東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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光天使

「……光とも、か?」

 

「出来れば良いな~程度じゃ。無理してしなくとも良いが……少なくともできれば戦力アップになることは間違いないじゃろ?

実際、妾と憑依してる時も近接銃撃戦らしいしのう。完全な遠距離戦を手に入れられればまず間違いなく戦力になるはずじゃ。」

 

唐突に陽の部屋にやってきた黒音が話し始めたこと、それが光との憑依の話だった。

陽は、確かに戦力にこそなるが遠距離戦と言っても離れられる時間があるのか?という疑問が頭の中で残っているためにあまり賛同しかねない戦い方であった。

 

「なると言っても……色々問題があるだろ?陽鬼も、月魅も、黒音も……皆何かしらの方法で近接戦闘ができるんだ。それが憑依スペルにも生かされてる……完全な遠距離戦となるとさっきも言ったように問題があるんじゃないか?」

 

「離れられる時間くらい稼げるのじゃ。とは言っても主様の言いたいことは充分にわかる……なればこそ、その弱点を克服するためにはどういう戦い方をすればいいのかを考えるべきじゃ。」

 

「うーん……」

 

『やはり賛同できない』というのが陽の見解であった。そもそも弓矢という武器自体が動き回って狙撃する武器でもないのだから、光を憑依させてほぼほぼ無抵抗で光に危害が加わる事は避けたいことでもあるのだ。

 

「………そう言えば、ふと思ったんじゃが……」

 

「ん?何だ?」

 

「主様は紫や藍、その他大勢のものを憑依させたいとは思わんのかの?妾は何故主様が妾達以外の人物を憑依させないか気になってしょうがないんじゃが。」

 

「……そう言えば、何でできないんだろう。別に紫とは言わないまでも……何故か俺のところに来たお前達だけしか憑依させられないんだよな。」

 

言われてから気になった問題。何故憑依しなかったのか、を最初に考えさせられてしまったが、よくよく考えれば『何故憑依出来ることが気にならなかったのか』という疑問になった。

 

「妾達だけ、のう……別に妾達より後に来た者達を憑依できる能力……でも無いじゃろ?そうなれば主様は三つの能力を保持してることになってしまうのう。」

 

「三つ能力持ち……いや、待てよ?何で今までその発想にいかなかったんだよ?」

 

「む?どういう事じゃ?」

 

「だって……俺の使う憑依を知っているのは俺達だけじゃないだろ?いや、仮に俺達だけだったとしても……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!」

 

陽に言われて黒音ははっとした顔になる。陽も陽で何故?どうして?という疑問に駆られ続けていた。今まで気づかなかったこともそうだが、誰一人として陽の事を『三つ能力持ち』という扱いにはしなかったのだ。

 

「……少しばかり、考えないといけないかもしれんの。主様の憑依……いや、そもそも主様には対象の誰かを憑依させる能力はないのかもしれんな。」

 

「どういう事だよ。」

 

「簡単な話じゃ……自身ですら三つ能力持ちと認識しなかったのは『能力を使っている』という感覚が今まで無かったからだと思うのじゃ。

ならば、もしかしたら原因は妾達の方にあるのかもしれぬ。あくまでも予測じゃがな。」

 

「……黒音達の、方に……?」

 

黒音が意図せず漏らした言葉に陽は反応した、反応してしまった。彼はその理由を知っているからだ。いや、思い当たる節があると言っていいだろう。

真実かどうかはわからない、けれどあれがもし真実ならば、それならば憑依が出来るのも分かる……と陽は内心で納得してしまっていた。

納得したその瞬間に……目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はずっとここで破滅するまで待ってろ。」

 

「……はい。」

 

捨てられたのは一人の無感情な天使。無愛想で、無感情で、無表情で……そんな彼女が捨てられたのはどこかの山道だった。

彼女は主の言いつけ通りにずっとそこに居た。ご飯は取らなくても生きていける性質を持っているので、餓死をすることは無かった。

 

「……」

 

空を見上げる。太陽が冴え渡り、曇り空が広がり、雨が降って雪が降る。桜が舞い散り、日射に照らされ、紅葉した葉っぱが落ちて寒くなる。

稀に人が通ることもあった。老人が通ることもあれば、何かにつけて他のものにイチャモンをつけ、その他を傷つけ壊していく者達も通る。

その天使は前者にお供えされることもあれば、後者に傷つけられることもあった。

それでも彼女はそこでじっとしていた。何があってもじっとしていた。

じっとしている内に、天使はふと感じていたことがあった。『どうすれば滅びることが出来るのだろう』と。

 

「日に照らされても死なず、空腹でも死なず、寿命が尽きるまでにはまだまだ時間はかかる……滅びとは、何なのです……?」

 

体力を使い切った天使は、そのままその場に倒れて眠り始めた。何年も何年も、天気や外敵に晒され続けて……彼女の体力はもう尽きかけていた。故に、彼女の体は睡眠を欲した。欲してしまった。そして彼女はその欲求に従い、眠ってしまった。

 

「すぅ……すぅ……」

 

彼女は夢を見た。楽しく人間達と走り回っている夢だった。とある村に住んでいた彼女は、村の一員として人間じゃなくても人間達と共に生涯を進んでいた。

しかし、その村は気づけば燃えていて生きている人間の内、男は殺され女は知らない格好をした者達に連れていかれていた。

彼女は精一杯精一杯抵抗して……気づけば一人になっていた。そして、周りにいる、村を襲った者達とは何か別格の空気をまとっているものが彼女の前に現れ……彼女の頭にその手を伸ばして……そこで彼女は目が覚めた。

 

「……今の、夢は……?」

 

天使にはあの夢がどういうものかわからなかった。なぜあんな夢を見たのか、どうしてあんなに危機感を覚えたのか……天使にとっては何もわからなかった。

天使は座り直した。眠っていた間に何時間も経過していたらしく、出ていた日は落ちて月も真上に来ていた。

 

「……」

 

彼女は空を見上げた。星々の光も、太陽の光も、全て光であってそこに違いは無いのだと。

しかし、滅びを迎えろと言われた自分は、この数々の光を見られるほど出来た人物ではないと考えてしまっていた。

そんなことを考えていると、後ろから物音が聞こえてきた。天使は振り返って音の正体を確認した。熊だった。

 

「……こんなところに普段、降りてこないのに……」

 

もちろん、降りてきた理由は明白だった。その熊が捕食者の目をしているだけで充分だった。

彼女はそれでもじっとしていた。天使は熊が突き出した爪を避けることなく……そのまま目を瞑って……そこで彼女の意識は途絶えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━まっ!聞いておるのか主様!!」

 

「っ!え、ぁ……黒音……?」

 

「そうじゃ、妾じゃ。主様が愛してやまない黒音じゃ。」

 

陽は辺りを見回していた。黒音の冗談すらも耳に入らないほどに今ここがどこなのかを確認しておきたかった。

そして、八雲邸だと分かると大きくため息を吐いて、何とか気分を落ち着かせようとしていた。

 

「目を開けたまま眠り込んでもおったのか?随分と器用な真似ができるようになったんじゃのう、主様は。」

 

「い、いやほんとごめん……そ、それでえっと……何の話してたんだっけ?ちょっとぼーっとしてたみたいだから……」

 

苦笑をしながら詫びる陽に、黒音は大きくため息を吐いて仕方ない、と思いながら陽のために説明を再度始める。

 

「はぁ……あれじゃ、主様が憑依できるのは主様の力だけでなく妾達の方に理由があるかもしれん、という話じゃ。

そして、何故主様が三つ能力持ちと判断されないかはもしかしたら裏で糸を引いている奴がいるかもしれないという話じゃ。」

 

「……いや、三つ能力持ちって判断されないのを裏で糸を引いている奴がいる、って流石に発想が飛躍しすぎじゃないか?仮にいたとしてもそうする事で得られる得なんてないだろ?」

 

「得、のう……その人物にとっては直接的な得にならずとも、主様を二つ持ちだという風に思わせることによる間接的な得ならあると思うのじゃ。」

 

「例えば?」

 

「そうじゃのう……のう、主様。主様は二つ能力持ちのことをどう思うのじゃ?」

 

「いきなりだな……えーっと……」

 

そういって陽は考え始める。判明している二つ能力持ちは彼が紫から聞いている分では上白沢慧音だけである。その慧音であっても、満月時とそれ以外で能力が分かれてしまっており、ちゃんとした二つ持ちではないことがわかっている。

そう考えて……陽は質問に対しての答えを考え出す。

 

「珍しいけど、例がないわけじゃないからそこまで珍しがられる訳でもない、かな。」

 

「その通りじゃ、ならば三つ能力持ちはどうなると思うのじゃ?」

 

「……そりゃあ、前例がないだろうし……バレちゃえばあっという間に知られていくだろう。

けど、有名になったところでせいぜい狙われる頻度が高くなる程度……まさか……狙われないようにする事がその得だって言いたいんじゃないだろうな?」

 

「そう言いたいのじゃ、妾は。とは言っても『じゃあ何故そうするのか』が導き出せなんだ。

じゃが、今のところはこう考えてもいいじゃろう。何であれ、事実珍しがられているとはいえ、前例がいる分あまり珍しがられない状態になっておるのが今じゃ。」

 

陽は少しだけ納得がいってなかったが、しかしこれ以上の判断材料も反論材料も何も無い状態になってしまえば、他の説を唱える事は出来ない。仕方なく、無理にでも納得する他ない状況になってしまったという訳だ。

 

「……ま、分からないことを考えてても仕方ないか。とりあえず光との憑依の話は無し無し、そもそも俺にもどうやって憑依のスペルカードができているか分からないんだから出来っこないっての。」

 

「むぅ……しょうがないの。ここは諦めるとするかの。

しかし主様、一応考えに入れておいてほしいのじゃ。妾の仮説が正しければ光も候補になるし、光自身も主様のためなら体は張れるじゃろう。それは妾達も同じじゃ、じゃからその事は覚えておいてほしいのじゃ。」

 

そう言って黒音は部屋から出ていく。陽は大きくため息をついてゴロンと床に寝転がり、天井を見上げる。黒音の言っている事が、彼自身のためになると思っての行動である事は彼も分かっていた。

しかし、無闇に力を増やしてもそれで勝てるわけもなし。強くなれるならなんだってするとは言っても非道な手は使いたくない。そういう綺麗事を、綺麗事と認識していながらも彼はそれだけはなるべくしたくなかった。

 

「……勝つ為には、相手を殺すことも厭わない……みたいな事はしてるくせにな……おかしい話だ。」

 

自嘲めいた言葉を吐きながら陽はぼーっと今日の予定を考えていた。今から何をどうするのか、などをじっくりと考えていた。

いつもの事をすればいいと考えているが、彼はとりあえず何かほかの事を考えていたかった。

何も考えなくなると、黒音と話している時に見た夢がフラッシュバックするからだ。

 

「……陽鬼も、月魅も、黒音も、光も……皆が皆、そうなのか……?」

 

ポツリと漏らした一言に誰も返すことがない。しかし、陽は黒音の夢を見た記憶が無かった。

なぜだかは分からないが、無かった。見たことを忘れているのか、本当に知らないのかは分からない。しかしその記憶が無い以上……黒音だけは悲惨な末路を送っていない希望だけは持てていた。

 

「……そう言えば、黒音だけみんなと色々違うんだよな。記憶は持っていたし、妙にピンピンしてたし……何でだ……?」

 

陽鬼と月魅は武器を幻想郷で揃えた。光は元々天使という事で弓は特殊な空間にしまっておける、つまりは無くすことがないものらしいと陽は聞いていた。

しかし、黒音の武器は別段あれじゃなくてもいいものである。特殊空間ではなくスペルカードに入っていて……彼が考えれば考えるほど黒音だけが三人と違うのだ。

 

「……まぁ、本人にもなにか理由があってここに来ているんだろうし……あまり深く考えないようにしよう……」

 

そう言って立ち上がった後、陽は部屋から出ていく。いつもと変わらない何も無い日常を過ごそうとするために。

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