IS世界を舞う剣刃   作:イナビカリ

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第100話:淑女の最後の我儘

 

 ~一夏 Side~

 

一夏

「…ココか?」

 

シャルロット

「…うん…」

 

 デパートから出た俺達は今、あるビルの前に立っていた

 そこはデュノア社の日本支部だった

 あの日、シャルの親父さんの事を教えてくれた女性はココに居るらしい

 俺達はシャルの亡命の為の書類を書く為にココに来ていた

 俺達が意を決して中に入ると…

 

女性

「お待ちしておりました。」

 

 一人の女性が待っていた

 声からしてこの人があの時電話で話した人みたいだった

 

女性

「改めまして私は『イリス』と言います。以前から社長にはお世話になっていました。」

 

シャルロット

「よ、よろしくお願いします!」

 

イリス

「はい…ところで…そちらは織斑一夏さんですよね?何故お嬢様と一緒に?」

 

 2人が挨拶をするとイリスさんが俺が同行している事に首を傾げた

 

一夏

「あの…俺はただの同行者です。シャルの事情を知っているので一人だと何かと不便かと思って…」

 

イリス

「成程…そう言う事でしたか…お嬢様の為にありがとうございます。」

 

一夏

「い、いえ…」

 

 俺が同行している理由を話すとイリスさんも納得してくれた

 

イリス

「立ち話もなんですから事務所にご案内します。そこでお嬢様にはサインを書いて頂きます。」

 

シャルロット

「は、はい!」

 

 そして俺達はイリスさんの案内で事務所に来たんだけど…

 

一夏

「………」

 

 デュノア社の支部にしては…小さいな?事務所って言ってもビルの一部屋を借りただけみたいだし…

 

イリス

「事務所が小さくて驚きましたか?」

 

一夏

「え!?あ…いや…」

 

 俺の思ってる事を当てられた

 

イリス

「フフッ…本当の事ですからね。ココは日本支部と言ってもその更に下にある部署の一つです。」

 

一夏

「あ、なるほど…」

 

 それなら納得

 そんな話をしているとイリスさんが書類の束を持ってきてくれた

 

イリス

「…ではこちらが礼の書類になります。電話でも説明しましたが手配は既に終わっております。後はこちらの書類にお嬢様がサインをして頂ければ全ての手続きが終わる事になりますが、お嬢様も一度目を通してください。」

 

シャルロット

「分かりました。」

 

 それからシャルは書類を1枚1枚読んでいった

 

 ………

 ……

 …

 

シャルロット

「………はい、問題無いです。」

 

 それから暫くして書類を全て読み終わると問題無いと答えた

 

イリス

「ありがとうございます。それではこちらにサインをお願いします。」

 

 これでサインをすればシャルは日本に亡命した事になるんだな

 なのに…

 

シャルロット

「………」

 

イリス

「お嬢様?」

 

一夏

「ん?」

 

 何で…手が止まってるんだ?

 

 ~一夏 Side out~

 

 

 

 ~シャルロット Side~

 

イリス

「お嬢様?どうかされましたか?」

 

シャルロット

「い、いえ…」

 

 僕は目の前の書類にサインを書く事が出来なかった

 だって…

 

一夏

「どうしたんだよ?後はサインを書くだけなんだぞ?」

 

シャルロット

「…分かってる…でも…これに名前を書いたら…僕は…もう…お父さんに会えない…」

 

一夏&イリス

「!?」

 

 だから…書けない…

 お父さんの気持ちを知ってしまったら…余計に…

 

一夏

「シャル…」

 

 僕は…どうしたらいいんだ…

 

イリス

「お嬢様…お気持ちは分かりますがこれは社長の願いでもあるのです…どうか分かって下さい…」

 

 お父さんの…願い…

 僕の…自由…

 

シャルロット

「…お父さん…」

 

 僕は悩んだ…

 お父さんは僕の為にこの日本に逃がそうとしている…

 でも僕はそんなお父さんとの繋がりを失うのが怖い…

 どうすればいいのか悩んでいると…

 

イリス

「………それではお嬢様…後一度だけ社長に会われますか?」

 

シャルロット

「え?」

 

 イリスさんがお父さんに会ったらどうかと提案してくれた

 

イリス

「何度も言いますが後はサインさえ頂ければ全ての手続きが終わります。ですからその前にもう一度だけお会いに行かれてはどうですか?」

 

一夏

「そんな事出来るんですか?」

 

イリス

「ええ、ただ…」

 

シャルロット

「ただ…何ですか?」

 

イリス

「会いに行かれても…社長はお嬢様の事を娘としては見ません。『シャルル・デュノア』としてしか接しないと思います。」

 

シャルロット

「!?」

 

 『シャルロット』じゃなくて…『シャルル』として…

 確かにそうだ…お父さんの状況を考えればそういう態度を取るしかない…

 下手に僕を娘として接すればお父さんがココまで用意した計画が瓦解するかもしれない…

 

イリス

「それでもいいですか?」

 

シャルロット

「………」

 

一夏

「シャル…」

 

シャルロット

「………はい!!たとえ娘として会ってくれなくても…僕は…もう一だけ、お父さんと会いたいです!!」

 

イリス

「承知しました。」

 

シャルロット

「…すみません…我儘を言って…」

 

イリス

「いえ、お嬢様のお気持ちも分かりますので…それではいつ頃社長の下に向かわれますか?」

 

シャルロット

「そう、ですね………でしたら夏休みの時に…その時なら一度報告に戻る必要があるので…」

 

 その時なら会いに行っても本妻達に疑われない筈…

 

イリス

「分かりました。ではその後に…」

 

シャルロット

「はい!!」

 

 …こうして僕は最後にもう一度だけお父さんに会いに行く事にした…

 

 ………

 ……

 …

 

 その後、僕達はイリスさんに挨拶をして事務所を後にした…

 

シャルロット

「………」

 

一夏

「…シャル…」

 

 一夏が僕を心配して声を掛けた

 

一夏

「その…大丈夫か?」

 

シャルロット

「うん…何とかね…」

 

 今の僕にはそれくらいしか答えられなかった

 

一夏

「そうか…」

 

 そんな僕の返事に一夏はそう言うとそれから何も言わなかった

 僕も今はそっとしておいて欲しかったから気を使ってくれて助かった…

 

シャルロット

「………」

 

 僕は…夏休みに入ったらお父さんに会いに行く…

 それが…

 僕の…

 最後の我儘…

 

 ~シャルロット Side out~

 


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