東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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神社に出かけます。


血の繋がりと気持ちの繋がり

「参拝しに行きましょうか、本当の神様がいる神社の方に」

 

地底に行った日から数日後、紫が突然陽にこんな事を言い出した。突然の事で陽はキョトンとしているし陽鬼は我関せずといわんばかりにご飯を食べ、藍はまた何か考えているのかと大きくため息を吐いた。

 

「……な、何で急に参拝?」

 

「まぁあくまで参拝なんて表向きの名目よ。実際は貴方にもっとここを知ってもらおうって気になったのよ」

 

「……それならば別に紅魔館の方でもよろしいのではないですか? 何故わざわざ妖怪の山の方に? 下手に天狗を刺激するべきではないと思いますが」

 

陽は藍がここで初めて紫に反抗する様な態度を取った事に少し驚いていた。何故彼女は妖怪の山とやらに行く事に反対しているのかと少し疑問に思った。

 

「別に天狗を刺激するわけじゃ……あぁ、そういえばまだ陽には天狗達の事を話してなかったかしら?」

 

「プライドと縄張り意識が強い1族、とはこの前教わったけど……もしかしてその山を根城にしているとか?」

 

「惜しいな、正解ではあるがそれでは答えが足りない。

その山を根城にして群れているのは確かだが奴らは力が強い妖怪が山に来るだけでも強い拒絶を示すんだ。紫様もその一人さ……後は異変解決側に位置している博麗霊夢と霧雨魔理沙、それに紅魔館のメイドの十六夜咲夜の三人の人間も来る事を嫌われているな。最も、後者二人は滅多な事じゃ来ないから実際嫌われているのは霊夢1人だけだろう」

 

「何で霊夢は嫌われてるんだ?」

 

その疑問をぶつけた瞬間に紫と藍は口をつぐんでしまう。何故か妙に答えづらそうな雰囲気だが気になってしまっている陽はじっと藍達の方を見つめる。

 

「……守矢神社、紫様がさっき仰った山の上にある神社に偶に飯を貰いに行ってる事があるんだ。巫女仲間か何かと勘違いしている守矢は飯を振舞ってしまっているのだ……霊夢の方にはそんな感情はほとんど無いのだがな」

 

「……そうか、そう言えば博麗神社って参拝客が誰もいないんだっけ」

 

幻想郷は外界の様に他の職業が上手くいかなければ他の手伝いをして賃金を稼ぐ、という事がしづらい世界である。

そもそも霊夢のあの性格を考慮するとすれば余計に他の人の手伝いなど進んでやろうとしないだろう。そもそもよっぽどの事が無い限りあまり神社を離れようとしないのが博麗霊夢という少女なのだから。

 

「……話を戻そうか。

紫様、紅魔館であれば前の地霊殿の様に勝手に入っても大して文句は言われないでしょう。門番はいますがいつも起きてるんだか起きてないんだかよく分からない姿勢を保ってますしそちらへ行かれても━━━」

 

「だめよ、私が神社に行くと言ったらそっちへ行く事にしてるんだから……それに、守矢の巫女は元外界の人間だし陽とは話が通じると思うのよね。

紅魔館でもいいかもしれないけれど元外界、というには年代が経ちすぎているもの。だからこそまだ外から来て年代の浅い守矢の巫女達は陽には丁度いいのよ。数年単位なら話題もお互い通じそうだしね」

 

陽は来てまだ数年しか経っていないと言われる守矢神社の面々に少し興味を持った。そして、よくよく考えれば自身が人に興味を持つなんて滅多に無いな、と思ってやはり自分は変わってきているのだと悟った。

 

「……はぁ、分かりました。では私は留守番をしておきますんで何かありましたらすぐさま呼んでください」

 

「えぇ、そうさせてもらうわ。それじゃあ行きましょうか二人共」

 

「え、あ、うん」

 

「っ!? ま、待ってまだおじや食べ終えてないから!!」

 

まだ食っていたのか、とこの場にいる全員が心の中で突っ込んだのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 今日お客さん来る用事あったっけ?」

 

「……お客さん、では無いが……来るのが珍しいな。この妖力の大きさは八雲紫で間違いないだろう? 残り2人が分からないな」

 

「えっと……せめてそのセリフは覗いていない状態で言えばかなり格好よかったと思いますよ」

 

「……何を遊んでいるのかしら?」

 

とりあえず陽達は守矢神社へとその足を運んだ。まず緑色の髪の毛をした巫女であろう少女が1人、胸に鏡の様なものをつけて背中にしめ縄の様なものを背負っているのが1人、謎の帽子の様なものを被っているのが一人。しかし、陽は緑色の髪の少女に見覚えがあった様な気がした。

 

「どうも、今日はどんなご用事で…………ってもしかして月風君ですか?」

 

「えっと……誰……?」

 

「ほら! 中学校の時一緒だった東風谷早苗ですよ!! あぁやっぱり貴方だったんですね! その特徴的な青色の髪なんてすごい見覚えありますよー!!」

 

それだけ聞いてもまだ陽は思い出せない。そもそも自分は中学校の時は既に他人との関わりをある程度断っていたのだから例え関わっていたとしても手伝い程度のものだろうしもしかしたら委員の仕事でペアになっていた様な気もする。

 

「……もしかして本当に覚えてないんですか?」

 

「……申し訳無いが中学校の時はあんまり人と関わらない様にしてたから、覚えてない…………かも……」

 

嘘は言ってはいない、緑色の髪自体には彼自身は見覚えあったのだから。

 

「……まぁ、確かにあの時の貴方は機械の様に言われた事だけをしていて後はほとんど空気みたいに誰とも関わろうとしませんでしたものね……」

 

「酷い言われようだ……まぁ自業自得なんだけど」

 

しかし、陽が若干後悔するのも無視しているのか突然早苗が陽の両手を握りしめる。

 

「でも会えて嬉しいです! ……けど、なんでこの人と一緒に来たんですか? ま、まさか!? 餌とか式神とかにされたのでは!?」

 

「また説明しなきゃいけないの……そろそろ烏天狗に頼んで情報をバラ撒いてもいい気がしてきたわ……」

 

「……あのな、東風谷。俺は別にこの人の餌じゃないし式神でもないよ。一緒に住まわせてもらってるんだよ」

 

「そ、そうなんですか…………あなたがそんな気まぐれを起こすなんて何か思うところでもありましたか?」

 

「まぁ、あるにはあるけれど……」

 

「なら少しだけ月風君のお話聞かせてください!」

 

「いいわよ? なら━━━」

 

東風谷が話を聞きたいと言ったら何やら少し向こうに行ってから少し自慢げな顔で幻想郷に来てからの陽の事を話し始める紫。

恥ずかしいので二人の話し声を聞かない様に、と考えていたら今まで黙っていた特殊な風貌をした女性と少女がやって来た。

 

「へぇー、早苗の同級生か。確かに面白い髪色してるよね、本当に人間? 早苗は現人神だしまぁあの髪色も分からなくはないんだけどね。

あ、私は洩矢諏訪子だよ。よろしくね」

 

「いやいや、もしかしたら色素が若干おかしいという可能性もあるぞ? 私は八坂神奈子だ。よろしく頼むぞ、少年」

 

不思議な帽子を被っているのが洩矢諏訪子、背中にしめ縄の様なものを背負っているのが八坂神奈子。

彼は何となくこの二人の言い方から察するに早苗も、そしてこの2人も人間ではないのだろうと感じ取っていた。自分はただの人間だと思いたいが。

 

「にしても……ふむ、まぁ顔付きはなかなかじゃないか?」

 

「それに向こうの話を聞く限り一人暮らししてたから料理も上手みたいだし……ねぇ、家に婿入りしない?」

 

陽はこの二人が何を考えているのか一気に分からなくなった。先程まで凄い神様という位置付けだったのが少しお節介な学友の身内というところにまでランクダウンしていた。

 

「……いきなり一体何の話ですか」

 

その言葉に少しだけ表情を曇らせながらも苦笑しながら諏訪子が何故いきなりそんな話になるのかの説明をし始める。

 

「いやね? 早苗が幻想郷に来てしまったのはある意味では私たちのせいでもあるんだよ。

人々から信仰の心が薄れて妖怪なんかの類は姿も一部の人間にしか見えなくなっちゃってね。神である私達も例外じゃない、現に早苗が小学生の時の時点で既に私達の姿は子供にしか見えなくなるほど薄くなっていたのさ。中学校に上がってからはもう早苗くらいしか見えないくらい危なかったんだよ」

 

「……それで幻想郷に来たと? この世界なら信仰がある程度薄くなってい様とも二人が存命出来るから、という理由で」

 

「まぁそんな感じだね。元々八雲紫にはオファーは貰っていたのさ、だから行こうと思えばいつでも行く事が出来た……早苗には、少し酷な選択をさせちゃったかもだけどね。あの子にも友達がいるのに……」

 

ある意味では自分とは真逆だと陽は思った。早苗はみんなとの繋がりを持っていながらも、一番身近な繋がりを大事にする為に幻想郷にやって来た。対して陽の方は世界との全ての繋がりを切ってでもどこか遠くの場所に行きたいと考えた。繋がりを大事にした早苗、繋がりを放棄した自分。自分達の差は何かと考えたが……そこで気付いた。一番大事にするべき『家族』がいた事による差なのだと。

 

「……血の繋がりはあっても関係なかった俺と、血の繋がりは無くても家族が出来てた東風谷の差……か……」

 

「ん? 今何か言った?」

 

「……いや、何でも無い……」

 

「ちょっとー、神様には敬語を使わなきゃいけないってわかってる? ほんと最近の若者は信仰の心が成ってないんだからさー!」

 

諏訪子が頬を膨らませて抗議していると、神奈子が苦笑しながら彼女を軽く向こうに引っ張って抗議に反論を返し始める。

 

「とは言っても大概ここに来る奴はお前どころか私にすらタメ口を聞く様な奴らばかりなんだがその辺りはどう思う? 普通の人間は私たちには会わないからな。基本的に私達は奥に引っ込んでるし」

 

「うぐっ……そ、それは……け、けど神様が舐められてちゃ世話ないよ! だからこそ無駄だと分かっていても若者には敬語を使わなきゃいけないってのを教えないと!」

 

「自分の体型を鏡で見てから言った方がいいぞ? 私ならともかくお前を敬ってる男はすごく危ないやつに見えるんだがその辺りはどう思うんだ?」

 

「う、うぐぐ…………!」

 

諏訪子の見た目は完璧な幼女であり、見た目だけの年齢は多く見積もっても小学生を超えないくらいだと陽は心の中でひっそりと思っていたため少しだけ神奈子の言う事に納得してしまった。

 

「……はぁ、まぁいいよ。そういえば何で3人は━━━」

 

「陽、陽鬼、帰るわよ」

 

「はーい」

 

「……って、え!? もう帰るの!?」

 

話しているあいだいつの間にかいなくなってた陽鬼が突然どこからとも無く現れて陽の手を握る。陽が内心どこに行っていたんだろうかと聞こうと思っていたのに気付いたのか陽鬼が先に喋り始める。

 

「萃香、って鬼がいたからそっちの方行ってた。だって陽達ずっと話してて暇だったんだもん」

 

「あぁ、ごめんな。帰ったら埋め合わせしてやるから」

 

そう言いながら陽と陽鬼は手を繋いで紫の作り出したスキマへと向かう。

すると早苗が一歩前に出てくる。それに気付いた陽は足を止めて何か言う事でもあるのかと思い少しだけ早苗の方に視線を向ける。

 

「あの……また来てくれますか? 外の世界から来た人と喋れるなんてめったにある事じゃありませんから」

 

「……まぁ、紫が、ここにスキマを繋いでくれるなら来れるから。多分またここに来れると思う。飛べる様になったらまた話は別なんだろうけどね」

 

ここで陽が感じていたのは『期待』ではなく『後悔』と『嫉妬』だった。外の世界の事を話せる人は滅多にいないと早苗は言っていたがそもそも自分は世界自体に興味を示していなかったから話せる事なんて何も無い。

何かある、と期待させていて話したところで何もなければ彼女は落胆するだろう。『ここに来れる』と言ったが『来たくない』というのが本音だと言うことを彼は『後悔』していた。

 

「はい! また来てください!!」

 

そして、彼女は自分に無いものを持ち過ぎていた。それは自分が届く範囲内だったのに結局届かなかったもの。『家族』『絆』『愛情』どれも陽からしてみれば失っていなかったはずなのに得る事すら無かったもの。

 

「それじゃあ俺達は帰るよ」

 

早苗の血の繋がった家族は死んでいる、と聞いた事はあるがそれでもこの二人の神がいた事で『家族』が出来ていた。家族の『絆』があったからこそ同年代の中でも『絆』が繋がっていた。そして何より『家族』があったからこそ『愛情』がそこにはあった。

 

「今度はいっぱいお話しましょうね!」

 

対して陽には死んでもいないのに成長するにつれ繋がりが無くなっていった血の繋がりのある『家族』があった。当然『家族』の『絆』が無ければ他者との『絆』なんて結べるはずもなく、『家族』に対する『愛情』なんて芽生えるはずが無いのだ。

そんなに繋がりのない自分に静かに怒り、また同時に静かに東風谷早苗という少女に『嫉妬』を抱いた。

 

「あぁ……じゃあな」

 

今日、この日。月風陽という少年は東風谷早苗という少女の事を少しだけ()()()()()()




嫉妬というのは自分に無いものを羨ましく思う行為、だと思っています。
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