「……それで連れてきたのね。まぁ確かに、困ってあるなら助けなさいって言ったし何だったら古明地さとりもその子も二人まとめて助けちゃったわけだし……私が何か言えるわけでは無いのだけれど、また女の子が増えるのね……」
「……何かごめん。」
「貴方が謝る事は無いのよ……にしても、天使ねぇ……」
八雲邸。地霊殿から帰還していた陽は紫に全ての事を話していた。紫は少しだけ呆れていたが、すぐに切り替えて陽が預かってきた少女を見る。天使、と言うからには羽が生えているというのがイメージとして張り付いているが、この子にはない。とは言ってももしかしたら普段は出していないだけかもしれないので紫は少し少女に興味を持っていた。
「ねぇ、私は天使って羽が生えてて頭に輪っかがあるイメージなのよ。貴方にはパッと見た所無いように見えるけど……しまうことが出来るのかしら?」
「はい、とは言っても本当に生えていたり頭の上に輪が浮いている者もいれば、私の様に後から追加される者もおります。私はエネルギーで構成された物体ですが自前で装備するものもおります。」
「ふーん……霊力みたいなので構成されている場合もあれば、何かしらの機械を装備している事もあり、なおかつ元から生えている者だっている……という事ね。
天使にも色々いるのね。」
紫は少女に聞いたことを紙に書き写して納得していた。陽も陽で何かを聞こうかと思ったが、いざ考えると質問が思いつかずに頭を掻いていた。
「他に何かあるのならば、答えられる範囲のものであればいくらでもお答えすることができます。
とは言っても、知らない事や重要機密などは全く喋ることが出来ませんが。」
「そう、なら━━━」
紫は少女に答えられる範囲だろうと思った質問を次々と投げかけ始める。恐らく初めての天使だったからだろう。
陽鬼は鬼で既にいるから特に質問はなかった。月魅は種族が途中で変わっていたのと、元々の種族がクローンの様なものだったのを考えてのことなのか質問なし。
黒音も、陽鬼と同じように既に幻想郷にいる吸血鬼という存在なので質問はなし。つまり、ある意味では幻想郷で一番最初の天使ということになる。
陽は質問攻めにされている少女が大丈夫そうだと思って一旦部屋から離れていった。陽鬼……と言うよりも、彼女の事を何故か直接見れない黒音のところに向かった。あの後、疲労していたのか部屋に戻るなり寝始めたからだ。
「……黒音、起きてるか?」
「陽?入っていいよ。」
中から陽鬼の声が聞こえてきたが、OKサインを貰ったので陽は部屋に入る。そこには爆睡中の黒音に、その様子を見守っている陽鬼と月魅の2人がいた。
「黒音は未だに目を覚まさないのか?そんなに疲れてるとは思ってなかったぜ……」
「疲れている……と言うよりも、さっき拾ってきた子のせいだと思われます。」
「どういう事だ?」
「簡単に言いますと……黒音は彼女に後光が差しているように見えていた、と言ってましたが恐らくそれは微妙に黒音にダメージを与えていたんですよ。
恐らく本来光を見たり色々弱点のある黒音、もとい吸血鬼がダメージを与えられる時に見るイメージなのでしょう。まぁ存在そのものからのダメージ限定でしょうが。」
陽はそれで色々納得していた。考えてみれば、この場にいて光か天使の力そのものに弱点を持っているのは黒音だけである。そうなると確かに理解出来ることもあった。
「だから今後対策が必要だと考えます。彼女が黒音の目に入らないようにしておかないと黒音はだんだんと衰弱していくんじゃないでしょうか。」
「とは言ってもさとりから預かったものを無下に扱うことは出来ない。どうすればいいのかよく考えないといけないな……」
陽と月魅がうんうん唸っている時、じっと黒音のことを見ていた。そして、何かを思いついたのか陽達の方に視線を向ける。
「ねぇ、あの子って元の主に捨てられたって言ってたけど……元の主って何であの子を捨てたのかな……」
陽鬼の素直な疑問に、月魅も陽も『そう言えばそうだ』と思ってその事を考え始める。
何故捨てたのか、天使とは1度使えなくなればその時点で主から見捨てられるようなものなのか、それ以前に主とは一体誰なのか。陽は今更ながら芋づる式に質問が湧き出ていた。
「……今考えていてもしょうがないだろ。それよりも、黒音の様子を見ないといけないな。」
「にしても……何であの子に対してだけ黒音は弱いんだろうね?月魅は月の光だし私は……陽の光でしょ?まぁ私はどっちかと言うと炎に近いからセーフなのかもしれないけど……」
「私の場合は月だからでしょうね。吸血鬼は本来夜に活動するもの、故に私の存在があっても問題なく活動出来ていたのでしょう。
陽鬼の場合も然りです、まぁ黒音は太陽下でも生きていける体質ですから問題なかったのでしょう……」
「けど、あの子は純粋な光だった……だから黒音の中にある吸血鬼の血が弱ってたわけか。なんとなくは分かったな……」
問題は、これから拾ってきた少女と黒音をどうやって会わずに済ませられるかという事である。
時間を合わせれば問題ないのだろうが、そんなのは焼け石に水程度である。
「さて、どうしたものやら……」
「……随分と妾は心配されておったようじゃな。特に体に問題は起こってないのじゃ。じゃからそんな心配せんでも良かったのにのう。
実際妾はそこまで体が不調になった訳では無いのじゃぞ?」
気づけば、寝ていた黒音が目を覚ましていた。しかし、体を起き上がらせるようなことはせずに寝転がったまま陽達に視線を向けていた。
「不調になったから寝込んでるんだろ?無理をするもんじゃないぞ、大丈夫そうなら大丈夫、ダメならダメって言ってくれれば一番楽だろ。」
「それを主様に言われるのが一番気に食わないのじゃ。一番無理をしているのが主様じゃ、今は一体何を考えているのか怖くて予想すらできないのじゃ。」
ケラケラ笑いながら黒音は茶化す。陽は言葉に詰まって反論ができなかったが、陽の両脇にいる陽鬼と月魅は黒音のことを呆れた目でじっと見ていた。
「……む?なんじゃお主らそんな目で妾を見て……言いたいことがあるならはっきりするのじゃ。」
「ではハッキリ言わせて貰います。その台詞は黒音も言えませんよ。マスターに関してはその通りですが、貴方が言えることでもありません。実際、今回の事で無茶をしていましたしね。
そもそも貴方は一度何かに没頭すると夜通しで作業を行うためにかなり無理をしています。
何でしたら貴方が今まで無理をしてきたことを全部言いましょうか言い聞かせましょうか?」
「わ、分かったのじゃ……だからそんなに睨ま無いでほしいのじゃ。お主の表情はあまり変わらないから睨まいと怖……」
「ほう、それだけ喋れるのなら元気が有り余ってるみたいですね。とりあえず向こうで話をしましょうか。」
「あ、ちょ待って欲しいのじゃ今のは言葉の綾と言うかなんというか……あ、引っ張らないでほしいのじゃ服が首に引っかかって……あ、主様!助けて欲しいのじゃほんとに━━━」
黒音はその言葉を最後に隣の部屋に連れていかれた。陽鬼と陽はお互いに顔を見合わせた後に、互いの考えていることを理解したのかそのままその部屋から離れていく。
『月魅に対して無表情とか、それに近い単語は言わない』というのを今回月魅以外の3人は学んだのであった。
「あ、陽……黒音の様子はどうだったかしら?まだ寝てた?」
「いや、起きてたけど……多分また寝たんじゃないかなぁ……」
部屋から離れてしばらく経った時に、紫が陽の私室に入ってくる。黒音の様子を聞いて来たが、月魅に連れ去られた後のことはよく分かってないのでとりあえず陽は曖昧な返事だけを返した。
「そ、それより……聞きたいことはすべて聞き終えれたのか?」
「えぇ、貴方の元主は何者なのか、とか色々と聞けたわ。
とりあえずあの子は一応天使らしいけども捨てられた理由はよく分かってないらしいわ。
『自分が主の怒りを買ったから捨てられた』と言ってはいたけれど彼女自身何が気に食わなかったのかよく分かってないらしいのよ。」
「……まさかと思うけど、あの子の元主って相当にやばいやつなんじゃないのか?話を聞いている限り特に理由もなく捨てたようにしか思えない。」
「まぁ、そういう所でしょうね……あの子以外にいた天使達も皆女の子で……主の方は男だって聞いてるから……少し問題のある人物、って言うことだけはわかるわ。」
紫のその言葉は知らない間に陽にぐっさりと突き刺さっていた。実際、自分も現在進行形で女の子を囲っている男の主だからだ。
そして紫自身もその言葉を言った後にそれが陽にも当てはまることを思い出してはっとした顔をする。
「ち、違うのよ?別にそういう意味で言ったんじゃないのよ。女の子ばかりを眷属に選ぶ男はただのスケベ野郎だなんてこれっぽっちも思ってないから、ね?
だからあなたのことを言ってるんじゃないのよ?」
「いや、いいよ……うん、俺も全く気にしてないから……うん。」
今の言葉を陽は出来る限り忘れる様に、必死に別のことを考え始めていた。とりあえず話を別の話題に変えようと陽は紫に話を振る。
「そ、そう言えばさ……主が何者かとかって話は聞いたのか?その、種族的な意味でさ。」
「彼女が言うには、神様だったらしいのよ。見た目は彼女どころか彼女の同僚でさえも満場一致で『悪い』で決まってたらしいわ。
とりあえず威厳らしい威厳を感じないとかなんとか……」
「……聞けば聞くほど謎になってくるな……まぁ、ここまで聞いててわからないなら考えるのは後にしておいた方が良さそうだ……他に何か分かったこととかあるのか?」
陽が質問を変えるが、この質問に対しては紫は首を横に振った。めぼしい情報とやらは無かったのだろう。
紫の見識自体は広がっただろうが、それ以外の必要な情報というのは特にはないということになる。
「まぁ……突然拾ってきた少女が私達と何か関係のある情報を持ってる方が希だと思うけれどね……」
「……ライガは自称であるが神だ、何かしら関係性がない可能性もないわけじゃないだろう。
まあ無い物ねだりをしてもしょうがない……とりあえず、あの子の名前を考えてやらないとな。」
「あなたのネーミングセンスってどこかズレてるから……まともではあるのだけれど何かこう、違う感じがするからちゃんと考えてあげなさいよ?」
「そんなあやふやな注意をされても困るんだけどな……名前の件は紫も同意してる事が多かっただろうに。」
「そ、それはそうだけれど……」
紫はしどろもどろになるが、陽は気にせずに立ち上がって部屋から出ようとする。それを止めようとして紫が声をかける。
「あら、どこに行くのかしら?」
「ん?いや、ちょっと黒音の様子をもう1回見に行こうと思ってて……」
「あー……少しだけ、用事を頼まれてくれないかしら?」
「用事?別に構わないけど……何をすればいいんだ?」
「橙の様子を見に行ってほしいのよ。最近こっちに来てないせいで少しだけ藍が心配しててね。
藍自身も見に行けたらいいのだけど藍も藍で私から与えられた仕事をしているせいで何も出来てないみたいでね……そういうのは私が仕事を請け負えれば問題は無いんだけれど……」
「紫も紫で忙しすぎて何も出来ていない、と……分かった、俺が様子を見てくるよ。その場にいたらその場にいたで元気そうかそうじゃないか報告するしな。」
陽のその返事に紫も少しだけ安堵の息を洩らした。だが、すぐに顔をキリッとさせて話を続ける。
「えぇ、助かるわ。私としても橙の行方は気になるんだもの。何か事が起こっていたらわたしに報告を頂戴ね。」
「あぁ、分かった……とりあえず、軽く見てくるよ。一応月魅を連れていくつもりだけど多分すぐに帰ってくると思うから。」
そう言って陽は部屋を出て月魅を呼びに行った。橙を探すのにそんなに時間はかからないだろうと、今この時はそう思っていたのだった。