東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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前回の続きです


捨てるべきものは何か

鳴り響く機械音。吹かす様なエンジン音がまるで獣の吠える様な声に聞こえてくるかの様な錯覚。

白玉楼という広い和風の屋敷に似つかわしく無い荒々しい音。

 

「おらおらあ! またさっきみたいに砕かねぇのかぁ!? 逃げ回ってるばっかりじゃ結界なんていつまで経っても外せっこねえぞ!!」

 

追い掛けてくる少年、黒空白土。逃げ回る少年、月風陽。走って、走って、走ってどのくらい走ればよかったのか。立ち止まるなんて事は出来なかった。だが、白土の言う通りこのまま逃げてばっかりでもいられなかった。

結界自体は紫や幽々子が自力で何とかしてくれるだろう。だが、その前に白土を倒さなければ駄目なのだろう。

 

「だからと言って……」

 

既に刺さっていたナイフは抜いて捨てた。そして、傷は開きっぱなしになっていて少しづつ血が流れていっていた。このまま何もせずにいたらただ逃げ回って出血死するだけのなんとも間抜けな最後になるのだろう、と陽は冷静に考えていた。

だが、自分の能力をいくら使っても白土を超えるのは難しい。身体能力上では超えるのは簡単だが、能力ではどう足掻いても創造する程度の能力では、脆さが目立ってしまうのだ。

 

「おらおら! このままだと俺の思惑通りになっちまうぞ!? 俺としては大歓迎だがな!!」

 

チェーンソーを振り回しながら白土が叫ぶ。そんな事はとうの昔に分かっている。だが、仮に陽がチェーンソーを作ったとしても白土のには強度で負ける事はよく能力を使っている自分なら分かっている事だ。

ならば遠距離から何かすれば良いのでは? とも陽は考えたが、それでも駄目だった。屋敷としては広い白玉楼でも、部屋も廊下も他の家などと比べて特別大きい訳では無い。故に狙いは定めやすいが、逆を言えば物を両腕を大きく広げて持てる訳では無いので、瞬時なガードがしやすくなっているのだ。

事実、何度か拳銃を大腿や腕を狙って撃ってみたが、全てチェーンソーに弾かれている。

 

「もっと……もっと……」

 

『弾丸よりも早く動きたい』と切に願っていた。そうでもしないと、弾丸の速度すらも超えないといけないくらい素早く動かないと、白土に一矢報いる事が出来ないと理解しているからだ。だがそんな速度は人間の出せる速度では無い。

 

「人間……人間、か……」

 

陽は一つだけ考えている事があった。八雲邸の中において自分が一番弱いのでは無いか、と。

陽化や月化は陽鬼や月魅がいないと使えないスペルカードである。ならばそれ以外のスペルカードを使えばいいという話に落ち着いてしまうのだが、何故かどうやっても陽にはスペルカードが作れないでいた。

そして、自分自身では弾幕を作る事は未だに出来ないでいた。彼は戦いを好んでしたい訳では無かったが、しかし戦わなければいけない時もこの世界にはあると知った。

 

「……家族、をくれたのは紫だ。ならその紫を守れるくらい強くなれるのなら……」

 

『自分はどうなってもいい』

殺されたい訳でも無く死にたい訳でも無い。『誰かを守る為に』という願いの為になら『死んでも良い』という覚悟を決める。だが、死んでしまっては意味が無いから『死なない様に、殺されない様に強くなる』という願いを強く持つ。

故に、『死ぬ覚悟で』『死なない様に強くなる』というなんとも矛盾した願いとなる。

 

「っ……!」

 

「お? 遂に諦めたか? それとも俺を倒す算段でもついたか?」

 

「どっちでもないさ。諦めた訳でも無いが、別段お前を確実に倒す手段なんてものは無い。だからといって死ぬつもりも無い、お前を殺すつもりも無い。

お前、とっくに約束が守られる訳は無いって気付いてるんじゃないのか? 人質を取るような奴らは、人質に価値が無くなったらすぐさま殺す可能性だってあるんだぞ?」

 

その言葉に白土は今まで浮かべていた余裕の笑みを無くす。冷静な顔、でも無くキレてるという訳でも無い。ただ何も感情の無い顔である。

 

「だから見捨てろって? 家族に捨てられた奴は、家族を見捨てるのが当たり前なのか?」

 

「いや、そうじゃない。俺が言いたいのは━━━」

 

「いや、いいよ言わなくて。もうな、お前を殺して取り返せるっていうからやるだけなんだよ。俺はあいつを見捨てられねぇんだよ。

お前はどうなのかは知らないけどよ。家族がいない奴が誰かを守るだとか傷付けられたくないだとか言うなよ」

 

白土の持っているチェーンソーが拳銃へと変わる。そして、淡々とトリガーを引いて発砲してくる。

陽は限界を無くす程度の能力を発動させていた。動体視力と、それに追随する為の筋肉に。

 

「これで……っ!?」

 

一瞬で距離を縮めて白土の体を殴り飛ばそうとする。しかし、殴ろうと構えた瞬間に嫌な予感がして瞬間的に後ろへと飛んでいた。

飛んだ後、白土の方を確認すると白土の余ったもう片方の手には刀が握られていた。もし、あのまま白土を殴り飛ばそうと接近していたら瞬間的に生えた刀に心臓辺りを刺されていただろう。

 

「……その直感、何でそこまで高い直感を有しているのかはわからないが、要するに直感出来ていても体が追いつかない程の手数の量を御見舞してやればいい訳だ。

だが銃弾じゃあ駄目だな……散弾銃でいこう。いくらお前が素早く動いたとしても俺は殴れない。近付きそうなタイミングでもう一度同じ事をしてやればいいんだからな」

 

「…………」

 

宣言する白土。普通ならば自分の行動を宣言するのはかなり危険な行為である。ハッタリと取られるかそれとも挑発しているのかで別れるものだ。

しかし、今の白土では本当にそうするつもりだと言う確信が陽にはあった。幾ら何でも瞬間的に作られる物を壊せるほど白土の能力と相対した事は無い為、物を壊すタイミングを今は掴めていないのだ。

それ以前に、白土の能力ならいくら物を壊そうともその破片でまた新しいのが幾らでも瞬間的に作り直せてしまうのだ。

 

「……けれど、やるしかない」

 

例えどんな能力であっても、敵である以上は通らなければならない道なのだと陽は考える。

一瞬で生成されるのなら一々その生成に構っている暇は無い。無視して本体を殴りにいくのが一番の理想である。

ならばどうするか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……そうと決まれば……!」

 

やるしかない、と言わんばかりに突っ込んでいく陽。冷静に白土は散弾銃を生成して発砲していく。その散弾の1発1発を見切って自分に当たる分だけを弾いていく。

腕や脚に掠るものは陽はひたすら無視していく。多少の痛み程度なら我慢が出来るからだ。

 

「……お前からしてみれば本当に突っ込んでくるみたいだな。だがな、全て分かっていて本当に突っ込んでくるのは『特攻』って言うんだ。攻撃以外何もしない今のお前の事を指すんだよ……!」

 

そして、陽は白土の目の前まで辿り着く。そして、殴りかかろうとした時に先程と同じ背中にゾクリとくる寒気。しかし陽はその直感から来る寒気を無視して拳を進めていき……白土の顔の前で止まった。

 

「がはっ……」

 

「俺は同じ事しかしてないぞ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

陽の体に刺さる幾重もの刀。白土は散弾銃を撃っておきながら密かに手に紙を挟んでいた。その紙の全てが刀と化して陽の体に突き刺さった。

 

「左胸1本、右胸にも1本、腹に1本、多分食道辺りににもう一本……これだけ刺さってて死ななかったんだから晴れて人間卒業が確定だ、バケモノ」

 

そう言って白土は1本1本刀を抜いていく。そして、支えを完全に失った陽は地面に倒れ、そのまま血を流し始める。

 

「……後は、この首を持っていくだけか」

 

白土は刀の1本を斧に変え、陽の首筋に一度当ててから振り上げて一気に振り下ろした。だが、その一撃は陽の首を断つ事は出来ずに陽の倒れていた床だけを粉砕していた。

 

「……妖怪だろうと簡単に動ける様な怪我じゃないと思ってたんだがな……」

 

「……」

 

陽は白土の斧を避けていた。避けていたおかげで首と胴が別れなくて済んでいた。だが、避ける事が出来てしまっているという事は、あれだけの重症を負っていてもなお、動ける様な体になっているという事になってしまう。

 

「……よく見てみれば傷も塞がっているな。それも、完全にだ。さっきのナイフの分も無くなっているところを見ると本当に傷が治癒してるんだな」

 

「……そう、みたいだな。なら……お前の攻撃の大半は俺に通じない訳だ」

 

強がりだった。怪我が即座に治ったとしても、怪我を負う痛みのショックが無い訳では無い。ダメージが無くなった訳でも無い。流した血が戻って来る訳でも無い。

 

「はん……だったら……もういっぺん死ね!!」

 

そう言って白土は陽に向かって大量に紙を投げる。その紙は全てダイナマイトと化す。勿論、着火済みの。

前にも後ろにも、ましてや横にも避けられるような量では無かった。()()()()()()()()()()()()と陽は考えて動き始めた。目の前の白土に向かって、素早く真っ直ぐに。

 

「っ!!」

 

白土は即座に銃を構えるが、その一瞬すらも陽は逃さずに白土の銃に刀を突き刺した。これで白土はこのやりとりの間で銃を使えなくなった。

陽は即座にもう1本の刀を作り出してその柄で殴りかかる。だが、白土は手元に仕込んでおいた小さな針のようなものを取り出して、即座に大きな盾へと変える。

 

「ちっ……!」

 

陽の一撃は盾で防がれ、隙が生まれる。その隙を狙って白土は刀を突き刺された銃を斧へと変えて刀を叩き折る。

そして、そのまま陽の体を両断しようとするがそれは陽が盾を空中に作り出して防いだ。だが、そのまま力の限りを振り絞って振り抜き、陽を壁に叩きつけた。

 

「ぐっ……!?」

 

「はぁはぁ……なぁ、俺の能力だとこんな事も出来るんだぜ?」

 

そう言って白土は1枚のスペルカードを取り出す。陽はそのスペルカードに少しだけ見覚えがあった。

前に紅魔館の大図書館に訪れた時にパチュリーの側にあったテーブルに置いてあったのをチラッとだけ見たことがある程度だった。

 

「動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジが持っているスペルカードが一つ……火符[ロイヤルフレア]……こいつも俺の能力で作り出されたものだ。

だが、このままじゃあ俺は使えない。弾幕こそ使えるが本来スペルカードは自分の能力に依存しているものだからな。火を使う様な能力を持っていない……なら、こうしてみよう」

 

そう言って白土はそのスペルカードを握り潰した。そしてゆっくりと手を開くとそこにはロイヤルフレアと似た様な見た目、しかし明らかに違うスペルカードが存在していた。

 

「……名付けるなら、そう……改符[ローリィギルティ]とでも名付けようか」

 

他人のスペルを複製し、自分用にする為に改造。改めて陽は白土の能力のすごさを知った。

そして、白土はそのスペルカードを陽に見せつける様にしてそのまま宣言を始める。

 

「改符[ローリィギルティ]」

 

ロイヤルフレアは火の玉を作り出して相手に向かって放つスペルである。それが改造され、火の玉では無くどこからともなく現れたスパナやペンチ、ニッパーなどの工具達がまるで強力な磁石に引っ張られるかの様に集まっていき、玉の形を成していく。

 

「改造っていうのはな……工具が必要なんだよ。物の出力や見た目を変える為に改善、改悪なんて言われちゃいるが結局どれもこれも『改造』しているに過ぎない。

改めて造ると書いて改造。ならばその為に必要な道具そのものを全て使って相手を処刑する……それがこのスペルさ」

 

「……パチュリーのは綺麗な赤い炎を作るのに……お前のはただ鉄臭い黒い塊だな……しかも他人のを勝手に複製して作り替えるなんてお前は自己中の塊だな……」

 

壁にぶつけられた痛みとさっきの刺された分の痛みが体を駆け巡っている中、陽は笑いながら白土を挑発する。その挑発が癇に障ったのか白土の動きがピタリと止まる。

 

「……だから何だ? 元々スペルカードはイメージがあって作られるものだ。そのイメージ元がある以上、そういうのがある奴らも俺と同じようなものじゃないか?」

 

「何言ってんだ……イメージはあくまでもイメージだ……それを弾幕ごっこ風にしているだけまだいい方さ。お前のは、弾幕ごっこで使えるようにしたやつを真似て作った改悪……いや、一山いくらの粗悪品さ」

 

その陽の言葉に黙る白土。少しづつだが、痛みが無くなってきている陽は後少しだけ白土を煽ってなるべく痛みから体を逃れられる様にしようとしていた。

 

「……なら、その粗悪品に押し潰されて……死ね!」

 

だが、挑発が流石に過ぎたのか白土は陽に向かってスペルを放った。『流石に煽り過ぎたか』と思いながら陽は何とか体を起こしながら避けようとするが……その一撃は、壁を粉砕したのだった。




まだ、続きます。
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