IS世界を舞う剣刃   作:イナビカリ

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第088話:廃棄品と完成品

 ~シャルル Side~

 

一夏

「トーナメント…中止になっちまったな…」

 

シャルル

「そうだね…でも、生徒のデータを取りたいから1回戦は全部やるらしいよ。」

 

 僕は今、一夏と一緒に食堂で休憩している

 あの後、トーナメントは中止になってしまった…

 理由は勿論、第一試合の戦いが原因だった…

 あの戦いで火ノ兄君は瀕死の重傷を負って今は手術中…

 先生達はその対応と後始末に追われている…

 

シャルル

「…それにしても…」

 

一夏

「ん?どうかしたのか?」

 

シャルル

「…うん…火ノ兄君…大丈夫かなって…」

 

一夏

「…相当な深手だからな…あんな傷でどうやって戦えたんだろうな…」

 

シャルル

「本当にね…アレ…普通は死んでる傷だよ…」

 

一夏

「そうだな…まあ、今はオルコット達がついているから…何かあればアイツ等が騒ぐだろ?」

 

シャルル

「確かにね。…ところで一夏…」

 

一夏

「何だ?」

 

シャルル

「…今夜…父に連絡を取ろうと思うんだ…その時、一緒にいてくれないかな?」

 

 トーナメントが始まる数日前、織斑先生が父と本妻のスケジュールを教えてくれた…

 それを確認したら、今夜は本妻の方は国外に出ていて、父は一人で本社にいる事が分かった…

 今日を逃すと父と二人で連絡を取る時間は他に無かったんだ…

 

一夏

「分かった!」

 

シャルル

「…ありがとう…」

 

 …父の本心を知る事が出来る最初で最後の機会…

 …必ず、聞き出してみせる!!

 僕がそう意気込んでいると…

 

真耶

「織斑君、デュノア君、朗報ですよ~♪」

 

 山田先生がやって来た…

 

シャルル

「あれ?今忙しいんじゃないんですか?」

 

真耶

「少し落ち着いてきたんですよ。」

 

シャルル

「そうなんですか…それで何が朗報なんですか?」

 

真耶

「あ、はい…実はですね、男子の大浴場の使用が今日から解禁になりましたよ♪」

 

一夏

「なっ何だってーーーーーっ!?」

 

 大浴場が使えるって…僕は女だよ!?

 って山田先生は知らなかったんだ!

 とりあえずココは誤魔化しておこう!

 

シャルル

「あ、ありがとうございます。後で使わせて貰いますね。」

 

真耶

「はい♪では私はこれで…まだ仕事が残ってますので。」

 

一夏

「…あの!山田先生!」

 

真耶

「はい?」

 

一夏

「…火ノ兄の容体は…」

 

 ザワ…

 

 一夏の質問に周りにいた他の生徒達も反応した…

 皆も気になってたんだ…

 

真耶

「…手術は終わりました…ですが…まだ目を覚ましてはいません…執刀医の先生は生きているのがおかしいと言ってました…今はオルコットさん達が看てくれています…」

 

一夏

「…そう…ですか…」

 

真耶

「…ではこれで…」

 

 山田先生が去った後の食堂は静まり返っていた…

 

一夏

「…やっぱりアイツの傷は深かったんだな…」

 

シャルル

「…うん…先生まであんな事言う程の傷だったんだね…」

 

 本当にあの時どうやって動いてたんだろ…

 …でも、僕には今は父との連絡の方が大事だな…

 

 ~シャルル Side out~

 

 

 

 ~セシリア Side~

 

セシリア

「………永遠さん…」

 

 わたくしは簪さんと本音さんと一緒に永遠さんの病室にいました…

 永遠さんの手術は終わったのですが…その傷は深く…まだ目を覚ましません…

 

「………」

 

本音

「このまま目を覚まさなかったら…」

 

セシリア&簪

「本音(さん)!!」

 

本音

「ご、ごめん!?」

 

セシリア

「いえ…わたくしもいきなり怒鳴ってすみませんでした…」

 

「…私もごめん…でも本音…」

 

本音

「…うん…それは言ったらダメだよね…」

 

 それから、わたくし達は永遠さんの看病を…と言っても、ただ横にいる事しか出来ないのですが…続けていました…

 暫く時間が経ちますと…

 

 コンコン…

 

 扉を叩くが聞こえてきました

 

セシリア

「…どうぞ。」

 

千冬

「失礼するぞ。」

 

 入ってきたのは織斑先生でした…ですがその後ろには…

 

ラウラ

「…失礼する…」

 

セシリア&簪&本音

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

 

ラウラ

「………」

 

 永遠さんをこの様な状態にしたそもそもの原因…ラウラ・ボーデヴィッヒがいました!

 

セシリア

「…何しに来ましたの?」

 

「…永遠への仕返し?」

 

本音

「…それなら私が相手になるよ!」

 

 わたくしと簪さんは預かっていた永遠さんの刀に手をかけました

 そして、本音さんも刀に手をかけたのですが、空いている手で首にかけてある待機状態の【ワイバーン・ガイア】に触れていました

 

ラウラ

「ま、待ってくれ!!」

 

千冬

「…落ち着けお前達…こいつがそのつもりなら私が連れてきたりはしない…それに布仏、お前が機体を展開したら病室が潰れるだろ。」

 

セシリア&簪&本音

「………」

 

セシリア

「…分かりました…」

 

 わたくしはそう言うと刀から手を放しました…

 簪さんと本音さんも同じ様にしていました

 

「…それで何の用?」

 

ラウラ

「…火ノ兄に…その…今迄のしゃ、謝罪と…助けてくれた事への感謝を…伝えに…」

 

セシリア

「…何ですって?」

 

「貴方…自分が今まで何をしてきたと思ってるの!!」

 

ラウラ

「!?」

 

セシリア

「…いくら織斑先生の言葉が原因とは言え…無関係の永遠さんに勝手に因縁をつけて目の敵にして襲い掛かって…その結果、永遠さんをこのような状態にした貴方が…今さら謝罪ですって!!」

 

「貴方があんなシステムを動かさなければ永遠はこんな事にはならなかった!」

 

ラウラ

「…その…通りだ…だから…謝りに来た………すまなかった!!」

 

セシリア&簪&本音

「………」

 

千冬

「…こいつはお前達に非難されるのも覚悟でココに来たんだ…それだけは分かってやってくれ………それから…確かにこいつの行動は私のせいでもあった…スマン…まさかこんな事になるとは思わなかったんだ…」

 

セシリア&簪&本音

「………」

 

千冬

「…本当にスマン…」

 

本音

「………分かった…」

 

セシリア&簪

「本音(さん)!?」

 

本音

「…でも、謝るのは永遠が目を覚ました時に言って…それで永遠が許したら私も許す…だから…永遠が許すまで私は貴方を許さない!!」

 

ラウラ

「………」

 

千冬

「…そうか…オルコット…更識…お前達は?」

 

セシリア

「…わたくしもそれでいいですわ…」

 

「…私もです…」

 

ラウラ

「…すまない…」

 

 わたくし達の間での話は一先ず落ち着いたのですが…

 

 ドドドドドド…

 

セシリア&簪&本音&千冬&ラウラ

「ん?」

 

 何かがこちらに向かって来る様な音が聞こえてきました

 

 バタンッ!!

 

クロエ

「兄様あああぁぁぁーーーっ!!!」

 

セシリア&簪&本音

「クロエさん!?」

 

 何でココに!?

 

クロエ

「【戦国龍皇】のデータ収集が一段落したので急いで飛んできました!!」

 

千冬

「…やはり束も知っていたか…」

 

クロエ

「はい!それで千冬様!兄様の容体は!?」

 

千冬

「…見ての通りだ…傷の治療は終わったがまだ目を覚まさない…」

 

クロエ

「…そうですか………ではこれを使ってください!!」

 

 クロエさんは懐から一粒のカプセルを出しました

 

千冬

「何だこれは?」

 

クロエ

「これは束様が造った医療用ナノマシン入りのカプセルです!コレを兄様に飲ませればこんな傷すぐに直ります!」

 

千冬

「…それはありがたいが…どうやって飲ませる気だ?」

 

クロエ

「………え?」

 

セシリア

「クロエさん…今の永遠さん…カプセルなんか飲めませんわよ…」

 

クロエ

「あ………ちょ、ちょっと待って下さいね!?」

 

 クロエさんはそう言って近くにあった注射器を使って何かをし始めました

 

クロエ

「…出来ました!注射器にナノマシンを入れたので兄様の体に直接注入出来ます!!」

 

千冬

「…本当に大丈夫なのか?」

 

クロエ

「大丈夫です!!」

 

千冬

「…まあお前がそう言うなら…やってみるか…」

 

 織斑先生はナノマシン入り注射器を受け取ると永遠さんに注射しました

 

千冬

「終わったぞ。」

 

クロエ

「これで兄様は大丈夫です!!」

 

千冬

「そうか…所で束の奴はいつの間にこんな物を造ったんだ?【ラインバレル】の研究の成果か?」

 

クロエ

「いえ違います。これは【ラインバレル】の研究を始める前に造った物です。【ラインバレル】とこの医療ナノマシンは似ているようで全く違いますから。」

 

千冬

「…そうなのか…」

 

クロエ

「はい…それで…兄様をこんな姿にしたのは誰ですか…」

 

 やっぱり聞きますわよね…

 

 ~セシリア Side out~

 

 

 

 ~千冬 Side~

 

 …う~む…何と言うべきか…

 とりあえず、探してる奴はココにいるんだが…

 

ラウラ

「…私だ…」

 

クロエ

「貴方ですか!?…って貴方は!?」

 

ラウラ

「?」

 

クロエ

「よりにもよって貴方が兄様を…」

 

千冬

「クロニクル…お前コイツを知ってるのか?」

 

クロエ

「…貴方の名前は?」

 

ラウラ

「ラ、ラウラ・ボーデヴィッヒだ…」

 

クロエ

「やはりそうでしたか………私は貴方です。」

 

ラウラ

「えっ!?」

 

 クロニクルがラウラだと?

 

千冬

「どういう事だ?お前がコイツと言うのは?」

 

ラウラ

「ま、まさか…お前は!?」

 

 ん?ラウラはコイツの言う事が分かるのか?

 

クロエ

「…そう、私は貴方の失敗作…ラウラ・ボーデヴィッヒになれなかった『廃棄品』です…」

 

セシリア&簪&本音&千冬

「!?」

 

千冬

「ラウラの…廃棄品だと!?」

 

クロエ

「…私達の生まれからすれば貴方は私の妹という事になりますね…」

 

千冬

「い、妹!?」

 

クロエ

「千冬様は彼女の出生をご存知ですか?」

 

千冬

「い、いや…そこまでは知らないが…」

 

クロエ

「ではお教えしましょう。私と彼女はドイツで生み出された遺伝子強化試験体…簡単に言えば試験管ベビーです。」

 

セシリア&簪&本音&千冬

「なっ!?」

 

千冬

「ラウラ!本当なのか!?」

 

ラウラ

「…はい…」

 

 アイツ等!【VTシステム】だけでなく、そんな事にまで手を付けていたのか!?

 

クロエ

「ですが、その過程で必要最低限の能力を持たなかった者、体に何かしらの異常があった者は失敗作として廃棄されていたのです。私もその廃棄品の一人として処分されたのですが、そんな私を束様が拾ってくださり、『クロエ・クロニクル』と言う名をつけてくださいました。」

 

セシリア

「そ、そんな!?」

 

「酷い!?」

 

本音

「でも何で姉妹なの?」

 

クロエ

「私と彼女は同じ遺伝子情報を元に生み出されたからです。そして私の方が早く作り出されたので私が姉という事になるんです。」

 

 …そうか…だからこの二人はこんなに似ていたのか…

 

ラウラ

「ね、姉さん?」

 

クロエ

「先程は貴方を妹と言いましたが、それは皆様に説明する為…私は貴方と姉妹だなんて認めていません。」

 

ラウラ

「な、何で!?」

 

クロエ

「貴方は私の成れなかった完成形…貴方と姉妹と認めてしまえば私は『クロエ・クロニクル』では無く、『ラウラ・ボーデヴィッヒの失敗作』になってしまうからですよ。」

 

ラウラ

「!?」

 

クロエ

「束様に拾われ名前を付けて貰った事も…永遠兄様が妹にしてくれた事も…全て『クロエ・クロニクル』と言う一人の人間です。私はもう昔の自分に戻りたくないんですよ。貴方の廃棄品と言う負の産物には…貴方の影になるのは…嫌なんですよ!!」

 

ラウラ

「!?………貴方が…私の影…」

 

クロエ

「分かったら二度と私を姉などと呼ばないでください!」

 

ラウラ

「………」

 

「………クロエ…そう嫌うでない…」

 

全員

「!?」

 

セシリア

「永遠さん!?」

 

「目を覚ましたの!?」

 

本音

「良かったよ~♪」

 

永遠

「何とかな…」

 

 …明らかに無理をしているな…いくら束のナノマシンでもあれだけの傷がこんな短時間で塞がるとも思えん…

 …クロニクルの為か…

 

クロエ

「兄様…」

 

永遠

「…クロエ…そうチビッ子を拒絶するな…お主を捨てたのはドイツの馬鹿共であってチビッ子では無かろう?」

 

クロエ

「で、ですが!?」

 

永遠

「折角会えた妹じゃろう?」

 

クロエ

「違います!私の家族は束様と兄様だけです!私は二人がいてくれればそれでいいんです!!私に妹なんかいりません!!」

 

永遠

「クロエ!!!!」

 

クロエ

「!?…に、兄様…」

 

千冬

「そんな大声を出すな!まだ傷は塞がってないんだぞ…」

 

永遠

「っはぁ…はぁ…いいかクロエ…チビッ子はお前の妹じゃ。たった一人の…血の繋がった姉妹…家族なんじゃ…」

 

ラウラ

「!?」

 

クロエ

「で、でも…認めてしまったら私は…今まで犠牲になった姉妹達は…」

 

永遠

「…お前達が仲違いして…犠牲になった姉妹達が喜ぶと思うのか…」

 

クロエ

「!?」

 

永遠

「…それにな…ワシにとってクロエはクロエじゃ…チビッ子の失敗作だの影だの知った事では無いわい…お主はワシの妹…クロエ・クロニクルじゃ…それ以外の何者でも無い!!」

 

クロエ

「…にい…さま………兄様あああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」

 

千冬

「あ!」

 

 今の火ノ兄に抱き着いたりしたら…

 

永遠

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」

 

 やっぱりこうなるか…

 

クロエ

「す、すみません!!」

 

永遠

「…ぐぎぎっ…わ、分かったら…チビッ子と…話…せ…ガクッ!!」

 

クロエ

「兄様!?」

 

セシリア&簪&本音

「永遠(さん)!?」

 

千冬

「…気絶している…タダでさえ無理をしていた所にお前が抱き着いたりしたからな…」

 

クロエ

「…しゅみましぇん…」

 

千冬

「…これは当分目を覚まさんな………とりあえず…ラウラ、クロニクル…火ノ兄の言ったように屋上にでも行って話して来い。」

 

クロエ&ラウラ

「…はい…」

 

千冬

「それからクロニクル…悪いが帰る時に私の所に来てくれ。預かって欲しい物がある。」

 

クロエ

「…分かりました。」

 

 二人は揃って病室から出て行ったか…

 …あの二人…本当の姉妹になれればいいんだが…

 後は当人達に任せるしかないな…

 さて、色々あったが私がココに来た目的をやるとするか

 

セシリア

「織斑先生…クロエさんに預ける物と言うのは…」

 

千冬

「ああ、それは更識と布仏が持つ火ノ兄のISだ。」

 

「【ラインバレル】と…」

 

本音

「【ドットブラスライザー】ですか~?」

 

千冬

「そうだ。鈴から聞いていると思うがコイツは今回の件で世界中から目を付けられた。今迄は束が情報操作していたお陰でコイツの事は外に漏れてはいなかったが、それも完全にバレてしまった。だからお前達にその3機を事前に確保させておいた。」

 

セシリア

「はい…」

 

千冬

「あの後、案の定私達の所に火ノ兄の情報を教えろと各国のお偉方がやってきてな。とりあえず必要最低限の事しか教えてはいない。そして秘匿した情報の中にはその2機も含まれている。」

 

「…何となく分かりました…各国に【ラインバレル】と【ドットブラスライザー】の存在がバレる前に束さんの所に隠そうと言う事ですね?」

 

千冬

「そうだ、連中が生徒達から話を聞けばこの2機の存在はすぐにバレる。だからその前にアイツに預けておくのが一番安全と判断した。それに束ならこの2機を悪用する事も無いだろう。」

 

 するつもりならとっくの昔にやっているからな…

 

セシリア

「確かにそうですわね…特に【ラインバレル】の能力はある意味【戦国龍皇】以上に危険ですわ…その気になればこの機体だけで世界中の重要施設を破壊する事も可能ですもの…」

 

「それに【ドットブラスライザー】もだよ。変形や合体は色々と応用も効く機能だし!」

 

千冬

「そう言う事だ…まあ【転送】に関しては束でさえ解析出来ないみたいだから量産される事は無いだろうが…」

 

「どちらも奪われたら危険という事ですね?」

 

千冬

「その通りだ。そう言う訳で私はその3機を受け取りに来たんだ。クロニクルが来たのは丁度良かったからアイツに預ければいいだろ。」

 

本音

「あの~それで【戦国龍皇】はどうするんですか~?」

 

千冬

「今からこっちで解析作業を始める。それが終わったら【戦国龍皇】も束に預けるつもりだ。それに、アイツも実物を解析したいだろうしな。」

 

セシリア&簪&本音

「あははは…」

 

 3人揃って乾いた笑いをしおって…【戦国龍皇】を解析したくてうずうずしている束の姿が目に浮かんだんだろうな…私もそうだが…

 出来るだけ早く解析を済ませておきたいな…

 『あの馬鹿』が何を仕出かすか分からんからな…

 とりあえず、私はオルコット達から3本の刀を預かって病室を後にした

 

 ~千冬 Side out~

 

 


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