東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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後編です。


紅眼持ちし悪魔の館

「あら、ようやく戻ってきたのね。どこまで散歩に行ってたの?」

 

「門や図書館……それに、地下室にも」

 

「……ふーん、という事は貴方……フランに会ったのね? それで五体満足でいられるなんてよほど強いのかしら? それともフランを懐柔する為のものを持ち合わせていたのかしら?」

 

レミリアは部屋に戻ってきた陽に余裕をみせながらはっきりと言い聞かせる様に言葉を紡いでいく。両目の紅い眼差しはフランとは違い心の全てを見透かされている様な気にもなってくる。

 

「……能力の事は、聞いていると思うんですが……? 何せ、俺がこの場を離れていた時間は長かった。だから幾らでも俺の能力を知る事が出来たはずでは……?」

 

「えぇ、知ってるわ。玩具……それも外の世界のを作り出してフランを喜ばせてたんでしょうね。貴方の能力は実に面白いわ、限界を故意に無くす事が出来る能力に物質創造……本来、そういう能力を持った者というのは力に飲まれたりするものだけれど……貴方は弱い、弱すぎるのよ。

この世界での前提条件である『空を飛ぶこと』と『弾幕を撃つこと』が出来無いというのはあなたから戦える力を奪っているわ。どれだけ強力な力があってもその世界の戦いのルールの前提が出来無ければ弱いという事を示してくれる存在ね、貴方は」

 

「っ……」

 

依然、余裕。レミリアはニコニコと笑いながら陽の事を喋っていく。別段話されていても彼にとっては不都合などでは無いのだが、彼女の言葉は全て本当の事である為に陽の心を抉る様に刺さっていく。

紫は恐らくレミリアが言った分しか話していない、と陽は思っている。実際その通りなのだが、余りにも見透かされていそうな雰囲気を纏っているレミリアには彼が白土に負けた事すらも実は知っているのではないか? 紫が話してしまったのではないか? そんな事が頭によぎってしまうのだ。

だが、八つ当たりにレミリアを睨んでも全く気にした様子も無く依然ニコニコと笑っていて相手にされないくらい自分は弱いのだと錯覚させられた。

 

「……ウチの子を虐めるのは止めてくださらない? 交渉も無しにするわよ?」

 

「おっと……それは困るわね。時間が解決してくれる事だけど妖精メイドの癇癪は時間が少し足りないもの。もうこれ以上いじめないから勘弁して頂戴。

あぁそれと……パチェや美鈴に聞いた事、私や咲夜にも聞くつもりかしら?」

 

陽は驚いた。何せ、紫と話していた筈のレミリアが何故か陽が聞き回っていた事を知っていたからだ。この様子だと質問の内容も筒抜けなのだろうと思った陽は敢えて正直に話して、聞く事にした。

 

「えぇ……じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

その質問に対して未だに表情を崩さないレミリア。そしてレミリアの側にずっと立っていた咲夜にも問いかける。

 

「そうね……私から言わせてもらえば『全員家族』よ。この紅魔館にいる者は全て私の眷属。例えワガママな妖精メイドであってもそれは同じ。めーも、パチェも、フランも、咲夜も……全員私の眷属であり、家族。

……という答えじゃ納得しないみたいね? まぁフランのあの状態を見てしまえば納得しづらいのも分からなくはないわね」

 

そう、陽は閉じこめられたフランを見てしまっている。家族というのならば、実の姉である彼女自身がフランを閉じ込めてしまっているのだとしたら……彼はその矛盾をレミリアに聞かなくてはならない。

 

「フランの能力の事は知っているわね?

言っておくけど……彼女を閉じ込める事は彼女自身の為よ……今は安定してきているから館内程度なら大丈夫って事で歩かせているけどね」

 

「安定……? フランは多重人格者か何かなの……ですか?」

 

「言い難いなら呼び捨てのタメ口でいいわ。館の者くらいにしか敬語は使わせてないもの。

えーっと…フランは多重人格者なんかじゃないわ、簡単に言うなら……そうね、あの子は感情が能力に振り回されるのよ。

何かある度に能力を使おうとしてしまう。特に怒ったり泣いたり……負の感情が能力に作用して無意識で彼女は能力を使ってしまうのよ。

分かる? 知らない間に一緒に遊んでいた子供が気付けば肉塊になっていて子供達は周りからいなくなっていた、なんて事が。

そんな重い事実はまだ精神が未熟な彼女にとっては辛すぎる出来事よ。そうなるとまたより不安定になって暴走して……そんな負の連鎖を断ち切る為に私はあの子をあの部屋に閉じ込めた。例え私が恨まれようとも……あの子が自分の感情に振り回されなくなるまではあの部屋に閉じ込めておくわ」

 

陽は驚いた。最初の方こそレミリアがフランの気持ちを考えずにただ危険だからという理由で閉じ込めていたのかと思いきやフランを自身の精神的未熟さから守る為に監禁していたのだと。

しかし、フランはそんな事は一切覚えてない様だった事も思い出す。もし今のレミリアの言葉が本当だとしたら何故フランはその事を覚えていないのかと。

だが、考えてみればそれだけ凄惨な事が起きてフランが暴走したのだとしたらもしかすると……と、陽はある一つの結論にたどり着く。

 

「……その、もしかしたら肉塊になったって言う事をフランは忘れてるんじゃないか?」

 

「……よく気付いたわね、その通りよ。フランはあまりにも辛いその出来事から目を背けて……いえ、完全に記憶から消えてしまってるわ。けれど案外それで良かったのかもしれないわね。

……長話が過ぎたようね。フランの話は後でするとして確か『紅魔館にいる者達の事をどう思ってるか』だったわね。私は答えたし残りは咲夜だったわね、答えてみなさい」

 

「……はい、お嬢様。

……そうですね、私にとっての紅魔館にいる者達は確かに家族みたいなものです。パチュリー様も美鈴も妹様も……お嬢様も。

しかし、家族と思っていても私の中心はお嬢様です。私はお嬢様に命令されれば何だってします……例え、紅魔館の誰かを殺せと……言われても。パチュリー様を殺せと言われても美鈴を殺せと言われても妹様を殺せと言われても……私自身を殺せと言われても、です」

 

陽鬼は戦慄した。咲夜の忠義心の高さに。陽鬼は一応陽の式神の様な存在に今はなっているが自分はここまで陽に忠誠心を持って生きれるだろうか? きっと無理だ。

陽が間違っていると思うならば言う事には従わないし殴ってでも止める可能性がある。自分はこんなに忠義を尽くせる性格では無い、と感じていた。

 

「……一応言っておくけどね、結局忠義の形なんて人それぞれで違うのよ。私はお嬢様に命令されれば何でも従う人形の様に尽くす、それが正しいと思ってるから。

貴方も……彼に尽くしてる様なものみたいだけど貴方には貴方の忠義の形がある。自分のやり方を貫きなさい、ね?」

 

「う、うん……ありがとう」

 

「どういたしまして、忠義心というのは『自分が信じている主に使える事』なのだから主が信じられないと思ったら、間違ってると思ったら正してもいいのよ」

 

咲夜はそう言いながらまるで子供に諭すかの様に陽鬼に言い聞かせてから再びレミリアの後ろに立つ。どうやら面倒見がいい女性なのだと陽は思った。

 

「咲夜、私が間違っていたら止めてくれるのかしら? それとも従ってくれる?」

 

「私はお嬢様が全てですので、手を掛けるなんてこと事はありませんよ。私はただ従うまでです」

 

「それでこそ私の従者ね。私を止めるのはパチェの役目、従うのは貴方の役目……さて、もうどちらも用はないわね? 私としては八雲紫と交渉するだけでも十分だったけれど貴方の動きを見るのもなかなか面白かったわ、月風陽。

出来ればフランと一緒にまた遊んでちょうだいね」

 

「あ、あぁ……」

 

レミリアがニコニコと笑いながら陽を賞賛し、フランと遊んでほしいと約束を取り付ける。陽自身も彼女と遊ぶ事は何ら苦ではないので快く了承したいところだがレミリアの言った『動きを見るのも』という所が妙に引っかかってしょうがなかった。紫が実はスキマでも開いて見せていたのだろうか、とも思ったがわざわざそんな事をする意味もないため更に良く分からない事になってしまった。

 

「……さて、それじゃあそろそろ帰りましょうか。もうスキマは開いているし藍も待ちくたびれてるでしょうしね」

 

「そ、そうだな……」

 

「はーい」

 

そして3人はスキマの中に入って姿を消す。主と従者だけしかいなくなった部屋には他に誰もいなかった。

そんな空間の中でレミリアが一切咲夜の方を見ずに声を出す。

 

「……咲夜、彼の事どう思った?」

 

「能力だけなら危険ですが……本人にそういう意志が無い以上危険分子ではないかと思われます。無論、感情が荒ぶった場合は分かりませんが……今のところはやはり危険ではないかと思われます」

 

その答えに一瞬思案顔になり、すぐ視線を前に戻して再度咲夜に問い掛ける。やはり1度も見ずに、だ。

 

「質問を変えるわ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

その質問に咲夜は内心少し驚いてからやはり先ほどと同じ様に凛とした態度で応対する。

 

「……とても危険かと、思われます。

外の世界は幻想郷にいる私達の様に特殊な能力を持っているものはごく稀でしょうが、その分物理的に特化した武器や兵器が多いと守矢の巫女から聞いた事があります。彼女曰く『本当に強力なのを使われれば例え鬼であっても殺せてしまうだろう』と。

彼はそれら全ての兵器を再現可能であり、更に簡単に増やせる事も出来る……恐ろしい能力だと思われます。

そして彼のもう一つの能力の方も……もし、他人に対して使えるようになれば人間の身体能力は妖怪のそれを大きく上回る可能性もあり、やはりこれも恐ろしい能力だと思われます」

 

「そうね、確かに危険だわ。正直な話不安定な者同士での関わり合いはなるべく避けてフランの精神をなるべく成長させる事に集中したいのだけれど……彼の存在がフランを安定させるかもしれないと考えると簡単に危険分子と判断するにはまだ早急かもしれないわね」

 

レミリアのその返しに咲夜は少しだけ疑問を抱いたが、自分は主に従っていくだけだと思い直して再度聞く様な真似はしなかった。

 

「それに……彼自身は見れなかったけれど彼にくっついていたあの小さな鬼……あの子の運命を見た限りだととても面白い事が起こる事が分かってるのよ。

その日が来るまでは……迂闊に手は出さないでおこうかしら」

 

「あなたがそう仰るなら……私はそれに従い、どこまでも付いていくだけです。私はあなたの従者なのだから」

 

その言葉に気を良くしたのか更に嬉しそうにするレミリア。そして唐突に思い出したかの様に語る。

 

「ふふ、私の従者はやはり一番信頼できるわね……そうそう、八雲紫から肉類をもらってきてるからパチェにいつもの……えーっと……」

 

「細胞分裂による別個体の創造、クローンの事ですか?」

 

悩んでいたレミリアに察した咲夜がフォローを入れる。どうやら正解だった様でうんうんと頷きながらレミリアは続ける。

 

「そうそう、それの事よ。魔法だとかなり早く増やせるし成長もさせれるから便利だわ。にしても外の人間も恐ろしい事をやってのけるのね……ま、八雲紫がどこからかそれの作り方を持ってきたせいでパチェが研究に没頭してしまったからついでに、ということで紅魔館でも肉類を増やす為にやってるけど……魔法使いって本当に研究熱心なのが多いわよね」

 

「パチュリー様曰く『魔法は自分の編み出した技術』との事で……だからクローンを初めて作った時に色々思う部分があったのでしょう。魔法使いでない私達にはそれが理解出来ないだけで」

 

「そういうものなのね……まぁいいわ。咲夜、今日も美味しい料理を頼むわよ」

 

「えぇ、分かっております」

 

そう言いながらレミリア達もこの部屋を去る。楽しく談笑しながらもこれからの事を語っていく。

しかし話しながらでもレミリアは自分の見た運命が果たして本当に訪れるのかどうかは分かっていなかった。

だからこそ彼……陽にレミリアは期待していた。彼女の見た運命はあくまでもそのまま一直線に進んだ場合にのみ訪れる運命であり、絶対に当たるという訳では無い。しかし、彼女の操った運命は必ずその通りになる……だからこそ運命を弄らない。このまま放っておく事で見た運命が変わるのか、それとも変わらないのか……彼女はそれに期待していた。

レミリアが見た運命、余りにも印象深いので彼女の記憶に焼き付く様に残っている。炎を纏いし()()()と銀髪の男がごっこではなく本当の戦いをしていたその一瞬を彼女は見た。

それが何を意味するのかまでは彼には分からない、だが陽鬼から見た運命でああなるという事は彼女と彼が大きく関係しているのだろうという事だけは分かっていた。

その運命が彼らにとっての吉なのか凶なのか、それを予想するだけでもレミリアは面白かった。

今日(こんにち)の月はレミリアの目の様に、レミリアの楽しんでいるその運命のように紅く輝いていた。




この作品でのパチュリーは魔法でクローン生成する研究に没頭しているという状態です。
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