「……あれ、俺って城で寝てなかったっけ?いつの間にこんなところに……黒音ー?光ー?二人共どこだー?陽鬼ー、月魅ー!」
陽は不思議な所に迷い込んでいた。実際にはただの荒れ果てた村の跡地のような場所なのだが、少し奥を見れば何故か外の世界にしかないはずのビル群が見えているからなのだ。
陽は歩いた、歩き続けている内に飛べることに気がついた。夢だと気づいたのはその時だった。
そして陽は高く高く上へと登っていく。そして、ある程度飛び上がってから下を見下ろして今いる場所が木々や村、草原にアスファルトやビル群などといったまるで
「……本当に、何なんだここは……」
そう言いながら陽は飛び続ける。夢だとしてもリアリティがありすぎていて、自分でも完全に見たことがないような景色になっているこの空間に嫌な感じしかしていなかった。
ある程度飛んでいると、陽は見慣れた真っ赤な館を発見した。レミリア達のいる紅魔館である。陽は扉を開けようと手をかけるが……夢の中だからなのか、すり抜けてしまった。開けなくても入れることがわかったので、陽はそのまますり抜けて中に入る。
「……中は、全然違うな。」
そこは他とは違い荒廃していなかった。全くしていなかった。しかし中の様相は全く変わっていて、紅魔館の床いっぱいに包帯を巻いていたりする人間達で溢れかえっていた。
「……」
陽はそのまま飛びながら色々な部屋を見ていく。気づいたのは、ここには紅魔館の面々だけでなく、命蓮寺などの人里に住む妖怪達が人々の看護をしていたのだ。
ある程度見て回ってから陽はこの状況が、どういう状況なのかを考え始める……だが、考え始めた途端に窓から扉から……大量の黒い液体のようなものが流れ始めた。
それに飲まれたものは例外なく沈んでいった。例え動けているものでも、その液体に触れた瞬間に瞬時に引きずり込まれていった。
「……まさか、これ……は……」
そして、紅魔館一帯すべてが黒く塗りつぶされてしまう。陽は上に飛んで景色を確認しようとしたが、その前に景色が目の前に現れる。
紅魔館は、一人の男に吸収された。
「……消える時は一瞬だな。500年以上生きれる吸血鬼でも。」
そこに居たのは黒い陽だった。何の感情もないような顔で紅魔館を淡々と飲み込んだ。それに対する感情を、陽は感じ取れなかった。
そして、一瞬景色が暗転して再び明るくなる。陽がいたのは外の世界にあるビル群だった。
「……また景色が変わったのか。まぁ、夢の中だしポンポン変わるのかもしれないが……」
そう言って陽はまた歩き始める。しばらく歩けば、いつの間にか自分の家へと辿り着いていた。
陽は家の中へと入り色々と中を覗いていく。何も変わらない、何も無い最低限のものしかない家だった。
「っ!」
すると突然自分の目の前にスキマが開く。陽は何故か咄嗟に隠れてそのスキマを眺め続けていた。
そして、中から陽が現れた。黒い陽の様に髪が黒いわけでもない完全に陽だった。
「……じゃあな、紫。」
もう一人の陽はそれだけを恐らくスキマの向こう側にいるであろう紫に伝えた。
そして、そのスキマは閉じられてもう一人の陽は完全に家に一人になった。
もう一人の陽はしばらくそこに残っていたが、幻想郷での別れを振り切るかのように大急ぎで外に出ていった。陽は、その後をついていった。もう一人の陽はそのまま走って走って走り続けた。
だが、しばらくして陽はもう一人の陽が走り去った場所にいる者達の様子がおかしいことに気がついた。
「なんだ……?」
何かをひそひそ話している者達、自分の姿が見えないので少し気になった陽は近づいて耳を立てる。
「ほら……例の子でしょ?化け物の……」
「警察呼んだ方がいいんじゃないの……?何するかわかんないわよあの子……」
「気に入らないやつ全員殺していくんだってよ……」
陽は、何を言われているのか、その言葉が誰に向いているのかが最初理解出来なかった。
だが、それは次第に自分のことだと再認識するようになっていった。そして、再び視点が暗転してまた新たな場所に出てくる。
そこはとある路地裏、奥の行き止まりに大量のゴミ袋があり、そこにはもう一人の陽が倒れていた。
そして、その前には拳銃を構えた警官が立っていた。そして、警官の後ろには大量の人間達が、陽を見ながら恐れていた。
「ぅ……なん、で……?」
「黙れ!!とりあえず貴様は早く引き渡してやらないとな……!」
『いったい自分が何をしたのか』『何故自分は警察に撃たれているのか』陽が考えてないことではなく、もう一人の陽が考えていることが陽の頭の中へと流れ込んできていた。
「う、ぐ……」
「もう1人……いや、二人だったか?兄妹の……あいつらも上からのお達しで生死関係なく捕まえないと行けなかったんだったか。」
「……なっ……!?」
兄妹、自分の知り合いで該当するのは白土と杏奈だった。陽、倒れ込んでいるもう一人の陽から離れ、白土の家へと向かっていった。
「……お前らが、お前らがやっだのが……!」
「ひっ!?こ、こいつ心臓を撃たれてるのに……!」
「なら、殺し返してやるよ……相手を殺すやつだからな……自分が殺されないようにしてない方が悪いに決まってるよなァ……!」
途中、もう一人の陽の叫び声が後ろから聞こえてきたが、陽は歯を食いしばってその場を去っていったのだった。
「……あぁ、だから俺は……もう一人の俺はあんなにブチ切れていたんだな……いや、むしろあれくらいで住んでいることが驚きでもあるけどな……」
陽は、目の前の肉塊を触ろうとする。しかし、すり抜けてしまう。
いや、肉塊と呼ぶにはまだ形は保っていた。しかし、もはや息をしていない上に心臓も止まっているのであればそれは肉塊なのだろう。
何故、こっちにいる人間達が自分達の能力の事を知ったのか、それは陽には分からなかった。
「っ!」
そして、陽はその場を立ち去ろうとした瞬間に開いたドアの音を聞いて咄嗟に後ろを振り返っていた。
そこに居たのはもう一人の陽だった……その体や顔や髪……身体中の至るところに血を被っているせいで全身真っ赤になっているのだが。
「……ヴ……ァ………」
そしてもう一人の陽自身にも身体中に傷を負っていた。回復こそしているものの、何度も何度も傷つけられたのか傷が回復しきっていないところもあった。
喉もやられているらしく、口を開けても声にならない息が聞こえてくる。
そして、もう一人の陽の目は陽にも分かるくらいに
「はぁ……はぐっ!!」
「うっ……!」
陽は目を背けた。もう一人の陽が目の前に転がる肉塊二つを食べ始めたからだ。
そして、しばらく目を背けているうちにもう一人の陽は黙り始めていた。骨も肉も血も、そこには何も残っていなかったが、もう一人の陽の姿だけなら残っていた。
「……白土の力……が、俺の中に……」
陽は察した。もう一人の陽は白土と杏奈の力を受け継いでしまったのだと。そしてやはり、このもう一人の陽こそが幻想郷に現れた黒い陽なのだと。
「……幻想郷、そう幻想郷だ。あれだけ一緒にいようとした白土と杏奈が一緒になったんだ……だったら……幸せな筈だ。
そうか、そうだ……だったら幻想郷のみんなも一つになれば幸せになるんじゃないのか……?あはは!きっとそうだそうに違いない!!」
『壊れている』と言うのが何より正しい解釈だったと陽はその時思った。そして再び視点の暗転、次に写った場面はどこかの森の中、もう一人の陽が金髪の幼女である……ルーミアの前に来ていた。いや、既にルーミアは倒されており、もう一人の陽は手でルーミアを掴むとそのルーミアを吸収した。これで黒い陽は闇の力を操れるようになったと解釈した。
再び視点の暗転、今度は人里だった。陽の体から出る闇が人里をゆっくり飲み込んでいった。
人間を背負っていくにはあまりにも数が少ない……人里にいた妖怪達は助けられなかった人間のことを考えながら急いでどこかへと身を隠した。また暗転、次は竹林そのものだった。例え不死であっても飲み込まれてしまえば意味が無いのか、永琳、妹紅、輝夜の3人は気づかない間に闇に飲まれて消えていった。
永遠亭の次は白玉楼、その次は魔法の森、次は博麗神社、妖怪の山……そして紅魔館を食らった。
次々と暗転しては、新たな景色を見せつけられて暗転して……を繰り返していた。
そして次に写った光景は、紫率いる幻想郷で戦える存在全勢力と、黒い陽が向かい合っているところだった。
「……言わなくても、分かるわよね。貴方を退治するわ……陽。」
「陽?用?様?曜……あぁ、そうそう俺の名前だったな。月風陽って名前だった、そうそうそんな名前。
えーっと……あー、そうそう……来るなら来てみれば?俺に傷を与えるのなんて不可能だと思うけど。」
「言って……くれるわね!!」
「不意打ちで大量に食べてるだけの貴方に、全力勝負で勝てるとでも……!」
一番初めに、風見幽香と射命丸文が飛び出してくる。幽香は傘からのマスタースパーク、文は高速で周りを移動しながら弾幕を放つ撹乱戦法……だが、その全てが黒い陽に当たる前に陽が操作しているであろう闇が動き回ってそのすべての攻撃を飲み込んでいった。
「……残っている戦力はもうほとんど居ない……けれど、それでも貴方に勝てるくらいの力はあるはずよ……藍!橙!」
「はい!!」
「分かりました!!」
紫に呼ばれ、藍と橙が黒い陽に向かって飛び出して来る。黒い陽はそのまま闇を仕向けて藍と橙を食おうとする。しかし、二人はその闇に対して大量の札を投げつける。当然、それも飲み込んでいくが━━━
「「爆!!」」
「んぉ……?」
二人が念じた途端に闇が爆発していき、陽の体にもダメージを与える。陽の体自体は、傷を負ってもすぐに治るために大したことではなかったが、紫からして見ればこれ以上に嬉しいことはない、という表情になっていた。
「やっぱりね……あなたのその力は、飲み込んだ瞬間なら対処できる。つまり、誰かが飲み込まれても私の能力でスキマを開いて対処する事もできるということね……」
「あぁ、今のそれの確認だったわけか。なるほど、確かに俺自身は飲み込まれたことがないから分からなかったんだ。これからはもっと能力を知ろうと思うことにしよう。」
「貴方に次が……あればいいわね……!」
そう言って紫も突っ込んでいく。残っていた戦力は、霧雨魔理沙、アリス・マーガトロイド、八雲紫、八雲藍、橙、風見幽香、射命丸文、チルノ……8VS1の戦いが始まった。
そして、また暗転……景色が再び陽の目に入りこんだ時には……既に紫以外誰もいなくなっていた。残った紫も、首から下が闇に飲まれており段々と引きずられていってる状況だった。
「……何で、ほんとに……」
息も絶え絶えと言わんばかりの紫、そして陽は紫の事をじっと見ながら涙を流していた。
悲しそうな顔はしていないが、何故か涙を流していた。
「……紫、ごめんなさい。」
その一言だけを言い、陽は紫を闇で飲み込んだ。そしてその後に黒い陽はなぜ謝ったのかを疑問に感じたのか、首を捻っていたが……すぐにケロッとした顔になり自分が謝ったことどころか、泣いてたことも忘れたかのようにまた動き始める。
その光景を見ていて、陽はひたすら呆然としていたのであった。
「……数々の能力、あれはもはやいち個人と言える代物ではない。世界そのものと言っていいくらいだと僕は思ってるよ。」
「……誰だあんた。」
「うーん……君のさ、前世と言うべきなのかな……ちょっと稀有な例すぎて言いづらいんだけどさ。
とりあえずそんなものだと思っててよ。」
陽の目の前に居るのは、赤銀黒白の四色が細かく散りばめられたような変な髪色をしている男。
陽はその男を少しだけ疑いながら見続けていた。
「……元々、君の能力は君も知っている『創造主』の能力が君に宿る時に分割化されたものだ。
それで、君はその創造主の生まれ変わりでもある。」
「……?今あんたは俺の生まれ変わりと言ったよな?いや、正直それも疑ってかかるべきだけどそこは流しておく。」
「えっと……長い話になるんだけど……聞いてくれるかな?」
「……どうせ夢だ、向こうから起こしてくれる時までは話を聞いてやるさ。」
「ありがとう……それじゃあ話すね。僕……『創造主に作られた創造主の天敵』と『創造主』、そしてそれに関わってくる君ともう一人の君の話を。」