その聖句は距離も時間も世界観すらも越えていく!
弱者のために戦う男たちの集団、それがしっと団であり、そいつらを束ねている存在が「しっとマスク」だ!
…とある街のクリスマス・イブの夜。
雪がちらほら降る中を、帽子を被らず、古びたエプロンを身につけて、靴は履かず裸足というみすぼらしい格好の少女がマッチを売り歩いていた。
少女と行き交う人々には家族や恋人、或いは気の合う仲間と、誰かを伴って幸せそうな表情なのに対して、マッチ売りの少女は常に独りで、その顔は暗く沈んでいた。
少女が家を出るときは母親の形見である木でできた靴を履いていたが、馬車を避けようとして木靴が脱げてしまい。
片方は見つからず、もう片方も若者が素早く拾って…
「子供ができたときに、揺りかごの代わりになる」
――といって持ち去り、それからというもの少女はずっと裸足で過ごしている。
このまま家に帰るという選択肢もあったが、マッチを売らなければ父親から叩かれてしまう。
少女からマッチを買おうとする者は現れず、少女は壁にもたれかけて、マッチに火をつけて物思いにふけた。
寒い冬の夜、自分はこうしてマッチを売っているのに……父親は家で暖かくして過ごし、街の人々はクリスマスの夜を謳歌している。
少女に暗い感情が芽生える。
何故、自分だけがこんな目に?
妬ましい、と。
「誰かが嫉妬に狂う時! しっとマスクを呼ぶ合図!」
何の前触れもなく二人の男が少女の前に現れた。
少女の格好はみすぼらしく寒そうだったが、それ以上に男二人の格好は寒い冬に適してる格好とは言えなかった。
赤いパンツに白いマスクというレスラーみたいな半裸の出で立ちだったからだ。
少女の悲鳴が空に響いた。
少女の父親が自宅で酒を飲んでいると、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。
やっと帰ってきたかと玄関へ足を運ぶと……
「ただいま、ファーザー」
自分よりも背が高く、眼光の鋭い、古代ローマの健闘士を思わせる筋骨隆々の戦士が仁王立ちして待ち構えていた。
ただし、その声は少女のように高く、また身に付けている衣服にも身に覚えがあった。
「まさか、アンナか?」
恐る恐る問い掛けてみると戦士の腕がブレて、拳が父親の腹に突き刺さる。
「イエスだ。ファーザー」
大砲でも撃たれたかのような強烈な痛みに、腹を抱えて蹲るファーザー。
その両目は眼孔から飛び出さんばかりに見開き、その顔は死人のように青ざめていた。
「私が何故こうなったのか知りたいか? ファーザー?」
無言で首を何度も振って応えるファーザー。
すると辺りが真っ暗に包まれ、周囲を取り囲むようにしてアイマスクにフンドシ姿の男たちが現れた。
異様な集団の出現に思わず「ひぃっ!」と悲鳴を上げるファーザー。
「しっとの心は父心! 押せば命の泉湧く! 見よ! しっと魂は暑苦しいまでに燃えている!!」
ポーズを変えながら聖句を述べていく男たち。
「ファーザーよ。寒い冬の夜、命の灯火が消えかかった私に彼ら、しっと団が声をかけ、命を救い、道を示してくれた。そして彼らが崇め奉る女神から、私の中に眠る力を引き出してくれた」
「見よ!」頭上を指差す先には一人の女性がゆっくりと舞い降りてきた。
ペルシアンドレスのような礼装に身を包み、金髪のショートボブに緑色の瞳、しかし彼女の耳は物語に出てくる妖精のように尖っていた。
彼女は一定の高さまで舞い降りると、しっと団とアンナに向けて言った。
パル
……と。
その言葉を受けて涙を流すしっと団とアンナ。
ファーザーは意味が分からなかったが、アンナの暴力を恐れて尋ねることができなかった。
しかし、しっと団にいるレスラー姿の二人が丁寧に答える。
――我が女神はこう仰っている。
寒い冬の、それもクリスマスの夜に寒そうな格好で娘を外に追い出して働かせ、あまつさえ暴力で従わせるは、まさに鬼の所業と言えよう。
たとえ天が、地が、人が、お前の悪行に目を瞑り背けようとも我らしっと団は赦しはしない。
ボッコボコにしてやんよ!
伝え終えると再び涙を流すしっと団。
ファーザーは何であの短い言葉にこんだけ意味があるのか聞きたかったが、娘のアンナの鋭い眼光を見て萎縮、黙らざえる得なかった。
そしてファーザーにマッチが入ったカゴを手渡す。
「今度はお前がやれ」…と。
その日以降、マッチを売る少女の姿がなくなり、代わりにマッチを売る中年のおっさんが見かけるようになったとさ……
めでたし、めでたし。
(´・ω・)にゃもし。
たまには救いがあってもいいよね。