「ただいまー……って陽、何でおんぶされてるの……?」
博麗神社で霊夢に倒され、そのまま頭がぐらついて体に力が入らなくなった陽。徐々に元に戻っては来ているものの、まだ完全には起き上がれずに結局夜になる前に戻ってきたのだ。
「……まぁ、色々あって……」
「とりあえず部屋に寝かせるけどご飯出来たら呼びに行くようにするよ。それまで部屋で本でも読んでいたらどう?」
「……そうする。」
大人化している陽鬼にそう伝えて陽は部屋にまで連れていかれて寝かされる。転がることくらいは出来るようになった為、陽は何とか転がりながら布団の横に積まれている本を取ってはうつ伏せになり、とるために仰向けになってまた取ってうつ伏せで本を読み始める、ということを繰り返していた。
「……お?これ……昔話……いや、歴史本か?大分読みやすいけど……」
あらすじだけ読んでそう思った陽は、なんとなく続きが気になって丁寧に読み始める。
戦乱の時代、人妖入り交じったその戦争に一人の男がいた。名は誰にも伝えることが無かったために記述はしない。
彼は人間だった。しかしその精神は妖怪の残虐性が霞むほど残虐であり、その強さは神すらも倒すとさえ言われた。
何より、彼には万物創造の力があった。その力で人類の戦力は大幅に拡大されたが、戦争はより悪化した。
妖怪が人間を蹂躙してた時代から戦争が起きて、人間と妖怪が殺し合うようになった。しかし、彼が現れてからは妖怪が人間に蹂躙される日々が続き始めた。
妖怪の、それも一際人間に近い見た目をした女は正しく蹂躙の対象だった。男は死ぬまで働かされる。
そんな蹂躙の日々が続いたある日、彼は人間側から離反して第3の軍を作り上げた。しかしそこには彼一人しか存在していなかった。
たった一人の軍、しかし彼は人間と妖怪の軍勢を一人で滅ぼしていった。たった一人で幾千幾万の軍勢が滅ぼされていく、そんな光景が見え始めていた。
例えどれだけ強力な兵器を作ろうとも、彼がその上を行く兵器を一瞬で作り上げて破壊していく。
何人かは闇討ちをしようと彼が寝静まったであろう頃に彼の家へと向かったが、戦争は終わらず彼らだけがいなくなった。
戦争は何年も続いた。彼は、攻めには徹さなくなった。代わりに一ヶ月に一回くらいの割合で適当な村を襲っては壊滅させていった。彼の力ならば全滅へと追い込むことが出来たはずなのに彼はそれをしなかった。
彼曰く『ある程度人数を残しておいた方が恨みを残して恨みで強くなるから』だそうだ。
そうして、彼の人類と妖怪への蹂躙は長い間続いた。最初こそ戦争と言われていたこの争いは、やがて蹂躙と言われるようになり、挙句の果てに軍は彼のことを無視するようになった。
妖怪と人間は、彼の蹂躙によって手を取り合うように生き始めた。そして彼は、人間でもなければ妖怪でもない『天災』となった。
嵐が通り過ぎれば通った場所が無茶苦茶になるのと同じように、彼が通った場所もすべてが無茶苦茶になるのだ。
次第に、誰も彼のことを恨まなくなった。天候に愚痴を言うものはいても、嵐などの災害に恨みを持つ人間はいない。恨むとするならば恐らくそのことを伝えきれなかった者達に対する恨みだろう。
彼はずっと戦い続けていたかった。ずっとずっと、例え戦う相手がこの世からいなくなったとしても彼は戦い続けるつもりだった。
しかし、彼はふとあることに気づいた。いや、当たり前すぎるが故に気づかなかったことなので、正確には『忘れていた』という方が正しい。
彼の能力は万物の創造、なればこそ『自分と同等の力を持つ者』を作り出した。結果、それは出来上がった。
しかし、作り出さたものは彼の意にそぐわない事をした。まず初めに、自分から離れて人間達や妖怪達の側についた。
そして、何よりも争いが嫌いだった。だが同時に作り出さたものは彼の能力に対する完全なる最善手だった。
彼の能力が『万物を創造する能力』だとするならば、作り出さたものの能力は『万物を否定する力』だった。
彼の前ではいかなるものも存在を許されなかった。作り出さたものは、対象にしたものの存在を矛盾させる能力だった。矛盾、つまりは辻褄が合わなくなること。
辻褄が合わなくなることとはつまり、対象の存在の定義があやふやになること。存在があやふやになることとはつまり、
作り出さたものは彼の能力によって生み出されたものを全て否定した。しかし、それを上回る勢いで彼は生み出していった。
戦争は天災となり、その天災は二つに増えたことになる。今度はこの二人の長い戦いが始まった。争い嫌いの作り出さたもの、争い好きな創造主。そのぶつかり合いはとてもとても静かなものになった。
しかし、長く長く続いていた。何年、何十年と二人で戦い続けてきた。創造主は楽しんでいた。いくら創造をしようとも作り出さたものがそのすべてを否定するために、殴り合いに落ち着いたがそれでも楽しんでいた。
だが、作り出さたものはそうは思わなかった。こんなに長い間戦っているなんておかしいと、そう思い始めていた。
彼は、暴力か何よりも嫌いだった。何かを殺すなんてことはもっと出来なかった。だがそんな作り出さたものも疲弊していき、次第にこう考えるようになっていった。『創造主を殺せば全てが終わる』と。
しかし、彼は自らの手で誰かを殺すのをためらった。だが、誰かに彼を殺させるのもためらった。
ならばどうするか?作り出さたものは考えに考えた。そして、一つの策を思いついた。
だからこそ、地獄に送ることでその罪を精算させるつもりだったのだ。
彼はその作戦を実行した。そして創造主は消えた。こんな簡単なことで消えるのなら……と後悔したが、自分の能力の使い道をすぐに見出して『創造主が今まで出した被害』を全て矛盾とした。
それがどんな変化をもたらしたかわからない。しかし、創造主が消えたことで自分もすぐに消えるだろうと悟っていた作り出さたものは、そのまま姿を消した。
簡単な事で終わってしまった戦いは、長く長く続いた創造主と作り出さたものの争いは、創造主が今までに行ってきた蹂躙と争いの出来事は、全て終わったのだった。
創造主が地獄に行って反省するのかはわからない、そもそも地獄にちゃんと行ってるのかはわからない。だが、作り出さたものはそれでも最大級の一人の天災を止めることが出来たのであった。
、
「……」
陽は本を読み終わって静かに本を閉じた。歴史本かと思っていたが、どちらかと言うと少しビターエンド気味の小説のようなものだと読み終わってから気づいた。
「……昔話、でも無いな。これを書いた人は何を思ってこんなのを書いたのやら。
そういや、この本いつ書かれた本なんだろう……後で紫に聞いてみるかな。」
「陽〜?藍がご飯出来たから来てくれってさ〜立てる〜?」
向こうから陽鬼の声が聞こえてくる。陽はずっと本を読んでいた為体が動くか確かめてなかったため、試しに足を上げたり腕を床に置いて立ち上がろうとしてみる。すると、少しふらつくが陽はなんとか立てていた。
「お、おぉ……?」
「あ、ようやく立てるまで戻ったんだ。えらく長かったよねえ……そんなに大きいダメージなのに体には不調がないって言うのも変な話だし。」
「あー、でも……軽く肩を貸してもらえるとありがたい……」
「……まだフラついてるもんね。しょうがない、ここは私が力を貸してあげよう!まぁ貸すのは肩なんだけどね。」
そう言って陽鬼は大人化して陽に肩を貸して歩き始める陽も、ゆっくりとなら歩けていたので、陽鬼は陽にペースを合わせてゆっくりと歩いていく。
「ところで、手に持ってるのなんの本?」
「ん?いや部屋で見つけた本でさ。よく考えたらゆっくり寝てる暇もなかったなぁって思って改めてこれ読んでたんだ。
まぁ本の内容は好き嫌い別れそうな内容だったけどな。いつ書かれた物なのか紫に聞いてみようと思ってさ。」
「ふーん……まぁとりあえず行こっか。」
そう言って陽鬼は陽を居間へと連れていく。襖を開けた先には全員が揃っていた。
「陽ー、遅かったじゃない。って、歩ける様になってたのね。」
「回復したようで何よりです。さすがにあのままずっと立てないなんてことになったら、また永琳にどやされる未来が見えてましたし。」
「まったくじゃ、例の一件でかなり絞られたからのう。妾達は怒られたくないからの……」
「とはいえ、回復したようで何よりなのです。
さ、早くご飯を食べてしまうのです。早くしないと冷めてしまっておいしくなくなるのです。」
口々にしゃべる面々。陽は苦笑しながら溜息を吐くが、言われていることもごもっともなのでそのまま座って顔を上げる。
「まぁ……俺が迷惑をかけたことは事実なので、文句は言わないが……とりあえず、ご飯を食べないか?光の言う通りごはんが冷めちゃうよ。」
「そうだよそうだよ、早く食べたいよ。」
陽鬼が文句を垂れるかのように言うと、陽鬼以外の全員は苦笑しながら挨拶をして食べ始める。
汁物が多かったために非常に食べやすいと思った陽だったが、陽鬼には足りなかったのか何度も何度もお代わりしていたことが印象的だった。
これ以外には特に印象に残るような大きいことが起きなかったため、何事もなく終わったのであった。
「……よっと…よし、結構回復してきたな。何とか立てるようになってきたし。
この分なら明日の朝までには回復しきっているかな?」
陽は全員が寝静まっている中、一人で外に出て立つ練習をしていた。
多少ふらついてはいたものの、立てるようになっているのを再確認出来たのでそのまま部屋に戻る。
「ふぅ……何だかんだ、回復力は戻ってきてるな。
つっても、傷の回復力は高いのに頭揺さぶられたみたいな感じのダメージはだめなんたよな……今日でやっぱり再確認できたからよかったかな。
さて、今日はもう寝るとしようか……」
そう呟いて陽は寝転ぶ。しかし、目が覚めてしまったのか全然寝付けずにいた。
ずっとゴロゴロしているが、やはり寝付けずにいた。
「しまったなぁ……目が覚めてしまったみたいだ……しょうがないし、またあの本読んでみるか……」
陽は、あの本を手に取って読み始める。全部読んだ筈なのに何故かまた読みたくなってきたのだ。
そうして手にとって読み始めてきた時に陽はあることに気づいた。
「よく見たら……後ろにまだページあったんだな。くっついているからよくわからなかった…が、これどうやって剥がしたものか……とれないし。無理に取ろうとしたら破れるだろうしなぁ……」
なんとか試行錯誤で考えていく陽。一番最後のページだけがぴったりとくっついてしまっているためにどうやって剥がすべきか考えていた。
しかし考えはじめてすぐに、陽は対策を思い付いて実行に移す。
「そうだそうだ、よく考えたら俺の能力使って複製すればいいだけの話じゃないか。」
方法を思い付いた陽は、すぐさま創造する程度の能力を使って全く同じ本を作り出す。
中身まで同じ事を確認したあと、陽は自分の能力で作り出した方をまた同じく作り出した少し大きいハサミで、最後のページを表紙ごときっていく。
「さて、後は切り出したこれを水につけるなりなんなりしてみるかな。
そしたら剥がれるだろうし。」
そう言って陽は水道から水を出して切り足したものを浸す。しばらくすると、ゆっくりと剥がれてくる。
「お、剥がれてきた剥がれてきた……」
ゆっくりと剥がれたものを陽はすっと掬い上げてタオルの上において水分を拭き取っていく。
そして、ある程度拭き取れたものを見ようとした瞬間……
「がっ……!?」
唐突に意識を失ったのであった。