東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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鬼と白

「くっ……!」

 

「待ちやがれ!! 首を差し出せやごらぁ!」

 

「どうするのさ陽!?」

 

逃げる陽と陽鬼。それを追いかける白土。草原を駆け回る3者というこの状況に何故なってしまっているのか陽は走って逃げながら考えていた。

事の始まりは数十分前の事である。いつもの様に買い物……では無く、陽が、少し風邪気味になっている橙の為に薬を貰いに行こうとして竹林を歩いていた時の事だった━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「橙、どうやらただの風邪みたいでよかったね。最初何の高熱かと思ってたけど何か別の思い病気じゃなくて良かった」

 

「まぁそれもそうだけど、風邪にかかってる時は他の病気になり易いんだよ。あんまり遅くなるとそうなる可能性もあるから早めに薬を届けないとな」

 

本来なら永遠亭に直接繋げられればいいのだが紫も微妙に橙のが移されていたらしくそのせいでスキマの照準が微妙にズレてしまっていたのだ。

紫の分の薬ももらいに行くつもりだがまだ薬は無くても治せる様な状況である紫には少し悪いがしばらく我慢しててもらうしかない訳で……という考えに陽はなっていた。

 

「にしてもまさか人里に繋がるとは思わなかったね。永遠亭に近い側だったからまだ良かったけど」

 

「そうだな……ん? おい、あそこ誰か倒れてないか?」

 

「あれ、本当だ……しかもあれ子供じゃない!? 今コケたっていう訳でも無さそうだしちょっとまずいかもしれないよ……と、とりあえずあの子のところに━━━」

 

「見つけたぞ陽!! てめぇ今日こそは殺す!!」

 

倒れている人物の元に駆け寄ろうとして踏み出した瞬間響き渡る怒声。そして、その声が聞こえた瞬時に陽は限界を無くす程度の能力で動体視力と筋肉の限界を無くして陽鬼を抱えて咄嗟に後ろに避ける。

 

「……白土……!」

 

陽達が踏みしめた1歩のところには鉈包丁が前と左右にそれぞれ三本並ぶような形で刺さっていた。

そして竹林の上部から白土がゆっくりと下降しながら陽を空中から睨みつける。

 

「……ライガの野郎に殺されて無いのはまだいい方か……俺が殺して……」

 

ブツブツと白土が喋っている間陽は考えていた。後からフィードバックで頭痛がしてしまうが、逃げる事と永遠亭に潜り込む事を同時並行して行う為にはどうしたらいいかを能力で思考速度の限界を無くしながら考える。

そしてすぐさま結論が出る。陽は目の前に三つほどとあるものを作りそれのピンを抜いて白土に向けて投げつける。

 

「目閉じて耳塞いでろ……!」

 

陽鬼の耳元でこういってとりあえず理解した陽鬼は言われた通りに目と耳を塞ぐ。

 

「っ! まさかスタングレ━━━」

 

突如鳴り響く轟音と目が潰されそうなくらいの光。そう、陽は暴徒鎮圧用の音響閃光弾(スタングレネード)を白土の方に三つも投げつけたのだ。

咄嗟に気づいたみたいだが既に爆発しかけのものに対してそれは無意味だと確信していた陽はすぐさま走り出して永遠亭の所に走り出す。

そのすぐ横を陽鬼が走っている様な状況だ。

だが━━━

 

「っ! あぶねっ!!」

 

陽の体に何か引っかかったかと思ったら横からギロチンが丁度陽の首があった位置を通り過ぎていく。

引っかかったからこそ避けられたものの、気付かなかったら恐らく首と胴体が離れていたと考えるとゾッとする陽。

だがそれだけでは済まなかった。

 

「くっ! 何とか目と耳が治ってきたか……!」

 

「なっ……!?」

 

「優先的に『治癒力の改造』をしたんだよ……お陰で普通ならもうちょい時間が掛かるところだが結構短縮されたって訳だ……!」

 

音響閃光弾によって一時的に視覚と聴覚を奪われていたが、自身の能力を使って優先的に回復させた白土。曖昧なものでもすぐさま適応出来るあたり陽は自身の能力より応用力がいいと感じていた。

 

「さて……こっから先は俺があらかじめ仕掛けておいた罠だらけだ、安心しろ、まだ全部残ってて引っかかったやつなんて一人もいねぇよ」

 

ジリジリとにじり寄ってくる白土。陽達はゆっくりと後ずさりをしていく。後ろは罠だらけだが前からは白土が寄ってきている。

空を飛べたとしても恐らく狙い撃ちにされるのが関の山だろう、と思っていたが━━━

 

「後ろちゃんと見張ってておいてよね!!」

 

この声とともに陽の体は浮遊感を感じてその直後に襟を引っ張られて首が閉まる様な思いもした。

そして、直後に陽は理解した。陽鬼が自分の服の襟を持って空を飛び始めた事に。

 

「っ! 待て!」

 

「くっ!? こっち来んな!!」

 

空を飛んで追い掛けようとする白土に対して陽は発煙筒を作り出してすぐさま放り投げる。陽鬼が今は自身の目と耳を防げない事、そして白土が目と耳の回復力を上げれる事を考えるとこうやって煙を撒いたほうが効率がいいと思ったのだ。

勿論発煙筒だけじゃ足りないのはわかりきっているのでスモークグレネードを投げて煙を辺りに充満させる様にする。

 

「そんなんで防げると思って━━━」

 

「無いから追加だ! もう来んなよ!!」

 

そう言いながら陽は『火の着いたロケット花火』を作り出してありったけぶん投げていく。その間にもどんどん上昇していく陽達。しかし白土は飛んでくる大量の火花に阻まれて全く前に進む事が出来ず、次第に煙も充満していったため陽達は逃げ切れた……と思っていたのだ。

 

「……こん、の……クソボケがぁ!!」

 

一向に進めない事にイラついた白土はほぼ直感で陽達が飛んできた方向に向かって紙から鉈を改造して作り出し、全力でぶん投げてきた。

 

「なっ!? ぐっ! 陽鬼ちょっと衝撃来るぞ!」

 

飛んでくる鉈。それを2人分防ぐ為には大きな鉄板が必要だった。

咄嗟に陽は分厚い鉄板を作り出してそれを持って鉈を防ぐ。鉈は弾けたから良いものの、予想以上に白土が強く投げていたのかその衝撃で陽が軽く後ろに飛んでいったのを予想する事が出来なかった陽鬼はそのままバランスを崩して落ちていってしまう。更に陽を掴んでいた手も離してしまったため、2人は竹林から大きく離れた草原に落下するハメになっていた。

そして、冒頭のやり取りとなる━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……! 本当にどうしたらいいんだ……!」

 

「陽、やっぱりあのスペルカードを使った方がいいんじゃない? さっきは竹林だったから一応燃える心配はあったけどここならせいぜい足元の草しか燃えないよ!」

 

陽鬼の言う事は最もだと陽も理解している、だが陽はそれ以外にもまた暴走してしまうのではないかと危惧していたのだ。

森を焼き、地面に穴を開けるほどの大きな力。何よりも自分がその意思無くそういう行動を取ってしまっているというのが彼にとってはとても恐ろしいことであった。

 

「……使う、しかないのか……!」

 

前とは違ってすぐには戻ってこれない。それに、人里に向かってしまえば沢山の人を巻き込む事になってしまう……そう考えると陽は恐ろしくてあのスペルを使う事が出来ないのだ。

 

「陽ォ!!」

 

迫ってくる白土。白土という追手を振り切り、なおかつ人里まで行って無事にスキマに入る……そんな芸当が今の彼に出来るとは思えなかった。何よりも向こうの方が追う速度は速いのだから。

 

「……一か……八か……! 陽化[陽鬼降臨]!!」

 

最早暴走してしまうかしないのかの二択。何が起こっていたのか自分達ですら分かっていないのに対策を講じれるはずも無く何の宛もなく再び鬼は目を覚ます。

 

「……何だ……?」

 

白土は目の前の光景を不思議そうに見つめていた。

赤く燃える炎を身にまとい、目の前でわかるような変化をしていっている標的を……見つめていた。

 

「もう……止められねぇからな……! お前があれで引き下がっときゃあ良かったのに、俺様にはお前に重傷を負わせる気なんざサラサラなかったのに……!

ここまでしつこいならもうお前をぶん殴らねぇと気がすまねえんだよぉ!!」

 

そして、纏った炎が弾けて中から現れたのは陽と同じ顔をした謎の鬼の男が立っていた。白土は目の前の光景を処理しきれなかった。

標的である陽は人間だと彼も知っている、一番陽を見てきているのだから。しかし、仮に目の前にいる人物が陽でなくとも今起きた光景は全く訳の分からないものだった。

 

「行くぜ……お前をぶっ飛ばしてさっさと用事を済ませなきゃいけねぇんだからよ!!」

 

「……抜かせ!!」

 

白土は持っていた紙で銃火器を作り出す。と言っても二丁拳銃がせいぜいなのだが今の彼に取っては無いよりもましなものだった、この手で直接殺す、という願いは捨てた。今の彼は殺す事より生き残る事に変えたのだから。だから銃を作って確実に攻撃を避けていきながら1発1発確実に当てていく事にした、当てにくい分近接武器より殺せる確率は低くなった様な気がしているがそうする他無いと白土は判断した。

 

「おらおらおらおら!!」

 

叫びながら陽は炎の塊を放っていく、言わずもがな炎の弾幕である。あからさまに熱を発しているそれを白土は何とか避けていく。

しかし避けてはいっていても炎は炎、白土は自分の体力が熱で奪われていっている事に気付く。そして陽を確実に殺す為には今はあの状態になられると確実にアウトという事も理解した。

 

「くっ……これ以上はマズイか……! あの野郎、これがあるの黙ってやがったな……!」

 

そう言いながら白土は陽がいる方向とは真逆の方へと走り出す。もちろん逃げる為だがそれを目の前にいる陽鬼がやすやすと逃がしてはくれなかった。

 

「待てよ! お前勝てないと分かった途端逃げんのか!? とんだ腰抜けじゃねぇかおい! もっと俺と遊んでくれや!!」

 

「黙れ熱お化け!! てめぇと遊ぶくらいなら死んだ方がマシだ!!」

 

しかし陽は白土を追い掛ける事をやめなかった。さっきとは打って変わって逆の状態になった訳だがしかしこれでも白土は逃げながらどうやればあの陽を攻略出来るか考えていた。

だがそれをするのは逃げ切った後であり、今やっても失敗して攻略の糸口を探られてしまうと考えていた。

 

「ちっ……さっきと逆なのがどうにも気に食わねぇが……!」

 

そう言いながら白土は紙を1枚取り出してあるものを作り出しそれを陽へと投げ付ける。

 

「あ? ……ってこれは!!」

 

「っ! お前がさっき使った手だよ……んじゃなぁ!」

 

白土が投げたのは音響閃光弾。陽の目を潰した一瞬の内に白土は閃光に包まれながらどこかへと消える。

 

「糞が……どこ行きやがったあああああ!!」

 

目と耳が元に戻った後、鬼となった陽は叫ぶ。戦う相手が目の前から消えてしまって誰も自分と戦わなくなってしまったからだ。

白土は今の彼に取ってはいい殴り相手なのだ。それがいなくなってしまった今は彼は叫んで暴れるしかない。この形態からどうやって元に戻るのかも考えようとしないので当然暴れまわるだけの存在である。

だからこそ━━━

 

「うぐっ!?」

 

「これが紫の言ってた状態ね、ならピッタリこの薬に合うことでしょうね。安心なさい、ちょっとばかり深い眠りについてもらうだけだから」

 

「俺を……暴れさせろぉ……!」

 

弓矢を構えた永琳の放った、睡眠薬を練り込まれた矢を受けて眠らされるのだから。

 

「まったく……何をどうしたらこんなに性格が変わるのかしらね……手段として暴れる事を提示するならともかく提示すらなく暴れようとしてるのは少しおかしいとしか思えないわね。

けど……人間が鬼と融合……いえ、憑依? まぁ調べれば分かる事ね……本来ならこんな事しないんだけど紫にあそこまで頼み込まれちゃったし断りづらいのよね……私も甘くなったものね」

 

そう言って倒れた陽を担ぎ永琳はそのまま運んでいく。筋肉質な体になっている割には随分と軽いと永琳は密かに疑問に思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは……?」

 

「永遠亭よ、麻酔薬を塗った矢の威力はどうだったかしら?」

 

「……矢? 俺いつそんなもの撃たれたんだ……?」

 

「……ふむ、記憶はまるで無しか……そういえば記憶はどちらの方にも受け継がれ無いのよね……という事は新しい人格が生まれてる……? 元に戻る前に採血する事は出来たけど血液自体は彼のものだった……つまり彼を素体とした人格が生まれてるという事かしら……けれどそうなると何故妖怪化出来たのかが分からないわね……それ以前に鬼と人間の血液がすべて一緒だなんて本来はありえないのに……常識がどうのこうの言ってる場合じゃないからって事しか分からないわね……」

 

突然ブツブツ喋り始める永琳に陽は困惑していた。彼からしてみれば白土と戦っていてあのスペルカードを使った後から記憶が無く、目を覚ませばいきなり永遠亭にいて寝かされているのだから。

 

「お、おーい……」

 

「彼女の妖力を使って鬼の姿を形どっていただけで実は人間? でもそれだとあのパワーや炎の力の説明がつかない……あれが妖力で出来ているとしても中身が人間なのだとしたらどう考えても火傷するはず……そういう事が無いという事はやはり種族そのものが書き変わって妖力に耐性のある身体になってるとしかいえない訳で……」

 

「おーい!!」

 

「……何かしら? 今考え中……あぁ、そうだった。あなたに言っておく事があるんだったわね……」

 

「言っておく事?」

 

永琳の言う言っておく事というのが何か気になった陽は大声を出したので呼吸を整えながら彼女に問い返す。

 

「貴方、もしかしたら鬼に……あのスペルカードに自身を食われるかもしれないわよ?」

 

「……は?」

 

白土と戦った陽、しかしそれが終わった後も彼が休まる事は無く永琳からもたらされた一言により困惑を広げていくのだった。




力にはデメリットもある。デメリットの詳しい内容は次話にて
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