決してこれは夢落ちではありません。
もう一つのカロリーナの物語、「見つめる先には」そこへつながるエピローグ&プロローグです。
また、夢を見た。
私は、昔から長い夢を見る癖がある。
見る夢は二つある。
一つは、二ホンという国に生まれ、平和のうちに過ごす夢だ。
小学校も中学高校大学も、平凡に過ごす。
それなりに楽しくそれなりにしんどいこともあった。
平均にすれば、ほんのちょっぴり楽しいことが多いくらいだ。
しかし、この夢にははっきりとした終わりがある。
19歳より先が無いのだ!
まるっきり唐突に生活が終わる。
もう一つの夢は、私がカロリーナという名で呼ばれている。なぜか私の名が帝国風になってるのはどうしてだろう。
そこでいろんなことを体験する。
特に、軍を率いて艦隊指揮などをやり、そして勝ったりするのだ。
気持ちがいい。
私の願望が現れているのか。私にそんな願望があるのか。
夢の最後、帝国と自由惑星同盟が平和に共存していく。
そんな幸せな終わり方なのだ。
この夢はあまりにリアルであり、単なる頭の中の作り物には思えない。もしかすると本当に誰かがそんな人生を歩いたのかもしれないほどに。この人生を私は知っている気がする。誰かに話せば一笑に付されるだろうが、私はそういう思いを捨てきれない。
おかしいことだろうか。
夢は覚めている時に振り返るから夢なのだ。
夢を見ているときはそれが全て、誰がそれを本物でないと言えるだろう。
夢が大事なのはリアルなだけのせいではない。その夢のおかげで知っていることがある。
自由惑星同盟が危機にさらされることを。
その危機をもたらすのが、私の大好きな兄であることを。
これからのことを知っているという感触が切ない。
変えたい。これを変えたい!
どんなことをしてでも。兄と、私と、滅びゆく自由惑星同盟のために。
「キャロル、またなんか妄想?」
「学年一の天然さんに言われたくなーい」
そう、自分の思いに捉われ、ついついぼんやりしてしまった私に話しかけてきたこの子がフレデリカ・グリーンヒル。
女性士官学校の同期であり、私とは入学以来いちばんの仲良しなのだ。
フレデリカの特徴はヘイゼルの瞳を持ち、少しタレ目の美人さん。しかしその能力は見かけよりもはるかに高い。常人に真似のできない正確な記憶力と計算の速さ、しかも見かけによらず体力もある。
この女性士官学校では成績2番か3番、それより下に落ちたことがない。
でも私は知っている。
彼女は意外に抜けたところがあり、そのため料理や洗濯も生活に関わることはまるでダメだ。私が菓子作りが趣味なのと違って。お父さんが過保護でそういったことを全然させてもらえなかったためだと言っていた。
しかも、彼女は男性の好みがはっきりしていて、「ぼさっとした、黒髪」ときている。おまけに「身長175cm」。
当てはまる幸せ者の名を知っているのは私だけだ。
私だけに教えてくれた。
本当なら、好きな人をこちらも教えてあげるのが礼儀というものだろう。
しかしそれができない。こちらは兄ばかり追ってここまで来たからだ。
「そうね、キャロルはお兄さん子、一人娘にはわからないわ」
フレデリカに呆れられるしかない。
そう、私の兄は鋭い知性を持ちながら、中身はロマンチスト。現実と合わないくらいの理想家肌。
それがいいのだ。
兄に憧れたせいで真似事をするように私は女性士官学校に入った。もう少しで卒業だ。
兄の方はもう三年前に士官学校を卒業していた。
しかも首席で。
アンドリュー兄さんは私の誇りだ。
追い付きたい。フレデリカには悪いが私だって頑張って学年成績一位は譲らない。
来年、宇宙歴794年に私たちは卒業するだろう。
今、宇宙は帝国と同盟の戦いが近年にないほど激しくなってきている。ティアマトやヴァン=フリートが戦場になり、年中行事のように大規模な艦隊戦がある。
私たちの卒業後はどうなるのか。
自由惑星同盟軍では、女性ももちろん士官学校を出れば士官として入れるのだが、いいところ中佐止まりなのである。艦隊指揮どころか艦長にすらなれない。通常には補佐の副官職で過ごす。
それでも私は頑張りたい。
決して夢で見た筋書きになんかさせない。
今、キャロライン・フォークの物語がここから始まる。
ここまで読んで頂いて、お気に召しましたら、是非カロリーナシリーズ第二弾をご覧ください。
同盟側キャラの奮闘です。