「……久しぶりに散歩目的で人里に来たかもしれないわ。こんな所で団子を食べられるとは思わなかったもの。」
「そうなのか?ならこうやって出かけたのは間違いではなかったみたいだな。何なら人里案内してやろうか?」
人里のとある甘味処。そこに向かい合うようにして座っている紫と陽がいた。2人は男子を頬張りながら雑談を暇があればしていた。
「にしても陽鬼達がついて行くって言ってたのに紫と一緒って伝えたら掌を返す様に皆ついて行かないって言い始めたのはなんだったんだろうな……」
「言ってたじゃない『私がいれば安心』だって……まぁ2人きりで出かける予定だったのに流石についてこられたら私も怒ってたかもしれないわね……年甲斐もなく……」
「へ?何だって?」
紫の言葉が最後になるにつれてボソボソという風になっていったので最後の方が聞き取れなかった陽は思わず聞き返してしまった。しかし、紫はそれで我に返ったように両手を軽く振りながら『何でもない』と返していた。
「そ、そうか……ところで、ここの団子どうだ?個人的に紫に勧めたのは紫が好きそうな味なんだけど……」
「えぇ、もちろん気に入ってるわよ。今度から通おうか迷ってるくらいなんだから。」
「そうかそうか……気に入ってくれたのならよかった……」
と言いながら再び頼んだ物を満足家のある表情で食べ始める陽。それを見届けた紫は残ってる串の団子を再び食べていき始める。
先に食べ終わったのは紫で暇を持て余していたのか、じっと食べてる陽を見つめ始める。
「陽って……甘い物好きなの?嫌いなの?」
「ん?……んぐっ……どうしてそんなこと聞くんだ?」
口の中に残ってたのを飲み込んでから質問を返す陽。だが陽は、質問を返しながらも少し考えた後に好きだと答えを返す。
「別に他意は無いわよ?ただ何となく……甘い物を食べ慣れていないような感じがしたのよ。何でかしら?家でもデザートの類はいっぱい作ってたわよね?」
「まぁそうだけど……食べ慣れてない……と言えばそうなるのかな?家で……あ、外の世界の方の家でいっぱい食べた事ないし。こっち来てから久しぶりに作ったくらい。ここに来て初めて作ったのも滅茶苦茶後だったし……確か、橙か陽鬼にせがまれて作ったんだったかな……」
「ふふ、最初に作った理由はその二人にせがまれたからよ。そして作ったのは大福かなにかじゃなかったかしら?それ以降大福とか自作し始めたのよね……まぁ一々店で安物買うかあなたの作ったのを食べるかって話しならあなたのを選ぶわねぇ。」
軽く微笑みながら紫は喋る。陽も紫の話に相槌を打ったり、納得したりとただ話をしたり聞くだけで楽しそうにしていた。
そして陽も食べ終わってから会計の時に陽が財布を開いたのを紫が静止する。
「今回は私が払うわよ?私が出かけるのに誘ったんだし……」
「でもこの店に連れてきたのは俺だし……こういう時は甲斐性を見せないといけない、って話じゃないか。」
「そんな話はないわよ……甲斐性って言うんだったら年上の甲斐性を見せてあげないとね。
あなたには……そうね、次の機会にしてもらおうかしら?」
紫の事に多少納得してなかった陽だが、仕方ないと渋々納得してこの場は紫に払わせたのだった。
「……ここは美味しかったわ、まだおすすめのお店とかあるかしら?」
金を払い、店を出た後に少し機嫌が悪くなってる陽に対して紫は微笑みながらこう質問をする。その質問に少し驚きつつも色々な小物を売っている店の紹介をし始めたりする陽を眺めながら紫は微笑んでいた。
そして、陽の案内により紫はとある小物用品……アクセサリーショップに寄っていた。
「紫は
「そうねぇ……あ、これとか結構綺麗だわ……」
そう言って紫が手に取ったのは透き通った水色の宝石だった。それ以外に装飾のようなものは一切ついておらず、その水色の宝石一つを糸に通したような首飾りを手に取っていた。
「その首飾り気に入ったのか?」
「えぇ、結構綺麗で……見惚れそう……」
「じゃあそれ買おうぜ……すいませーん。」
陽はすぐさま店員を呼んで首飾りを買うために値段を聞き出す。その間に紫はじっと宝石を見ていた。周りの話も聞こえなくなるほどに。
「……り……かり、紫!」
「っ!?な、何?どうしたのかしら?」
「その首飾り、買えたからもう完全に紫のものだって言ったんだよ。まさか俺の声が聞こえなくなるほどに見惚れるなんて思いもしなかったけど………そんなに気に入ったのか?」
「え、えぇ……けど何だか……不思議な魅力がある石ね……」
そう言って紫はまた深く宝石を覗き込む。先ほどのように周りが聞こえなくなるほど集中する訳では無いが、しかし見る度に綺麗な石だと紫は思っていた。
そして首飾りから視線を外してまた陽と共に店を出て人里を練り歩き始める。
「……にしても、何かすごい不思議な石だな。実は何か呪いみたいなのがあったりしてな。」
「……うーん、そういう呪術みたいなのは感じ取れないけど……なーんか気になるのよねこの石……昔どこかで見たことがあるような……」
「……え、マジで危ないヤツなのか?だ、大丈夫なのか?体に不調とかは……」
紫が『見たことがある』と言っただけでかなり心配してくれたが、それを流して紫は軽くその場でジャンプ、浮遊を行い身体能力や妖力に何の以上もないことを確認して少し安心する。
「……うん、大丈夫よ。体には何の以上もないわ。催眠……とかじゃないわよね。そしたら陽が違和感持つはずだし……」
紫は唸っていたが、今考えてもしょうがないと考えてこの石のことを考えるのを止めた。体に何の不調も無いのならいいだろうと思ったのだ。
「とりあえず楽しみましょう?何かあれば陽が守ってくれるもの。」
「お、おう!絶対守るぞ!」
本当は立場が逆なのだが、敢えて紫は陽に期待する一言を言った。だが、この後は陽が周りを警戒しすぎてしまい、言わなければよかったと後悔してしまうのはまた別の話。
「……あぁ、分かりましたよ紫様。この石特におかしいことは無い石ですね。
ただ、この石には周りの人の目を奪う力があるみたいですが……」
夜、紫は戻ってきてから藍に首飾りの石の調査を頼んでいた。ご飯を作るのは陽1人に任せっきりになっていたが、そのお陰で正体がわかったと藍からの連絡があり今紫と藍の二人っきりで話し合っていたのだ。
「目を奪う力?物理的なら大混乱間違いなしだし……まぁ単純に目を引くってだけなのよね。またどうしてそんな力が宿ってるのよ。」
「体の中がまるで洞窟のようにゴツゴツしている巨大な妖怪が昔いたようで、その妖怪の体内にはものすごい貴重な金属が取れたらしいんですよ。ただ、取られると妖怪自身も痛かったので神経の通ってないかつ目を引くような石を入口付近に作ったとかなんとか……って書いてありますね。
というかこれ紫様が書いた本ですよ。」
「えー……私が書いたってそれいつの奴よ……下手したら何百年も前の代物じゃないの?私は書いた覚えがないわよ?」
紫のその言葉で2人ともこの本がいつのものか思い出そうと考え始める。そうして5分くらい経った時に藍が声を上げる。
「あぁ、思い出しました。幻想郷ができる前ですよ、私とその時の博麗の巫女と一緒に出かけたじゃないですか。ほら、確か里の人間が『妖怪洞窟が里の人間を大量に食い荒らしている、退治してくれ』とか言って結局人間達の自業自得だったって話。」
「……あー、そんな事もあったわねぇ……そう言えば、あの時の事件で子供があの洞窟に入っていったこと覚えてる?」
「ありましたねー……確かに私達は子供が入るところを見たのに、本当に中にいないどころか妖怪自身も『食った記憶が無い』って言ってたあれですよね?
基本あの妖怪は起きている時しか口を開いていないから見てないことは無かった筈なんですけどねぇ……妖怪洞窟と言っても人間を体内に含んだら数時間くらい放置しておかない限りは養分として取り込まないはずなんですけど……私たちが入った時にはもう既にいなくなってた、って言う……」
「妖怪からしても不思議な事件だったわよねぇ……結局あの子供が誰の子供かもわからなかったし……妖怪が恐れそうなくらいには不気味な案件よ、あれは。」
冗談混じりで言って2人がここで軽く笑い合う。恐れさせる側の妖怪が恐れるというジョークだったのでこの話題もすぐに終わった。石の正体もわかったことなので紫は立ち上がって軽く背を伸ばしてリラックスする。
「さて、話し合いも終わったしそろそろ寝ようかしら。藍、調べてくれてありがとうね。」
「いえいえ、これも紫様の為ですから。あの首飾り……どうしますか?あのまま付けておくにしても石の効果で紫様が目立ってしまいますが……できればこちらの方で破棄致しますよ?」
「別に目立ってもいいのだけれど……それに、陽が買ってくれたものだし大切にしたいのよ。他人にプレゼントを渡す事は稀にあるけれど、自分がもらう立場になるってことはほとんどなかったもの。
霊夢辺りに相談してこの石の効力を消してもらおうかしらね。この首飾りは長くつけていたいもの。」
そう言って軽く首飾りに触れてから首につけ直して紫は部屋を出ていく。藍も、それを見届けた後にそのまま戻ろうとして部屋の片付けを始めるのであった。
「……」
「コツコツ貯めていたのにのう……一瞬で消し飛んだんじゃな。まぁ値段をよく見て決めた結果ならしょうがないのかもしれんがの?」
陽の自室、そこでは陽と共に陽鬼達も入っていた。そして財布の中身を見て遠い目をしている陽に向かって陽鬼達は哀れみの目を向けていた。
「……なんで三人ともそんな目をして俺の方を向くのかな。俺が自分で選んでやったことなんだ、だからそんな目線を向けられる覚えはない。覚えはない……筈なんだけどなぁ……」
「流石に今まで貯めたお金……どのくらいだっけ?」
「人里にある宝石店とかで首飾りの一つは買える値段じゃな。主様、やはりぼったくられたんじゃないかの。」
「……しょうがないだろ、その首飾りに付いてた宝石が特殊すぎるから値段が上がるって言われたんだし……紫も普通の石じゃないみたいなことは言ってたし。」
向けられる視線にできるだけ目を逸らす陽。それが一層陽鬼達からの視線を向けさせているということには気づいていない。
「まぁ、物凄く目を引く石だとは思ったよ?見た目はただの綺麗な宝石なのにさ。嫌な感じもしなかったし本当にそういう効果のある石だって言うのは何となく分かってるし。」
「ですが、それとこれとは別の話。プレゼントを渡したいがために自分の金を全部失うというのは滑稽極まりない事なんですから。」
「……本当に、ごく稀にだけ月魅って俺に対して物凄く辛辣になるよね。いや、それが悪いとか言うつもりは無いんだけど……心に刺さる……凄く……」
少しだけ肩を落とす陽に黒音が肩を軽く叩いてくる。気になった陽は黒音の方に振り向くが、振り向きざまに両頬を思いっきり引っ張られる。
「金の使い方には気をつけろということじゃ!紫から渡されているものじゃからどう使おうが主様の自由じゃが、それで主様が不自由しておったら本末転倒じゃ!」
「
陽の言ってることは黒音は流石に聞き取れなかったが、離してほしいと言っているような気がしたので流石にこれでは喋れないということに気づいたので、黒音は陽の両頬から手を離す。
「いてて……と、とりあえず……まぁ黒音達の言いたいこともわかってるよ。無駄遣いできないってわかってるし。
けど俺はプレゼント出来てよかったと思ってるよ、紫が連れ出してくれたんだからお礼としては十分すぎるほどだと思うし。」
「そのお礼が財布全滅?まぁプレゼントをそういう風に即決で決めれるのはいいかもしれないけどさぁ……物事には限度ってあるんだよ?わかってるよね?」
陽鬼の言い分に陽は一瞬詰まったが、黙りながらも頷く。それを見て陽鬼はため息をついて、陽の膝の上に座る。
「ま、良いけどね……今度からはちゃんと考えて買ってよね。後悔はしてないのはわかってるけど考えなしなのは一番駄目なんだから。」
「……はい、善処します。」
こうして夜が更けていくのであった。