東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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前回の続きです。


月は人の手では覆えない

「お前が……陽だと? お前が陽だって言うならあの小さい銀髪のガキはどこに行った? 答えてみろよ」

 

「我と一つになった。貴様も知っているだろう? 我は記憶にこそ無いが陽鬼と一つになる事が出来る。恐らくそれと同じ原理で月魅を憑依させている、という訳さ。

だが、陽鬼と一つになった時と違ってこちらの姿は……記憶と意識がちゃんと残っている、という事だな」

 

自分の体であるかの様に手を握っては開き握っては開きを繰り返していく自らを陽と名乗る男。白土は未だ少し怪しんでいたが、直感的にこの男は陽であるという確信を得つつあった。

 

「まぁいい……なら、どうやって貫通した縦断を避けた? 明らかに鉄板の外側に出てきていなかったよな?」

 

「簡単な話だ。銃弾が当たるよりも早く銃弾を避けながら横に飛べばいいだけの話。そもそもサブマシンガンを撃っているお前が一瞬しか映らないものを認識出来るとは思えない」

 

「……なるほどな、要するにその姿はあの鬼の姿とは違ってスピードがとてつもなく早く動けるって訳だ。しかもその速度を制御出来る目も持っているし思考速度も上がっている」

 

白土は持っていたサブマシンガンを短剣をへと変えていく。二刀短剣にして腰をかがめて近接的な手数中心で攻めてくると気付いた陽は持っている刀を構える。

そして二人はそのままじっと動かなくなる。どのタイミングで動くかを狙っているのだ。白土はそもそもこの状態の陽を見た事が無い為に攻めづらかった。暴走しているのならまだしもそんな事も無いとなるとむやみに突っ込めば確実に刀の餌食になるのだから。

 

「っ!」

 

先に飛び出したのは陽だった。互いが互いの身体能力を限界まで高めているので飛び出した陽の速度は普通の人間では考えられない程の速度だった。

 

「早っ……!」

 

しかし白土はギリギリのところで持っていた短剣を使って薙ぎ払う様に振られた刀を一時的に防ぐ。そして防ぐと同時に軽くジャンプしており、陽の刀の勢いを利用して刀を躱し、なおかつ空中で一回転した後にすぐさま地面に着地してその短剣で陽の首を突き刺そうとその刃を向ける。しかし━━

 

「ふっ!」

 

陽はその短剣を体を反らして避ける、そしてそのままの勢いで地面に手を付いて逆立ちとなり白土の顔面に蹴りを放つ。だが直前に白土は腕を組んでその蹴りの勢いを腕で受けその反動を利用して後ろに飛ぶ。

 

「………力自体は普通の人間くらいか。だがその速度はどうにかならないもんかね」

 

「……その速度に追い付けるお前もどうかと思うけどな」

 

「この程度じゃ殺せない事くらい分かった。ならもうちょっとこの世界のルールに準じてみるか……ほらよ!」

 

そう言って白土は弾幕は放つ。しかしその全てが弾幕ごっこのそれではなく本格的な殺しの技にもなっている。そしてそれら全てを━━━

 

「はっ!」

 

陽は全て切り飛ばした。多少の自信を持って放った10以上の弾幕を陽が全て切り飛ばした事に白土は軽く焦りを覚え始める。物理攻撃はすべて見切られ弾幕攻撃も効かない。先程のサブマシンガン戦法を取ってもいいが切り飛ばされて近付かれたらかなりキツい戦いになるのは目に見えていた。

 

「……」

 

ならばこのまま近接で挑もう、白土はその方が早いと確信して片手に1本ずつではなく手の指と指の間全てに短剣を挟み込んでまるで鉤爪の様な持ち方をする。

 

「……何のつもりだ?」

 

「ふざけてる様にしか見えないだろ? だがよ、案外こっちの方が……良さそうなんでな!!」

 

そのまま腰をかがめて白土はまるで飛んでくるかの様にジャンプして爪に見立てたナイフを握った手を振り下ろす。

しかし先程と同じ様に陽は刀でガードする。しかし、先程と違い白土はその至近距離で陽に向かってもう片方の手に掴んであるナイフを投擲する。陽もこれには不意を突かれたがギリギリ頭や心臓の部分には刺さらずに済んだ。

だが、流石に鍔迫り合いをする程の至近距離で投げられたナイフは避けづらかったのか太ももに一本突き刺さっていた。

 

「やっぱりな。お前はその姿になったのは始めてっぽい感じだったからな。まだ慣れてない力を使ってるのならこうした方が手っ取り早かった訳だ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()。実際その戦法のお陰でお前に一本突き刺させた……じわじわといたぶってやるからな」

 

「……いたぶられるのは果たしてどちらだろうな」

 

しかしこうやって強気でいる陽もどうすればいいのかという事を考えていた。こんな方法で即座に攻略法を見付けられるとは夢にも思って無かった。ここにきて戦闘経験の差が出てきたのだ。

 

「強がるなよ、お前の反応速度は今の状態で最速にしているはずだ。その最速だろう速度で反応しきれねぇんじゃあ……全て避けきるのは不可能に近いと思うぜ」

 

陽は太ももに突き刺さっているナイフを抜いて投げ捨て、白土はナイフを補充する。陽の傷は『限界をなくす程度の能力』により回復力の限界を消して圧倒的な速度で回復してみるみるうちに傷口は跡も残らず消え去った。しかし、死ねば終わりだし痛みもある。

二人はこの時、『陽の回復力が上回り押し切るか、白土が陽を押し切るか』という思考にたどり着いていた。

 

「……ほーら、そんじゃ第二波行くぞ!」

 

「っ!」

 

そう言いながら白土は再度同じ様に突っ込もうとしてきた。陽は白土の位置に刀を振り下ろすが白土は横に飛んで避ける。白土は先程とは違い弾幕とナイフを両方同時に飛ばしてくる。

 

「弾幕は効かないと……っ!?」

 

妖力、霊力、魔力……その他のエネルギーで構成されていることもある弾幕。白土の出すそれは人間ながらも自身の体を改造して放てる様になったものであるが、撃つとしたらかなり珍しいものではある。

そして先ほど陽が切り飛ばして見せた事で陽に弾幕の類は基本的に効かないと分かっているはずなのにどうして使ったのかが分からなかった。

要するに簡単な話だ、弾幕は囮で本命は━━━

 

「中に……ナイフを仕込んでいたのか……!」

 

「即興で考え付いたものとしては面白いだろ? たとえ切り飛ばしてもその後はナイフが飛んでくる仕様になってるからかなり使い勝手がいいと思うぜ? 無論、殺すにはいいって話だけどな」

 

飛ばされた弾幕、投げられたナイフ……その両方が囮であり、本命は弾幕の中に隠されたナイフである。陽は弾幕を切り飛ばして出てきたナイフを何とか刺さらない様には避けれたが今度はそれで大量の切り傷を負っていた。

 

「くっ……!」

 

「反応速度はやっぱり上がってんだな。けどそれに体が追いついてねぇ……その姿での欠点は今のところは体が五感に追いつかない事がある、ってところか。鬼の姿の時ならパワー全開で殴っとけばそれでよかったもんなぁ? って覚えてねえんだっけ? なら分かるはずもねぇな」

 

そして近付いてくる白土。すぐさま攻略法を見付けられた陽はどうやって攻めていくか考えていた。だがナイフ入り弾幕とナイフ入りでない弾幕の区別が付かないのだ。その上ただの弾幕やナイフだけのものもあり防ぎきる事が出来ない。

 

「……お前は自分の理性が無くなるほど強くなるタイプなのかもしれねぇな。ま、俺にはもうそんなこと関係ないんだがな……さて、存分にいたぶってやろう」

 

「そう簡単に……!」

 

そして二人はほぼ同時に飛び掛かり息をもつかせぬ戦闘を始めた━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「は、はは……意外と呆気ないもんだなぁ? えぇ? ちょっと時間が掛かったが……ついにその変身……合体も解けたな?」

 

「マス、ター……」

 

数十分経過してから決着はついた。お互いに体力は削られていたものの憑依自体が融けてしまった為に陽と月魅はその場で膝をついて肩で息をしてしまっていた。

 

「初めてだったんだろ? 慣れているんだったらもうちょっと動けていたはずだからな……あの鬼と一緒にいた方が良かったな、やっぱり」

 

そう言いながらふらつきつつも白土は残っていたナイフを一本の刀に変えて近付いてくる。白土もかなり体力を消耗していて投げるほど残ってない事は明白だった。

しかし、陽と月魅は憑依での体力消耗と激しい戦闘での体力の消費も相まって動こうとしても地面に横たわりそうなくらいにはフラフラになっていた。

 

「は、ははは……呆気なかったな……こんな簡単な事を今まで出来なかったのが本当に腹立たしいぜ……」

 

そうして白土は陽に向かって刀を振り上げる。陽が諦め、月魅が助けようと手を伸ばしていたその時、白土の刀が甲高い音と共に後ろに吹き飛んでいた。

白土すらも一瞬何が起こったのかを理解していなかった。それは陽と月魅も同じであり、そのすぐ後に聞こえてきた足音の方向に目を向ける。

そこには金の長髪をなびかせて現れた女性、陽たちが最も知る女性が姿を現した。

 

「……貴方が、陽の言っていた黒空白土ね?」

 

「……八雲、紫……!?」

 

そう、陽達と一緒に人里へと買い物に来ていた紫その人である。陽達は疲労していたその思考では一体何をどう言い訳したものか考えがまとまらなかった。

 

「……随分特殊な結界を張るのね、貴方。特定の人物が入った瞬間起動する結界……だけならまだしも指定した誰かが範囲内に入れば発動する結界……けれど、私の能力の前じゃ意味を成さなかったわね」

 

「この結界……発動すれば中から出る事は出来ても外から入る事は絶対に不可能だったはずなんだがな……」

 

「私の境界を操る程度の能力を舐めないでほしいわね……隔絶された空間であろうと、厳重に封印を効かせた結界の中だろうとも入る事が可能なのが私の能力よ。

たかがこんなチンケな結界一つくらい訳無いわ」

 

そう言った紫に白土は舌打ちするしか無かった。彼女の能力は白土自身が思っていた以上に強力なものであり、舐めてかかったらダメなのだと自覚させられた。

 

「陽、月魅……よく頑張ったわね、あとは休んで……私に任せて頂戴。そうそう、あなたの結界の事は……もうすぐ結界のプロが来て壊してくれる事でしょうね。

これ以上まだ何かするつもりかしら?」

 

「……何か、するつもりだって……? そんなもん!! する事しかねぇよ!!」

 

先程までの疲労は一体どこへやら、白土は先程と同じ様に弾幕、ナイフ、ナイフ入り弾幕の三つを紫に向かって放ち出す。だが、紫はその全てを無言でスキマに飲み込めせる。

 

「なっ……!?」

 

「『八雲』というのはこういう事ですわ……貴方の様な無知な愚か者が私達に……幻想郷の賢者である八雲紫に喧嘩をふっかけるとどうなるかよく身に染みるよう教えて差し上げますわ」

 

そして白土の周りには大量のスキマが一斉に開く。そしてその全てから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐっ……!?」

 

弾幕が当たり、ナイフが白土が体を切ったり刺したりしていく。その一瞬で白土は傷だらけになっていた。

 

「……バケモンかよ……何で放った弾幕の量を増やせるんだよ……!」

 

「あら、空間の境界を少しいじったら増えていましたわ。ここの入口に入って出てくるものはそこの全てのスキマから出るようにしていますから。

後……私は妖怪、幻想郷の賢者ですわ。それをお忘れなきように頼みますわね」

 

扇子を広げて口元を隠す紫。しかしその視線はどんな妖怪のそれよりも恐ろしい威圧感を放っており、絶対に殺すと錯覚させてしまうくらいの殺気を放っていた。

 

「くっ……! こんなバケモン相手にしてられるかよ、今は戻るしかねぇか…!」

 

「あら、逃すとお思いで?」

 

「八雲紫、お前がいくらどんな空間、次元に飛べようとも絶対に入れない空間の一つや二つ……無い訳じゃ無い事を覚えておけよ」

 

そう言って白土は空間にファスナーの様な亀裂を作ってその裂け目に入っていく。入ろうとした瞬間に弾幕を展開させるが全て当たる前に空間に逃げ切ってしまう。

すぐさま紫はスキマを開いたがすぐに閉じて陽達の方に向き直った。

 

「二人共……大丈夫だったかしら? 今日は私達が一緒に来ていて助かったわね……もし家にいたら絶対気付け無かったわ」

 

「紫……ありがとう……」

 

ふらふらになりながらも何とか立ち上がって紫に礼を言う陽。月魅は陽以上に疲労しているのかホットした瞬間その場で倒れて立ち上がれない様だった。

 

「構わないわ……もう一緒に住んでいる家族の様なものだもの。今日は買い物は中止して貴方達の面倒を見る事にするわ。藍、後は頼んだわよ」

 

「えぇ、分かりました」

 

紫に担がれて陽と月魅は先に八雲邸に帰る事になった。色々と陽は聞きたい事があったが、紫に背負われている内に疲労によりいつの間にか眠ってしまったのだった。




今回の疑問はあらかた次回で解決させます。
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