東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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光天

「……最近、あいつが暴れている噂を聞かないな。まぁ、暴れてないだけ被害が出てないって事だから……いいんだけどな……」

 

「陽の言いたいことはわかるわよ?けど、貴方最近そのことばっかり考えてるじゃない……少しは別のことを考えたらどうかしら?ずっと眉間にシワが寄ってるし……少しは頭を休めないと体に毒よ?」

 

陽は疲弊していた。精神的に、いつまたツキカゼが自分の姿で人里を襲うのかと知らず知らずのうちに考えてしまうことが多くなっていたからだ。

何故か最近ではツキカゼは人里を襲うことこそしなくなったものの、逆にそれが原因で陽に少しの心労をかけていた。

 

「かと言って……腑抜けてもいられないだろ?もし今この時にでもあの男が人里を襲ってしまえば変わらないんだから。」

 

「陽……」

 

そして、これが原因で紫も陽を心配していた。家にいても、どこにいてもこんな会話ばかりが続いていく。陽鬼達が人里に見回りに行って何も無いかの確認をしていく間、自分は何も出来ないと陽は自分を責め続けていた。もし四人が襲われでもしたら自分のせいなのだと。

 

「そうだ……怪我を言い訳になんか使って……痕だけしか残ってないじゃないか……なら……なら、問題なくいけるはずだ……!」

 

「ちょ、ちょっと陽!?永琳の言ったこともう忘れたの!?怪我がほとんど治ったとはいえ、その傷痕がある限り貴方の回復力は戻ってないってことになるのよ!?」

 

「でも飯も食えるし運動も出来る……なら痕は痕だ。俺が……俺が……!」

 

そう言ってまるで何かに取り憑かれたかのように走り出す陽。紫はその背中を追うことは出来ず、ただただ眺めるだけしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何故だ?なぜ急に人里を襲うな、という命令を出した?」

 

ホライズンの空間にて、その苛立ちを隠そうともせずにツキカゼがホライズンに向かって溜め込んでいた、たった一つの質問を投げかける。

 

「……簡単な話ですよ、あの時の戦いは大勢の人里の者共に見せることが出来ました。しかし同時に、月風陽の負った怪我も見られていました。

昨日の今日であんな大怪我を負った月風陽が人里に現れて不信感を揺るがせてしまうような事があれば計画は台無しになります。」

 

「……やつは妖怪だということも知れ渡っているはずだが?お前が俺を連れ戻した後のことを、俺は何も知らないからな。奴の再生能力が知れ渡っているにも関わらず、それでも奴に肉体的になり精神的になりダメージを与えにいかない理由があるのなら……教えて欲しいものだ。」

 

ホライズンはため息を吐くが、理由を話さないと今にも自分を殺しにかかってくる気迫を持っているツキカゼを見て渋々と話し始める。ホライズンは、死ぬ事はどうでもいいが一瞬だけとはいえ痛みが来るのは嫌なのだ。

 

「分かりました、話しますよ。

まず……あの後月風陽は永遠亭に入りました。分かりますよね?あの八意永琳が立ち上げている……あの永遠亭です。

そしてしばらくの間傷を治すために隔離されていたとはいえ入院していた、それのせいでチラホラと何人かの人間に見られてしまっている。」

 

「……まさか、『あれは偽物だ!』とバレる心配があったから襲わせなかったと?」

 

「せっかちですねぇ……話は終わってませんよ。

確かに見られてしまっているのは見られてしまっているんですが、問題は見られたことじゃないんですよ。その見られている者達の方に問題があるんですよ。

紅魔館の面々が……来ていたんですよ。」

 

「……館の主レミリア・スカーレット、その妹のフランドール・スカーレット、レミリアの従者の十六夜咲夜、門番である紅美鈴、殆どの属性魔法を扱えるパチュリー・ノーレッジ、その使い魔である小悪魔……成程、確かに面倒臭い相手ではあるが……100%勝てぬわけでもないだろう?」

 

ツキカゼの投げかけた疑問に軽く頷くホライズン。しかし、簡単に勝てる相手ではないことはツキカゼもよく知っていた。

 

「確かに勝てる可能性はあるかもしれない……けれどそれは、レミリア・スカーレットが能力を使わない場合に限ります。」

 

「……『運命を操る程度の能力』か。あの能力を彼女はあまり使いたがろうとしないらしいな。」

 

「彼女の性格ゆえですよ……彼女は能力を除いた実力勝負で勝ちたいタイプです。

ですが……たとえ嫌っている相手であっても、彼女は知人を貶されれば遠慮なくその能力を使う。勝負を勝負じゃなくしてしまう……彼女の能力は、そういうものなんですよ。残念ですが、私の能力は彼女の下位互換に等しいので、まず運命操作されれば勝てません。それはツキカゼ、貴方も同じなんですよ。剣の力を使っても操作対決では向こうの方が部があります。剣のエネルギーに限りがある以上……まぁほぼほぼ勝てないでしょうね。」

 

ここまで話して、ツキカゼがなにかに気づいた反応をする。そして話を続けようとするホライズンを、手で静止して自分の意見を話し始める。

 

「……仮に月風陽が永遠亭にいる時に人里を襲っていたとして、それが彼女にとってどう『貶された』と認識するんだ?入院している、という誰にでも認識可能になっている状態なのに、何が彼女にとっての『知人を貶された』なんだ?」

 

「完全に挑発しているでしょう?とある場所にいるはずの男が、全く別の場所に現れる……しかも完全に偽物だとわかってしまう。しかしその偽物は自分のことを本物だとも偽物だとも変わりゃしない。ただ化けるだけならともかく、対象の姿をして対象が守ろうとしているところで暴れ回ってしまえば……手出しができない状態の時に暴れてしまえばもうレミリア・スカーレットからの制裁対象となってしまうのですよ。」

 

「……つまり、奴が退院した時以降ならば問題ないということか?難儀な性格というかなんというか……」

 

「『戦うべき相手』がいる時にこそ、相手をおびき出すための暴動は彼女にとっては挑発していない、と取るより『まあ本物は怪我してないしいっか』程度に考えているんじゃないか、くらいに考えていてください。

まあ月風陽もそろそろ永遠亭から出てる筈でしょうし……そろそろ見てみましょうかね。

永遠亭にいなければ問題なしなんですが……」

 

そう言いながらホライズンは幻想郷の監視を始める。陽が永遠亭にいるかどうかの確認さえ取れれば、ホライズンはツキカゼを暴れさせるつもりでいるからだ。

 

「……噂をすればなんとやら……ツキカゼ、出番が来ました。今から送り出すので頼みますよ。」

 

「ふん……体が訛ってないことを祈っておく事だな。」

 

そう言いながらツキカゼはホライズンが出した、目の前に現れた扉を潜ってホライズンの空間から出ていく。

それを見送った後、ホライズンは軽くため息をついてそこから笑みを浮かべて実に楽しそうにしていた。

 

「さぁ……人柱になるんですよ……ツキカゼ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わざわざ私をなんで呼んだのか気になっていたけど、彼に謝りたい……ですって?」

 

「あぁ……疑いの目を向けただけで既に私は彼に謝らなければならない……それだけの事をしてしまったんだ私は……!」

 

人里の上白沢慧音の自宅。そこには霊夢と慧音の二人がいて、霊夢は慧音の話を聞いていた。

 

「あんたねぇ……なんというか、変な方向に対して自意識過剰よね。彼、別にそんなこと気にしてないと思うけど?」

 

「いや、それでも謝らなければならないんだ……私は人里の守護者と気取ってはいるが……実際今は何一つ守れていない。彼に守ってばかりだ。なのに、私を含めて人里のみんなは彼のことを少なからず疑ってしまった……いや、今でも疑っているものの方が多いだろう……」

 

「当たり前ね。自分の体を他人に変えられるやつはそれだけで化けたやつの信用を0か100かの好きなようにいじれるんだもの。寧ろあれだけ派手にやっておいて『あれを本物だとは認めない!』って言ってる奴の方こそ異端扱いされるのが目に見えているわ。」

 

「だ、だが……だが!」

 

うじうじうだうだ考えている慧音に対して霊夢は少しだけイラッとしていた。霊夢は慧音がこうやって後悔してしまうのも分かっているし、自分もその気持ちを理解出来るし納得もできていた。

しかし、悔やんでも仕方の無いことをこうやっていつまでも引きずっていられるのは彼女にとっては癇に障る事なのだ。

 

「いい?一つだけ言わせてもらうわよ?守りたいなら勝手に人里を守ればいいのよ、人間からの疑い解かせたいならあんたがどうにかすればいいのよ。それだけの事なのよ。

私は巫女よ、けどあんたみたいに人類の守護者って訳じゃない。私はそういう仕事だから異変を解決するだけよ。そこに人間も、妖怪もない……いるのは異変を起こした黒幕と私だけよ。

ってことで一つ聞くわよ上白沢慧音、あんたが守りたいのはこの里?それともそこに住んでいる人間?それとも幻想郷の人間全員?まさかとは思うけど守れるものはすべて守る気かしら?」

 

霊夢の質問に慧音は顔を伏せる。しかしそれは答えを必死に探しているからなのだ。霊夢は、必死で考えている慧音を頬杖を付きながらじっと見続ける。

一分、二分……と時間が刻一刻と過ぎていく中、霊夢は何も言わずに慧音を見続けていた。その顔は何を守るか曖昧に決めていた慧音を笑う嘲笑ではなく、答えをすぐに言わない慧音に対して怒っている憤怒の表情でもない。ただただじっと……何かを守ろうとしている女性を見守る真剣な表情である。

 

「……霊夢、私は……人類の守護者でも、ましてや幻想郷の守護者なんて大層なものは名乗るつもりは無い。

私は……人里の守護者だ。それ以上でもそれ以下でもない。この里を守るためなら……私は鬼にも蛇にもなろう……そうだ、私は人里を守らなきゃいけないんだ。」

 

「そうよ、半妖とはいえ……貴方からしてみれば殆どの人間が子供みたいなものよ。だったら教師は教師らしく粗相したガキを全員その無駄に硬い頭で頭突きするなりなんなりした方がいいのよ。」

 

答えを出した慧音に、霊夢は軽く微笑みかける。それに釣られて慧音も霊夢に微笑みかける。

 

「さて、と…あんたが答えを出せたみたいだし私は帰らせてもらうわ。まったく……こんなすぐに見つけられるならもうほとんど見つけていたものじゃない……」

 

「いいや?答えなんて見つかってなかったさ。けど……私は頭の回転が早いんだ。」

 

そう言いながら自分の頭を軽く指でトントンと叩く慧音。それを見て一瞬呆気に取られた霊夢だったが、すぐに吹き出して大声で笑い始める。

 

「な、なぜ笑う!?今の言葉に笑う必要性はなかったはずだぞ!?」

 

「だ、だって……!あ、頭の回転は、早いのに……きょ、教師としてはに、人気ないって考えると……あーはっはっは!だ、ダメ……お腹ネジ切れそう……!」

 

「………」

 

笑い転げている霊夢に向かって、慧音は思いっきり背中を仰け反らせて頭を後ろに持っていく。反らせられる所まで反らしたら、今度は思いっきり足に力を入れて上半身全部を使って、思いっきり頭を振りかぶる。要するに、体全体を使った頭突きである。

 

「ふんっ!」

 

「あいだっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったぁ……何も本気で頭突きすることないじゃないの……うわっめっちゃでかいたんこぶ出来てる……永遠亭に行って、これ頭割れてるって分かったらあんたのところに料金請求してやるわ……」

 

「大丈夫だ、たんこぶができる範囲での全力を出したから、本気も本気と比べたら完全に手加減している。」

 

「そういう問題じゃ……っ!」

 

頭をさすっていた霊夢だったが、唐突になにかの気配を感じとり後ろを振り向く。慧音もその雰囲気にただならぬ何かを感じ取り、警戒をしていく。

 

「……どうした?霊夢。」

 

「……ちょーっと嫌な予感がしたのよ。ちょっと私外に出て人里の様子見てくるわ、丁度いいしあんたも付いてきなさい。」

 

「そういう事なら……付いていこう。」

 

会話を終えて霊夢と慧音が家を出る。

月風陽、ツキカゼ、博麗霊夢、上白沢慧音……一人は幻想入りした少年、もう一人は謎の青年、そして楽園の巫女と呼ばれた少女に人里の守護者が今ここに集まろうとしていた。

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