東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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前回の続きです。


華風月

戦いは続いていた。

陽が斬ろうとすれば幽香が傘で防ぎ、幽香が攻撃しようとすればそれを陽が察知して素早く攻撃して防御の姿勢を無理やり取らせる。

文字だけ見れば陽が圧倒している様に見えるが、実際は陽が圧倒されない様に素早く攻撃しているだけだった。

防御の姿勢も偶然相手が取ってるだけであり、もし肉を切らせて骨を断つの戦法を取り始めれば陽は自身が敗北すると考えていた。

それに加えて憑依の時間も無限では無い、力を使い切る前に無理やり戦いを終結させようと素早い攻撃を連撃で繰り出していた。

 

「……ふっ!」

 

「……はぁ、攻撃の速度だけは速いわねほんと。けど重みが無けりゃいつまで経っても私に攻撃なんて当たらないわよ?

まぁ……偶にはこういう奴の相手も、いいかしらね……!」

 

幽香が迫り来る刀を傘で弾いて余った片腕で腹に拳を振るう。しかしその一撃は陽が素早く横に避けた事により空振りに終わった。

だがここまで来て幽香は陽のあからさまな動きの鈍り方に気付いていた。

そして陽自身もそれに気付いていた。憑依の制限時間が迫ってきているのか、それとも疲労によって動きが鈍くなってきたのか……もしくはその両方なのかまでは分からないが確実に動きが悪くなってきていた。

 

「……ふふふ、私がここまで迷うなんてね。

けどまぁ……あの狐が仕出かした所業のつけは同じ八雲である貴方が払うべきなのよ……主の方は滅多に出てこない事だしね……!」

 

「……」

 

陽は一撃すら入れられない事に焦っていた。意識が残る月化は陽化よりも使い勝手もいいがどうにもパワーが足りない事が多い。

まぁ腕力で使えるなら江戸時代の世の中は細い刀では無く馬鹿でかい剣が猛威を奮っていた事だろう、つまり月化ではパワーも速度も誇っている幽香には太刀打ちがやりづらい相手でもあった。

本来ならば幽香は陽化でいくべきなのかもしれないがそれを簡単には実行は出来ない。ならばどうするか。

 

「……動きを無理やり良くして……!」

 

限界を無くす程度の能力。リミッターを一時的に壊して全ての力を最大限発揮する為の力。この能力を動体視力と肉体に使えばまだ幽香に相対する事が出来る。

逆に言えば、使っても月化では勝つ事が難しいという事が成り立ってしまっていた。

 

「……あら、動きが急に……いえ、動きの悪さはそのままなのに私の攻撃に対処している……無理やり体の動きを良くしてるのかしら」

 

陽が能力を使い始めてすぐに幽香は彼の動きの冴えの矛盾を気付いていた。

幽香からの攻撃を避けているはずなのに何故か動きが悪い、では何かしらの力を使い動きを無理やり幽香自身の攻撃に対処出来るようにしているのでは? と考えていた。

 

「ぐっ……!」

 

「ほらほら、どうしたの? 私の攻撃に対処出来てるのはいいけれど段々と遅くなってきてるわよ。

無理やり速くしたところでそんなものすぐに綻びが見付かるんだから」

 

「そん、なもの……!」

 

攻防でのやりとりの中、陽の刀の突き一閃が幽香に迫る。彼らがやっているのは弾幕ごっこという遊びではない。

完全なる殺し合い、しかし陽はともかく幽香はこの戦いを楽しんでいた。無論、表情に出さずに内心の興奮冷めやらぬ胸の高鳴りを抑えながらである。

 

「くっ……時間か……!」

 

陽はそう呟くと攻防の一瞬の隙を突いて地面に降りる。幽香は敢えてそれを見逃した。

暇になったからなのか幽香は傘に傷が付いてないか軽く点検をしながら陽の事を考えていた。

 

「はぁはぁ……月化が解けたか……陽鬼! 出来るか!?」

 

「も、問題無いけど……どうするの!? あれだと月魅に被害及んじゃうよ!?」

 

「問題ありません……前みたいに倒れるほど疲労はしていません……余波なんて簡単に防いで見せます」

 

妖怪をその体に纏う少年。本来の人間には出来ない芸当、そんなものを使えるのは彼の能力なのかそれとももっと別の物なのかはハッキリしていない。

そんなものを味方につけて八雲紫は一体何がしたいのか、まさか本当に噂の通りにそういう意味での男がこいつだとでも言うのだろうか。

幽香は色々な事を考えてはその疑問に答えを見出す事が出来ずにいた。

経緯も、能力も……下手をすれば種族でさえも彼女にとっては不思議なものだった。

 

「陽化[陽鬼降臨]!」

 

そして今、また目の前で人妖一体の型となる。今度は見て分かる、鬼の力を借りて鬼の姿となる。

幽香の力も相当なものだが、単純な腕力だけなら地底にいる鬼……星熊勇儀の方が強いとされている。当たり前だ、彼女は鬼の四天王なんて呼ばれているのだから。

だが、幽香に取っては例え星熊勇儀で無くても彼女にとっては数少ない鬼との戦いだった。その為に、戦う為の理由なんて最早彼女には不要だった。たとえ他人の力をその身に纏う戦い方だったとしてもそれは個人の能力なので幽香に取っては相手が一人なのと何も変わらない。

彼女は、鬼との戦いを楽しみにしていた。

 

「このタイミングで……!」

 

そしてそんな事も露知らず、陽は永琳に貰った精神安定剤を服用する。そして飲み終わった直後に陽鬼が真っ赤な炎となり、陽の身体に纏わり付いてその身の炎が弾ける。

 

「うおおおおおお!!」

 

怒号。空気を震わせるかの様な大声は幽香の心を楽しみの色に染めていく。

そして、我慢が出来ずに飛び込んでいく。その手に持った傘を陽の体に突き立てようと一旦腕を引いて一気に傘を突き出して心臓目掛けて飛ばす。

 

「……」

 

「へぇ……少しは楽しめそう……ねっ!!」

 

まず、傘への一撃は傘自体を手で掴まれてしまい動きが止まる。しかし間髪入れずに幽香はそのまま直進する勢いを利用して陽の上まで勢いだけで飛ぶ。そして飛びながら体を丸めて一回転させて足を上げて陽の頭蓋を割ろうと踵落としを入れようとする。しかし、その攻撃も陽が余ったもう片方の腕で防いでしまう。

 

「……ふ、ふふふ…………!!」

 

幽香は踵落としを止められたのが嬉しいのかそのまま止められたままの体勢でマスタースパークを放とうとエネルギーを貯める。

 

「……ふん、オラァ!!」

 

しかし、マスタースパークのエネルギーが溜まりきる前に陽が傘を握ったまま振り回し始める。

こうなるとエネルギーを貯めるどころではなくなる。

幽香は仕方無く傘から手を離して飛ばされた勢いを地面に着地して殺す。そして傘を取り戻さんと飛んでそのまま腕力で殴りに掛かっていた。

 

「へっ……おもしれぇ……! おらっ! 来いよゴラァ!!」

 

デカイ声で叫ぶ陽。幽香から奪取したその傘は後ろに投げ捨てて構えをとっていた。幽香は彼がハナから傘を返す気が無いのは理解していたからだ。

 

「陽拳[鬼の籠手]!」

 

陽はスペルを唱えてその腕に籠手を纏わせる。幽香は先ほど陽鬼と人里で軽く相対した事をふと思い出していた。

あの小さな体で一旦は傘の一撃を止められた事。実は籠手を付けた彼女の拳と自分の傘がぶつかった時にかなり頑丈に出来ていて壊れる事なんて滅多に無いはずの自分の傘が振動で震えていた事。

あの小さな体でさえこの傘を震わせていたのにそれが人間と一つとなっている事が幽香に取っては未知の領域であり、また楽しみであった。

 

「はっ!」

 

「そんな拳じゃあ……当たらねぇよ!」

 

幽香から繰り出される拳を陽は軽く避けていく。鬼となって筋肉質な体になった事の弊害なのか陽の体は少しだけ大きくなっていて、狙おうと思えば体のどこでも殴れるはずなのにそれが出来ないくらい見た目に反して素早いのだ。

 

「殴るってのは……こうだよ!」

 

「ぐっ!?」

 

陽が殴りかかる。幽香は何とかそれを腕を顔の前で交差させる事で防ぐが、そのせいか両腕が一気に痺れてまともに動かせる事が出来なくなった。

 

「ほら、どうしたよ! もう終わりか!? えぇ!? テメェにはまだ脚が残ってるだろうがよぉ!!」

 

腕は痺れているだけ、しかし幽香は逆に痺れさせる程度で済ませられてると感じ取ってしまった。

彼のこの鬼の形態は、パワーや器用な動き方に特化した純戦闘スタイル。先ほどの刀を使う形態は速さと技術で攻めていきながらも敵の隙を的確に突いていく戦闘には少し向いていない観察型の形態だと幽香は把握していた。

だからこそ、今ここで自分が足を使って戦い始めても腕と同じ様に、もしくはこれ以上にひどい状態にされるのが分かりきっていた。

そう考えた幽香は地面に尻餅を付いて溜息を軽く吐く。

 

「負けよ、負け。私の負けよ」

 

「あぁ? ちっ、そうかよ……」

 

陽は少し残念そうにしながら憑依を解く。幽香も内心はもっと戦いたいと思っていたが、戦いにあるのは勝敗と棄権する事、それと逃亡しかないと彼女は思った為あれ以上戦っていたとしても負けていた可能性が高いのだったらここは諦めるしかない。

 

「━━━っ! はぁー……! はぁー……!」

 

憑依を解いた瞬間に陽は膝をついて肩で息をしていた。月化から陽化の憑依変え、しかもある程度陽化を操れた事でその消耗もある程度は抑えられたがそれでも陽にとってはとんでもない消耗となっていた。

立っているのは不可能、こうやって膝を付くだけで精一杯だし膝を付いているだけでもかなり体にガタがきていた。

 

「……無理するからよ。貴方の体に取ってそこまでの消耗を強いるその2枚のスペルカードはこれから使わない方がいいんじゃないの?

貴方、その内消耗だけで死ねるわね。だって体を変化させている間は消耗なんて感じ取れて無かったじゃない」

 

幽香のこの言葉を陽は何とか聞き取っていた。しかし、彼にとってそんな事は気にしていられないも同然だった。

筋肉が張り裂けそうな程の痛みを訴えており、目の前も霞む様に前が見づらくなっている。その上で体に力が入らずにガタガタ震えてしまう。そんな状態になっても何とか聴覚だけはまともになってて助かったと考えられる程度で考えられる事しか陽には出来なかった。

何せ、頭も激痛に襲われているのだ。口から唾液が垂らしそうになっているがそれにすら気付かないくらいの痛みが身体中を襲っていた。

 

「……貴方、体を人外に変えるって言うのは本来は恐ろしい事なんだって分かってるかしら?

人間から妖怪に変わる……自分の体を書き換えるって言うのは自分を外道畜生の身に落とすという事。本来はそうやって人間に戻る事すら出来ない様な術なのよ。

けれど貴方は見たところだど簡単にいつでも人間を止めれていつでも戻れる……やり直しが利かないものを貴方は無理矢理やり直ししているのよ。それは、そのスペルカードは貴方を人間じゃ……いいえ、それどころかまともな理性を持たない生物に落とすものだから……使わない方がいいわよ」

 

陽はその言葉を聞いて肩で息をするだけだったが、大きく息を吸いこんで大きく吐いてを繰り返し無理やり呼吸を整えた。

そして、ぼやけた視界で幽香の方を見て……そして、睨んだ。

 

「お前に……心配される謂れはない……! 俺は、皆、みんな守れるならどんな畜生にでも……身を落としてやる……! 紫は、幻想郷に住まわせてくれた……! それだけで、それだけで俺には彼女を守る義務が……!」

 

「━━━貴方、盲信的過ぎるわよ」

 

「……え?」

 

唐突な幽香からの冷たい台詞。その言葉につい陽は間抜けな声で聞き返してしまう。そして幽香には無言だったが陽が『なぜそんな事をいきなり言う』という視線が見えた気がした。

 

「……盲信的過ぎる、って言ったのよ。貴方自分がおかしい事に気付いてないの? 幻想郷に連れてこられても普通は外に帰りたいとか言うわよ? いや、外の世界の生活に飽き飽きしたとかって言ってここに住み始める人間もいるにはいるわ。けれど、皆が皆……というか全員があなたみたいな事言ってないわ。

貴方、()()()()()()()()()()()?」

 

「……あ、当たり前だろ? 俺は幻想郷が好きだぞ? 自然も多いし……それに、外に出てもすぐに死ぬ危険がある訳じゃ……」

 

「……八雲紫という存在がいるからこその『幻想郷が好き』発言なのかしら? 何だか腹立つわね……じゃあ質問するけれど、貴方守矢の巫女が嫌いらしいわね? 竹林の医者から聞いたわよ?」

 

陽は何故そんな事を永琳が知っているのか聞きたかったが、それよりも先になぜいきなり幽香がこんな事を言うか理解出来なかった。

 

「……さっきから黙ってるけど、そこの銀髪と赤い鬼は貴方達の主になにか思うところは無いのかしら? もし無かったんだとしたら大した忠誠心だと褒めてあげるわ」

 

幽香のその言葉に月魅は顔を背け、力の使い過ぎで倒れてる陽鬼はそのまま倒れたままだった。

 

「これが答えよ……貴方が……っ!?」

 

幽香が陽に視線を向き直した時に陽は幽香の方をじっと見ていた。睨む等ではなく、本当にただ見ているだけである。

そして不意に立ち上がったかと思うと手にナイフを創り出してフラフラとゆっくりとした足取りで幽香に迫っていた。幽香はその時に陽に言い知れぬ恐怖を抱いていた。

 

「っ……!」

 

傘を持ち直し再び戦闘態勢になる幽香。

その場には、正気を失った虚ろな目をしている人ならざるものが立っていた。




後編(だといいなぁ)に続きます。
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