G.O.D.-禁忌ノ娘と贄ノ巫女-   作:亀川ダイブ

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5.ギャロウズ・ヒル・前編

 セイラム第二街区、ヒルサイドタウン。

 デモノハザード以前、魔女狩りの街として名高かったセイラムの象徴ともいえる、魔女処刑場〝首吊りの丘(ギャロウズ・ヒル)〟――その跡地を中心とした、円環状の街並みである。立ち並ぶ石造りの建物は、魔女の牢獄という頑丈さからか、他の街区よりは倒壊が少ない。乾いた砂埃の堆積した牢獄内には、血塗られた拷問具の数々が、錆びるに任せて放置してあった。

 

(どこにいるの……!)

 

 レイヴンの駆るジャックラビットが、灰色の砂埃を巻き上げ、石畳の街路を駆け抜ける。両脇を流れていく街並には魔炎が燃え盛り、主を失った《天使の光輪》や、引き千切られた【悪魔】の残骸が転がっている。そしてそれらの倍の数、さっきまで人間だったらしい腕やら脚やら内臓やらが、血溜まりに浸っていた。乾き切ったセイラムの夜が、血と死の臭いに濡れている。

 レイヴンは視線を忙しく左右に振った。まさかアヤの生首が、古傷の残る左手が、そこいらに転がってはいないだろうか――

 

『レイヴン。《刻印》の気配はまだ先、丘の向こう側だ。先に雑魚どもを掃除しろ』

「……それもそうね」

 

 ミラーに目をやり、確認する。時速二五〇キロオーバーで爆走するジャックラビットを追う、醜悪にして異形の飛行物体があった。

 蛇とも百足ともつかない、鱗に覆われた多節状の身体に、四対の蝙蝠の羽根。太い甲殻質の角が不規則に突き出した頭には眼に相当する器官はなく、ただ縦に裂けた巨大な口に、不揃いな鋸歯が並んでいるのみ。頭から数個目までの体節には薄紫の触手が生え、うぞうぞと蠢いていた。体長にして二、三メートルを超えるそれが、十数体。

下級第二位悪魔【オリウィエル】。好んで幼子の柔肉を貪り喰う、おぞましき魔蟲である。

 

【卑ィ@あ悪ォァ―――――ァヰ――――――!】

 

 魔なる翅百足は超音波の咆哮を上げ、弾かれたように飛び出した。細長い体を剣のように一直線に、ジャックラビットを遙かに上回る速度で突撃してくる。

 

「パンドラ、〝サードオニキス〟!」

『〝オニキス〟 《ライト》 リベレイション』

 

 レイヴンはアクセルを一切緩めず、タイヤを滑らせて蛇行。オリウィエルの突撃をかわしながら、座席横のガンホルダーから、一丁の回転式拳銃を引き抜いた。

 五つの薬室を備えた、大型の回転式弾倉。ブラッドオニキスに良く似た、四〇センチ超の銃身。その姿は眩いばかりの白銀に煌き、真紅の《五芒星形の旧き印(エルダーサイン)》が刻まれている。

 ――〝サードオニキス〟。名も無き翠眼の聖少女が、自らの命と引き換えに《旧き神》との契約を籠めた聖銀のリボルバー・カノン。全ての悪を殲滅する無慈悲の聖弾は、〝白の冥王〟の異名を以って、悪しきモノどもから畏怖と憎悪の対象とされたという。

 

「パンドラ、手早く行くわよ」

 

 レイヴンの身体を白銀の《聖光》が包み込み、弾けた。白金の髪が風圧になびくのと同時、ジャックラビットのエンジンは守護神機関《逆転懐中時計(ヴァーチュ・アストラルエンジン)》へと錬金術的変化(アルケミカルメタモルフォーゼ)。マフラーが甲高い排気音で嘶き、鋼鉄の騎馬は、黒から白へと変貌を遂げる。

 だがしかし、舞い散る《聖気》の燐光も、オリウィエルの群れには目晦ましにもならない。一度追い抜き、発達した聴覚でレイヴンの心音を捉え、次々と真正面から突っ込んでくる。

 

【卑ィ@あ悪ォァ―――――ァヰ――――――!】

 

 うねり・咆哮し・襲い来る、鋸歯の捕食器。レイヴンはハンドルから両手を離し、上体を起こした。時速二〇〇キロ超の風圧を真正面から受け止め、銀聖銃(サードオニキス)を両手持ちに構える。白金の髪から、白銀の瞳から、レイヴンの全身から舞い散る《聖気》の燐光が渦を巻き、腕を伝い、指先を通じ、聖銀のシリンダーへと吸い込まれていく。圧倒的なエネルギーを得た《五芒星刻印》が、輝き・煌き・脈動する。前後二つの照星が重なり、機が満ちる。

 

「さぁて、お邪魔な羽蟲ども。少し、頭、冷やそうか!」

『〝オニキス〟 《ライト》 エクスキューション!』

 

 ゴッゴッゴンッ! 五連装シリンダーが回転し、三発の聖弾を炸裂させた。聖弾三発分の攻性霊子(ゴーズトバスター)を注ぎ込まれた銃身で、内部に施された線条神聖文字式刻印(ライフリング)が発動、総エネルギー量は通常時の三乗に膨れ上がる。凄まじい圧力で噴き出した発砲炎が《真紅の五芒星形(スカーレット・ペンタゴン)》を描き、それはそのまま、異界の無限熱量を召喚する魔法陣となった。

 

『「ディバインバスター・エクスキューションッ!」』

 

 ドッ……ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ―――――

 街路の幅よりも太い白銀の光芒が、銀聖銃から迸った。《真紅の五芒星》から召喚された途方もない出力の《聖気》の奔流は、溶岩の熱にも耐えるオリウィエルの甲殻を一瞬で蒸発させ、影さえ残さず消滅させた。のみならず、有り余る無限熱量は石造りの家々をも次々と飲み込み、融解し、ギャロウズ・ヒルのふもとを深々と抉り取って、漸くその輝きを失った。

 

『少しは調節しろ。また丘を吹き飛ばしおって』

「ダンウィッチの時とは違うわ。今回は、それも含めて計・画・通・り」

 

 レイヴンは再び風防の中に身体を収めた。その刃のような双眸が見据えるのは、超熱量に抉られ、半円形のトンネルとなったギャロウズ・ヒルの先。円環状の街並みの、本来ならば、丘を挟んで向かい側だったはずの場所。

 

「ショートカットよ」

 

 ギアを蹴り込み、パワーバンドを回しきる。レイヴンの存在を感知した下級悪魔(イウヴァルト)がわらわらと集まってきたが、後方から追いすがるものは追いつけず、前方に立ちふさがるものはサードオニキスに吹き飛ばされる。レイヴンの掌を通じて注ぎ込まれる《聖気》が銀聖銃に充填、シリンダーに刻み込まれた全自動錬金術式(リローダー)が発動。銀の聖弾は次々と精錬/生成され、その弾幕が途切れることはない。

 

【げヴぁ悪・いユイんc::q;アッーー!】

「うっさい!」

 

 罵声一蹴、進路上に現れた一体を轢き殺し、スロープ代わりにして飛び上がった。眼下に広がるのは、抉られたギャロウズ・ヒル。超高熱に溶かされた大地は硝子質に焼結され、赤熱する硝子のハーフパイプを形作っていた。

 レイヴンはジャックラビットを歴戦の愛馬の如く駆り立て、抉られたギャロウズ・ヒルへと着地。未だ溶鉱炉のような熱量を発する三日月形(ハーフパイプ)のストレートを、アクセル全開で走り抜ける!

 

【卑ィ@あ悪ォァ―――――ァヰ――――――!】

《Rah―――――――――――――――――》

 

 流星のように流れていく景色の中、先の必殺技(エクスキューション)を逃れたらしいオリウィエルが捕食器をガチガチと噛み合わせながら並走し、前方からは新たにエンジェルの大群が迫りくる。

 

「ったく、面倒な翅百足(カトンボ)が!」

 

 突き出された鋸歯の捕食器に、レイヴンは自分から腕を突っ込んだ。喉奥に銃口を押し付けての三点射。オリウィエルは内側から爆裂し、《聖気》に焼け爛れたハラワタを撒き散らした。噛みついた頭部を振り払い前方に視線を戻せば、白き鳥人が視界を埋め尽くし、金の杓杖が眼の前に迫っていた。レイヴンは咄嗟、膝が地を擦るほどに車体を傾けて潜り抜ける。後輪を滑らせて狂ったように回転しながら、銀聖銃を乱れ撃つ。《天使》相手に聖気属性の弾丸は効果が薄いが、鳩のように群がっていたエンジェルたちは直撃を嫌い、距離を取る。

 

「パンドラ、魔力解放っ。――変身ッ!」

『〝オニキス〟 【ダーク】 リベレイション』

 

 レイヴンは地面を蹴って車体を起こし、銀聖銃をガンホルダーに収めた。ギアを落とし、前輪を跳ね上げての急加速。開き切ったアクセルが大量の【魔力】をエンジンに流し込み、ジャックラビットを再び黒紫に染め上げる。そして同じく黒紫に染まったレイヴンがガンホルダーから銃を抜けば、その手にあるのは〝ブラッドオニキス〟。千の罪人の血を吸った、呪われし黒死の魔銃である。

 

()R()a()h()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何重にも響く《天使の歌声》、再び集結したエンジェルが振り下ろす黄金の杓杖は、まるで死体に群がる禿鷲の嘴。レイヴンは蛇行と加減速を繰り返して無数の嘴を避け、隙を見ては致死の呪弾を叩きこむ。高速飛翔する羽根の塊だった一団から、一羽、また一羽と欠けていき、後塵の彼方に光華と散る。そして僅か、開いた空間にコースを見出し、そり立つ壁を駆け上がる。ギアは再びオーバートップに蹴り込んで、重力に反し、三日月形の頂点に逆さまに張り付いて走行する。頭上の地面から飛び上がってくるエンジェルどもへ、狙いも付けずに呪弾を連射。その全弾を命中させ、黒死銃(ブラッドオニキス)は弾切れになる。空になった弾倉を落とし、器用にも片手でガンベルトから弾倉を取り出して、再装填。口でスライドを引いて、初弾を装填した。間を置かず、追撃してくるエンジェルの最先頭を撃ち落とす。後続が墜落に巻き込まれ、羽根を撒き散らしてグズグズの塊となっていった。これで《天使》どもの大半は撃ち落としたかと思ったのも束の間、ガラス化した地面を突き破って、またしてもオリウィエルが飛び出してきた。

 

『む……大型種か』

 

 パンドラが呟いた通り、そのオリウィエルは通常種の三倍以上の大きさがあった。長い年月人肉を貪り続けた悪魔は、その身に溜め込んだ膨大な魔力により、【奈落堕ち(フォールダウン)】――魔力臨界の突破による大型・凶暴化――を起こすのだ。

 

【愚卑えyあ悪ォァ―――――ァヰ侮邪――――――!】

 

 大オリウィエルは、鋸歯の捕食器に湿った土くれをつけたまま、真正面からレイヴンに突っ込んできた。呪弾を撃ちこみ衝撃で方向を逸らすが、【魔導障壁(シールド)】に守られた悪魔の甲殻を、【魔力】の呪弾では貫通できない。大翅百足は何事もなかったかのように、再び襲いかかってきた。

 

「ったく、天使か悪魔かどっちかにしてくれないかしら」

『〝トーチャーホイール〟 《ライト》 リベレイション』

 

 背後からの突撃を横滑りでかわし、ジャックラビットは排気管から白銀の光を吐きだしながら、そのまま三日月形の半ばほどまで滑り降りた。その時には再び、レイヴンの瞳は銀に煌き、ゴーグルの外にまで燐光を散らしている。

 

「忙しすぎて、目が白黒しちゃうわ」

 

 遙か前方まで突き抜けていった大オリウィエルが再び頭を巡らせ、相も変わらず真正面から、大口を開けて突っ込んでくる。レイヴンは黒死銃をガンホルダーに収め、オーバートップに入っているギアを、さらに一段、蹴り込んだ。

 

「拉げて潰れな、おバカさん(ドン・キホーテ)!」

『〝トーチャーホイール〟 《ライト》 エクスキューション!』

 

 拷問車輪の化身たるジャックラビットが、その本性を目覚めさせた。前後の車輪から無数の鉄棘(スパイク)が突き出し、エンジンは爆裂する《聖気》の鼓動に激震する。

 

『「ボーンブレイク・エクスキューションッ!」』

 

 前輪を思いっきり振り上げ、総重量三五〇㎏×時速二五〇㎞の打撃力で以って、甲殻に覆われた頭を叩き潰す。そしてそのまま、甲殻を踏み砕き叩き割り引き剥がし、身体の上を走り抜けた。

 拷問車輪の通り過ぎた後に残ったのは、殻混じりの挽肉と、濁った薄紫色の体液だけ。残る敵は遙か後方に下級悪魔と天使の数匹、わざわざ戻ってやることもない。

 

「距離は?」

『あと八〇〇。先ほどから動いていない』

「……ッ!」

 

 丘の先にいるはずのアヤを目指し、レイヴンはジャックラビットを走らせた。

 

 

 

 

 デモノハザード以前は裁判所として使われていた、石造りの、頑丈な、四階建ての建築物。法の公正を誇示するかのように完全な左右対称(シンメトリー)で構成されたこの建物はしかし、多数の穢れ無き乙女たちに、魔女の汚名と首吊りの運命を宣告したその場所である。

 

「随分と、えげつない趣味してるじゃない。天使サマってのも」

 

 鞄形態のパンドラを肩から担ぎ提げ、金髪碧眼のレイヴンが、裁判所跡の前庭へと踏み込み……そしてその眼に映ったのは、裁判所の外壁一面の、【悪魔】の磔刑。

 不自然に繁殖した緑青色の荊が壁面に蔓延り、その荊に呑み込まれるようにして、イウヴァルトの死体や瀕死体が磔にされていた。その胸を貫くのは、イウヴァルト自身の、むしり取られた鎌や脚。レイヴンが《聖気》を以って悪魔殺しをするように、相反する霊的アイデンティティを持つ武器や手段で同じことをすれば、イウヴァルトは即座に絶命し塵芥と化すだろう。だが、同じ【魔力】に満ちた自分自身の鎌に貫かれたのでは、ただ死ぬことすら容易でない。結果として緑青色の荊の壁には、赤黒い体液を流しながら長い時間を苦しみ呻く、〝半死体の悪魔の壁〟が出来上がるのだ。

 

「まったく、手間のかかる家出娘ね」

 

 そして、その悪意に満ちた荊の壁を背負う前庭には、緑青色の荊が集まった、揺りかごのような塊があった。地上数十センチに滞空する揺りかごの中、一人の女が囚われている。両手両足を荊に縛られ、十字架に磔にされたような格好。鋭い刺に脇の辺りまで引き裂かれた尼僧服から、擦り傷だらけの右腕が――《熾天使の刻印》を刻まれた、白い右腕が覗く。

 

「レイ……ヴン、なの……?」

 

 アヤは重い瞼を開き、ぼやける視界にレイヴンの姿を捉えた。

身体中を荊に引っ掻かれ、擦り傷だらけにはなっているが、なぜだか、とても心地が良い。縛られた手足から送り込まれてくる大量の《聖気》が、ぬるま湯にたゆたうような快感を以って、意識を眠りの底へ誘おうとする。

 

「来て……くれたの、ね……」

 

 頭の中を支配する薄桃色の泥に逆らって、アヤは顔を上げた。霞みがかった視界の中で、レイヴンが笑った……ように、見えた。

 

「いや、ね。クソ憎たらしい便所蟲やら胡散臭い宗教チキンやらのケツに弾丸ぶち込んでお帰り願ってたら、いつの間にか恩知らずの家出娘に出くわしちまったわ。……ってところかしら。だから、別に――」

 

 レイヴンは突然ジャンプして、荊の揺りかごのすぐ前にまで飛び込んできた。腕一本で生い茂る荊を掻きわけて、揺りかごの中に頭を突っ込む。半眼を開けているのが精いっぱいのアヤの顎を指先で上げ、笑っていない眼でウィンクを投げる。

 

「あんたなんかを助けに来たわけじゃ、ないんだからね?」

『リベレイション!』

《GuuLllaa―――!》

 

 ドォンッ!

 パンドラと、《咆哮》と、銃声。その全てが、一秒以下の瞬間に集中していた。

 荊でできた偽物のアヤを突き破り現れた牙の奇襲を、体を逸らしてレイヴンはかわす。そして脚力だけで飛び上がり、空中で華麗に三回転捻り、ブラッドオニキスを右手に着地する。そのレイヴンの左手で、パンドラが低く告げた。

 

『白き翼ある四足獣、《聖命》の番犬王、神々の猟犬団。中級第二位、力天使だ』

「まったく、躾のなってない駄犬ね。お仕置きが必要だわ」

 

 荊の揺りかごを守るように、護るように。姿勢も低く唸りを上げ、レイヴンを威嚇する。その姿はまさに、神宝を守護する番犬というに相応しい。荊と聖銀の装飾具をまとった白い身体は、四本脚の大型獣。体毛はなく、背中からは人間によく似た筋肉質な細腕が生え、その手首のあたりから一枚ずつ、猛禽のような白翼が生える。そして荊の首輪から突き出す、長い頭。耳も鼻も、眼さえもない純白の流線型には、狂いなく噛み合わさった猛牙が剥き出しになっている。犬のように短く呼吸する、吐息の全てが《聖気》の燐光。吐息の触れた枯れ草が、青々と茂っては枯れるのを繰り返す。

 中級第二位天使《ヴァーチャー》。蔓延る《聖命》の荊を司る、獰猛なる神の番犬王。

 ヴァーチャーは噛み千切った荊を、噛み止めた呪弾とともに吐き捨てた。

 

「レイヴン……逃げて、くださ……」

 

 本物のアヤが、ばらりとほどけた偽物の奥から叫ぶ。しかし、最後の力を振り絞った叫びを飲み込むように、蔓延る荊が揺りかごを覆い尽くした。ヴァーチャーの背腕が裁判所を指差すと、荊の球体はふわふわと移動し、その屋上に神宝の如く鎮座する。荊の隙間から漏れる《聖気》が輝きを増し、月明かりもか細い暗夜に、太陽の如き光輝を放つ。

 

「……天使はアヤに、危害を加えられないんじゃなかったの」

『あの光、高位の回復法術だ。大量に流し込まれる聖気の加護で、身体は極限まで賦活される。ヒトの身で、それに精神が耐え切れるかは知らぬがな』

「ふん、《過剰祝福による聖気暴走(オーバーフロー)》ね。四本足レベルのおつむじゃ、人間サマのお心までは気が回らないんでしょうね」

 

 レイヴンは言いながら、【魔力】を解放した。黒紫の波動が地を迸り、髪を、瞳を染め上げる。闇よりも濃い黒の髪、夜よりも深い黒の瞳。風中の桜が如く舞い散るは、黒紫の燐光。レイヴンを中心に闇色の旋風が巻き起こり、密かに周囲に張り巡らされていた緑青色の荊が、黒き魔炎に燃え上がる。レイヴンは前髪をかきあげ、燃え落ち炭と化す荊たちを睥睨する。

 

「手癖も悪いみたいだし。飼い主の顔(カミサマ)を見てみたいわ」

『なりは狗でも、中級二位だ。油断は禁物だぞ』

「知ってるわ。私、駄犬の調教は得意なのよ?」

 

 レイヴンは不敵に微笑み、くるくると回して黒死銃を構えた。呪弾を孕んだ銃口が、《天使(エモノ)》を前に狂喜の慟哭を上げた。

 

「躾てあげるわ、犬っころ!」

 

 

 

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