「……うっ、ここは……?」
「永遠亭よ、もう一つ言うと貴方はただの疲労困憊だから一応そっちだと入院する事は無いわね。多少の切り傷を負ってはいるけど……傷の治りを早く出来る能力で良かったわね、殆ど問題無いわ」
陽が目を覚ましたら最初に見えたのは永遠亭の部屋の天井……では無く永琳の顔だった。
最近何か事があって寝た時は大体永遠亭にいる事が多いな、と思いながら陽は体を起こす。永琳の言う通り確かになにも問題は無く、手も足も身体は問題無く動いた。
だが起きているのがかなりしんどくてすぐに陽は横になった。
そして、再度横になった時にふと横を見ると紫が寝息を立てながら椅子に座って顔を俯かせながら寝ていた。
「感謝しなさいよ、貴方達の事は紫が運んでくれてここで少しの間面倒を見てくれてたんだから」
「……そうだ、月魅は?」
「大丈夫よ、仕切りがあるけれど貴方の隣で寝てるわ。後、貴方が寝てから丸一日が経過してるわ。本当に紫に感謝しなさいよ?」
「……分かってる……」
そして陽が黙って数分が経過した頃。ふと何かを思い出したかの様に永琳が口を開く。
「貴方、今度はクローンロイド……いえ、精霊と一体化したみたいね。どうなってるのかその体を調べ尽くしたいところよ」
「……紫から聞いたのか?」
「貴方が運び込まれる原因になった日に起こった事は紫視点からなら全部聞いたわ。紫は寝ているし丁度いいから私が説明するわ。答えれる範囲でなら答えるからなんでも聞いて頂戴」
永琳がそう言ってから陽は少しだけ考えて口を開く。正直話すだけでもしいどいのだが今こうやって話しておかないと色々気になって眠れないのだ。
「……じゃあ、なんで俺達が戦っていた時に異変を感じて駆けつける事が可能だったのか」
「紫は『変に空間を歪めている結界が発動したのが分かったから来る事が出来た』って言ってたわね。
また白土という子と戦ったんでしょ? その子の能力で幻想郷が結界の中にあるという事を利用して『結界空間内の空間を改造して結界を作った』らしいとか何とかとも言っていたわね」
とりあえず陽は白土がかなり無茶苦茶な事をやったんだとは理解出来た。今はその程度の認識でいいだろうとまだ気になっている事の質問を続ける。
「……じゃあ、結界のプロって誰だったんだ結局」
「貴方も知ってるでしょ? 博麗霊夢よ、彼女は数々の異変を収めてきただけじゃ無くてそれなりの強さもちゃんとあるわ。それに結界の扱いに関しては彼女が一番強いわよ」
「……守谷は呼ばなかったのか?」
「彼女は結界じゃなくて霊力の方の扱いに長けている側よ。霊力での扱いなら霊夢と五分五分ってところだけど結界に関しては霊夢の方が圧倒的な差があるわ。
それに……貴方は彼女の事が少し苦手そうに見えたらしいわよ、紫には」
そこまでバレていたのか、と顔を覆いたくなる気持ちになったが生憎手を顔まで持っていって体力を無駄にはしたくなかったので顔を背けるだけにしておいた。
「他には? 何かないのかしら?」
「……後は紫に直接聞く……ちょっと疲れた」
「そ、体力が無駄に消費してたっていい事は無いわ。疑問に思った事が潰せたのならそれが一番よ」
そして陽は永琳のその言葉を聞いてから目を瞑るとすぐに寝息を立てて寝始めてしまう。思っていた以上に体力を消耗していたのだろうと考えた永琳はそのまま大きな音も声も出さない様にしながら部屋を出ていこうとする。すると、紫がもぞもぞと体を動かし始める。
「ん、んん……ん……?」
「あら、起きたのかしら? 様子見に部屋に来た時には貴方が寝ていたから仕方無く彼の様子を見てやってた訳だけど……というかちゃんと起きれてるのかしら?」
「まだちょっと頭が回らないけど……意識はちゃんとあるわよ。
陽はまだ起きて……いえ、起きてたみたいね。貴方が出ていこうとするって事は一度は目を覚まして話していたんでしょうし……」
「あら鋭い。まぁそうね、まだ疲れてはいたけれど二人共もう体に異常は無いわ。後はグースカ寝てるだけで体調も体力も元通りよ。
貴方も疲れているなら寝たらどう? とは言っても空きベッドを使わせる気は無いから彼のベッドで寝てもらうことになるけれど」
紫は軽く頭を横に振って遠慮の意思を示す。とはいっても頭が回っていないせいでベッドで寝る、という事くらいしか聞き取れていなかったのだが。
「そう、まぁ別に私はどちらでもいいんだけどね……けど、
そう言われて紫は1枚のスペルカードを懐から出す。裏表を見たあとに自分の隣の椅子へ置いてから永琳に向き直る。
「月化[月光精霊]……また新しいスペルカードを創造してたのよね、この子……」
「そしてそれが月魅との融合……憑依を可能にした。けれど今回は陽鬼とは違って記憶も引き継がれてたみたいよ。何が原因かしらね……薬や病気なら大体分かるんだけど……」
永琳が顎に手をやりながら考え込む。だが初めから答えが分かっていたかの様に紫は口を開く。
「……陽鬼は妖力、月魅は霊力……人に宿るものは霊力しかないから恐らくそれが関係しているのよ。後は精霊という存在が陽に与える影響が少なかった……とかかしら」
「それだったら前者の方がまだ納得出来るわね。後者はほかの精霊を知らないから判別の仕様が無いもの」
置いたスペルカードを再び手に取って眺める紫。その姿をじっと見てた永琳が不意に口を開ける。
「彼のことが心配?」
「放っておけないのよ……加減を知らなくて、無茶もしちゃう様な子だから。来た当初は全てに興味が無さそうな感じだったけど……ここに来てからまるで別人みたいに変わった。
けれど私達の事を過剰に守ろうとする。守られる自分が嫌、って簡単な事だったらいいけど……そうじゃなくて……」
「『掴んだものを絶対に離さないくらい依存してる』って?」
紫が言おうとしたことを永琳が言った事に紫は特に驚く事も無くただただ頷いた。スペルカードを懐にしまって俯いてる紫に永琳は溜息を吐いた。
「元々家族の愛情っていうのを知らない子なんでしょう? なら『家族』を提供してくれる貴方達は好きだし『家族自慢』をしてくる守谷の巫女は苦手なのよ。
紫、いっつも気まぐれだけどやる事はきちんとやって真面目にやる時は真面目にやる貴方がそういう反応を示す、っていう意味ではあの子はいい意味でも悪い意味でも変わっていってると思うわ……けどね、そんなに心配なら何で買い物なんかに行かせたの? 狙われてたのは知ってるでしょう?」
「私は……閉じ込めたくなかった……彼も、この世界に興味を持ってほしいと考えてた………けど、間違ってたのかしら……」
永琳の言葉に段々と気分を落としていく紫。流石にそんな顔をされて放っておく訳にもいかないと考えた永琳は、仕方無くもうしばらく紫の話し相手になってやろうと扉を開けようとしていた手を戻して紫に向き直る。
「興味を持ってほしいっていうのは……まぁ、分からなくもないわ。実際彼は色んなところに興味を持ってるはずだし色んな人と話しもしている。
極端にする必要は無いのよ。貴方のやり方が間違ってるなんて誰にも言う権利なんて無いわ。彼には鬼と精霊の2人の従者も付いてるんだから……」
「永琳……貴女に慰められるなんて私もいじけ過ぎてたかしら……けど、ありがとう」
一瞬柄にもなくぶん殴ってやりたくなった永琳だったが紫が珍しく自分に礼を言われた後でその物珍しさで仕方無く許す事にしたのだった。
「……そう言えば、陽鬼はどうしたの? 貴方達と一緒にいたんじゃなかったの?」
「彼女なら……今は藍と橙と一緒に家にいさせてるわ。私だけでいいって伝えてあるもの」
「……そんなに他の女が近付くのが嫌なのかしら?」
まるで煽るかの様にニヤニヤしながら言う永琳、もうこういう話題が出されるのは男と一緒にいるからなのだろうかと少しだけ思った紫は溜息を吐いた。
「そんなんじゃ……無いわよ。ただ陽鬼だと何か壊したりしちゃうかもしれないしそんな事させちゃダメだから家にいさせたけど、様子を見させる為に……どうせなら橙と一緒に見させてやろうと思ったから藍を家において二人の様子を見させて━━━」
「あぁ分かったから、からかったのは悪かったって反省してるから……落ち着きなさいって……そんなに彼と冗談でも恋仲にされるのは嫌なの?」
「嫌って言ってる訳じゃあ……でも、どっちかと言うと息子みたいな感覚だし……」
貴女には子供はいないでしょうに、なんて事を言いかけたがそのまま黙っておいた永琳。これ以上は完全にお節介な婆さんのやる事だと思った永琳はとりあえず一旦黙っておいた。溜息は分かりやすくしていたが。
「そう言えば……いつまで陽は休んでないとといけないの? それを先に聞いておかないと……」
「おおよそ後1日くらいは休んでないといけないわよ。言ったでしょう? 彼は疲労が大き過ぎるのよ。だからとりあえず今の間は彼を寝かせて、その後に軽くリハビリをして、食事も胃に負担が掛からないのも作ってあげないとね」
「……分かったわ」
「それじゃあ私は一旦仕事に戻らないといけないから戻らさせてもらうわね。定期的に優曇華が来るから彼になにか起きたら優曇華に伝えて頂戴。もし大事が起こったら近くの兎に伝えてくれたら私に届くようになってるわ」
「わ、分かったわ……」
紫が理解した事を確認してから永琳は部屋から出ていく。
紫は永琳が出て行ってしばらくしてから溜息を付きながら陽の側に立つ。そして中腰になって陽の頬をゆっくり撫でていく。
「貴方は無茶をし過ぎな気がするわ……鬼になったり精霊になったり……体に切り傷や刺傷も作ってくる。助けを決して呼ぼうとせずにその場にいる者達で解決を図る……やっぱり今度から専用の式神を持たせていた方がいいかしら……そうでもしないと……貴方は無茶を絶対にするもの……『家族に頼る』って事をした方がいいわよ……?」
今は届いていないと分かっていてもつい言ってしまいたくなる言葉。既に紫にとっては藍や橙と等しく大切な者の一人なのだ。けれど藍や橙よりもいい意味でも悪い意味でも陽は心が強い、だから可能以上の事をしでかそうとする。
「……どうやったらもっと貴方の事が分かるのかしらね……もっと頼ってくれてもいいのに……」
「ん、んん……」
紫が黄昏ていると陽の隣からうめき声が聞こえてきた。そしてすぐさま声の主に気付いた紫は仕切りを取り払って確認する。
「……紫……?」
「月魅……よかった、目を覚めしたのね。貴方もぐっすり眠っていたから心配してたわよ……」
目を覚ました月魅はまだ寝ぼけているのか、紫の顔を認識した後に頭を動かして周りの様子を確認する。そしてその後に、再び紫の方に向き直る。
「……ここは永遠亭よ。貴方達は白土っていう男と戦ってその後眠っちゃったのよ」
「そう、でしたか……それで、マスターは?」
「陽なら……貴方の隣、私の後ろで寝てるわ。それよりも体は動かせそう? 出来ないならもう少し寝ている事をすすめするわ」
そう言われて月魅は起き上がる。腕に力は入るけれど足に力が満足に入らない。これは立つ事がまだ万全には出来ないと考えた月魅は再び横になった。
「もう少し寝ますが……その前に幾つか質問させてもらってもいいですか?」
「えぇ、いいわよ━━━」
月魅の質問は陽が永琳にしたのと全く同じだった。そして、聞きたい事が聞けたら月魅も再び寝始めた。
それを見届けた紫は静かに微笑んでから月魅の頬も撫でてから立ち上がってスキマを通って、部屋を後にする。一度は目を覚めした事を陽鬼達に伝えないといけないからだ。
「よっと……陽鬼〜、藍〜、橙〜、いるかしら〜?」
「紫様……彼らはどうでしたか?」
「目を覚ましたからここにいるのよ、私は。最もまだあの子達も休んでないといけないからもうしばらくは永遠亭にいる事になりそうだけどね」
紫が八雲邸に戻ってきてまず藍が最初に出迎えた。そして事情を軽く話して陽達が目覚めた事を一応は伝えたが、紫は陽鬼がこの場にいない事を疑問に思った。
自分が帰ってくるという事は陽鬼が来そうなものだが、何の反応も無しに来ないというのは陽鬼が声を聞き取れない状況じゃないのか? と紫は思いとりあえず藍に聞いてみる事にした。
「藍、陽鬼はどうしたの?」
「……丸1日起きていたせいでついさっき倒れたので布団に運んで寝かせてあげてます。彼女も疲れてるのに……いえ、自分の主が気になって眠れない、なんていうのは私にもよく分かる事です」
とりあえず寝ているだけなら問題無い、と思った紫は安心した。そして、自分も安心した矢先に眠たくなってきたのだ。
「向こうで寝てくるとは仰ってましたがとりあえず一旦ここでお休みになられてください。また明日、みんなで様子を見に行きましょう」
「そう、ね……そうさせてもらうわ……」
そう言って紫は自室へと足を運んだ。また明日……陽達に会いに行く為に。