【Scene. 1】
むかし、むかし、あるところに、小さな王国がありました。
王国のはずれには大きな森が広がっていて、ちかくの村の村人たちは木の実や草を集めて、それを食べたり薬にしたりしていました。
そんなある日のことです。
村人のひとりが、村長さんのところにやって来て、こう言いました。
「おおい、村長のあねさん。空から何かでっかいものが落ちてくるぞお」
「え? なんですって?」
あわてて村長さんが外に出てみると、それはもう大きな大きな黒いものが、ふわりふわりと空のてっぺんから下りてくるのでした。しかも、ようく見てみると、その黒いものは何やらフラフラ動いているのです。
「大変だわ。みんな、あれはきっと、とても大きい生き物よ」
「なんだって。あんな大きな体で踏まれたら、ぺちゃんこになってしまうぞ」
「きっと口も大きいから、おれたちをみんな、ぺろりと食べてしまうかもしれない」
さあ、一大事です。
困った村長さんは、森のそばのお墓の中に住んでいる魔法使いさまを訪ねて行きました。
魔法使いさまは、それはもう色々なことを知っているし、誰も知らないすごい魔法を使うことができるのです。ただ、その外見はドクロの顔をしていて、とても怖いのですが。
「ごめんください」
「ああ、エンリか。入りなさい。村の様子はどうかね」
魔法使いさまは、りっぱなお部屋に村長さんをまねいて、おいしいお茶とお菓子を用意しました。魔法使いさまはとても長生きなので、村のみんなが尊敬する村長さんも名前で呼び捨てにするし、あれこれ子どもみたいに扱うのです。
「おかげさまで、村のみんなも元気です」
「それはよかった。だが、それなら何の用事で来たのかね?」
魔法使いさまはたずねました。村長さんは、少しきんちょうしながら答えます。
「空から何かとても大きな生き物がやって来るのが見えたのです。見たこともない生き物なので、村のみんなも不安になってしまって、魔法使いさまの知恵をお借りしたいと思ってまいりました」
「ほう、ほう。それは面白そうだ。誰か、
そう言って魔法使いさまがパン、パンと手を叩くと、どこからともなくエプロンをつけた美しい女の人が、大きな丸い鏡を持ってあらわれました。
魔法使いさまは、とても偉くてお金持ちなので、たくさんの家来やお手伝いさんがいるのです。そして、数えきれないほどの魔法の道具を持っていました。
「ふむふむ。これはこれは。」
魔法の鏡をのぞくと、そこには、あの黒くて大きな生き物がはっきりと写っていました。まるでカミキリムシのようにゴツゴツした顔で、つるつるした体が黒くテラテラと光っています。
「きゃあ、かいぶつだわ」
村長さんはすっかりおびえてしまいました。
いっぽう、魔法使いさまはとても落ち着いていて、
(レイドボスかな?)
などと正体について考えていたのですが、どうにも見覚えがありません。
「エンリ。エンリよ、わたしの話を聞きなさい。あのように大きな生き物は、かいじゅうと言うのだ。かいじゅうはたいてい火を吐くから、村のみんなで火の用心をしなければいけないよ」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
「わたしはこれから、たくさんの家来たちをつれて、かいじゅうの様子を見に行くつもりだ。あぶないから、ぜったいに近づいてはいけないよ」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
そう言って、村長さんは何度も何度もお礼をして帰って行きました。
魔法使いさまは、もう一度、魔法の鏡に写ったかいじゅうを眺めました。やはり見覚えがありません。魔法使いさまは、とてもうれしそうに笑いました。
「ああ、このわたしが見たこともない生き物なんて、いったいどれほど強いのだろうなあ。でも、そんなに珍しいなら、きっとすてきなアイテムをもっているに違いないぞ」
そして、先ほど鏡を持ってきたお手伝いさんに伝えたのです。
「さあ、いそいで行って、守
こうして、魔法使いさまとかいじゅうのたたかいが始まったのでした……
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【Scene. 2】
(臨場感たっぷりに恐ろしい怪獣と偉大な魔法使いの物語を語っていたハカセは、そこで一度話を区切りました。生徒兼話し相手の悟くんは、ちょっと物足りないようです。)
ハカセ「さあて、切りの良い所で休憩にするかのう」
ハカセ「やる気が無いなら帰ってもいいんじゃよ?」
悟くん「わあい
ハカセ「難しいことわざを知っとるな。馬というのは動物の一種で、移動手段が未熟だった古代には乗って移動するのに使ったのじゃ。今はもうほぼ絶滅に近い。感傷的な名前じゃなあ」
悟くん「なるほど! つまり、生き馬=超激レアを一点狙いで引き当てるって意味なんだね!」
ハカセ「サトルくんはガチャ解釈が好きだのう……」
(……しばらくして……)
悟くん「宿題終わったー! ハカセ続きー!」
ハカセ「むぅ、確かに……勉強を教えておいてなんじゃが、ここまで伸びシロがあるとは、我ながらびっくりじゃわい」
悟くん「僕、中学校いけるかな?」
ハカセ「うむ、うむ。このまま成績を維持できれば問題ないじゃろうよ。……もっとも、進学すれば良いというものでもないがなあ」
悟くん「? 難しいことは分からないよ?」
ハカセ「……ま、今は気にせんでよい。さて、続きじゃが……実は、その先の話はほとんど残っておらんのじゃ」
悟くん「えーっ!? 続きあるって言ったじゃん!」
ハカセ「あー。嘘は言っとらんぞ。ワシは嘘があまり好きではないからな。ある。あるが、ちょっとだけということじゃ」
悟くん「ちぇっ。じゃあ、それでいいや」
ハカセ「うむ。突然現れた怪獣……当時の魔法使いさまは正体を知らなかったのじゃがな、それはゼットンという怪獣だったのじゃ」
悟くん「ゼットン!? なんか強そう!」
ハカセ「うむ。すごく強いぞ。なにせ1兆度の火の玉を吐くらしい……ほれ、ここにゼットンについて書いてある本がある。『空想科学読本』というのじゃが、ちょっと引用してみようかの」
実際にゼットンが1兆度の火の玉を発射したらどうなるのだろう? 1個あたり、太陽の460兆倍のエネルギーを持つ火の玉である。こんなモノが地表で放出されたら、もう大変。地球は一瞬で消滅し、太陽系の星々も順次消滅する。
悟くん「ヤバイ」
ハカセ「ヤバイのう」
悟くん「えっこれ魔法使いさま死ぬよね、えっ」
ハカセ「特撮ヒーロー物を観ていたら最終回でヒーローが敵にやられちゃった、みたいな顔をしておる……いや、死んどらんよ。死んではおらん」
悟くん「えっ……えっ? ……それはそれでちょっと引く」
ハカセ「ワシも詳しいことは覚えておらんが……なんか炎属性完全無効化とか即時復活課金アイテムとか……なんかそういう感じで生き延びたらしいのう……」
悟くん「うわあ……アイテム強い……やはり課金こそ正義……」
ハカセ「サトルくんはちょっと目を離すとすぐ課金の暗黒面に落ちよるな。情けない限りじゃよ。無課金には無課金の意地というものがじゃなあ」
悟くん「で、どうなったの?」
ハカセ「あー。魔法使いさまは生き延びたが、星がまるごと蒸発した。魔法使いさまの住んでいたお墓も、家来も、消息不明のままじゃ。生き残った者もいたかもしれんが……気付いたときには宇宙を孤独に漂っていたからなあ……」
悟くん「……ゼットンは?」
ハカセ「消滅した」
悟くん「意味不明すぎる……」
ハカセ「……ま、色々言いたいことはあると思うが……理不尽は突然訪れるという教訓じゃ。今はともかく、社会に出たら身に染みて分かるじゃろうよ」
悟くん「社会かあ。なんか想像もつかないや」
(悟くん、頭を抱える。ハカセは助言してみることにしたようです。)
ハカセ「別に勝ち組になれとは言わんよ。上に立つ者にも、下で働く者にも、どちらも苦労はある。だからまあ、納得の行く生き方ができればいいんじゃないか。何か、生きていて楽しいと思えるような娯楽とか、仲間を見つけるとか………………あー、恋人を作る、とか?」
悟くん「あ、それなら大丈夫だよ! 僕、彼女いるし!」
ハカセ「えっ」
悟くん「?」
ハカセ「………………えっ?」
悟くん「あ、彼女? 同じ学校の子だよ。今度紹介する?」
ハカセ「……ああ、いや、つい驚いてしまった。指導一つで、こうまでリア充化するとは……すごいな、俺……」
悟くん「ハーカーセー? なにボーっとしてるの?」
ハカセ「……悟くん、君、そろそろ帰りなさい。ほら、もういい時間だろう?」
悟くん「あっ、本当だ! じゃあ、また明日! おやすみー!」
(部屋を出て行く悟くん。ハカセは大きく息を吐きました。)
ハカセ「さて、これだけ違うなら未来も変わるだろうが……どうだろうな。悟くんは『ユグドラシル』をやるのかな。彼女がいるなら、そんなことに使う時間はないか? いや、でも、たっち・みーさんは……」
ハカセ「……あー。でも、彼女。彼女かあ……」
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【Scene. 3】
不死者の王アインズ・ウール・ゴウンが己を見出したとき、その総身は宇宙の暗黒の中にあった。最後の記憶は、謎の巨大エネミーに小手調べの戦闘要員を送り出したこと。そして視界はホワイトアウトし、世界が沸騰し……
「……どうなっている? ナザリックは……」
本拠地への転移を可能とするはずの指輪は沈黙し、全身を覆うはずの装備の数々も、無残に損壊、あるいは失われていた。
「宇宙……俺は……吹き飛ばされたのか?」
それが楽観的な推論であることは、口に出さずとも分かっていた。なにせ、宇宙の一隅が、明るいのだ。異様に、燃えるように、煌々と宇宙を白に染め上げているのだから。
自分は、あそこから来たのだ。あの輝く炎の中から。
ならば、あそこに在った全ては既に燃え尽きて……
すとんと、納得がいった。
怒りが訪れたのは、一瞬後のことだった。
アインズは怒り狂った。あらゆる罵声を吐き出し、あらゆる手段を以て帰ろうと試みた。
不死者の特性が感情を鎮静して尚、業炎が視界を照らすたび、何度でも怒りが蘇った。
怒り、足掻き、しかしその全てが宇宙の虚無に消え、そして長い長い時が過ぎた。
アインズは生きていた。
アインズは漂い続けていた。
アインズは、生きて、漂い続けて、長い長い時が過ぎて……考えるのを、やめた。
そして、長い長い時が過ぎた。
時の果てに、一つの流星が、青い惑星へと落ちていった。
そして、長い長い時が過ぎた。
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【Scene. 4】
アインズ・ウール・ゴウンが目を覚ましたとき、その全身は岩と同化していた。
随分と長い間、眠っていたらしい。力に任せて身体を動かせば、岩は砕け、不死者の王は再び大地を踏みしめていた。
……再び?
記憶の欠落があった。どれだけの時間、眠っていたのだろうか。
砂礫にまみれた全身を払い、ぎこちなく周囲を見渡せば、そこは自然にあふれた世界だった。
空の青。草木の緑。吹き抜ける熱風。ブルー・プラネット。
「おい見ろ、アイツ、動いてやがるぞッ」
「アァー? 『柱の岩人形』がァ? 動くわきゃねェだろォ……って、エッ!?」
……下賤な声がした。
振り向けば、見るからに品性下劣なレッサー・ヴァンパイアが2体。
汚らわしい、と思った。この青の星を汚すものだ、と。
「「WWWWRRRRRYYYY!」」
猿叫を上げて襲ってくる雑魚は、素手の一撃で死んだ。だが、面倒は終わらなかった。
「……馬鹿な……吸血鬼をあれほど容易く殺すとは……ッ!」
「あれが柱の男……蘇った究極生物の力だというのかッ! だが、その力……その強さこそ我ら第三帝国に相応しいッ!」
今度は人間か。
そうだな、言葉が通じるなら情報を集めてみようか。確か、昔もそうしていた気がする……
そう考えたアインズはふと胸に手をやり、そこに有るべき紅玉が無いことに気付いた。
「…………なるほど。眠っている俺から、物を盗むとはな」
アインズは感情を抑制したまま沈黙し、訪問者を待ち受けた。第一の情報提供者、あるいは第一の犠牲者を。
……やがてアインズは、彼の宝玉が長い時の中で世界を渡り、「エイジャの赤石」と呼ばれていることを知る。盗まれた物は、取り戻さねばならない。かつて、己を
そして、巡り合う。
只の人間でありながら……複合バフ&アンデッド特攻の技能スキル「波紋法」……そして、それを扱うに足るだけの黄金の精神を備えた「波紋使い」たちに。
アインズの時計は、再びその時を刻み始めた。
それはやがて加速し、巡り、新たなる彼本来の時代……西暦2138年へと至るのだろう。そのとき、彼がどのような姿で在るのかは、彼自身にも未だ分からないことだが……
だが、それは今このときに考えるべきことではない。
戦いのときがきたのだ!
不死者の王と定命の勇者たちが繰り広げる、生命讃歌のときが……!
(ジョジョの奇妙な冒険 第2部『戦闘潮流』へ続く)
……続かない! 完結です! ありがとうございました!
以下解説。
【Scene. 1】→【Scene. 3】→【Scene. 4】→【Scene. 2】の時系列。
なんか色々あって過去の地球に戻ってきたアインズ様が、なんか色々あって鈴木悟少年のご近所で家庭教師兼博士ごっこをする話。
◇ゼットン
→宇宙恐竜。一兆度の火の玉を放つ。ウルトラマンは死ぬ。死んだ。
某「直死の魔眼」所有者の男子高校生が、能力の拡大解釈の果てにネットの某所でこいつと
そういう流れで、死の支配者ことアインズ様にも共演してもらおうと思ったんじゃないかなあ(てきとう)
◇エイジャの赤石
→ナザリック地下大墳墓の支配者アインズ(ainz)。
→その名前を反転し展開すると、『ainznia』という単語が生成される。
→ここでのnは
→この語の読みが時代とともに変化した結果、『アイジア』→『アイジャ』→『エイジャ』という呼称に落ち着いたのではないかという仮説が立つんだよ!!!(キバヤシAA)
参考資料:柳田理科雄(1996)『空想科学読本』メディアファクトリー