東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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前回の続きです。


鬼との対話

「……」

 

「陽? 見つかった……見たいね。ありがとう、助かったわ」

 

「にゃにゃーん、さとり様から頼まれた事をしただけだしお礼を言われる程の事はして無いよ。んじゃあ私達は戻るね」

 

そう言いながらお燐は抱えたキスメと共に店を出て帰っていく。それを軽く見送った後にまた陽達は勇儀へと向き直る。

彼女は陽達の事もただの野次馬程度にしか思ってなかった様だがふとこちらを見た時に陽の存在に気付いた様でじっくりと見つめる。

陽自身は自分が見られているとは露ほども知らずに見られている事なんて頭に無く、全く別の事を考えていた。

 

「よし、そこの人間! お姉さんと飲み比べしようか。勝てたら何でも言う事一つだけ聞いてやるよ。負けてもそっちには何の損は無い、この条件でやろうか」

 

人間、と言われてようやく陽は自分が指名されてるのだと気付き渋々ながらも彼女の元へと歩く。彼自身の気持を代弁するならば、決しては彼は彼女の『何でも言う事を一つだけ聞く』に魅力を感じた訳では無く、単純にこの後話しをするのに機嫌を悪くされたら駄目だと感じたからだ。

 

「……何でも言う事一つだけ聞くって言われたら男の子って反応してしまうのね……」

 

「……変態」

 

ツレの女性陣にはそうは見えなかった様で少しだけ非難されているが、彼には彼女自身にしたい事など毛頭無いのでもう酒飲みを終えるまで負けようが勝とうが黙っている事にした。

 

「へぇ……あんた八雲紫の連れかい? ただの人間だと思っていたけど……面白い飲み比べができそうだ」

 

この時の陽にとっては勇儀に勝つ事なんて露程も考えておらず、とりあえずはご機嫌取りの飲み比べで勝とうが負けようがとりあえず彼女と後で話すきっかけを持てただけで良かったのだ。

しかし結果は━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うえぇ……あ、あんだけ飲んでピンピンしてるなんて…………本当に人間かい、あんた……」

 

「……一応人間、だけど」

 

結果は陽の圧勝だった。彼は勇儀以上に飲んでいるが一切顔色を変えず、酔っている様子もなかった。これには周りのギャラリー達も騒然となっていた。何故なら、人間が酒慣れしている鬼に圧勝してしまっているのだから。

 

「……男の子の執念って、ここまでになるのね……」

 

「ガッカリだよ……」

 

しかしそれでも女性陣の誤解は解けない様だが。むしろ悪化している様にも陽は見えていた。どうにかして誤解を解こうと考えていた時、勇儀が呻きながら手を上に掲げ出す。

 

「さ、さぁ…………あんたの勝ちだ……本当になんでも言う事を聞いてやるよ…………」

 

「……後で話がしたいのでとりあえずその酔いが覚めてからでお願いします」

 

「りょ、了解……」

 

話し合える約束は取り付けれたのでこれでいいかな、と思いながらチラッとだけ女性陣の顔色を見る陽。しかし、女性陣は悪い方悪い方に解釈している様で自分の信頼なんて全く無かったんだなと若干物悲しくなってしまった陽であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、結局飲み過ぎちまって日を跨いじまったなぁ! 私が負けるなんて思いもよらなんだ!

んで? 話す内容ってのは……そこにいる鬼の子の事かい?」

 

この時、失礼ながらも陽は少しだけ驚いていた。何故なら、彼女はもっと何も考えてない様な人物だと思っていたからだ。そして、ここで紫に教えて貰った事を思い出した。『鬼はよく人を見る』というのをだ。今更ながら陽はこれを実感していたのだった。

 

「まぁ、確かにそうなんですけど……」

 

「へぇ……ふーん……ほう…………」

 

「な、何……」

 

確認を取った勇儀は陽鬼に近付き、じっくりと見ていく。まるで本当に鬼なのかを疑っているかの様に。

 

「……めずらしいね、幻想郷にいる鬼ってのは消えたくないからこっちに来た奴らが多いんだ。外の世界にいて消える事が無い鬼がいたなんてね、しかも村の規模で……」

 

「元々存在が薄い様な村だったし……私があの村にいた時に村長の口から八雲紫が幻想郷に誘おうという提案があった、なんて話聞いた事が無いし多分誰からも忘れ去られてたんだと思うよ」

 

「……まぁ、私にも見落としは……あるかもしれない、わよね……」

 

若干反省したかの様に扇子を開いて口を隠しながら陽鬼に申し訳なさそうにする紫であった。

 

「ふーん……で、私と引き合わせたのは単純に会わせる為、ってところか。だが同族に会えるとは思ってなかったね、素直に嬉しいよ。

会おうと思って会える訳じゃなさそうだがそれでも、だね。」

 

「わっ、な、何でみんな私の頭を撫でようとするのさー……」

 

勇儀は陽鬼の頭を少しだけ乱暴に撫でる。髪がぐしゃぐしゃになっているが本当に嬉しそうな勇儀を見てやはりここに来た意味はあったのか、と、再確認する事か出来た陽達だった。

 

「にしても……鬼の主が人間とはね……いや、けど腕っ節は弱いかもしれないが芯は図太くていいと思うよ。何せ、飲み比べで私に勝ったんだからね! いやぁ、ほんと完敗完敗。今度は腕っ節を鍛えて私を楽しませてくれよ?」

 

「いや、流石に鬼のあなたに勝てる様な腕力を持つ事が出来る様になるのは人間の身では無理な気が……」

 

「それもそうか、けどまぁ……それくらい私が認めた男って事だ。何言ったのかは知らないけど……他にかまけてあんまりこの子を構えない様な事だけは無い様にな。この子を泣かせる様な事があったら全力でぶん殴ってやる」

 

差し出したその手と共に言われた言葉が冗談なのか本当にやるつもりなのかは分からないが陽は少しだけ身震いした。勇儀の力がとんでもなく強い、というのは分かっている為それの本気を出された場合自分の体はバラバラになってないだろうかとか余計な事をつい考えてしまう。

だが、頭を切り替えて陽は勇儀の差し出した手を掴んで握手をした。星熊勇儀という妖怪の人柄を知り、陽鬼の同族の知り合いを作れた事は間違い無く陽鬼の為だったのだから。

 

「そんじゃあ、ちょっとばっかしこのこと話し合ってくるから悪いがしばらく待っておいてくれよ?」

 

「は、はい……陽鬼、あんまり迷惑になる様な事はしない様にな?」

 

「もー、分かってるよそのくらい……じゃあ行ってきまーす!」

 

そう言って陽鬼は勇儀に連れられて近くの広場に腰を下ろして話し合いを始めた。話し合っている間、自分達も待ってなくてはならないのでどこかで暇を潰せればいいだろうと考えていたのだが……

 

「いでっ!?」

 

「よ、陽? どうしたの……ってこの糸は……」

 

「糸……ん? あ、足が固定されて……ってこの糸硬い……!」

 

いつの間にか陽の足にはパッと見では軽く糸で括られていた。しかし、糸自体の強度はとんでもなく固く、二・三回交差させているだけで既に陽の力ではびくともしなくなっていた。

 

「あ、あれ……どうにかして人間が入ってきてたから格好の餌だと思ってたのにまさかほかの妖怪と一緒だなんて……!」

 

「あら……土蜘蛛じゃない……これはまた随分な歓迎ね?」

 

「げっ……しかも八雲紫……!?」

 

陽の前にいた紫が陽の後ろに向かって話しかけてるのを見た陽はどうにかこうにか後ろを振り向く事が出来た。

そこに居たのは蜘蛛のような下半身を持った金髪の少女がいた。

 

「いつぞやの時は世話になったわね……霊夢がここに来た時にも霊夢に手を出してたかしら? ほんと貴方って私の友人にことごとくちょっかいをかけるのが好きなのねぇ……」

 

「ひっ!? も、もうあんな目にあうのは懲り懲りだよ!! 私の能力がアンタに効かないのに私が逆らえる訳無いじゃないか!! そもそも何で人間なんて『飼ってる』のさー!!」

 

そのまま叫びながら蜘蛛の足を畳んだ彼女はまるでぼてっとしたスカートを履いている少女にしか見えなかったがそのままどこかへと飛んで行ってしまったが、せめて糸くらい外してから逃げていってほしいものだと思いながら紫に何とか意図を外してもらった陽であった。

 

「にしても……あれは誰なんだよ……」

 

黒谷(くろだに)ヤマメ……地底に住んでいる土蜘蛛で確か……病気だったか病原菌だったかを操って相手に病気を発症させる事が出来る能力持ちよ」

 

「あー、あれが説明してもらった土蜘蛛……」

 

何故か陽は変な感心をしながらも周りを見渡す。既に地底に来てつるべおとしに頭を強打されたり土蜘蛛に足を引っ張られて転けたりで結構散々な目にあっているのでこれ以上何かあっては困ると警戒に警戒を張っているのだ。

 

「まぁ……あまり警戒しても楽しめるものも楽しめないし流石にもうないと思うから……」

 

「……うん……」

 

この後適度に警戒しつつ、紫と陽は地底の街を散策してある程度地底の街を楽しめる事が出来たのだった。その間、特に何も起きなかったのである意味では彼女達は拍子抜けしてしまったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何故また地霊殿へ来ているのですか」

 

「別にいいじゃない、私達はここに来て2度も妖怪に襲われたのよ? 外から来た者を襲うのがここの流儀なの?」

 

「……」

 

人間を連れているからそういう目にあうのではないか、とさとりは思ったりしたが口に出す訳にもいかないので無言で通すハメとなった。

そして、再度さとりは今自分のいる部屋の惨状を確認する。

 

「でね、あれがそうでこれがああで━━━」

 

「わかった、分かったから……! ていうか首を絞めるな……!!」

 

「あはは!」

 

「うにゅほもー!」

 

陽鬼はソファに座った陽の膝上に座って勇儀とどんな事を話したのかを語り、その陽の後ろからこいしが後ろから抱きついて首にぶら下がる様な体制になっていたり、八咫烏(やたがらす)霊烏路空(れいうじうつほ)もそれに便乗して同じく首からぶら下がる様な体制になっている。

あのままだとあの人間は窒息死してしまうが大丈夫なのかとさとりは紫にちらっと視線を向けてみると紫は若干面白くなさそうな表情をしていた。彼を取られたのがそんなに面白くないとさとりには読み取れていたが彼女自身には全く関係の無い事なのですぐにまた読んでいた書類に目を通し始める。

それに━━━

 

「お茶菓子をー……ってお空! こいし様! そんなにしたら彼は人間なんてすぐ死んでしまいますって!! ほら、早く離してやってください!!」

 

「ちぇー、お燐はケチだなー」

 

「うにゅー……」

 

お燐がお茶菓子を持ってきてくれる時に彼女達を止めるという事がさとりには分かっていたからだ。ある一定の範囲内の声を読み取れる彼女は屋敷の住人の性格は把握しているのでお燐がすぐにここに来るというのさえ分かればあとは勝手に止めてくれると彼女は信じていたからだ。

 

「……そろそろ戻るわよ。あ、お茶菓子だけは貰っていくわね」

 

「あら、もういいんですか?」

 

「心を読んで分かってるくせに聞くのね。世の中には言葉にせずとも伝わる事だってあるのよ」

 

その心はただ彼を取られて面白くなかったという感情しか感じ取れなかった、なんて今口に出す訳にもいかないとさとりは結論づけてそのまま黙っておく事にした。

 

「それじゃ、また来る事があったらお願いするわ」

 

と言いながら地霊殿にやって来た物珍しい一行は紫の作り出したスキマに入って姿を消したのだった。

 

「はぁ……嵐のように来て嵐の様に去っていったわね……」

 

「でも楽しかったよー?」

 

「あなたはものすごく楽しんでいたものね……けど、2度と誰かの首にああやってぶら下がるのはしちゃダメよ? 人間じゃなくてもあんなの続けられたら誰だって窒息してしまうわ。

今度からそうしないように気をつけなさい、こいし」

 

「はーい、肝に銘じておきまーす」

 

とは言っても能力が発動したら彼女自身も無意識になるのであまり無意味だと思えるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藍ー? 帰ったわよー?」

 

「おかえりなさいませ紫様……おや? そのお茶菓子はどうしたのですか?」

 

「地底からもらって帰ってきちゃった、まだ封を開けてないからどこかに閉まっておいて〜」

 

「了解しました。ご飯はもう出来ているので仕舞うのは私がやっておきます」

 

「助かるわ〜それじゃあお先に」

 

そう言いながら紫と陽鬼は家の中へとそそくさと入っていく。それで何かを察したのか藍は陽を睨みつける。

 

「地底……いや、地霊殿で何があった? 傍から見たらいつも通りだが私には分かる。あれはものすごく機嫌が悪い時の紫様だ。言え、何があった?」

 

「……俺がこいしと、お空に抱きつかれて首を絞められていた」

 

「……はぁ」

 

藍は陽の鈍感だか唐変木なんだかよく分からない性格に呆れ果てた。これはしばらく自身の主はふてくされたまま過ごすのかと思うと頭が痛くなり、同時に紫の彼に対する執着心の様な物に一抹の不安を抱いていた。

 

「……これは、いつか荒れそうだ」

 

藍は自分の予感が外れる事を切に願ったのだった。




皆さんはアルコールを摂取する時は程々に致しましょう。出ないと痛い目を見るやも知れませんから……
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