「主様!下がるのじゃ!!」
「面倒な……!」
黒音の弾丸が飛ぶ。陽は言われた通りに下がり、黒音が作り出した魔力の弾丸に当たらないようにする。
だが、打ち出したその全てを男は一閃で消し飛ばしていく。
「力は人間のはずじゃが……何なんじゃ、この執念深さは……」
「5対1……魔理沙や霊夢みたいに人間の強さを超えたわけでもなし、何かしらの特別な能力……あるにはありますが、あの男の使うそれは全てあの剣に依存している……というのに……この強さは……」
「考えていても仕方が無いと思うのです……敵は何故か私達の行動を読み切っている……目で読み切っているのか、それともまた別の隠してある能力があるのかは別ですが……ご主人を殺させるわけにはいきませんし、殺させるつもりもないのです。」
「そういう事……だね!!」
力を込めて陽鬼が殴りにいく。しかしその攻撃もことごとく避けていく。
業を煮やした陽は仕方ないと、一枚のスペルカードを取り出す。
「黒音!いくぞ!狂闇[黒吸血鬼]!」
スペルカードを唱えて陽は憑依を行う。その両手には2丁のマスケット銃を構えて男の方に突っ込んでいく。
男は銃の動きをよく見ながら、放たれる弾丸を避けていく。だが、陽の目的は攻撃を当てることではなく、男に近づくことであった。
「銃使いが寄ってくるとはな?そんな無謀な戦法でどうしようと……いうんだ!!」
「しまッ……!」
男の横一閃でマスケット銃の銃口が切り裂かれてしまう。一瞬男には陽が焦った様に見えたが、すぐにその表情が笑みを浮かべたことに気づいた。
「引っかかりましたネェ……?狂悪[喰ラワレルノハ己カ汝カ]!!」
陽がスペル宣言をすると裂かれた銃の隙間からまるで何かのエネルギーが漏れだしたかのように、白いエネルギーが見え始める。
それは銃から飛び出したかと思うと、すぐに獣のような姿になり、男に襲いかかる。
「ちいっ……!何だこれは……ぐっ!!」
男に二つの獣の形をした魔弾は食らいつく。ひとつは男の肩に、もう一つは男の剣に噛み付いていた。
男は、噛みつかれてすぐに振り払おうとしたが、だんだんと自身の力が奪われていっている事に気づく。
「無駄ですヨ……このスペルは銃が壊れた時にしか発動できませんガ……その分、相手には噛み付かれた瞬間にもう勝負が終わっているレベルですからネ。
潔く負けを認めるのならば━━━」
「そう簡単に負けを認めるほど……ヤワでは無い!!」
「ぐっ!?どこにこんな力ガ……!」
男はそう叫んで陽を無理矢理押し倒す。そして、持っていた銃の片方に剣を突き立てて逆にそのエネルギーを全て吸い取っていく。
陽は男の肩に噛み付いている方の銃に意識を集中させてエネルギーを吸い取る力を強くする。
だが、時既にもう遅し。
「そのスペルカードは無効だ!!」
『合致[ワンペア]』
機械音声と共に陽のスペルカードは無効化されてしまう。陽は咄嗟に男を蹴り飛ばして、銃を投げ捨てる。
エネルギーすらも回収出来ていなかったので、もう完全に今は銃が使い物にならなくなってしまったからだ。
「さて……銃の無い銃使い……一体それはどんな動きができるんだろう……なっ!!」
男は剣を振りかぶって陽に攻撃をし続ける。攻撃手段を失った陽は、それを避けることしかできない。
隙ができれば、憑依を変えることで対処こそ出来るが、自分たちの攻撃ではあまり隙が作れていないのが現状である。
「うおおりゃああああ!!」
「そんな大ぶりの攻撃ては当たらないと、何回やればわかる?そして、その大ぶりの攻撃を生かすために他3人が補助をする形で戦うのももはや見慣れてしまったぞ?」
「くそ、くそっ!!」
なかなか攻撃の当たらない陽鬼。次第に、当たらないことに対しての苛立ちが募っていく。
そしてそれは他の3人も同じだった。だが、陽は反面少しだけ疑問に思っていた。
『どうしてこうも攻撃が避けられるのか』である。
あまりにも当たらなさすぎる攻撃。目で見て避けている……にしてはあまりにも余裕すぎる動きである。
「……黒音、陽鬼の援護に向かってくれないか?」
「分かったのじゃ。主様も……なにか分かったら連絡を頼むのじゃ。」
黒音は陽がなにかに引っかかりを覚えていることがわかっていた。故に、陽に考えることを託して援護に向かったのだった。
そして、その場に残った陽は考え始める。何故攻撃がほとんど避けられたり、防がれたりするのか。
未熟と言えばそれまでだが、不意打ちとはいえ黒音を憑依している時に使った新しいスペルカードが当たっているので未熟だから防がれる、という説は消えてしまう。
「確かに目で見てから避けてるんだろうけど……けど、それにしてもどう考えても余裕で避けられてるのは、一体……」
黒音と光が地面から浮かせないように男を囲うように弾幕を放つ。そして残った前後の所に陽鬼と月魅が同時に攻め込むが、男は陽鬼の方に飛び込んで服を掴んで月魅の方に投げ飛ばす。
刀を振るおうとしていた月魅は、咄嗟に刀をその場に突き刺してその体で陽鬼を受け止め、刀を支柱にしてその場で耐える。
「くっ……ご、ごめん月魅!」
「いえ……この攻撃パターンも駄目となると……」
陽はそれを見ていてふと、男の取った行動が何か見覚えのあるような動きに思えた。
男は月魅を投げ飛ばした後すぐに剣を自分の体に重ねながら光達の方へと向かっていく。
光は矢を出しながら男を何とか迎撃しようとするが、全て剣に弾かれてしまってどうすることも出来なかったので避けるしか出来なくなってしまった。
黒音も横に回って弾幕を放とうとしたが、行動範囲を制限するように弾幕を放ってないとそれこそ手がつけられなくなると思い、そのまま周りを囲うように弾幕を放ち続けていた。
「陽鬼と月魅の2人が避けられたら、光が迎撃に入って100%相手にダメージを与える戦法……月魅の方は、一切見てないのに……どうして陽鬼を後ろに投げればいいと思ったんだ……?」
考えれば考えるほど困惑する事態。攻撃パターンの穴を完全に把握し、その穴を攻めるように戦っていく戦法。
陽は、あの男がこの戦法を知っていたからこそ回避できたのではないか?と思った。そして、感じていた違和感はもしかしてすべて攻撃パターンの穴をついていた行動をとっていたからでないか?と考え始める。
そして、この攻撃パターン事態は、光が来た後に全員で話し合って作ったパターンがかなり多い。
更にいえば、覗かれていない限り知っているのは陽達5人だけであり、紫や藍でさえも知らないパターンなのだ。
「そうなると……あいつは、一体……誰、なんだ……!」
陽は陽鬼達の所へと向かう。何故かは分からないが、これを使えば誰かわかるかもしれない……と確信している事を行おうとしていた。
「はぁはぁ……あれだけ射られて傷一つつかないその剣……私も欲しいのです……」
「軽口が叩けるのならまだ動けるな?まぁ、これ以上いたちごっこをする気は無い!!」
「光!」
「黒音!そのまま撃ち続けてろ!」
そう叫んで、陽は限界をなくす程度の能力を発動して自分の体の素早さと動体視力を格段に上げる。
そして、弾幕の隙間を縫って鎖鎌を男に向かって投げる。
男は剣を振るって鎖鎌の投げられた重りを弾く。陽はそのまま能力をonにした状態で弾かれた重りを、 鎖を握ることにより弧を描かせてもう1度男にぶつけようと振るう。
「しつこいぞ!!」
その攻撃すらも弾かれ、挙句の果てには鎖を叩き壊されてしまい使い物にならなくなってしまう。
陽は、確信した。何故かは分からないがこちらのパターンはすべて読まれている、と。
しかし、さとりのような心を読む能力ではないことは確かである。何せ、さとりの能力は自分には聞き辛いと既に分かりきっていることなのだから。
「……お前、何なんだ?今の鎖鎌の攻撃はさっきまでの攻撃パターンに俺が独断で加えたものだ。
つまり、陽鬼達ですら知らない攻撃……なのにお前はいとも簡単に攻撃を凌ぎきった……まるで、『予め知っていた』かのように。」
「……それに応える俺のメリットは無いだろう。本来なら答える義務はないが……だがまあそうだな……2つ、2つのヒントをやろう。
『どうやって知ったか』をよーく考えてみろ。そして、今の状況を一から思い出してみろ……ということだけだ。」
「今の、状況を……?」
二つ目と一つ目の違いが分からない。そもそも関連するものなのかどうかすらもわからない二つのヒントだった。
男は剣を構えて再び突っ込んでくる。陽は与えられたヒントを一旦頭の片隅に追いやってから男の攻撃を避けていく。限界をなくす程度の能力をフル活用して、避けていく。
「いいのか?お前のその能力ほ、使えば使うほど後が怖いのだろう?」
「こいつ、俺の能力のことまで……ぐっ!?」
男は陽の隙を突いて陽を蹴り飛ばして木にぶつける。蹴った瞬間の一瞬の隙を突いて陽鬼達4人は一斉に攻撃を仕掛ける。
だが━━━
「お前達がそう来るのは……分かっている!!」
剣を地面に刺して支柱がわりにして、掴んでいる腕を曲げることでその場を移動して黒音と光の攻撃を無理やり避ける。そして、剣をそこから離して月魅と陽鬼を掴んだ後にそれぞれ黒音と光の方へと投げ飛ばす。男はこれを一瞬でやり遂げた。
「ぐっ……何で、こんなに……」
「『強いんだ』……か?残念だが俺は弱いさ。お前が戦っている男達よりも遥かに、圧倒的に弱い。
お前は俺以上の差があるが、それをそこの4人や能力で無理やり補っているからなんとか戦えているだけだ……ま、俺だってこの剣が無ければ全く戦えないがな。」
「ぐっ……」
「さて、長話をするつもりはハナから無いんでね……残念だが、ココで━━━」
と、男が陽に剣を振り下ろそうとしたその瞬間。男は陽と同じように吹っ飛ばされていた。
そして、元々男が立っていた場には藍が立っていた。
「……危なかったな。だが、かなり強めの一撃を入れておいた。完全に不意打ちだったのも含めて……かなりのダメージがあるだろうな。」
男は陽や陽鬼達を一瞥して無事を確認する。そして、その後は男に近づいて淡々と手を振りあげて、その爪で獲物を引き裂くかのように手を振り下ろした……のだが。
「……どこに消えた?」
振り下ろした所には既に誰もいなかった。手を振り下ろす瞬間、藍は男が下に落ちるのを見た。だがここは別に天界では無いし、どこかに崖や落とし穴、それに下に空洞がある場所ではない。
「……ちっ、逃がしてしまったか……まさかあのダメージで逃げ切れるとはな……」
藍は舌打ちをしながらも陽達のところへ向かって、術で陽達を浮かべる。
「とりあえず全員休もう。怪我があるかどうかも確認しなければならないし、最悪また永遠亭生活に戻ることになるかもな。」
「……とりあえず、聞くけど……紫は、どうしたんだ?」
「紫様は後で自分の力で戻ると仰られた。おそらくもう既に回復して自分の力で戻っている事だろう。」
「なら、良かった……」
陽は、ダメージや疲れのせいもあり、そのまま落ちるように眠っていったのだった。
「……一か八か、使えなくなっていたかと思っていたから使ってみたが……案外、まだまだ使えたようだ。
だが、好きなようには使えなくなっている……か。」
男はどこともしれない森の中で休んでいた。幻想郷のどこか、と言うだけで今自分がどこにいるのかまでは全く把握していなかった。せいぜい小屋があるのが儲けもの、と感じていた。
「まぁいい……今の俺に必要なのは休息だけだ……とりあえず、休んで英気を養うとしよう……幸い、小屋があるしな……適当に立てかけがあればいいが……」
そう言いながらフラフラしつつも男は小屋に入る。立てかけどころか、普通に扉が付いているものだったので、更にいいところを見つけた気分になった男は、近くにあった布一枚を自分の体に掛けて体力を取り戻そうと寝始める。絶対に陽を殺すために、そのために入る邪魔を突破するために眠り始める。
休息のために、陽は、男は、ゆっくりと眠り始める。男は陽を殺すために。陽は強くなる為にさらに自分を鍛え上げるために。
眠り始めるのだった。