もっとほのぼのストーリーも書きたいのですがね……
とある日の昼下がり、大樹は工廠を目指して歩いていた。
目的はもちろん妖精だが、いつもと同じく何かを作ってもらう為ではなかった。
「あ、提督……こんにちは」
「潮か。どうだ、ここにはもう慣れたか?」
「は、はい!七駆の皆にも会えましたし、提督には本当に感謝してます……」
「なに、私は何もしていないさ。それに他の七駆の皆も元気になったようだし。正直君の事を辛そうに話す彼女達は見ていられなかったからな」
「私だけここに来るのが遅れちゃいましたからね……皆にも心配かけちゃいました」
「仕方あるまい。七駆では唯一の改二艦なのだから、重宝されるのは当然だ」
「はい……」
工廠に行く途中で潮と出会ったので、軽く世間話に花を咲かせる。
間宮の時もそうだったが、彼女も負けず劣らず打ち解けるまでに時間が掛かった。
今でこそこうして普通に会話できるまでになったが、ここへ来た当初は、それはもう酷いものだった。
今まで漂着した艦娘達は皆、ブラック鎮守府と言われる酷い環境下にいた事は以前説明しただろう。
そしてそういう環境下に居た子の反応は、大体が大まかに3パターンに分けられる。
まず1つ目は、最初からある程度友好的なパターンである。
元居た鎮守府の重圧から解放された反動か、すぐにこの鎮守府に馴染むことが出来る。
言ってしまえば、一番手のかからないパターンなので非常にありがたい。
2つ目は、提督もしくは人間そのものに敵意や殺意をむき出しにするパターンだ。
1番身の危険を感じるパターンではあるが、こういった子は姉妹艦や仲のいい子が沈んだりしてしまった事が原因である事が多い。
そして何の因果か、その原因となった子が先にここへ漂着している場合が殆どであり、鎮守府に馴染むのも意外と早かったりするのだ。
そして1番対応に困ってしまうのが、以前の提督に暴行などを受けて人間不信になっているパターンであり、潮もここに入る。
元々気が弱い子に多いようで、中には性的な暴行を受けた子もいるようだ。
そういう子にはあまり無理に接したりせず、じっくりと時間をかけて馴染んでもらうようにしている。
潮以外だと名取や榛名が当てはまるのだが、今では皆それなりに会話ができるまで馴染んでくれている。
「提督はこれからどちらへ……?」
「ちょっと工廠の妖精の所にな」
「また何か作ってもらうんですか?」
「いや、今回は別件だ。少し気になる事があってな……」
「気になる事、ですか」
「ああ。……潮は今のこの状況をどう思う?」
「この状況と言うのは……いろんな艦娘が漂着している事ですか?」
「そうだ」
「うーん……」
大樹の質問を受け、考え込む素振りをする潮。
今回妖精の元へ行く理由が、まさにこれなのだ。
最近はあまり考えない事にしていたが、流石に艦娘の人数が増えすぎており、もはや偶然で片づけることはできない。
また、我々を生かしておく為かと疑いたくなる頻度で漂着する食料や、そして一向に漂着しない資源。
誰だって、何かしらの見えざる手が働いているように思えるだろう。
「確かに、ちょっと偶然にしてはできすぎてますよね……」
「ああ。漂着したのが2~3人ならともかく、連合艦隊が複数編成できるレベルの人数となると話が変わってくる。しかも皆同じ鎮守府所属という訳でもない」
「ここが地球のどの辺りなのか分かりませんが、元居た鎮守府同士の距離が結構離れてる子もいますもんね……」
「うむ。そういう事で見て見ぬふりもそろそろ潮時かと思い、妖精にいろいろ聞いてみようかと思ってな。どうやら彼らは昔からここに居たようだし、何か知っているかもしれん」
「うーん、どうなんでしょう?知ってたとしたら既に教えてくれててもいいと思うんですが……」
「それもそうなんだがな。かと言ってやる事もないから……まあ暇つぶしと思ってもらっても構わんさ」
「なるほど……」
真面目な表情で頷く潮。
正直に言えば暇つぶしが8割位を占めているのだが、あえて言う必要はないだろう。
どちらにしても、今後も今までのようにずっと食料が漂着し続ける確証はないのだから、何もせずに惰眠を貪るよりは幾分か有意義であると思いたい。
「潮はどこかへ行く途中だったのか?」
「えと、七駆のメンバーとほっぽちゃんで釣りに行ったんですが、全員餌を忘れちゃって……」
「なるほど……一応現地でも探せばイソメなんかは見つかると思うが、苦手な子も多いからな」
「はい、私もちょっと無理です……」
「まあ無理もあるまい。とりあえずは、北方棲姫も皆に受け入れてもらえているようで安心したよ」
「ふふっ。もう鎮守府のマスコットみたいになってますね」
「そうだな。……あまり皆を待たせるのも悪いだろうし、私はここで失礼するよ」
「あっ、すいません引き留めちゃって……」
「いや、気にしなくていいさ。さっきも言ったが暇つぶしも兼ねてるからな。気をつけて行ってくるんだぞ?」
「はい!」
元気よく返事をした潮は、小走りで外へと向かっていった。
しかし、昼食後に北方棲姫の姿が見当たらないと思ったが、そういう事だったのか。
ふと、以前話していた北方棲姫の姉について思い出した。
(あとは姉に会わせてやれればいいんだがな……)
涙ながらに姉の事を語る北方棲姫の姿を思い出しながら、工廠へと向かうのだった。
◇
「うーん、特にこれと言って思い当たる節はないですね……」
「そうか……」
数分後、工廠にて先ほどの件を妖精に尋ねてみるも、手掛かりになりそうな情報を得ることはできなかった。
やはり潮の言っていた通り、何か知っていれば既に話しているだろうか。
「君は昔からこの鎮守府に居たはずだったな」
「ええ、ここに提督や艦娘がいた頃ももちろん知ってますが……」
「当時の事を教えてもらえないだろうか?」
「ええ、構いませんが……あまりいい話ではありませんよ?」
「問題ない。今は少しでも情報が欲しいのでな」
とりあえずここに人が居た頃の話を教えてもらえることにはなったが、どうやら妖精はあまり乗り気ではないようだ。
それもその筈、この鎮守府もかつてはれっきとしたブラック鎮守府だったからである。
かつてここにいた提督は、艦娘を完全に兵器として扱っていたようで、中破・大破は日常茶飯事、更には轟沈も厭わない指揮をしていたらしい。
本人は自分の事をエリートだと思っていたようで、こんな辺鄙な孤島へ配属された事も加わってか、艦娘への暴行等も頻繁に行われていたようだ。
それを見ていた妖精たちが一斉にボイコット、運営の改善を要求したが取り合ってもらえなかったようで、彼らは完全に「艦娘の為」を念頭に仕事をしていたとの事。
その為提督との衝突も幾度となくあったらしいが、艦娘を人質に取られては言いなりになるしか無かったのだ。
ところが、そんな運営にも突然最期が訪れた。
各地に蔓延っていた深海棲艦が、一挙に日本本土へと押し寄せて来たのだ。
今までも深海棲艦が侵攻してきた事はあったが、その時の数は今までの比ではなかったらしい。
当然日本も全力で迎撃する為、各地の鎮守府へ出動を要請した。
もちろんこの鎮守府も例外ではなく、提督は「上層部へアピールするチャンス」と言いながら、鎮守府を守るメンバーすら残さず全ての艦娘を伴って抜錨するも、提督を含め誰一人戻ってきた者はいなかった。
ここに漂着した艦娘達からの話を聞くに、どうやら当時の深海棲艦の侵攻は退けられたようだが、この鎮守府の艦隊だけは誰も知らなかった。
そして、それ以降は大樹が漂着するまで無人の鎮守府のままだったらしい。
「そんな事があったのか……だから君たちは最初から姿を見せなかったのだな」
「ええ。あの時も言いましたが、しばらく見極めさせてもらっていました」
「そんな理由があったのなら仕方あるまい。……しかしそうなると、提督を含む全ての艦娘が深海棲艦によって沈められたのか……」
「ええ、恐らくは。ただ、環境は劣悪でしたが艦娘達の練度はかなり高かったので、よほど当時の深海棲艦が脅威だったか、もしくは……」
「もしくは……?」
「いえ、何でもありません。まだ想像の域を出ないので……」
何やら思わせぶりな対応をする妖精。
とりあえず今は1つでも多くの情報が欲しいので、続きを促すことにする。
「構わない、思いつきでも何でも話してくれ」
「……この前北方棲姫が漂着した時の会話、覚えていますか?」
「もちろん覚えているさ」
「北方棲姫が漂着した理由について聞いたとき、彼女は「見たことの無い敵に攻撃を受けた」と言っていましたよね?」
「そう言えばそうだったな……まさか」
「その「見たことの無い敵」が原因の可能性もあるのでは、と思った次第です」
「なるほどな……」
妖精の言う通り、目を覚ました北方棲姫はこう言っていた。
「見たことの無いやつらに住処を追われた」と。
通常の深海棲艦すら見た事が無いのでイマイチイメージが湧かないが、ゴーヤ達が言うには北方海域を纏めるボス的な存在の北方棲姫が、艤装を破壊され住処を追われる程の脅威だったという事だ。
そんな敵に相対してしまったのなら、艦隊が全滅したという話もあながち的外れでもないかも知れない。
「とりあえずこの鎮守府の過去については分かったが……ここの現状が説明できるような理由はやはり見つからないな」
「お役に立てず、申し訳ないです……」
「いや、こちらこそ色々聞いてしまってすまなかった。君たちにとっても辛い過去だった事に変わりはないのに……」
「それこそ心配無用です。我々はあなたの力になると決めたのですから」
「そう言ってもらえると助かるよ」
既に生活を豊かにするための技術をいろいろ提供してもらってはいるが、彼の言葉を聞き、改めて受け入れてもらえてよかったと思えた。
相変わらず未来の保証ができない生活に変わりはないが、それでも自分は間違っていないと思えるのは存外嬉しいものだ。
改めて妖精に礼を言うと、その足で工廠を後にする大樹。
彼は気付いていなかった。
妖精が、何ともいえない表情で大樹の後ろ姿を見つめていたことを……
短いですが、とりあえずストーリーはそこそこ進んだのではないでしょうか?
今後はほのぼの話の合間合間にシリアスを混ぜつつEDまで行ければと思ってます。
リハビリ作品をいつまでも垂れ流し、と言うのもアレですしね……