの大木に寄り掛かった。
仗助とジョルノは静と定文の元に駆け寄り、それぞれスタンドを出現させた。
すると、あっという間に静の腕が元に戻った。真っ青だった顔にも血色が戻っていく。
ジョルノのスタンド、ゴールド・エクスペリエンスが『静の失われた血』を作った。
そして仗助のスタンド、クレイジー・ダイアモンドが切断された腕を『治した』のだ。
「ありがとう、兄さん……ジョルノ」
「静、オメェ──は一人で先走んじゃあねぇッつーの。アセッたぜ」
「いや、静チャンが来てくれなかったら、俺はやられていました。彼女のおかげで俺は助かりました」
「へぇ……」
仗助が静をチラリと見る。静は黙って肩をすくめて見せた。
「定文、君も大丈夫かい」
「あぁ、俺は大丈夫だ。毒も抜けた」
「蟲の毒かい? それなら『血清』を作っておいたから、念のため君に注入しておこう」
「ぐっぉぉぉっ」
両手をついて苦しむ定文を、仗助が支える。
「ちょっとだけ傷があるな、そこも『治して』やるっスよ」
「あ、ありがとうございます……たっぷりお礼を言わせてください」
「仗助、そろそろあいつ等を……」
「ああジョルノ、やっつけてやるっすよ……静、定文、お前たちも手伝え」
「いわれなくても、やりかえしてやるっつ──のッ」
「もちろんです。オレもやります。たっぷり仕返しをしなければ、納得できない」
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ……
『ドララララララァッ!』
『オラオラオラアラッ!』
『ドラドラドラドラッ!』
『ムダムダムダムダッ!』
四体のスタンドが、5人の岩人間を一気に吹き飛ばした。
「つっ……強すぎる」
地に伏す岩人間たち。
「まだやるっすかぁ?」
「俺たちはもうヒケヌッ」
「……そうですか。貴方『覚悟している』ってわけですね。ならば残念ですが……」
ジョルノのスタンドが5人の前に立った。とどめのラッシュをかまそうと拳を構える。
その時……
「マテ……」
ジョルノのスタンドを『素手』でつかむ者がいた。
「こ奴ら、確かに私に弓を弾く『反逆者』ではある。こ奴らの命などちぃ──っとも惜しくはない。だがそれでも『我が一族』の者だ、私の前でやらせるわけにはいかんのだよ。ここは我……有定 和彦の顔に免じて引いてはくれまいか」
ジョジョ達の前に現れたのは、岩の一族の王、有定 和彦であった。
「さて……こいつ等が元凶だったっつーわけか」
グィード・ミスタは山中に逆さづりにされているスタンド使い達の間近に顔を寄せ、にらみつけた。
「ミスタさん、手打ちは済みました。彼らを傷つけてはだめですよ」
「わかっているよ、眼鏡クン」
「ぷっ……いや悪いな、眼鏡クン」
思わず噴き出した噴上裕也が、鼻を上にあげクンクンと周囲のにおいをかいだ。
「おっと、来客だな」
「敵ですか、噴上さん」
「イヤ、違うぜミキタカ。知り合いだよ……移動すっか。こいつらを見られると説明がめんどくせー」
その言葉通りであった。山道をやってきたのは麦刈恭帆と、さきほど遠月學園の生徒たちを送ってくれた高校教師、川尻早人の二人だった。
「皆さん、無事ですかっ!」
「おぉ、大丈夫だぜ早人ォ」
「早人クン、久しぶり」
「お久しぶりです。康一さん。この間のパーティの時はお話しできませんでしたらから、お会いできてよかったです」
早人は杜王町のスタンド使い達に、ペコリと頭を下げた。彼自身はスタンド使いではない。だが彼がすばらしい根性・知恵・勇気の持ち主であることを、杜王町のスタンド使い達は『ある事件』を通して皆知っていた。早人は、そばにいた恭帆に会釈した後、皆に向かって腕を組んだ。そして非難めいた口調で話し始める。
「この人から話を聞いて、ビックリしました。まさかあの高校生たちがヘタすれば大けがをするかもしれない状況だったなんて……知っていたら、協力しなかったのに」
「みんな無事ですヨ、心配ないです」
「そりゃそうですよ、皆さんや、仗助さんが付いていて万が一なんて無い……とは思いますよ。それでも……」
「早人君、本当に大したことはないのさ」
少し物陰に立っていたイクローが声をかけた。その手には『蟲』の死骸を一つ持っている。イクローはそれを、早人に見せた。
「これは、ムカデのように人をかむ毒虫で、かまれると患部が3日間腫れる厄介な蟲さ。この山には結構いるんだ。僕らは、彼らが野外調理の時にこの蟲に刺されないように、念のため蟲の駆除をしていただけさ」
「そうなんですか……ならいいんですが」
「……」
真相を知っている恭帆は早人に向かってあいまいにうなずいて見せた。そして、手にした水筒を持ち上げて見せる。
「あぁ、トラサルディによったときにヴェルジーナさんから差し入れのスープをもらってきました。それから疲れていると思ってコンビニで甘いものも……」
「おぉ、気が利くじゃねぇか」
「くぅっ、うんめぇなッ」
皆は輪になって地面に座り、早人と恭帆が配った差し入れを嬉しそうに食べ始めた。冬のS市の山にいたため凍え切ったからだが、どんどん温まっていく。
「定文は?」
「彼は仕事を終えて、料理を楽しみに行ったよ」
恭帆の問いに、イクローがにこやかに答えた。
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ふと気が付くと、若き調理人たちは色とりどりのハーブが咲き匂い立つ庭園いた。涼子は、なぜか背中に天使のような翼が生えていることに気が付いた。ゆっくりはばたかせてみると、自由に庭園を飛ぶことができる。
うれしくなって庭園を飛んでいくと、そこは、まさにイタリアンの天国であった。
庭園に咲き乱れるハーブ、チーズの塊がまるで岩のようにニョキニョキと突き出している。ちょっと舐めてみると、まるで魂が解けるほどの美味しさだ。
3種類の川が流れている。一つの川にはイタリアンワインが、一つの川にはオリーブオイルが、そしてもう一つの川に流れているのは、濃厚なミルクだ。木になっているのは、オリーブ、オレンジ、桃……よく見るとサラミやパンチェッタがなっている木もある。
庭園の真ん中には、がっしりとした怪人(だが不思議と怖くない)が歩いている。怪人は右手を握りしめたまま、左手であたりの花をそっとなぜている。
その周りを、プチトマトの妖精たちが互いにキャピキャピとふざけながら踊っている。
タクミも、アリスも、吉野も、そして丸井もまた、笑いながら庭園を飛び回っている……
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幻影は去った。
若き料理人たちは、先輩諸氏が作り上げた品々を口にして恍惚としていた。
「なっ、なんて美味しさッ」
「これ、本当に同じ食材で作ったのですか?」
「おぉ……ま、ちょこっと手を加えちまったがなぁ……。許してくれや」
「根本のところは、一切いじっていませんヨ。これは、君たちが作った料理を我々なりに再現してみたものでス」
「この味わい。私たちとは次元が違うわ」
「ほんとッ。こんなにも味わいの深みが違うなんて」
「くそッ。まだまだ工夫が足りなかったってわけか」
「えっ……じゃあ、私たちの料理はダメだったってこと?」
「つ、つまりスタジェールは……」
「オイオイ、勘違いするなよ。オメェらが作った料理は『合格』だぜぇ」
「君たちは確実に成長していたぞ。我々にとっても、君たちの行った作業の意味を理解して再現するのは中々骨の折れる仕事だった」
「こ、光栄です」
「でも同じ材料、作り方だとしても、出来栄えには差が出ることがわかりましたカ? 何故か? これは作り手がこれまで歩んできた道の深さが現れるからデス」
どうですカ。料理は面白いですよネ。
トニオが笑った。
「料理の世界は深く、研鑽には終わりはありまセン。我々は果て無き荒野を延々と進んでいくのデス」
その覚悟は出来ていますか?
トニオは茶目っ気たっぷりに笑った。
「はいっ!」
そして境内に、三組の料理を試したゲストが集まった。
まず現れたのは、三人の大男。出石 恵心 (でいし えしん)、上砂 和夢 (かみずな わむ)、岩柱 三太 (いわしら さんた)
そして、杜王町の住人、広瀬由花子、岸部露伴、虹村那由多、そして橋沢スミレの4人だ。7人は大きくうなずく。
「人間も少しは進歩したのだな……最後に出した課題に見事に答えたタクミは、見事だった」
「正直オレはメシがうまい、まずいにはそれほど興味のなかった男。だがお前たちの作った皿からは『少しでもうまいものを作る』そのための努力・研鑽が感じられた……その意気を買い、お前たちを『強者』と認めよう」
「有無……堪能したぞ。俺はローマにも行ったことがあるが、お前達ほどの料理人にはなかなか出会えなんだわ……これなら、和彦も満足させられるだろうて」
「おねー様、お兄様、とってもおいしかったですッ」
「フン……正直気に食わないけれど、味は確かに認めなくてはいけないわね」
「アンタたちよくやったよ。私も鼻が高いね。初日のキャンプでヒンヒン泣いてたのがウソみたいな成長ぶりだよ」
「……皆ここまでは合格だってさ。ヨカッタな」
最後に気のない様子で言ったのは、岸部露伴だ。
パン
と、トニオが手をたたいた。
「オメデトウ……しかし君たちのこれまでの頑張りを考えれば、当然ですね。では、最後の1頑張りです。皆の皿を合わせて、ヤマアラシの王に献上するコースを作りましょウ」
「オウ、気合入れろようっお前らッ」
「アンティパストは皆のコースから少しずつとった、アラカルト形式にする」
堂島が言った。
「あとは3品、プリモ・ピアット、セコンド・ピアット、ドルチェを一皿ずつ選んで、作ってくれ。これが真のテストになる。心してかかるように」
「わかりました」
タクミたちは重い体に鞭を入れ、立ち上がった。最後の品を作るために全力を尽くす時だ。
自然に仲間たちと肩を組み、円陣をつくる。
「おっし、頑張ろうぜッ」
「もっ……もう少しだ……」
「フフフっ、もう終わりだと思うと少し寂しいわね」
「今度は極星寮で何かやりましょうよ。ここで学んだことを復習しないと」
「ああ、遠月に帰った後が楽しみだな。だが今は集中しよう。やり遂げようッ」
6人は互いに微笑み、うなずいた。ゆっくりと円陣を解く。
「さて……と。誰が何を作りますかね」
アリスが尋ねた。
「アルディーニ君がドルチェを作るでしょ? なら私はザリガニを……」
「それなんだけれど、提案があるんだ」
丸井がおずおずといった。
「さっきみんなで料理を食べ比べしたじゃないか、そのときに思ったのだけれど……」
料理を終えたタクミたちは、手分けをして鍋や食器、それにバーナースタンド等を運びながら山道を登っていた。
先輩の料理人たちはタクミたちよりも重い荷物を運んでいる。だがまったく苦労している様子も見せず、どんどん先に進んでいく。
徐々に山道に霧が立ち込め、周囲が見えなくなっていく。
先輩たちの声だけが前方から聞こえる。
「フム……目指す場所はあそこかな」
「そのようですね、ギン」
「おおっ? 仗助たちもいるじゃあねぇか?」
やがて霧の中から巨大な岩が浮かび上がった。岩は二枚立っており、道はその二枚の岩の真ん中を通っている。
岩を通り抜けると、霧が晴れた。
そこにはテーブルがしつらえられていた。
テーブルの奥には岩の一族の長『山嵐』の有定和彦が待っていた。
その両脇には見知った顔があった。
座っているのは
東方仗助
静ジョースター
香西定文
ジョルノ・ジョバーナ
の四人の『ジョジョ』であった。
和彦が口を開く。
「よく来たな。では、真の料理試しを始めようではないか」
「よぉっ、せっかくだから俺たちも相伴にあずかることになったぜ──。よろしくな」
「楽しませてもらいます。たっぷりッ」
「匂いだけでもおいしそうだッつーの。ズビビ──ッ」
「楽しみです。では君たちの『覚悟』を皿の上に出してもらいましょうか……」
「任せてくださいっ!」
若き料理人たちは残った力を振り絞って最後の仕上げに挑んだ。そして、彼らが作り出した皿は
一皿目、アンティ・パスト
パンツァネッラ
二皿目、プリモ・ピアット
カルボナーラ
三皿目、セコンド・ピアット
オッソ・ブーコ
そしてドルチェ
ラビオリのドルチェ
それは、これまでの工夫を凝らした料理とは一線を画す『普通の』コースであった。
和彦と4人の『ジョジョ』は、口を利くこともなく黙々と料理を食べていく。
皿が空っぽになる少し前に、タクミ達が次の皿をもってやってくる。
ゲストが食べ終わるとタクミたちはそっと皿を取り換える。そして料理名を説明するとサッと客の前から去り、次の皿の準備に取り掛かる。
ただ静かな食事の時間が流れていった。
「最後にエスプレッソをおあがりください」
そう言って涼子が5人の前にエスプレッソを出したところで、後片付けまで終えたタクミたちが5人の前に勢ぞろいした。優雅にお辞儀をして、いかがでしたか? と尋ねる。
5人の前に提供されたのは、一見シンプルでオーソドックスなコース
だが……5人は最後のエスプレッソを飲み干したところで、一斉に拍手した。
「こりゃあ、うますぎて無我夢中で食べちまったぜ……億泰ゥ、オメェぼさっとしていると料理人として負けちまうんじゃあねぇ──かぁ?」
「ほんと、ただで食べて申し訳ないぐらい美味しかったッつーの」
「うんまぁああいッ……です。感服しました」
「素晴らしい。こんなに素晴らしい料理を日本で食べれるなんて、驚きました」
和彦も大きくうなずく。
「驚いたワ……まさか、ここにきてすべて新たな皿を出してくるとはな。よくまとめ上げたものだ……合格だ」
「フフフッ、大成功だったねッ」
「でも、味の調整ギリギリだったわ。ヒヤヒヤしたわよ」
「うむっ、みんなの勝利だなッ」
彼らの品は、3組が作った料理のコンポーネントをばらし、組みなおしたものだったのだ。
パンツァネッラには、『モッツアレラチーズの白味噌漬け』、『豆腐の塩麹付け』、山菜&ヤマドリレバーをアクセントに混ぜ込み、上からオイスター風味のチーズソースがかけられていた。
カルボナーラには、ロッシーニ風にフォアグラと杜王町でとったトリュフが溶け込んでいる。その濃厚すぎる味わいを調整するためにトマトソースで煮たトマトのカットが、パンチェッタの代わりに使ったのは、ニューディの肉団子。そしてアクセントに胡椒と塩納豆を擂ったものを振っている。
オッソ・ブーコのトマトソースには、ザリガニの出汁が溶け込み、また付け合わせには、すりおろしたレモンピールとバジルの代わりに今回は柚子味噌を添えている。煮込み料理の欠点である、『味が単調になりがち』な問題を付け合せで解消するのだが、柚子味噌を使うことでよりシャープな刺激にしたのだ。
ラビオリのドルチェには、三つのラビオリがあった。それぞれチーズとハチミツ、柿とマシュマロクリーム、栗と山ぶどうのペーストを包んでいた。それぞれ異なる味わいを口にすることで楽しみが増す一方、ラビオリで包むことで統一感のある味わいがある。
これだけのバラエティに富んだコンポーネントをまとめ切ることができたのは、間違いなくタクミ、涼子、吉野、丸井、アリスの5人がこの杜王町であがき続けた経験の賜物であった。
皆が作ったそれぞれの品では先輩の料理人にかなわないかもしれない。それに対抗しうるような『神の舌』も『鼻』も『野生』も『発想力』も、5人はまだ持ち合わせていないかもしれない。だが、皆の力を一つにする『勇気』を出すことができれば、それぞれの良いところを『観て』高め合うことができたなら……至極の逸品に到達することができるのだ。
「トニオさん達も、ちょっと食べてみたらどうっすか」
仗助が手招きした。
「そうですよ。師匠として彼らの『覚悟』が載った皿を確かめてあげてください」
ジョルノが席を立った。ジョルノを皮切りにしてジョジョ達は席を立ち、先輩料理人たちを席に着かせる。
「へっへっへぇ〰〰じゃあいただいちゃうとするかぁ」
「オイオイ億泰、オメーもかよォ?」
「モチロンです。オクさんにはお世話になりましたからッ」
涼子が笑った。先輩たちの前に食器を、そしてアンティ・パストを山盛りに盛った皿をテーブルの真ん中におく。
「すみません……本当なら皆さん一人一人に皿をお出ししたいのですが、もう食材が残っていないのです」
「ああ、構わんよ」
堂島は、席を譲ってもらったジョルノにも頭を下げる。
「我々にも彼らの皿を『知る』機会を与えてくれて痛み入る。では……」
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若き料理人たちの皿を口にした先輩料理人たちの目前に、天国が広がった。
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「皆さん合格です。おめでとうございます」
トニオがニカッと笑った。
「もちろん、まだまだ向上の余地はあります。しかし素晴らしかった」
拍手の渦が若き料理人たちに降り注いだ。
そして……
パキッ
万雷の拍手の中、嫌な音が丸井の足元から聞こえた。足元を見た丸井の顔が青くなる。
「あっ……」
うっかり落とした眼鏡を、自分で踏みつぶしてしまったのだ……
「ちょっとアンタ、メガネがなくてどうやって山を下りるの?」
「なっ、何とかなるさ……ハハハハ」
丸井は一人、帰りの過酷な山道を思って青い顔をしていた。
その肩を、がっしりとした腕がつかんだ。
「さてと、丸井君。そろそろ行こうか」
「へっ?」
「昨日話しただろ? 鍛錬だよ。この山の石段は鍛錬に最適だ。ここを走って下りて、駆け上る。いい訓練になるぞ」
堂島が言った。
「うっ、ウソですよね……」
「嘘? 何のことだ? さぁさっそく行くぞ、丸井君」
堂島は有無を言わさず、絶望に打ちひしがれている丸井を引きずるようにして、坂道を走り始めた。
そのころ、和彦達『山の一族』がトニオの前に立っていた。杜王町のスタンド使い達はトニオに制され、その様子を遠牧に見ていた。
和彦が重々しく口を開く。
「人間よ……よくやったな」
「デハ、約束を守って下さイ」
「ウム……若きものの手で我を満足させよ……我がたわむれに言ったことを、まさか、こんな手で満足させるとはな。俺はお前たちが総出で攻めてくるものと思い、戦闘準備も万端に整えていたものを」
「和彦様……しかし私は満足しました」
「ほう、純血の戦闘者である和夢、貴様もか? しかし当然か、そもそもお前が満足せねば人間がここにいることはあり得ぬからな」
和彦はついてこい、とトニオを手招きした。広場の背後にそびえる崖の隙間を通り、森の奥へとトニオを連れていく。曲がりくねった森の小道を進み、美しい渓流の流れる谷間についた。その木になるトゲの生えたリンゴのような、ザクロのような、拳骨大の果実をとった。黄金色のその果実を、トニオに手渡す
「してやられたわ……人間。約束通り、お前に我らが一族の名前にして、命をつなぐ薬ともなる果実『ヤマアラシ』をくれてやる」
翌日
杜王市の隣、S市の空港。
スーツをセクシーに着こなした男が二人、キャリーケースを引きながら歩いていた。航空券を手にゲートをくぐろうとしたその足が止まる。二人組の一人、金髪の巻き髪をかっちりと束ねた男、ジョルノ・ジョバーナは意外そうな顔をして近づいてきた者たちに挨拶をした。
「まさか見送りをしていただけるとは。恐縮です」
「トニオさんからよぉ──、お前に『センベツ』ってヤツを受け取ったからな。ソイツを届けるついでにな」
「……杜王町のスタンド使いの方々総出で、ですか?」
ジョルノは仗助の背後に目をやり、ペコリと頭を下げた。
杜王町の面々がジョルノとミスタを囲み口々に別れの声をかけた。
親し気に声を掛け合い、縁があったらまた会おうとほがらかに笑い合う。
「おおよ……『土産』を忘れるところだったぜ」
仗助は手にしていたクッキー缶をジョルノに手渡した。
これはもしや……缶の中身を確認したジョルノとミスタの顔に喜びの色が浮かぶ。
「トニオさんトクセ―、『ヤマアラシのウェハース』だってよ。効果は折り紙付きだぜ」
そう言った仗助が鼻をすすった。その目が少し、赤い。
「なんっったって、ちょっと前にコイツを試した億泰のオヤジさん……いや、垓さんが『しゃべった』んだぜぇ……外見こそ変わらなかったが、『20何年ぶりに普通にしゃべり始めた』んスよ」
グスッ
「垓さん……それはもしや……『父』の……」
「そうだぜ。あの垓さんの頭ん中が『治った』んスよ……何十年ぶりにッスよ」
億泰の野郎ワンワン泣きやがってよぉ……
「だからアイツの家族とトニオさんはここに来られなかったが、勘弁してくれよ」
「イエ……そうか……」
「これでオメェーん所の問題もきっと解決するッスよ。このウェハースで」
「ええ、きっとこれで大丈夫です」
ジョルノの口元が緩む。これでネアポリス中で苦しんでいる麻薬の元常習者達を治すことができるはずだ。
「この菓子に必要だった果実『ヤマアラシ』を捕るのには苦労したが、そのカイがあったなぁ……」
「えぇ……でも大活躍だった遠月學園の若者たちには、借りができましたね。何とかしてお返ししないと」
「その件については『借りだと思うのなら、今度は正式な客として店に顔を出せ』だそうッスよ。堂島さんがそう伝えてくれと言っていたっス」
「堂島さんが、そうですか……」
「『若者』達は一足先に電車で帰ったッス。イクローの野郎とトニオさんに鍛えられて、いい顔だったっすよ。ちゃんと『求めるもの』を手にしたって感じだったっすねぇ」
「そうですね『彼ら』は『彼らが生きている世界』にふさわしいモノを、この町でちゃんと手にしたのですね。ならば我々からの礼など、かえって邪魔ですかね」
「まぁ、そこまで気を使うこともねぇとは思うッすケドねぇ」
「…………」
「…………」
「…………じゃあ、用も済んだしアンタたちももうすぐフライトの時間だろぉ? 俺たちはこれで帰るっすよ」
「仗助、世話になった」
「ジョルノ……今度は普通に会おうぜ、シンセキとしてなぁ」
仗助とジョルノは固く握手を交わし、互いに背を向けて歩き出した。
遠月學園の学園祭は、学生たちがそれぞれ工夫を凝らした出店を設営し、外部の客へ料理をふるまう巨大なイベントである。
広大な遠月學園を3分割し、それぞれの区画ごとに生徒たちが売り上げを競うのだ。
そんな大規模なイベントをよそにして、堂島銀は都内の某ホテルにいた。来年度からの特別編入生の面談をするためだ。
堂島の前には二人の中学生が座っている。
トニオの子供、ニーノとルチアだ。
堂島は手にした封筒をやさしく二人に手渡した。
「二人とも合格だ。来年度からの遠月學園への編入を認めよう。期待している」
「ウっす……頑張りますよ」
「ハイっ、一生けん命やりますッ」
小生意気な態度のニーノ、(一見)素直なルチア。対照的な二人の態度に苦笑しながら堂島は席を立った。
部屋のドアを開けると、待ち構えていたように堂島に駆け寄ってくる男がいた。子離れができていない男、トニオだ。
「ギッ……ギン、それでウチノ子は?」
「落ち着けトニオ」
大丈夫だ。
堂嶋は苦笑した。この男は、大事な店を閉めてまで子供たちを追いかけてきたのか。
もしかすると妻であるヴェルジーナは、子供を鍛えるためというよりこの男を子離れさせるために、全寮制の遠月學園への編入を進めたのかもしれない。
そんなことを思いつつ、大喜びのトニオと少し引き気味に自分の親に対応している双子を連れ、堂嶋は別室に移動した。
「実は今は例の学園祭最終日だ。編入を許された生徒には、今の生徒たちがどんな皿を作るのか知ってもらうために昨日の出店の中から成績上位の皿をいくつか用意している。一人一皿選んで、試食してもらう」
テーブルの上には、遠月の生徒たちが作った品が美しく並べられていた。どの皿の前にも料理の名前と出店の店名が書かれたカードが置かれている。
「これを高校生が?」
「……スゴッ」
その出来栄えに衝撃を受けるニーノとルチア。どの皿を試食するべきかなかなか決められず、テーブルをグルグルと歩き回る。
「すっげぇな“薄切り5A肉をレアで楽しむための牛丼”??」
「へぇ、“リゾットと10種の漢方のシーズニング”どんな味なんだろう? いい匂いだけれど」
「うぉっこの“キーマカレー”カバーを開けたらとんでもないいい香りがするぜッ」
「あら、こっちにもカバーがかけてある……うっぷ、この“魔女のシチュー”は食べ物なのかしら?」
「ウォッ! “ゲソとキウィと梅干のパフェ? ”恐ろしい予感がプンプンしやがるゼ」
素晴らしい美食を予感させる皿と、いくつかの爆弾級の危険な皿を見て回った二人は、とある2皿の前で立ち止まった。意味深に笑ってこれの試食を……と手を伸ばして札をとる。
その札にはそれぞれ
『芋煮M/J風:極星寮』
『ミラノ風オーソ・ブッコ:出張版トラットリア・アルディーニ』
と書かれていた。