「もうすっかり夜遅い時間になったな……」
陽は、あの後陽鬼達の目が覚めたので全員を引き連れて守矢神社から離れて今は帰路に付いている最中だった。
しかし、外は既に夜も耽けている状態であり、灯りがないと進めないほど暗かったのだ。
「いやぁ……ごめんね、ずっと気絶したままで……私もすぐに動ければよかったんだけど……」
「にしてもやはり向こうで泊めて貰った方が安全だったのでは?流石にこんな時間に夜を歩いていたら妖怪に襲われてしまうような……」
「問題ないじゃろ。この場には5人も人数がおるし……万が一の為に警戒して結界やらなんやら張っておるのじゃからな。」
「だからと言って油断はいけないのです。警戒はするに越したことは無い……と、読んだ本に書いてあったのです。」
口々に喋る陽鬼達。陽も陽で懐中電灯を手に持って目の前の道を明るくしていた。いざと言う時には投げつけるなり殴りつけるなりすればいいとさえ考えている。
「でも、もう一度あの現場を見ようってちょっと危なくないですか?」
「でもあの変な男の正体掴みたいしさぁ……月魅や光だって結局納得してくれたじゃん。」
「そう言えば……黒音がこうやって足を使って移動して、こんな時間にあの場所に移動することをOKするとは思ってなかったのです。私は月魅と同じように無理だ、と言って断ると思っていたのですが。」
それは確かにそうだ、と黒音を除いた陽達は思った。黒音は陽鬼とは違って月魅と同じように感情ではなく頭で考えて行動するリアリストだと思っていたからだ。
「む……簡単な事じゃ、相手の体の一部……髪の毛の1本や爪の欠片でも落ちて居れば今ならまだ回収可能かもしれんしのう、と思った迄じゃ。それ以上の理屈も理由もないのじゃ……後は、あの時は万全じゃなかった状態でのあの男の戦いだった、というのもあるのじゃ。
ま、本格的な捜査じゃなくて帰り道で近くの場所で通るからこそ妾もOKしたんじゃがの。
流石の妾もこの時間から本格的に情報を見つけようとは全く思っていないのじゃ。」
「なるほどね、一応ちゃんとした理由があってOKした訳だ。納得納得。私はてっきり次にあいつにあったらぶちのめしたいからとかそんな理由だと思ってたよ。」
「陽鬼ではないんですよみんな……それで、マスターは何を思ってこんな時間から調査をしようとと思ったのですか?マスターも陽鬼と同じ理由ですか?」
「いや、俺は━━━」
陽が言い切る前に月魅がとっさに飛んで、刀を構える。そして、飛び跳ねて襲いかかかってきたものに対して斬撃を加える。
月魅が切ったのは妖怪でも何でもなく、ただの狼だったらしく月魅が軽傷を負わせたら反撃されたことに驚いたのかそのまま逃げていった。
「……ビックリしましたね。出てきてもおかしくないとはいえ、まさか狼がいきなり襲いかかって来るとは思ってませんでした。」
「確かに……狼って、1匹で行動する動物でもなかったような気がするんだけどなぁ……群れからはぐれた狼ってところか?」
「恐らくそんな感じじゃろ……それ以外に単独で動く理由が全く分からんのじゃしもう放っておいてもいいじゃろ、そろそろ先に進むのじゃ。」
そう言って再び例の場所まで移動をする5人。そして、しばらくして目的に到着していた。
暗かったが、懐中電灯で軽く確認してもそれらしいものは発見できずじまいだった。
「特に何も無いみたいだねぇ……どうする?陽。」
「……今日はもう帰ろう。そうじゃないと流石にそろそろ帰りが遅いと紫に怒られる。
何せ、帰り道の数分で出来る限り調べようってつもりだったしな。」
「そうですね……数分前後ならまだ誤魔化しが聞きますが、その誤魔化しが聞かないところまで調べるのは流石に不味いですし……仕方ありませんね、戻るとしましょうか。」
「帰ってからはせめてあの男についての情報でもまとめるとするかの……妾達の情報と主様の情報を交換してできる限りの対策を立てていた方が無難じゃろうな。」
そう言って5人は改めて帰路につく。流石に歩いてだと誤魔化しが通じないため陽は月魅を憑依させて三人を抱えて高速で飛行して一気に距離を縮めて八雲邸に繋がるマヨヒガまで飛び続けたのだった。
「……」
そして、5人が去った後に森の中から姿を現す影がひとつ。それは昼間に陽達を襲っていた男だった。
だが、男は陽達を目で追うだけでそのまま追おうとはしなかった。姿が見えなくなると、すぐに剣を木に突き立ててその場にドカッと座る。
「はぁ………はぁ……思ったよりも、疲れるているな……姿を隠すだけで体力の消耗をしてしまうとは思わなかった……」
息を整えながら男は剣を見続ける。剣は、木から何かを吸ってそのエネルギーを回復させていた。
しかし、とても微量な程度しか取れていない。しかも、エネルギーを取られている木は見る見るうちに痩せこけて萎れていく。
そして数分もしない内に剣は木からエネルギーを取ることはなくなった。
「……やはり植物ではエネルギー吸収率は悪いか。すぐに命を吸い尽くしてしまう……やはり、妖怪や人間でないとな……」
名も無き異様な大剣。男の姿を幻想郷の猛者へと姿を変えさせ、その能力なども使わせることが出来る能力を持った異様な剣。
その剣の力を使うためには、生命の力が必要だったのだ。そして、男は植物では足りないと今更ながら思い、エネルギーの回復をする為には……陽を殺す為には、と思いながら最悪の考えもその頭で考え始めていたのだった。
「何か言うことがあるんじゃないかしら、陽。」
「……こ、こんな夜遅くに帰ってきて……ごめんなさい……?」
「なんで疑問符をつけるのよ…はぁ……」
そして八雲邸に付いた陽達。しかし、玄関の前に紫があからさまに分かるほど不機嫌に立っていた。
恐る恐る目の前まで進んで見れば、このような会話が始まったのだ。
「陽……心配はしているけれど、あなたは強くなってるのよ。だからちゃんと帰ってこれるって分かってる。
けどね?流石にこんな心配になるほど遅くに帰ってくるくらいならもういっそのこと向こうに泊まっていけば……あ、でもそれはそれで不味いのよね……」
「……ゆ、紫?」
「……と、ともかく……心配させないで欲しいわ……これから……」
そう言いながら紫は家の中へと入っていく。扉が閉められた後に陽も恐る恐る家の中に入っていくのだった。
陽鬼達は少し呆れながら家の中へと入っていくが、やはり慣れた家に入った安心感からなのか少し気が抜けたら疲れが一気に襲いかかってきていた。
「……さっさとお風呂入って寝よう……」
「同意です……安心したら、眠気が………」
「陽鬼が食欲もわかないほどだとはのう……いや、妾も眠いのは変わらないんじゃが……」
「……休息後、朝になってから朝食を食べ様と思うのです……」
フラフラしながら風呂場へと向かう4人。陽は一人残されたが、流石に4人とも女子の中で風呂に入りに行く勇気が無いのと、でも4人とも物凄く眠そうだから風呂の中で溺れでもしたら……という心配もあって考え込み始めていた。
「……私が様子を見ておいてやるから、お前は飯でも食べてろ。一応作り置きしたのを残してあるから、な。」
見かねた藍が来て、そう伝えてその場を去っていく。藍がいるなら安心だと思った陽は、お言葉に甘えて飯を食べに台所まで向かっていった。
簡素だが、白米があるだけましだと思って陽は軽く手を洗ってから飯を食べ始める。
「……美味しい?」
「んぐっ!?げほ、げほっ!!」
「ちょ、ちょっとそこまで驚かなくても……ほら、水よ。」
食べることに集中していたせいで、紫に話しかけられてつい驚いて喉を詰まらせてしまう陽。
紫から水を手渡されて思いっきり飲んで何とか水で流し込むことが出来ていた。
「はぁはぁ……ありがとう……紫……」
「どういたしまして……って言っても私が喉を詰まらせたようなものだからあまり変わらないと思うけれどね。
……にしても、よくそれだけ美味しそうに食べれるわね、そんなにお腹減っていたの?」
「あぁ、うん……よく考えたら今日は昼飯食べてなかったような気がするし……よく考えてみればお腹減ってたかもしれない……家に帰るまで全く気が付かなかったけど。」
「……余程切迫していたのね……お疲れ様、今日はもう早めに寝て明日からまた頑張ればいいのよ。
今日はもうあなたの心も体も疲れきってるでしょうし。」
そう言って陽の頭を撫でる紫。撫でられるのが恥ずかしく撫でられながらも陽はそっぽを向いていたが、あまりの恥ずかしさに勢いよくご飯を全部食べてそのまま立ち上がる。
「ご、ごちそうさま!!ふ、風呂はいったらすぐ寝るから!!」
そう言って後片付けだけをして陽は部屋から出て言ってしまう。そんな陽の様子を見て紫は微笑んでいた。あれだけ元気が残っているなら大丈夫だと。
「ふふ、思春期の男の子は可愛いものね……もう少しからかってあげたくなっちゃうけど、それはまた別の機会にするべきね。
これ以上からかっても彼を疲れさせるだけだし……そう言えば、藍達はもう上がったのかしら……まぁ脱いだ服が置いてあるんだし気づかない、なんてことも無いと思うけれど……」
間違えて風呂に入ることは無いだろう、とは思っているが、何となく気になった紫は風呂場へ向けて歩き始める。
その時、前から陽鬼達を連れた藍が目の前からやってくる。とりあえず風呂の中で鉢合わせすることは無かったのだろうと、そこだけは紫は安心していた。
「あ、紫様……先程彼が何故か早歩きで風呂に向かっていったのですが……何かあったんですか?やけに顔を赤くしていましたが……」
「あー……ちょっとからかい過ぎちゃったのよ、それで恥ずかしがって風呂まで猛ダッシュで行っちゃってたのよ。まぁ貴方達が着替え終わった後で助かったわ……って妙に4人とも静かね……」
「……もう殆ど寝てますからね。そろそろ抱き抱えようかと思い始めてきてますよ。全員言われるがままされるがままってくらいに疲れてるみたいですし。」
「なるほど……なら、私もこの子達を運ぶのを手伝ってあげるわ。
いっぱい頑張ってくれたみたいだししばらくは休ませてあげましょう、全員の疲れが取れきるまで……ゆっくりとね。」
そう言って紫は陽鬼と月魅を抱き上げるとスキマを使って寝室に運び込む。黒音と光に関しては、藍が抱き抱えていたので同じように寝かせる。四人が並んで寝たところに静かに掛け布団を掛けてあげて軽く頭を撫でる。
「ふふ、こうしていると本当に子供みたいね……可愛いわ。」
「そうですね……頑張っていたんでしょう。この小さな体で……」
「……ねぇ、藍……この子達は……元の姿に戻れると思うかしら?話を聞く限り……身長自体は全員もう少し大きなものみたいだけれど……」
「……妖怪や神は人間の恐れや信仰から生まれるものもいれば、禁術などで生み出されたもの……つまりは生命として生きているか、人間の精神に寄った生き方をしているかの2通りがあります。
この子達は殆どが前者のはず……ならば、有り得ないんですよ。体が小さくなることなんて。」
二人は顔を曇らせる。陽鬼たちは一体どんな存在なのか、という不安よりもまず先に来たのが『この子達はどうなってしまうのか』という不安である。
「私や藍みたいに体の大きさに拘らないかつ妖力が多い妖怪ならともかく……この子達は正しく『命』があってちゃんと成長してきている。
妖力も言うほど多くはない、それ以前に月魅は霊力……どちらかと言えば霊夢寄りでもあるのよ。」
「しかしそんな者達が一括して小さくなっている……黒音は自分の魔法で小さくした、なんて言ってましたが……」
「実際、大きくなる魔法は使っていたわ。ただこの子達だけにしか使ってないんだからあれが本当に成長させる魔法なのかどうかはわからないわ。しかも、黒音以外は意識しないでその魔法を使うことが出来ていた、成長していたんだからとんでもない事よ、これは。」
「魔法を魔力無しでの使用……いえ、もしかしたら魔法自体がきっかけでこの子達の本来の姿を取り戻していた、と言った方が自然でしょうね。
藍、これからも……調べて頂戴。この子達の……陽のために。」
「貴方からの命令ならば……幾らでも。」
そう言って藍は部屋から出ていく。紫は、せめて陽鬼達と陽が悲しい別れをしないようにしてあげたい……それだけを考えながら、彼女達の頭を撫でるのであった。