ある日、昼下がりの事。
紫に頼まれて買い出しに出かけていた陽は買出しが終わった後に少しだけ森の中を散歩していた。弾幕を撃つ事や空を飛ぶ事は一切何も出来てはいないがそれでも紫がスキマを人里に繋ぐ事により買い出しなどが楽になっている。
「……」
人里には多くの人がいる。しかしその全員が陽の様な現代染みた格好ではなく殆どが浴衣の様なものを羽織っているため彼の格好はかなり目立っていた。その視線に若干の苛立ちを覚えて陽は買い出しを早々に終えて帰路に就いていた。
今歩いている森の中をある程度歩いたところにスキマを開いてそこから人里に向かっていたので帰りもその人里から離れた森の中を歩かねばならなかった。
ふと、森の中を歩きながら陽は考えた。『何故自分はあの時の視線にイライラしたのか』と。本来の彼ならそんな事は全く気にも留めず淡々と買い出しをして淡々と帰った迄だろう。なのに今回自分が好奇の目に晒されるという事に苛立ったという事自体に疑問を覚えていた。
「……あ、行き過ぎた。」
考え事をしながら歩いていたせいで道を通り過ぎる。ということもあまり彼はしないのだが何故かしてしまう。
しかし、その道に入ろうとした瞬間……彼は蹴り飛ばされた。彼自身が蹴り飛ばされたと自覚できたのは吹っ飛ばされた時に蹴られた部位の激痛、ぶつかった時の背中の痛み、そして何より先程まで彼がいた場所に立っている影が余韻でも味わっているかのように蹴り飛ばした体制を保っていたからだ。
「な、何なんだ……?」
「━━━袋を見るに買い出しでもしてたってのか? 陽。随分と幸せそうに過ごしてんなぁ……? おい……」
「………っ!?」
陽がその人物の声を聞き、姿を見て、その表情を青く染める。驚きで出る言葉が見つからない。その人物は既に陽の前から姿を消しており、彼自身もどこかへ行ったものだとばかり思っていたため記憶からすっかり抜け落ちていたその人物。
「
「俺がここにいる理由なんてどうでもいいだろうが。後……俺は今からお前を殺す事に決めたから」
「な……!?」
そう言いながら白土は手のひらに収まるくらいの1枚の正方形の紙を取り出す。その紙を持ちながら近付いて来る。陽は紙をどうするのかと考えていたが、その紙はすぐに木の枝へと変わり、木刀になり、真剣へと変わる。その一瞬一瞬で姿を変えていく紙だったものに陽は訳が分からなくなっていた。
「な、なんで……!?」
「冥土の土産に教えてやるよ、俺の能力だ。『改造する程度の能力』おれはそう呼んでいる」
「改、造……?」
「おしゃべりはもういいだろ、死ね」
そう言いながら淡々と、しかし殺意の篭った眼差しを向けながら陽の頭へ真剣を振り下ろす。だが既のところで陽も自分の能力を使ってその窮地を何とか脱出する。
「はぁ……はぁ……!?」
「へぇ、意外と早く動けんだなお前。俺がいなきゃ色んな奴から虐められていたくせによ。それともそれが能力なのか? まぁ見た限り瞬間的なもんみたいだけどな」
殺される、今の白土には話は通じないし話そうとした瞬間に首をはねられる。あの蹴りは人間じゃありえない脚力だし全力で逃げないと追いつかれる。
藍の時とは違う圧倒的な殺意。それらを陽は感じ取り自身の能力を使って脚力のリミッターを外して全力でその場から離れる。スキマは白土の後ろ側、今無理にスキマに突っ込もうとしたらまず間違いなく白土に両断にされる。ならば一度離れてから遠回りにまわってスキマに入ろう。今、陽の頭の中は逃げる事しか無かった。どう頑張っても勝てないと悟っている陽は逃げの一手しか出来無かったのだ。
「……あ、あれ……?」
ある程度走ったところで陽は白土が追いかけていない事に気付いた。そして即座に白土が初めから追いかけてこない事にも気付いた。
「……クソ……!」
陽は地面を殴った。自分が何をどう思っているのかすら分かっていないのに何故だか悔しさが胸いっぱいに広がっていた。何に対して悔しいのかどうして悔しいのか、彼には何も分かっていなかった。
「……まだいるのか」
しばらくして落ち着いた後、彼はゆっくりと先程までの場所に戻っていた。そこにはスキマの前で立って周りを監視している白土がいた。
陽は今隠れているため未だにバレていないようだ。
「どうにかして……あいつを退かさないと……でもどうやって…………」
白土はあくまでも陽だけが目的であり、ほかのことには一切関心を示してないということが今の状況ではっきりと分かる。だが陽の持ってる能力では白土を退かす事は難しい事であり、益々陽は拳を握りしめてその悔しさを募らせる。
「━━━ん? おい誰だそこにいんのは!!」
陽の肩が少しだけ震え出す。自分は今一切動いていなかったはずだ、音を出していないのになぜ気付かれたのかと。しかし白土の視線はよく見れば陽ではなく別の方向に向かっていた。
「ひゃあ! 逃げろー!」
小さな子供…しかし背中に羽がついたような子が空を飛んで逃げていく。人間かと思ったがあれも妖怪の一つなのだろう。後で紫に確かめよう、と場違いなことを考え始めた陽。
しかし、そんなことを考えでもしておかないと落ち度震え上がった肩が収まらない。深呼吸をすればほぼ確実にその音でバレる。
震えている息を最小限に抑えながら陽はひたすら考える。真剣も、白土の拳や蹴りも、全部受け止めてはいけない。さっきの蹴りは予想するに白土の能力の応用かもしれない。筋力を上げる事が白土の能力で可能ならまともに受けたら骨のどこかがイカれるかもしれない。ならば自分の能力を過信せず、だけど過小評価もせず……出来る事と出来ない事、そして自身の能力のリスクも考えて行動する。
動体視力を上げて、脚力も上げて突っ込むしかない。
「っ……!」
意を決して屈む、だが能力を使って脚力を上げた後一気に足に力を貯めて放つ様に立ち上がりながら同時に走り出す。所謂クラウチングスタートで陽は駆け抜けていく事を選んだのだ。
「っ! 自分から突っ込んでくるなんて余裕だなぁおい!」
正面から何の策もなく突っ込んでくる陽に白土は一瞬驚きつつもすぐさま刀を振り上げてすぐさま振り下ろす。
しかし振り下ろされて自分の体にあたるギリギリで陽は無理矢理体を捻って回避、そしてそのままスキマまで走り抜けようと更に足に能力をかけて飛び込む……が。
「逃がすかっ!!」
白土がその手に持っていたのはいつの間にか刀ではなく拳銃だった。その拳銃の姿を見た陽は驚きと同時に何故こうなると読めなかったのかを自分に問い質したくなった。
そして間髪入れずに銃弾が白土の持っている銃から放たれる。ゆっくりと銃弾は陽に近付いていく。能力を使っているせいですべてがゆっくりに見えるのが原因と考えた陽は2つの策を瞬時に思い付く。
一つは空中を飛んでるこの状況で何とか体を捻り銃弾を避ける事。頑張れば出来るかもしれないがそうなるとスキマに辿り着く前に自分の体に勢いが無くなり途中で落ちてしまうかもしれない。陽はこの考えを即座に捨てた。
次に思い付いたのが腕で心臓と頭をガードするという事。銃弾による痛みを我慢すればいいだけなので陽は即座にこちらを取った。
そして、ここまで考えたところで陽はふと気づく『脳の思考速度も上げていたんだな』と。
「━━━っ!」
陽はその言葉だけを残し飛んできた銃弾を腕に受けようと腕を交差させるが……既にその手にはまるで警官が使うような防弾の盾が握られていた。それのお陰で銃弾は跳ねてどこかへと飛んでいき、陽は無傷だった。
「なっ!? 待てっ……!」
白土は陽を追おうとしたが入った瞬間即座に消えたスキマを見てしばらくは呆然と立っていた……が、即座に次会ったときは即座に殺そうと考えて銃を捨てその場を立ち去った。
捨てた銃が落ちた場所には紙が一枚その場に落ちているだけであり、それはそのまま風に飛ばされどこかへ飛んでいってしまった。
そしてまるで何事も無かったかの様にそこには誰も、何も残らなかった。
「い゛っ……」
「ちょ、ちょっとどうしたのよ!?」
スキマの向こう側に辛うじてたどり着いた陽はそのまま倒れ込んだ。近くにいた紫は流石に狼狽し陽の体を揺さぶり始める。
しかし能力の過剰使用、オマケに自身が出した盾の様なものが原因なのか身体中が筋肉痛なのととんでもない頭痛により彼は意識を手放した。
紫は意識を手放した彼を見て無事な事を悟るととりあえず彼を運ぶ為に一旦抱き上げて部屋まで運んでいく。
「紫様! 頼んでくだされば私がお運びいたしますから!」
「藍、服なんて洗えばいくらでも汚れは落ちるわ。それよりも今最も重要な事をこの子に聞かないといけなくなったわ」
「聞く事、ですか?」
「えぇ……一体『あれ』はどうやって手に入れたのか……って事よ。」
紫が見つめる先、藍もその視線の先にあるものを見つめる。藍はそれを知らないが偶に外界へと足を運んでいる紫はそれが何なのかをよく知っていた。
だからこそ、『外界でしか見つけられないもの』がどうやって幻想郷に迷い込んだのかが気になり、陽がどうしてそれを持っているのかも問い質さねばならなくなったという訳だ。
「……無縁塚による暇は無かったはずですからやはり自作……いや、にしてもやはり時間が掛かると思われる為……誰かが作ったものを受け取ったと考えるのが妥当なところかと」
「私もその線を考えたのだけれど……今のこの子が知り合いを作ろうと思わないと思うし、もしかしたらこの子は2つ能力を持ってる可能性も捨てきれないわね」
意識のない陽を見ながら紫は若干の期待を抱きながら、藍は紫に期待される陽を若干の嫌悪を込めて睨みながら。時は流れていく。
「う、ん……?」
「あら起きた? 貴方結構長い時間寝てたのよ? もう夜も遅くなってるわ」
「……俺、帰って来れた…?」
「えぇ、帰って来れてるわ……さあ、何があったか話してもらうわよ」
目を覚ましてすぐに陽はポツポツと紫に今日起きた事を伝える。自分の知り合いがいた事、そいつに襲われた事、撃たれた時にどこからか盾の様なものが現れた事。
それらを聞いた上で紫は何かを考えているかのような表情を取っている。
「……ねぇ、今『これが欲しい』って思いながら適当なものを浮かべてご覧なさい?」
「え? う、うん……」
そう言われて陽は目を瞑りながらとある一つのものを浮かべる。
今日の買い出しは白土に襲われて失敗したのでその買い出しの食料が欲しいと願った。俺のせいで無駄な金を使わせたかもしれないしその分のお金も欲しいと願った。
すると不意に、目の前で何かがドサっと落ちたかの様な音がする。目を開けてみるとそれは今日買った食材……の見た目をした何かであった。
「……これ、ネギ……よね? ネギっぽい見た目をしてるけど何のネギかちょっと分からないわね……こっちは人参かしら? どう見ても人参なのにどうしてか人参に見えないわね……いえ、どう見ても人参なのだけれど……」
紫が言っている事は大体陽も同じ意見だった。どこからどう見てもネギや人参そのものだけど何か違う。今出てきた人参やネギは敢えていうなら『皆のイメージを平均化してできたもの』もしくは『子供が描いた様な大体こんな感じのもの』を表して出来た様なもの。それを作り上げてしまったのかもしれない。
「面白い能力ね……もっと何か色々出せないかしら? 食べ物以外でも出せれば良いし少し確かめましょう」
そしてそれから眠るのも忘れて能力の探求に二人は勤しんだ。生物を出そうとしたり無機物を作ってみたりと色々な事を試して気が付いた時には一時間は経過していた。
「分かった事は……生物は作り出せない事、但し豚肉や切り離された果実や根菜などは出せるけれど味が無い事。
基本的にそれ固有の名前があればその名前とそのものの姿を思い浮かべる事で全く同じものが出来上がる事。
どちらかが欠けると名前がそれなのか姿が一緒なだけの脆いまがい物が出来る事。
抽象的な表現で出したものは基本的に脆いもの。
そして大前提として存在している、またはしていたものでないと作り出せない事……こんなところかしら」
かなりの制約が掛かっているものの物を無から作り出せるこの能力はかなり恐ろしいと陽自身感じている。しかし自分は物の名前などをあまり気にしない為更に制約に拍車がかかっている様な気がしてしょうがない。
「……とりあえず、この能力をどうするかは明日決めましょう。私はもう眠いわ」
「俺も眠い……じゃあ、おやすみなさい」
「えぇ、おやすみなさい」
彼女の笑顔を見る度に陽は思う。『誰も喧嘩を売りに来ないでほしい、そしたらずっと静かに暮らせるのに』と━━━
次に設定集を出します。今更ですが。