「お騒がせ致しました!」
「もう完全に治ったっぽいな、熱も無いしこれはもうぶり返しの危険とかは無いかな」
陽が白土に襲われ、永琳から陽化のスペルカードの対策を聞いてから数日が経過した。
あの後、紫はすぐに完治してそれに続いて橙も紫が治った翌日には完全に熱が下がりきっていた。
「いやぁ、他の誰にも伝染る事がなかったし二人共完治したし万々歳だね」
「一応永琳から伝染らない様に薬をもらって飲んではいたけど効果が凄かったのかそれとも元々伝染る隙が無かったのか……まぁ確かに万々歳だな」
「にしても何か忘れてる気がするんだよね……何か大事な事を忘れている様な……」
「それは俺も思ってたんだけど一体何を忘れてたんだっけ……白土に襲われたせいでほとんどぶっ飛んだ上に……
あれ、で陽鬼だけには伝わっていた。しかし例え陽化込みだったとしても今回は初めから白土に襲われたこと自体の記憶は残っているので恐らくは直接の原因では無いと考えていた。
「……ねぇ、そう言えば誰か倒れていなかったっけ? 襲われる前に……竹林で……」
「……あっ……」
そう、白土に襲われる直前に誰かが倒れていたのだ。しかし白土に襲われ、1度逃げて、陽化を使い、目が覚めたら永遠亭という状態だったので陽達にとっては思い出す暇が無かったのだ。
「……スキマは必要かしら?」
そして、今までの会話は全部紫に聞かれていたのでスキマを使うかを紫が聞いてくる。陽は無言で頷き、陽鬼もそれに続いて頷く。
その反応を見てから紫は永遠亭までの直通のスキマを開いて陽達を案内する。そのスキマが開いてから陽達は入るのだが……
「あれ、紫も来るの?」
「……なんとなく行かないといけない様な気がして……」
という事で永遠亭には紫を含めた3人が行く事になったのだった。
「永琳~ちょっと話があるのだけど~」
「何よ……忙しいんだから後にしてくれない? 彼に関してはもうこっちが今やれる事はやりきっているのだと思うけれど? それとも風邪が悪化したのかしら? ならこっちにちょっとキツめのが━━━」
「そうじゃなくて、昨日ここに誰か運び込まれてこなかったかしら? 陽達以外で、ね。」
紫が永琳にそう伝えると永琳は考える仕草をして悩み始める。彼女は薬剤師だが一応医者としての仕事もしているので昨日運び込まれた全員の症状は頭に入ってきてはいるが、如何せん少なく見積もっても10人はいるので紫が言っているのが誰かが分からないのだ。
「貴方の言う運び込まれた人間は結構いるわ、だから何か特徴かどこで倒れてたかまで言ってくれたら多分絞れると思うのだけど」
「竹林に倒れてたんだよ、この前俺達が薬をもらった日にここに向かおうとしていた時に見つけたんだけど色々あったから……今まで記憶から抜けてしまってたんだ」
「竹林で? あぁそれなら1人だけ優曇華が見付けてきてくれたわ。案内するわ、ついてきなさい」
そう言われて永琳は部屋を出る。忙しいと言っていたのはなんだったのだろうか、と陽鬼は思ったが今は倒れた人を見に行くのが先決なのでとりあえず黙っていた。
そして、一つの部屋の前に辿り着いた。
「ここよ、まだ患者は寝てるからあまり大声を出さない様にお願いするわね」
「分かった」
永琳の注意を聞いてから部屋に入る面々、そこには点滴に繋がれた一人の少女が眠っていた。
髪が長く、綺麗な銀色をしている子だな……と見た目の印象が残りやすいと陽は思っていた。しかし、陽の記憶とは微妙にどこか違うような印象を受けていた。どこかは分からないが陽は変な違和感があったのだ。
「さて……彼女がその人物な訳だけど……一応言っておくわね、彼女は人間じゃなくて妖精……のはずよ」
「はず? どういう事かしら?」
「彼女……色々おかしい所があるのよね。まず一つ目が……元々ここまで小さくなかったのよ。もうちょっと成長してた女性だったわ」
まずこの時点で陽と陽鬼は驚いていた。だが、同時に陽は納得もしていた。自分が見た時と今見た時の違和感は体の大きさという事だったのだから当然である。
「……妖精は自分の力が無くなってくるとなるべく消えない様に体を小さくしていくものよ? つまり自分の力に準じてる自然の力が弱まってる、という事になっているのなら小さくなっていくのも分かるけれど?」
「言いたい事は分かるわよ? けれどいくら何でもそんなすぐに小さくなるものだと思う? 仮にこの子の力の源が森みたいな木々の力だとしたらこんなすぐに無くなるって言うのは最早森がついさっき全部燃え尽きたみたいな事でも起きないと無理よ」
「……それもそうよね。それで、一つ目って言ったって事はまだおかしい点があるんでしょう? それは何?」
紫がそう尋ねると永琳が少し言い辛そうな表情になる。いつも相手に言いたい事は的確にいう永琳が言い淀むのは珍しく、陽達は少し新鮮な感じだった。
「……えーっと、なんと言うか……妖精ってパッと見た感じでもこの子はどんな自然の力を持っているのか……みたいなのはある程度分かるはずなんだけど……何というか『月』の感じがあって……」
「……じゃあ、この子は月の妖精って事? 確かに自然ではあるけれど……あなたがそれを感じ取るなんてまさか……」
「……そうよ、『月の都』と同じ感じがするのよ」
陽はこの時点で色々聞きたい事があったが、今話の腰を折ってもどうしようもないので黙ってる事にした。幸いにも色々ズバズバ聞いていく陽鬼はそもそも話の本筋すら理解して無い様で、頭を前後に揺らしながら少し寝ぼけてきている。
「……けど、月の都に妖精って事は……」
「いえ……流石にこの子はあの異変とは関係無いと思うけれど……けど私もちょっと不安ではあるのよね……」
「無関係……だと思いたいけれど……」
『月の都』これを先程聞いて色々聞きたい事があったのに今また聞きたい事が再び生まれてしまった陽。月の話をする度に紫が少し嫌な顔するから恐らくは話したくないのだろうと陽は思った。だからこそ聞く事があるのなら永琳に聞いてみようと心の中で思っていた。
「……仮に無関係だとすると……月という自然の存在を受け取っている妖精って事になるわ。けれど増える事も減る事も無い月の存在を自身の存在の核としているのなら……何故弱ってたかが理解出来ないわね。月の満ち欠け……は流石に関係無いわよね、毎回こんなに倒れてる事になるし何より何日も眠り続けているなら目を覚ましてもおかしくないはず……ってもしかしてこれは三つ目かしら?」
「そうよ、そうなのよ……仮に新月の時に倒れてしまうほど弱っているとしてもそれなら新月はかなり先……これは、誰かにやられたのか……陽鬼と同じ理由か、って事になるわね」
「んー……? 私がどうかしたー……?」
「……よいしょっと、話続けといてくれ」
陽は寝ぼけている陽鬼をおんぶしてから二人に話を続けてもらう様に催促する。永琳が無言で近くにあった椅子に座る様に催促してきたのでその厚意に甘えて陽は椅子に座る。その時におんぶから抱っこに持ち替えて子供をあやす様に頭を撫でたりしていると陽鬼は完全に眠りに落ちて寝息を立て始める。
「……まぁ、流石にお腹が減って倒れた……みたいな理由ではなさそうで少し安心したというか。何処も傷ついて無いし痩せ細ってる訳でも無いし」
「うーん……けれど益々倒れた理由が分からないわね。何なのかしら?」
二人が話してる間に陽はじっと倒れた少女を見つめる。陽鬼と同じ様に傷ついた訳でも無く倒れている少女。一体何故倒れているのか……もしかしたら辛い目にあったのかもしれないと彼女に少し同情的になっている陽は彼女の目の上にかかっている髪を払い除ける様にして髪型を整える。
すると━━━
「う、ん、んん……?」
「……目を開けたんだけど」
「えっ!?」
目を開けた銀髪の少女は顔を少しだけ動かして左右の確認をとる。
そして陽と目が合うとじっと陽の顔を見つめる。陽は何故自分が見られているのか分からないからそのままの体勢で紫も永琳もつい黙ってしまいながら1分ほど経過する。
「……マスター……」
「……ん?」
「貴方が、私の新しいマスターですか?」
陽は困惑した。彼女の言っている言葉が今の一瞬では意味を理解出来ないほどには困惑していた。そしてそれは紫達も同じだった。
何とか言葉を模索しようと必死に頭を回す陽、そして何とか彼女の言葉に対する返しをしていく。
「えっと……何でそうなったの?」
「……貴方が私に触れていたからです。それと、貴方が男だから」
理由があまりにも適当だった。そのせいで無駄に混乱したと考えた陽は少しばかり苛立っていたので彼女に諭す様に説明していく。
「……俺が触れていた、それだけでそうなるのならまず君が倒れていたのを運んだ人物がそうなるんじゃないのかな?」
「……最初に触れた人がそうなのなら、確かにそういう理屈ですが私は『男性』に従い、守れと教育されていたので……その方が男性なのならその方がマスターになる……はずです」
「……貴方もしかしてクローンロイド?」
陽は聞き慣れない単語をまた出した永琳を見た。今回出てきた単語はどこか聞いてはならない様な嫌な意味を含んでいる様に聞こえてしまったからだ。
「……はい、そうですが……貴方は八意永琳ですか? 頭脳と言われた貴方が何故こんな所にいるのですか? というか、ここはどこですか?」
「……ここは地上、ついでに言うならそこの幻想郷よ」
「幻、想郷……?」
彼女はその単語の事を聞いた事が無いと言わんばかりに首を傾げていた。それを見た永琳は軽く考える素振りをした後に再び口を開く。
「貴方が地上の汚れを気にしないというのならここに住みなさい。もし汚れが気になるというのなら私の方からちょっと頼み込んでみるわ。
どうするのかしら?」
「私は……主に従うだけです……」
「決まりね。紫、あなたのところにまた負担がいくけど気にしないで頂戴ね」
「そ、それは別に構わないけど……いきなり私の意見も聞かずに決めるのはやめてほしいわね」
紫の反応を確かめた後に思い出したかの様に永琳は陽の首根っこを掴んでどこかへ連れていこうとする。何かを察した紫はスキマを使って陽が抱き上げている陽鬼を自身のところに持ってきて『後は任せなさい』と言わんばかりに笑顔で陽に手を振っていた。様子を見てくれるのならいいか、と陽はそのまま永琳に部屋の外へと連れ出される。
「さて……また貴方から紫に伝えて欲しい事よ。決してあの銀髪の娘には教えない様にして頂戴ね、余計な混乱を防ぐ為に今は教えない方がいいと判断したんだから」
「……『クローンロイド』って言うのに関係してる事か?」
「大正解よ。クローンロイドというのは一時期月で作られていた人造兵士みたいなものよ。兵士といっても争いごとなんてせいぜい一番古くても千年前の第一次月面戦争くらいなのだけど……クローンロイドはそれよりも前から作られていたのよ。戦闘ができる専属メイドの用なものだったわね」
陽は永琳の言い方に引っ掛かりを覚えた。『作られていた』という言い方ではまるで消耗品の様に作られしかも今では作られていない様な言い方だと感じていたからだ。
「……それが、クローンロイドって言うのが作られていたのはいつなんだ?」
「第一次月面戦争よりも前に作られ、第一次月面戦争よりも前に作られなくなったわ。
けれどクローンロイドは基本短命……いえ、肉体の劣化が早いだけね。中の情報だけを抜き取って新しい体に入れてしまえば問題無かったもの。
だからこそ……あの子はそのクローンロイドではあるけれど今じゃ別の存在になってるって事だけは理解出来るわね」
「……つまり?」
「あの子は千年前の月面戦争より前に生まれた存在であり、もっと言えば何かしらの理由で完全な妖怪化を起こしている、という事よ。月面戦争が始まる前にクローンロイドはあまりにも月という場所に汚れを貯める可能性があるというお偉い方の意見によって完全に技術ごと……発案者ごと消え去ったのよ」
そして、一旦間を置いてから再度永琳は言葉を続ける。
「だから……あの子は千年以上前の存在。それが何かしらの理由で生存していて幻想郷に、竹林に倒れていたのよ。
クローンロイドは成長しないから体が大きくなんてなるはずがないし小さくなるのなんてもっと有り得ない。……マスターとして、でもいいからあの子を連れて行ってくれないかしら? あの子は自分が今は何か別の存在になっている事に気付いていないもの」
「……断る理由も無いよ」
こうしてクローンロイドという存在であった少女を引き取る事になった陽。しかし、まだ分かっていない事が多すぎる陽に取ってそれは吉と出るのか凶と出るのか。
それは彼自身にも分からない事だった。
クローンロイドはこの小説のオリジナルです。