陽が夢で天敵と話し合っていた頃、城上部では黒い陽と霊夢の激突が未だ続いていた。
怪我をしている紅魔館のメンバーは既に運びきっているが、しかしそこから霊夢は逃げられないでいた。スキマに向かって飛ぼうとしても真っ先に横槍が入り、無視して進もうとすれば黒い陽が並走して入ってこようとするために中々決着がつかないでいた。
「ったく……互いに一撃が入らないっていうのによく続けようと思うわね。貴方の言っていた作戦とやらはまだ続いているのかしら?いい加減終わらせて帰らせてほしいんだけど。」
「返す訳ないだろ?もう少し……後数分もすれば博麗霊夢を倒せる装備が手に入るんだからな。」
「あら、何か作ってるのかしら?まぁその前に帰らせてもらうけど━━━」
「逃がすわけっ!!無いでしょうが!!」
そう言って黒い陽はミサイルを作り出し即座に発射させるが、その攻撃は突如開いたスキマに飲まれてどこかへと消えていった。
黒い陽はそれでも構わず攻め立てていくが、霊夢そのものに攻撃が当たらないせいですべてが意味をなしていない攻撃となっていた。
「残念……そうやって大技をして妨害するのを待ってたわけで……帰らせてもらうわ。」
そう言いながら霊夢は紫の作り出したスキマに潜っていく。黒い陽は咄嗟に頭の中で逃がさないための作戦を考え始める。
だが、その間にも霊夢は通り抜けていき、スキマも閉じ始めていく。『そうそう引き分けで逃げられてたまるものか、来たのなら勝ち負けで決着をつけないと帰らせない』と黒い陽はスキマの中にいる霊夢を睨む。
そして、
「っ!!霊夢避けなさい!!」
「なっ!?」
霊夢は、投げ込まれた槍を避けるが、壁があるかどうかもわからないような場所に
すると、スキマの中の空間がひび割れはじめる。ガラス細工でもないスキマの空間が、空間そのものが割れていって紫達は元の空間に戻されていた。
「……何、今の……?私の空間が、スキマが
「……これは……この力は……」
手元に戻ってきた槍を見ながら、黒い陽はその槍を生み出した自身の能力に驚いていた。何故なら相手の空間を壊す能力というのを食らったなどということは黒い陽の記憶にはなかったからだ。
「……スキマが壊されて、ここに残ったのは紫と私……つまり、向こうに置いてきた連中は無事ってことでいいのかしら?」
「スキマからは出ていたはずだからそうだと思うけれど……けど、今の一撃は…」
「……空間を壊す槍、『博麗霊夢を逃がさない』と考えていたらこの槍を生み出した……欲しい物が作られた……?能力の変異……まぁいいや、考えてもしょうがないってことだろうし……とりあえず今ここで決着をつけようぜ、霊夢。
八雲紫はどっちでもいいや。俺と戦うならそれでよし……戦わないならそれもよしってね。」
「……あなた、その槍はなんなの……そんな槍……空間を壊すほど強い槍なんて私は知らないわ。」
紫にそう質問されて黒い陽は少し考え始める。顎に手を当ててしばらく考え込む。その間に霊夢は攻撃しようかと思ったが、得体の知れない槍の存在に少し警戒していた。
「……うーん、多分この世の誰もこの槍の正体も存在も知らないと思うよ。今も過去も……誰一人ね。
多分だよ?あくまでもね。」
「この世の誰も知らない槍……?」
「あぁ……何たってこれは
敵を目前にして逃げようとする博麗霊夢を逃がさない為に、スキマで逃げようとするのを防ぐために作られた槍。
今の俺の能力は幻想郷にいる全ての者達のいずれかの能力でもなく、『創造する程度の能力』でもなく『限界を無くす程度の能力』でも無くなったわけだ。
今の俺の能力は!『ありとあらゆるものを生み出す程度の能力』!!万物創造の能力で俺の望むものはなんだって手に入る!!」
「……万物創造ですって?なら……私にも攻撃が当てられるようになるものでも作れるのかしら!!」
そう言って霊夢は黒い陽目掛けて突っ込んでいく。黒い陽はニヤッと笑いながら、その手に一つの銃を作り出す。そして、その銃口を霊夢に瞬時に向けてその引き金を何のためらいもなく引く。
「っ!」
霊夢は持ち前の勘で銃口が合わさり、トリガーを引き切る間に回避行動を取る。ギリギリ、霊夢はその銃弾の直撃を避けることは出来た。しかし、掠った頬には一筋の傷口が出来ており。そこから血がうっすらと流れ出ていた。
「……紫!」
「……
「これで分かってもらえたか?俺の作るものは既に万能を超えた。平行世界とはいえ、幻想郷……いや、それを超えた外の世界の能力者や他の人間の魂も俺は内包している。
それだけの糧……あれば当然能力は進化し、昇華され、強化される。お前が俺を狙ってもいいが当たることは無い、だが今この俺が作り出した『全てのものを狙い打つ銃』には絶対に当たらないなんてことは無い。物理的に避ける以外で、避けられないと思え。」
「……まさか本当に当ててくるなんてねぇ……流石に予想外というか……けど、まだ負けた訳じゃないわよね。あんたが一方的に攻撃を当てて、私が一方的に攻撃を当てられなくても……まだ余裕よ。
幻想郷最強の巫女を舐めるな。」
「その最強の力を……俺は食ってんだけどな!!」
そして再びぶつかり合う黒い陽と霊夢。霊夢は黒い陽の攻撃を全身全霊で避けながらなんとか隙を見つけ出そうとしながら、戦っていくしかないのであった。
「……主様、もう起きて大丈夫なのか?」
「あぁ……少しだけだが力の回復は出来た。十分に戦える……なんてほどじゃないけどな。
黒音が多少魔力を分けてくれたお陰で魔力は大分回復できた。」
「それ位当然じゃ。主様が自身の魔力やらなんやらを減らして戦うわけじゃからの。妾達が減らさない分、主様に分ける方が効率はいいじゃろうな。
……とりあえず、そろそろ陽鬼達が戻ってくる頃じゃが……お、戻ってきたようじゃ。」
そう言って階段を向く黒音。大急ぎで走っているかのような足音が段々大きくなり、陽鬼と月魅が勢い良く部屋に入ってくる。
「陽!動けそう!?」
「どうした二人共そんなに慌てて……」
「霊夢です!霊夢が……!霊夢が一方的に防御をする羽目になっていて……早く手助けに行かないとこのままだとあの場にいる紫まで標的にされてしまいます!!」
「……よし、なら行くぞ!!」
そう言って陽は四人を引き連れて上へと駆け上がっていく。霊夢がやられるというのはにわかには信じ難い事だったが、しかし夢の中で天敵が言ったことが本当なら、相手は自分の望んだ物が即座に手に入る能力を徐々に……下手をすればもう得ている可能性だって存在しているのだ。
そうなると紫も危ないというのは、かなり間近に迫っていることでもある。いいつけを破り勝手に屋敷から出てきているのは重々承知の上だが、陽に取っては紫のいい付けより紫そのものが守りたいものなのだ。そのためならば、紫の文句や言いつけを彼はハナから聞く気はなかった。
守るために、陽は紫のところへと向かうのであった。
「あー……まだ当たらないのね……」
「むしろ銃弾の軌道を何度も読んで避けるっていう人間離れしたその特技をしている君の方が凄いけどね。
霊力とかそういう話ならそもそも切れることはないから僕にはどうでもいいとしても、本当にここまで当たらないとなるとねぇ……ま、流石にそろそろ限界かな?なら……トドメを刺してあげる。」
そう言って黒い陽は霊夢に銃口を向ける。そして放たれた一撃をスタミナが切れかかっている霊夢には避けることは難しく━━━
「……あのさ、何でいるの?」
「……あ、あれ?痛くない?」
しかし、銃弾は霊夢に届くことはなく防がれていた。貼られた魔法陣にはじかれていた。
そして、霊夢の前には男がいた。黒い陽と対峙をなす、月風陽本人がそこにはいた。
「……いてもおかしくはないだろ?幻想郷には月風陽がいる……お前もそれ走っててここで暴れようとしたんじゃないのか?
分からなくてやってるとしたら相当ぶっ壊れてるな……って、心の中で思っていてもわかるのか?」
「……内心、紫を守りたいから来たって言うのだけは伝わるよ。本当にそれしか考えてないんだな……俺は。
反吐が出るよ。自分を大切にせず誰かを守ろうってのはただの偽善だ。誰かを守りたいなら命をかけろというが、その命を捨てるような行為は止めたほうがいいと思うんだけどな。誰かの命を守らない……そうすれば自分の命は賭けれない……そういうやつの方が楽さ。誰かに八つ当たりして、加害者であり傍観者をした方が全てが楽に進む。」
「自分が俺だったからそう思うのか?それとも、これも平行世界故の違いってやつか?」
「さぁね、そもそも今自分が月風陽って自覚がない『何か』に月風陽たる所以を聞かれても困る。
ただ認めたくないことだけど、多分俺は今でも月風陽だ。ただお前と違って誰かを愛そうとすることもないし、誰かに興味を持つこともやめた。俺が唯一興味を示すのは自分のことだけ。俺以外の誰かに俺の感情を向けるなんてやだね。」
黒い陽は陽をじっと睨みつける。陽も黒い陽を睨みつける。
同じ自分なのに絶対に分かり合えないだろうなという確証が二人の中では既にあった。
「……で、どうしたいんだ?俺に勝てると思ってるのか?万物創造っていう能力を手に入れたんだ。その俺に、制限がある創造で勝てる気なのか?
いや、その前に……お前は俺に勝てるのか?」
「万物創造の能力なんてすげぇもんを持ってる幻想郷の住人を俺は知らないからな。
だから……そうだな、お前の持っている能力って奴は全部お前の中で一つになり始めてるんじゃねぇのか?」
陽のその言葉で黒い陽の顔が少しだけ歪む。今ここで初めて対峙した筈なのに、陽が自分の事を何故把握しているのか ……その疑問が出てきたからである。
「お前……何を知っている?」
「お前のすべて……俺が知っている俺のことは当然お前にも当てはまるが……俺が知らないお前のことを俺は知っている。お前が知らない俺のことはどうやら知らないみたいだけどな。
全部、全部だ……どうして幻想郷中の者達の能力を全部体に蓄えていたのか、それを俺は知っている。」
「……なんで知ってるのか、どうやって知ったのか、色々と気になることはあれど今は置いておこう。そんな事を聞くよりも、もっとやらなければいけないことだってある。
そうだ……人の過去勝手に覗いて……それで勝手に『分かっている』風な口を叩くお前を殺す事だ。どうせ平行世界とはいえ、同一人物ってことがなんか関係してんだろうけどよ。人の過去を勝手に分かったふうに口聞くのはなしだ。俺が話していようと話していまいとそれは関係ねぇ。俺は、同情されるのがすげぇ大っ嫌いなんだよ。」
「同情されるのが嫌いなら、ハナから同情されないようにしろよ。自分から自分の過去を明かしてるっていうなら余計にな。
自分で喋っておいて『同情したら殺す』ってお前はいったい何を望んでいるんだ?」
「
何かを考えるくらいならその前に壊した方が何も考えなくて……ん?俺さっきまで何か考えていたような気がするな。まぁいいか。」
再び黙り込む二人。ゆっくりとお互いの武器を構えて……ぶつかり合う。戦いはもう、終わりに近づいている。