「えーっと……何買うんだったっけ?」
「ネギだよ。さっきも米俵買う時に聞いてきてたけどちゃんと紙を見ような」
「うぅ……はーい」
ここは人里、幻想郷で人間が暮らしている村であり住んでいるのはほとんど人間だが、その人間を守ろうとする妖怪もチラホラ混ざっているというところだ。
陽と陽鬼は人里に買い物に来ていたのだが、偶には陽鬼に買い物をさせてみようと陽は考えて、買い物するリストを書いた紙を陽鬼に渡してそれで少し様子を見ているのだ。しかし、思う様にいってなく陽鬼は苦戦している為ちょくちょく手助けをしてしまっている、という状況だ。
「にしても
「ここは住んでるだけじゃなくて色んな妖怪が買い物に来るからな。前に行った紅魔館のメイド長も来るらしいぞ? 後永遠亭の……確か鈴仙って長いうさ耳の人も」
「色々来るんだね〜……痛っ」
「きゃっ!!」
話しながら歩いていると陽鬼が誰かにぶつかってしまう。陽鬼とぶつかったのは小さな女の子であり、ぶつかった勢いでコケてしまう。
「おっと、君大丈夫?」
倒れた少女に手を貸して立たせてやりながら陽は怪我が無いか確かめる。一瞬妖怪か何かかと思ったが別段服装がどうという事は無いし髪色も顔もおかしな所はな無いのでやはり普通の人間の様だ。
親とはぐれたのかそれとも遊んでいて友達とはぐれたのかは分からないが少女はやはりどこか焦っていたのだろうと考えた。
「だ、大丈夫……だけど……お父さんと、お母さん、を見ませんでしたか?」
たどたどしい言葉、陽が見知らぬ人間である事と普通の人間ではかなり珍しいであろう青い髪。それに小さいとはいえ妖怪である陽鬼が一緒の為少し怖がっているのだ。
それに気付いた陽は子供の目線よりも下になる様にしゃがんで安心させる様に話し始める。
「ごめんな? 俺は君のお父さんとお母さんの姿を見た事がないんだ、だから……君を肩車したらお父さんとお母さんが見つかるかもしれない。一緒に探させてくれるかい?」
「……う、うん」
まだまだ堅苦しい言葉遣い。しかしその少女を宣言通りに肩車すると少女は言葉こそ出してないが目を輝かせてあたりをキョロキョロ見渡していた、肩車をされた事がないのだろうか? と陽は思ったがしない家もあるだろうと思い聞く事は止めておいた。
「お父さんとお母さんとはぐれた場所分かるか?」
「……気が付いたらいなくなってたの、けどこの道でいなくなってたとは思うの……」
「……とりあえずこの辺りから探してみるか。もしかしたら今同じようにこの辺りで探してる可能性もあるし。」
そういう訳で少女の親を探す事になった陽。陽鬼も無言でついてきてくれているのでいざという時は大丈夫だろうと考えているのだ。
しかし、そう考えながら歩いていると突然陽鬼が軽く服を引っ張って陽を呼び止める。
「なんだ?」
「別に迷子の親探すのはいいんだけどさ……流石に闇雲に探し回ってたらいつまで経っても見つからないと思うんだよね」
「……それもそうなんだけど……他に探せる様な場所が分からないしな……」
少女本人は『気付けばはぐれていた』と言ってこの道ではぐれたものだと思っているがもしかしたらこの道以外ではぐれている可能性もあるのだ。
その場合だと探すのが困難になる為今この道で探し当てるのが最も効率がいいのだ。
「言いたい事は分かるけどね……この子自身もここがどの辺りなのかよく分かってないみたいだしどうしようも無いけどね」
「ねぇねぇ、お兄ちゃん達って『そとのせかい』って場所から来たの?」
「ん、あぁそうだけど……」
今の少女の言い方だと『外の世界』じゃなくて『外の世界という場所』がある事になってしまうんだけどな、と2人は思ったが口には出さないでおいた。人里の人に取ってはもしかしたらそういう名前の場所と認知されている可能性が高いからだ。正直に知っているのは異変解決に向けて動いている者達くらいだろう。
「じゃあ『そとのせかい』のお話聞かせてー!」
「え、あ、あぁ……分かった」
「ちょっと陽………」
陽鬼は注意しようとするが、よくよく考えてみれば今この子は外の世界に興味が行ってるせいか親の事が一時的に頭から離れている様だ。
確かに外の世界の事を話しておけば時間が潰せる上にこの子の親も探しに来ると陽が考えているとすれば迂闊に注意できないと考えた。まぁ本人は恐らくそこまで考えてないだろうが寂しさで泣かれるより幾分マシな事ではあるので陽鬼は口を出さずに一緒に話を聞く事にしたのだった。
「えーっと、それで……って寝ちゃってるな……」
「ちょっと前から寝てたよ、まぁ陽の話がつまらないとは思わないけどこの子にはちょっと難しかったんだろうね。ちんぷんかんぷんって顔してたもん」
「むぅ……もうちょっと子供と話せる様に頑張ります」
そう言って少女を起こさない様にしているとふたりの耳に大声で叫ぶ声が聞こえてくる。誰かの名前を呼んでいる様だが、この辺りで迷子になってるのはこの子だけだし聞こえてくる名前は女の子につけられそうな名前なので二人はもしかしたら? と思い、寝てしまった彼女をゆっくりと抱き上げてその親二人の前に姿を現す。
「あ、ありがとうございます!」
「い、いえいえ……迷子なのは放っておけませんから……」
「このお礼はいつか必ずします、本当に、本当にありがとうございます……!!」
「え、えぇ……娘さんを早く連れ帰ってやってください」
やはり我が子は可愛いのか陽にとっては過剰とも言わざるを得ない程お礼を言い倒されて少し反応に困ってしまった。しかし、迷子の少女であった彼女を親元へ返せたという事は陽にとっても安心できた為親子3人が人混みに紛れて完全に見えなくなるまで陽達は彼女達を見送ったのだった。
「さて……買い物の続きをするか……ん?」
再度、買い物の続きを済ませようと歩き出した陽の目に二人の男が止まる。理由としては、その男達がかなりの背の高さを誇っていたためである。どちらも2m近いのではないかと思ったが専用の機材でも持ってこないと身長の計りようが無いと思った為すぐさま興味は本来の目的である買い物に戻り、歩き出した。
「……えっと……そうだ、確かネギを買う途中だったな。さっさと買い物終わらせて家に帰ろうか、陽鬼……陽鬼? どうしたそんな深刻そうな顔して。」
買い物の目的を果たそうとするが陽鬼が何故か立ち止まっていて何か重大な事でも起きたのか、と問い質そうとすると声を掛けられている事にようやく気付いた様でビクッと驚いて聞いてない事を悟られないかの様に慌てた口調で話し始める。
「え、な、何でもないよ!? ちょっと歩き過ぎてつ、疲れちゃったーなんて思ってて! 大丈夫大丈夫! ネギだよね! ちゃんと覚えてるから安心して!」
陽は少し不審に思ったがまぁ自分に話せない様な事なら無理に話させる必要も無いし買い物の事を忘れた訳では無いので別段気にするほどの事でも無いと思いすぐに切り替えて改めて買い物を再開したのだった。
翌日
「……あら、また食材が切れてるわね。陽ー? 陽鬼ー? また買い物に行ってきてくれないかしらー?」
「別に何も予定が無いいからいいけど……藍はどうしたのさ」
「藍は霊夢のところに行ってるのよ、私の代わりにちゃんと霊夢が結界の点検を怠ってないかって張り切っちゃって」
「ああ、分かった。何買ってくればいいんだ?」
「昨日と同じものでいいわ、別の料理を作れば済む話だもの。私はこれから冥界にちょっと行く予定があるから行けないのよ。
ごめんなさいね」
そう言って紫は2つスキマを作る。一つは冥界の白玉楼に通じるスキマ、もう一つは人里に通じるスキマである。
そして開いた事を確認した陽は陽鬼と共に人里に通じるスキマへと入り、それを確認した紫は白玉楼へ通じるスキマを通る。
「さて……と、また昨日と同じものを買う訳だけど……陽鬼、買うものは覚えているか?」
「流石に昨日買ったものと同じものを買うんだったら覚えてられるよ、馬鹿にしないで。
ネギと米俵と……い、芋!」
「残念、芋は芋でも買うのはジャガイモだ。それにあと人参と肉も買わないといけない」
昨日買ったものを言っていく陽、外れた事が悔しいのか少しだけムスッとしている陽鬼がそこにはいたが傍から見たら仲のいい兄妹にしか見えないとその場面を見たものは思った。
しかし、そんな陽達の周りの状況はよく見れば少しざわついていて昨日の雰囲気と比べて妙に嫌なざわつき方をしている事に陽は感じた。
だから少し気になって陽は近くの人に聞いてみる事にした。
「……あの、何かあったんですか?」
「殺しだってさ、向こうの家で家族同士で殺し合いが起きたらしいんだと……」
殺し、それも家族同士ということは一家心中などというものではなく文字通りの殺し合いという事だろうと陽は感じた。
そして、その殺し合いの事が何故か無性に頭に引っ掛っていた。嫌な予感がして、やけに胸がバクバク鳴っている。しかし、家族同士で殺しという事は1人は残るはずなのだ。
それが自殺か、相打ちか、逃亡か……何故かそれが気になった陽は更に質問をしていく。
「家族同士、だと……一人余る、筈ですが……その、余った人は……?」
質問しようとしたらうまく舌が回らない、ゆっくり噛み締めるように質問をしてないと心臓が潰れそうになるくらいに激しく鼓動を鳴らしている。
「あぁ……不思議な事だが娘の方は一切外傷がないのに死んでんだと……あんまりにも不思議な死に方なんで永遠亭の永琳先生に見てもらったらしいんだけどよ、病気でも何でもねぇのに死んでしまったらしいんだと。毒でも、病気でもないとなると寿命しか残らねぇはずだけどあんまりにも小さい子なんで寿命って可能性も薄いらしい」
「っ……!」
「最終的にはもしかして『呪い』殺されたんじゃねぇかなって話だけどよ……あの家族とその周りは仲良くしてたし暴力振るう事なんてなかったからこういう事は起こりづらい筈なんだけどよぉ……つておい兄ちゃん?どこいった?」
陽は走った。慌てて追いかける陽鬼も置いて行ってしまうくらいの速度で。
恐らくは限界を無くす能力を使って走っていたのだろうがそれを陽は無意識で行っていた為本人ですらどうか分からない。
人間というのは事件が起こった場所に集まるものだ、時間が経てばそれも無くなるが完全に真新しい今だと野次馬が餌に群がる蟻の様にいるのですぐに場所は探し当てられた。
その殺しがあった家に陽は今来ていた、だが実際の現場は中の方なので扉を開けないといけない。
「……陽? 本当にどうしたの? 顔色悪いし一旦戻ろう? ね?」
陽鬼がなんと言っているか陽にはよく聞こえてなかった。自分の呼吸と心臓の音だけで耳の殆どの音が支配されているからだ。
野次馬根性などでは無い、なぜ無性に確認しないといけない様な気分だった。だが扉を開けてしまった時に自分がどうなるのか全く想像が出来無いのだ。
陽は見知らぬ他人の為に怒れるほどの正義感を持ち合わせてはいない。かといってもし知り合った人物だった場合は冷静になれるほど無感情では無くなっていた。
少し前までの自分だったらまず有り得無いんだろうな、と過去の自分を鼻で笑いながら扉に手を掛ける。
そして、ゆっくりと扉を開けていく。
「っ!」
「っ……こんな、事って……」
横たえられている三つの死体、そのうち二つは大きい為家族同士の殺し合いの両親だとすぐに理解出来たが体や顔を布で隠されていてその全貌は把握出来ない。
だが、もう一つは布で隠されている訳でも無くどこかに致命傷がある訳でも無い綺麗な状態だった。それは、昨日迷子になっていた子供だった。
「……あれ、これは……あっ!?」
陽が呆然としている中、陽鬼が一枚の紙を拾い上げる。拾い上げたその紙を奪い取るかの様に陽が陽鬼の手から取って手紙を読んでいく。
『これを読んでるってことはちゃんとこっちに来てくれた訳だな、月風陽
まぁ名前を書いているからいずれ届く事は間違い無いんだろうがな。
さて、三つの死体を見たのなら人里の外にある森に来い。お前が前に黒空白土に襲われた森の位置だ
逃げ帰ったらその家族と同じ様に人里にいる奴らをゆっくり皆殺しにしていってやる
そんでもってこれと似たような手紙を毎度毎度置いていってやるよ
それが嫌ならこっちに来る事だな』
手紙はこれで終わっていた。陽は手紙を握りつぶしてポケットに入れてから無言で歩き始める。
陽鬼は無言で陽について行く。いや、付いていかなければならなかった。
何故なら今の陽は……本気で相手を殺す気なのだと感じてしまったのだから。
陽鬼は是が非でも陽を守らなければいけないと……思っていた。
食糧がないことは完全な偶然です。