「……戦法の的確な交代とそれに必要な武器?」
「そうなのじゃ、散々話し合って考えたんじゃが……やはりこれが一番いい気がしてのう……因みに、大元の原案発案者は陽鬼じゃから褒めるなら妾ではなくあやつじゃからな。」
「お、おう………それで、戦法の交代ってなんだ?要所要所で戦い方を変えて有利にしていこうとか……そんな感じなのか?」
「まぁそんなもんじゃ。
あの男と戦った時に、どうしても妾達の攻撃がヒットしたことが気になってのう……スペルカードによる不意打ちだから効いた、という訳じゃなさそうじゃからもしかしたら今まで遠距離だったのに急に近距離に切り替えたからなのでは?と思ったからなんじゃ。
だからこの戦い方を使いこなせれば、あの男なぞ既に相手ではないわ。」
胸を張って自慢げに語る黒音。部屋の椅子に腰掛けていた陽は、少しだけ深呼吸をしてから椅子から立ち上がり、外に行こうとする。それが少し気になった黒音は、陽の服の裾をつかむ。
「これこれ、人がまだ話してる途中で出ていこうとする奴がおるか。」
「いや、だったらその戦法を早くマスターしないとなって思うとな。」
「あぁなるほどの……いや、その前に説明を聞いてからやるべきじゃろ。ただ単に戦法を変えるならそんなモン今までと何ら変わりゃあせんて。
いまから説明するからよく聞いておくのじゃぞ?」
「お、おう…分かった。」
黒音は陽を座らせて適当な紙を一枚取り出して何かを書き込んでいく。陽はそれをじっと見続ける。
黒音はそれを書き終えてから、陽が見やすい方向に向けて自身も陽の隣に座って説明し始めるのだった。
「まず、戦法の変更というのは遠くから撃っていた妾が近くで撃つとかそんな程度のことではなく、単純に自分にあっている戦い方を武器とともに選ぶ……そういう事なのじゃ。例えば妾が剣や槍を使うようなもんじゃのう。」
「……なるほど。まぁ言いたいことはわかった。けどそうなるとお前達にあった新しい武器を調達してくる……って話になるけど?少なくとも黒音はそれのあてがあるからこそ、陽鬼のその提案を受け入れたんだろ?どうするつもりなんだ?」
「ふむ……まず妾なのじゃが、魔法を使って二丁拳銃を近接武器に帰る予定じゃ。まぁ斧あたりがちょうど良かろう………何でもその重さで叩き切ってしまうからのう……」
紙に書き込みながら陽はふんふんと頷いていく。次は光と書かれた所に丸を囲うように書いてまた何かを書き込みながら説明していく。
「次は光じゃな。光は何とかして弓を畳める様にして剣や槍のような状態にするのがいいと思うのじゃ。まだこの話は主様にしかしとらんから何にするかは本人次第じゃな。
そして次は陽鬼。陽鬼は武器の都合上変更とか出来ないのじゃが、少しばかり無茶をするならば面白い事が出来ることに気づいての、それを試させるつもりじゃ。」
「その、面白い事ってどんな事なんだ?」
陽が気になって質問した事に黒音は得意げに胸を張りながら答える。
「あの籠手は熱を簡単に通す代物じゃが、その気になれば炎とかも吹き出す仕様になっておったらしい。じゃから無茶を通すのならば……戦えるようになるわけじゃ。
まぁ、そのせいで妖力もガンガン減るがの。じゃから陽鬼にはあまりこの戦法を使わせたくないのじゃ。」
「そうか……まぁ陽鬼のは改善点を後でなんとか探すとして……月魅はどうなんだ?月魅も陽鬼みたいに霊力がガンガン減るとかか?」
陽鬼のその質問に黒音は首を横に振る。そしてその後に髪を裏に向けて何かを書き込んでいく。
書き込まれた物を陽はじっと見続けていた。
「月魅は霊力を使った結界の戦い方を既に使ってしまっておる。ここからまた更に新しい戦い方を覚えたいのならばかなりつよくはなれるが、同時に凄く面倒でもある。
妾としては、結界を動かせるのなら極小の結界を使ってぶん投げればいいのではないかと思っておるのじゃがな。」
「結界を投げる……か。確かにそれだったら月魅にあってる戦い方かもしれないな……とりあえず、こんな感じか?俺は戦い方はいつも要所要所で変えていってるから大して意味は無いしな。」
「そうじゃの、残念じゃが主様は既にその戦い方をしてしまっておるから無理じゃな。
まぁ敢えて言うなら意外なものを武器に使うとか……程度じゃろうか?」
「意外なもの……意外なものか……」
口に出しながら陽は頭の中で思い描いていく。意外なもの、という観点からして武器を選んではダメなのだと。では必然的に武器になり得ないものでないといけないという考えで思考していく。
「……豆腐?」
「主様は頭がいいのか?って思う時もあれば、たまに猛烈なまでのアホになる事がある気がするのじゃ。
多分刃物と硬いものという武器になり得そうなものを全部除外した柔らかいものを考えていたんじゃろうが……」
「……やっぱりダメだよな。よし、話を戻すか。
それで?そうやって新たな戦い方を模索したとして……それだけじゃあ駄目なんじゃないのか?」
「まぁそれもそうなんじゃがな……ちょっと待ってて欲しいのじゃ、今図で説明するからの。」
そう言って新たな紙を取り出してシンプルな絵を書いていく黒音。
紙には『敵』、それの反対側に『陽』『月』がいてその後ろに『黒』『光』とあり、四つのマークの中心部分に『主』と書かれていた。
「まず、いままでの布陣がこういう感じじゃった。前に月魅と陽鬼、後衛に妾と光。そして前衛後衛を兼ねる主様が妾達の中心に立つ。
この布陣は個々人の得意分野を遺憾無く発揮できる布陣じゃった。しかし、それは逆に言えば敵によってはかなり不利になるものでもあったのじゃ。
相手が遠距離専門ばかり……逆に攻め込んでくるような奴らが大軍で押し寄せてきたり……今はそういうことがないが、これからもないわけでもあるまい。故に、この布陣は保ったまま……前衛後衛の両方を全員が兼ねられる様にしなければならぬ。そうすればかなり楽になると思うのじゃ。」
「なるほど……言わんとしていることはよく分かる。けどそうなると守備がおろそかになるんじゃないのか?もしそういう敵が出てきた時とかは月魅の結界なり、陽鬼の炎なり、黒音の魔法なりで全て遮断するすべはある筈だしな。」
「確かに、それに関しては主様の言う通りじゃ。ぶっちゃけ守りが薄くなるのはどうしたものかと妾も考えたのじゃ。
そして、ふと気づいたのじゃ……この守りを薄くなったのをどうやって補うかを……」
「おぉ……で、その方法は?」
陽が聞くと、黒音は不意に立ち上がって大きく息を吸い、そして吐く。そして、キリッとした目つきでこう言い放ったのだ。
「『殺られる前に殺ればいい』!」
「……は?」
「守りが薄くなるならもうとことん薄くしてもいいと思うのじゃ。何が面白くてなにかに閉じ込められにゃあならんのじゃ。
なにかに閉じ込めりるくらいならばいっその事全員が一人で国を潰せるくらい強くなれば問題ないと……要するに、攻撃こそ最大の防御じゃ!!」
「OK、お前も人のこと言えないくらいたまにアホになるってことがわかった。」
「っ!?」
『何故そうなった』と大声で叫ばんとする勢いで驚く黒音。陽は大きく息を吐いてどうやって黒音にその作戦が穴だらけなのかを教えようかと考え始める。
「あー……まずな、前提がおかしいんだよ前提がな。
殺られる前に殺れって作戦ならどう考えても手が足りなくなる。別に守りを薄くして攻撃に全振りでもいいんだが……それはあくまで……本当に国の軍とか、もしくは本気でものすごく強いやつじゃないとダメだ。
俺達も確かに強くなってるけど……俺は誰にも怪我して欲しくないし、ましてやそれで死んでしまうなんて本当にダメだ。分かってくれるか?」
陽が諭すように話すと、黒音も理解したのか少し目を背けながら顔を俯かせる。
舞い上がっていた……と言うよりかは布陣を考えるのに疲れてしまってたのだろうと考えた陽は、あまりこれ以上きつく言うのもダメだと感じてこれ以上は何も言わなかった。
「……分かったのじゃ。流石に妾も考え無しがすぎたのかもしれぬ……少し休んでから、またまともな作戦を考えることにするのじゃ。」
「おう、けどあんまり無茶するなよ?お前が倒れても俺は心配になるんだからな?」
「それも理解しているのじゃ、童女趣味の主様にそう言われては妾も無茶はできんのじゃ。」
「おいちょっと待て今なんて言った!?黒音!黒音ー!!」
自分がロリコンだと言う極めて不名誉な思い違いを黒音がしている、と思った陽はそのまま部屋を出ていった黒音の後を追って誤解をとこうとしたのだった。
「はぁ……大変な目にあった……」
黒音が誤解している、と思ったことは黒音がからかって言ったことであり、これがわかった後に陽はぐったりして部屋で寝転がっていた。
「……にしても、新しい戦法……か……」
新しい戦い方を覚えることで、遠近両用の戦い方を使えるようにすることは黒音が言っていた通り、確かに戦力アップには繋がるだろうと陽は思っていた。
だが、自分にはその戦い方が出来ない。得手不得手こそあれど、能力のお陰でその両方を使えることは陽にとっては恐ろしいほどの戦力アップに繋がっているものだと再認識した。
「……能力を100%活かせられる戦い方をすればいいんだろうけど………逆にどうしたらそうすることが出来るのか……全く分からないな……」
『何かの武器主体』という戦い方は今の陽の戦闘スタイルである。ならばその逆となるのは何か?『武器が主体にならない』戦い方になると陽は考えていた。
「………となると、やっぱり自分の体を鍛え直すしかないってことだな。結局いつものパターンにこそ落ち着いたものの……やっぱり強くなるにはそう簡単な事じゃないわけだ。」
起き上がって陽は、部屋から出ていく。気晴らしで出かけて案を考えようという発想である。 だが、いくら考えても最初に出てきた答え以上にいい案が出てこないという時点で陽はあまり真剣には考えていなかったのかもしれない。
「……俺の、俺自身の戦い方か…」
陽は自分の能力の事を売れない手品師と似たようなものではないか、と考えていた。
武器をポンポン作り出せたりする能力は正しく手品師のそれだからである。
「……あんまりガチで深く考えていてもしょうがなさそうだな。そんな深く考えている暇があるなら何でもいいから動かしていた方が良さそうだ。」
そして陽はそのまま外に出て、とりあえず足などを鍛えるためにランニングを始めていくのであった。
「いて、いてててて…」
「まったく……走りすぎて筋肉痛だなんて流石に馬鹿すぎない?」
夜、陽は走りすぎたせいで体が悲鳴をあげていて、横たわって陽鬼に怒られていた。
「いや、ほんと、申し訳ない………」
「謝って済むくらいなら陽はちゃんと寝てなさい。晩御飯もお風呂も今日やることは終わってるはずだし充分に休める時間とスペースはあるよ。」
「あぁ……今日はもう休んでゆっくりしていくよ。」
「うん、じゃあまた明日……ゆっくり休んでてね。」
そう言って陽鬼は部屋から出ていく。既に早いところだともう寝ている時間だろうし、陽はこのまま眠ることにしていた。
しかし、ただ寝るだけなら手持ち無沙汰な事に気づいてしまったため、自分とりあえず目を瞑ってから新しい戦法が思いつくか、ひたすら時間をかけていく。
「………」
これで思いついたとしてもそれが彼女達にとっていい案なのかどうかは別として、陽はとりあえず考えておきたかった。
もしかしたら彼女達の助けになるかもしれない案か出てくるかもしれないからだけ。
「………はぁ……本気で寝るか……」
しかし、疲れきった頭ではまともな案が出そうにも無かったため、しょうがないので陽は今日のところはゆっくりと眠るのであった